植物生理学 第3回講義
光合成と生体のエネルギー
第三回は、生物がエネルギーを得る方法の概略を解説しました。光合成、呼吸といってもそのバリエーションは色々あります。発酵や、硝酸呼吸などは、酸素呼吸とは違いますが、やはり酸化還元電位に従った電子伝達によるエネルギーによってATPを合成しています。そのあたりの「共通性」と「差」に重点を置いて解説したつもりです。講義で紹介したATP合成酵素が回転するビデオは、東工大の吉田先生、久堀先生のグループのお仕事です。
Q:今回の講義で興味をもったのは、クエン酸回路で最終的に二酸化炭素を得るのに、どうしてわざわざいったんCの数を増やし、あらゆる化合物を経る必要があるのかということだった。少しずつエネルギーを変化させて、活性化エネルギーを抑え、効率よくエネルギーをとりだしてゆくというのはすごく納得であった。よくもまあそんな方法を思いついたものだと感心した。しかし、この方法でエネルギーを得るにはすごく時間がかかる。もし、急速にエネルギーが必要な場合に燃焼反応が起こったりしないのだろうか?そして、このような回路を得る前の進化前の生物というのは、燃焼反応でエネルギーを得ているものもいたのだろうか。
今回の講義は化学的な話で、深いところまで理解できなかったが、生物というものは効率よくエネルギーを得ることができるようにと、複雑な反応系を獲得して進化してきたんだなあと思った。発酵にしても、光化学系が2個あるということにしても、クエン酸回路にしても何かしらメリットがあるんだとわかった。
A:もし、燃焼を「エネルギーを熱エネルギーの形に変える反応」と解釈をすれば、実際にそのような発熱を植物が行なう例もあります。それに関しては、第6回の講義で触れる予定です。
Q:今回の講義でATP合成酵素が回転しているということを初めて知って、興味を持った。今まではただ「ミトコンドリアの内膜にATP合成酵素が存在していて、プロトンの濃度勾配を利用してATPを合成している」といった程度の認識だったため、回転運動というのは想像もしなかった。半時計周りで回転することでADPをATPに変換しているようだが、ではこれが逆回転だったらどうなるのだろうか考えてみた。ひとつはそんな回り方はできないと考えられるが、そこまで厳密だとも思えない。なので逆でも同様に反応が起こるか、ただ単純に考えて逆の反応のATPからADPに逆反応が起こりプロトンの移動も逆になると考えられるのではないだろうか。これをふまえると、体内のさまざまなATPを利用して物質を移動させている機構の一部は、これを利用して膜間を移動しているものもあるのではないかと思った。
A:ATP合成酵素が逆回転すると、ATPを分解してプロトンを輸送する、というのはその通りです。講義でも説明したつもりだったのですが・・・
Q:クエン酸回路はいくつもの過程を経てATPを作り出している。これは反応をいくつかに分けることで一つ一つの活性化エネルギーを小さくし、体温でも反応が進めるためである。わたしはクエン酸回路が複雑化したのにはもう一つ理由があると思う。クエン酸回路ではさまざまなC化合物の変化に伴ってATPを生産している。しかも、ATP産出に関与している反応過程は一つではなく、クエン酸回路のいたるところでみられる。これはクエン酸回路のどこかがおかしくなってもATPを作れるようにするためである。もしATPを作る反応が一つしかなかった場合、その一ヶ所が壊れてしまったらATPはできなくなってしまう。反応過程を分散することでどこかが壊れてもATPを作り出せるようにしているのだろう。また、クエン酸回路に携わるさまざまなC化合物は体の他の部分から補うことができるようになっている。クエン酸回路に関係するC化合物があれば、回路は途中の過程からでもATPをいくつか作ることができるのである。
A:クエン酸回路のような複雑な代謝経路は、生物の中にたくさんあり、教科書にもいろいろ出ています。教科書を読むと、それらは生物に共通のように書いてありますが、最近のゲノム情報の進展により、それらの回路の一部は、一部の生物では欠けていることが明らかになってきました。つまり、回路が回路にならなくて、二つの直線経路に分かれていたりするのです。まさに、実際に、一部の生物では、「回路は途中の過程からでもATPをいくつか作ることができる」のです。
Q:今回の講義は生体エネルギーの獲得に関する講義でした。私は化学浸透共役について考えました。化学浸透共役には、構造が必要で、特に膜構造が重要であるようです。葉緑体の構造をみると、チラコイドが何層にもわたって連なっています。そこで考えたのは、昔はチラコイドは一層しかなくて、合成できるATP量は少なかったのではないかという事です。進化の過程において、チラコイドの膜が何層にもなり、合成できるATP量も増えたのではないでしょうか。多層にする事により、クロロフィルの量を増やすとともに、膜構造を増やす事により、チラコイドとストロマの濃度差を上昇させて、そのエネルギーによりATPを合成するようにしたのでは、と思いました。でも、進化の過程で水中から陸上にあがってきたと考えると、水中より陸上のほうが届く光の量が多いではないかという事になり、説明がうまくいかなくなってしまいます・・・・。
A:膜の量を増やす、という意味では、正解かも知れません。ただ、膜の量が増えてると、全体のATP合成量は増えると思いますが、局所的なプロトンの濃度勾配自体は変わらないと思いますが。葉緑体のチラコイド膜を見ると、スタッキングという積み重なり構造を取っていますが、これがなぜ積み重なっているのかについては未だに謎です。
Q:今回の授業で印象に残った事柄はATP合成酵素についてだ。まず、この酵素を観察できたというだけでも難しいと思う。電子伝達系はミトコンドリアの内膜で行われているため、普通に膜の外から観察しても外膜しか見えないだろう。やはり外膜を取り除くしかないのだろうか。こう考えてみると、普段見ている教科書の図はどのように撮ったのかと思ってしまう。また、ATP合成酵素の回転の証明だが、これは酵素にアクチン繊維をつけて回転速度を大幅に下げてアクチンの回転を観察することで解決した。だが、ここでも疑問が生じる。酵素とアクチン繊維をどのように結合させたのか、酵素をどのようにして膜から採取してきたのかという点である。こういう点は流してもよいかもしれないが、私は観察の手法というのは重要だと思う。これがなければ思い通りの実験できない。今後、このような疑問はうやむやにせずに早めに解決していきたい。
A:疑問を持つことは非常に重要です。例えば、「酵素とアクチン繊維をどのように結合させたのか」という点に関しては、資料をよく見ると、間に「ストレプトアビジン」と書いてありますよね。他にも基板との接触部分には、His-TagとかNi NTAといった言葉が書き込んであります。そのあたりを自分で調べてレポートを書けるとなおいいですね。
Q:ミトコンドリアで行われる呼吸系電子伝達と葉緑体で行われている光合成電子伝達はよく似ている。今回はこのことから電子伝達の進化について考察する。 呼吸系電子伝達と光合成電子伝達の仕組みはよく似ているが、呼吸系電子伝達では解糖系、クエン酸回路を経てNADHとして生成された高エネルギー電子からエネルギーを取り出してATP合成に用い、光合成電子伝達では電子を光によって高エネルギー状態にしてそこからエネルギーを取り出してATP合成に用いている。 このことから次のことが考えられる。地球上で有機栄養物が枯渇した時期に光をエネルギーとしてATP合成やCO2からの有機栄養物の生成、水からのO2の生成ができる能力を持った生物が出現した。そのうち、地球上に有機栄養物が堆積し、O2が大気上に増加すると、光合成電子伝達の光化学系がNADH脱水素酵素やシトクロム酸化酵素複合体に変わった。つまり、呼吸系電子伝達によってATP合成をする生物が出現した。
A:講義の中でも触れましたが、光合成の電子伝達よりも、呼吸の電子伝達の方が、起源的には古いのではないか、という証拠があります。つまり、発達の段階は、「酸素呼吸以外の呼吸」->「光合成」->「酸素呼吸」という順番だったのではないかと考えられます。それを考えに入れるとどうなりますかね?
Q:生物がその活動に必要なエネルギーを獲得する様式にはさまざまなものがあるが、どの生物でも還元物質を利用しているという共通点があるということを知って意外だった。地球上にはさまざまな生物が存在し、それぞれが生きている環境に適したさまざまな方法でエネルギーを得ている。それぞれの方法は、利用する物質も最終生産物も異なるが、反応の途中でNAD、NADPを利用する点では共通している。このことから、生物は進化するとともにエネルギー獲得の方法も変化したのではなく、周囲の環境に適応してエネルギー獲得の方法を変化させたことによって進化したのではないかということを考えた。
もう一つ興味を引かれたのは、二酸化炭素を利用する呼吸方式があるということだ。この呼吸には大量の水素が必要なため地球上ではほとんど行えないが、水素を効率よく発生させる方法があればメタン合成細菌を利用して二酸化炭素を吸収させることができるのではないかと考えた。現在地球温暖化が問題になっているが、メタン合成細菌に二酸化炭素呼吸をさせることによって、少しでも二酸化炭素濃度の上昇を防ぐことはできないだろうか。
A:ところが運の悪いことに、メタンは二酸化炭素以上に強力な地球温暖化ガスなのです・・・
Q:今回の講義では、クエン酸回路などのエネルギー合成経路を中心に勉強しました。大学で生物を学んでいると、生体内で行われる反応がとても複雑かつ精密で、これらの反応がDNAという化学物質によって起こされているということが、信じられないほど神秘的に感じられます。今回の講義で、「エネルギー合成の主要な場所は、ミトコンドリアである」という場面がありましたが、今回はそこについて書きます。それは、ねぜエネルギーの合成は一つ一つの細胞内で行われるのであって、エネルギー合成を専門とする臓器または組織は存在しないのかということです。生命体、とりわけ哺乳類の体は、一定の機能に特化した細胞がさまざまなところで組織を形成しているのに、エネルギー合成を担当する器官は誕生しなかったのはなぜなのかと思ったのです。私はその理由をこう考えました。それは、生命体には、エネルギーを運搬する手段がないのではないかということです。生命体には、電力エネルギーを運ぶ導線のような低抵抗のラインはないし、一部の専門細胞が作り出した生体全体をまかないうる膨大なエネルギーを熱エネルギーの形で運んだとしたら、生体を構成するタンパク質は変性してしまうでしょう。以上のようなことから、エネルギーを一部の機関に専門的に作らせることが不可能であった結果として、エネルギー合成が各細胞で個別に行われることになったのではないかと考えました。
A:よい点に気がつきましたね。確かにエネルギーの輸送というのは難しい問題があります。他のものと反応しやすいからこそエネルギー源になるわけですから、それを安全に運ぶのは一苦労です。植物の場合は、主にエネルギーを他の細胞に運ぶ時にはショ糖の形を使います。もちろん、その場合には、個々の細胞で、ショ糖からATPを作るミトコンドリアが必要となるわけで、まさに予想したとおりですね。
Q:酸化的リン酸化におけるユビキノンについて、これは、現在話題のコエンザイムQ10ですが、この機能について、エネルギー生産に重要であり、抗酸化作用もあり、また、いわゆる「若返り」効果がある、などと叫ばれていますが、世間では、詳しい説明があまりされていないように思います。また、過剰摂取についての問題も考えるべきではないかとも思います。メタボリックシンドロームとの関連性もあり、これは、エネルギーを多く生産しても、それを利用するような運動などの不足が原因とも考えられ、摂取の際にはバランスというものが重要だと感じました。
また、呼吸と光合成は似ており、起源が同じなのではということで、ここで、注目したのは、プラストキノンです。これは、呼吸と比べるとユビキノンにあたる部分であり、植物においても重要な物質と考えられます。このプラストキノンを植物に与えることで起こる作用について調べ、これを利用した植物の栽培、また、そこから得られる、薬剤に関わるような物質の利用も可能なのでは、と考えました。
A:その通りだと思います。コエンザイムQ10はユビキノンのことで、ユビキノンはミトコンドリアの中にあって、ミトコンドリアは各細胞に必ず含まれていますから、普通の食生活をしていれば問題になるとは思えません。よほどひどい食生活をしていれば、コエンザイムQ10を摂取する必要が出てくるかも知れませんが、その時は、食生活を改善しない限り、どちらにせよ他にいろいろ問題が出るでしょうね。
Q:今日の授業で興味を持ったのはATP合成酵素です。まだ構造がわからない段階で酵素の構造を予想した生物学者はすごいと思いました。見てはいないのにかなり正確に構造を当てるのは並大抵なことじゃないと感じました。あと、ATP合成酵素が回転していることを実際に回転しているところをみて証明した日本の生物学者にもすごいと感じました。最終的には運も味方にということかも知れませんが、実際にアクチン繊維をつけて回すという発想がとてもすごく感じました。生物の微視的な動きを実際に見れるようにするという発想は実際にするのは難しいと思います。
その後のエネルギーの話はわかったようなわからないようなといった感じです。酸化還元電位をあげて還元しやすいNAD+をつくるということですか?
A:ちょっと酸化還元電位の話は難しかったかも知れませんね。要点をここにまとめておきます。
1.酸化還元電位の異なる2種類の物質があれば、その間に酸化還元反応が起き、その反応からエネルギーを取り出すことができる。
2.逆にエネルギーを投入すれば、酸化還元電位の勾配に逆らった反応も引き起こすことができる。
2番の一つの例が、光合成で光のエネルギーを投入する場合です。また、2種類の物質がどちらもNAD+より酸化還元電位が高い場合には、直接NADHを作ることができません。そのような際には、2種類の物質の反応からまずATPを作って、次にそのATPのエネルギーを利用して、酸化還元電位に逆らってNADHを作るわけです。この説明でわかりますかね?
Q:質問
ATP合成酵素が120度ずつ回転するのは、効率的だからなのでしょうか。 (これに関しては質問の部分だけを引用します)
A:ATP合成酵素の頭の部分はαサブユニット3つ、βサブユニット3つからなり、いわゆる「3回対称」の構造を持っています。ですから、そのような構造に於いては120度ずつ回転するのが効率的なのでしょうね。もし、4回対称構造を持つATP合成酵素を作れたら、90度ずつ回転するのかどうか興味があります。
Q:ある2つの物質の酸化還元電位の差の大きさによって、酸化の時に取り出せるエネルギーの違いについて学んだ。地球上に酸素がほとんど無かった時代では、今の地球の状態よりも、二酸化炭素や硫化水素など、酸素よりも酸化還元電位が低い(還元寄り)ものが多かったと考えられる。そうなると、酸化によって得られるエネルギーは、現在よりも昔の方が少なかったと考えられる。つまり、地球全体のエネルギーの循環が今より小規模であったと考えられる。酸素が地球に浸透したことで多くの生物はそれに対応できず死んでしまったが。しかし、より多くのエネルギーを必要としていた生物は、酸素などの酸化還元電位の高い物質を利用して以前よりも大きなエネルギーを得るために、その代謝経路を獲得していたのだと考えられる。
好気呼吸ができるものだけが生き残り、子孫を増やしたということは想像の範囲だが、それだけでなく、それらの生物達の得た代謝経路のおかげで、地球のエネルギー循環は大規模なものになり、色々な生物が進化してきたり、地球全体が豊かになっていったのだと考えられる。
A:お、ちゃんと酸化還元電位を理解していますね。ただ、現在の地球に於いても、酸素濃度が低い場所というのは随分あって、そこでは、酸素呼吸に依存しない生物がたくさん成育しています。ただ、人間が酸素呼吸をする生物なので、どうしても酸素呼吸がエネルギー代謝の中心のように思いますが、実際には、他の代謝を使った生物も、地球環境を維持する上で大きな役割を果たしています。
Q:呼吸と光合成は似ているが,呼吸は光合成が誕生する前からすでにあったというところに興味を持った。太古の海には硫化水素やアンモニアのような物質がたくさん存在していたのだろうから,わざわざ自分で有機物を合成するより,もともとあったものを利用するほうが楽なのだから,当然のような気もする。ではなぜ,光合成をするようになったのか。私が10年以上前に見たテレビ番組では,原始の地球は最初厚い雲に覆われていたが,ある時期にそれが薄くなり,海に光が差し込むようになった。その時に光合成が始まった,と説明していた。しかしこれは光合成が出来るようになったということであって,光合成をしなければならなかった理由にはならない。おそらく,光合成は,使える物質が海から減っていったために出来上がった機構なのではないだろうか。光合成の誕生は,地球環境に激変をもたらし,活発だが酸素に依存する生物が勝者となった。これは強い生物が生き残る,ということから当然なのだが,もし今後,隕石衝突や核戦争などで地球が厚い雲で覆われ,光合成をする生物が息絶えたら,現在温泉や海底火山の噴気孔のそばで暮らしていているような,日光を必要としない生物が勝者となるのだろうか,と考えた。
A:地球環境と生命の進化の話は最終回にやる予定なので、楽しみにしていて下さい。
Q:ATP合成酵素の回転の仕組みが面白かったです。(ATP合成酵素は水車みたいだなと思いました。)
プロトンの濃度勾配によってATPができるということは何度も聞いたことがあって知っていましたが、回転によってというところまでは知りませんでした。ATP合成酵素はたんぱく質の複合体なのだから、プロトンにとってはとても大きなものであるはずなのに、なぜたんぱく質の間を通るだけで大きなたんぱく質が回転するようになってしまうのか、と思いました。私はプロトンが何かを還元したりしてたんぱく質の構造が大きく変わるから回転するのではないかと思います。また、ビデオで回転している様子を見ましたが、回る向きは決まっているのでしょうか。あのビデオはATPを使ってプロトンを取り込んでいるときのものでしたから、やはりATPを合成するときに回る方向は逆方向になるのでしょうか。私は回る向きは決まっているのではないかと思います。その方が単純ですし(生き物のいろいろな仕組みって単純なものが多いと思うので)、同じ向きの方がいろいろ反応などに便利なのではないかと思うからです。水車みたいな簡単な仕組みでできているのに、濃度勾配のエネルギーをATPというエネルギーに変換してしまうのがすごいと思いました。
A:まわる方向は一定ですし、確かに、ATPの合成の時と分解の時では、回転が反対になります。