植物生理学 第1回講義

植物生理学の内容と光合成の意義

初回は講義の全体像をつかむため、光合成が地球環境、生態系、あるいは人間の文明にどのようなインパクトを持つのか、また過去の光合成研究の歴史と、今後の光合成研究の方向性について概説しました。今回の講義に寄せられた意見の中からいくつかを選び、必要に応じてそれに対するコメントを以下に示します。


Q:植物にとっての光合成速度は、生育速度に関係してくる。つまり、光合成を何らかの方法で光合成を促すことが出来れば、植物の生育を早めることも出来るということであるが、この方法を応用した栽培方法の利用価値について考察してみる。参考になりそうな事柄といえば、先日訪れた愛・地球博の農業関係の展示の内容にも、赤い光を当てることで作物の生長を何倍にも早めることが出来るとあった。これによって生産性を高め、食糧問題の解決の糸口にしようということだった。ただ、生産性を高めるだけならばこれに限らずとも方法は他にもある。むしろ、光合成を促すことで増加する二酸化炭素の吸収量と酸素の放出量に着目して考えれば、機密空間での酸素交換に効果を発揮すると予想できる。候補を挙げれば、宇宙ステーション内部など、気候的にも食物連鎖的にも閉鎖された空間で、酸素と食料の両方を確保する必要のある環境にこそ最適な栽培促進方法だと思われる。

A:レポートとして考えた場合、あと一つ足して欲しいのは、「赤い光を当てることで作物の生長を何倍にも早めることが出来るとあった」場合に、なぜそうなるのかと考えること、場合によっては、本当そうなのか、と疑うことです。太陽の光は白色光で、当然赤い光も含まれています。とすると、他の色の光を遮断すると、成長が速くなる、ということでしょうか?もしそうなら、他の色の光は、植物にとって害なのでしょうか?いろいろ考えること、疑うことがあると思います。
 これは、愛・地球博の展示に限らず、僕が講義で話した内容についても同じです。単に鵜呑みにしないで、必ず疑ったり考えたりする習慣をつけてください。それが、生物学に限らず、サイエンスを学ぶ上での第一歩です。


Q:地球上のエネルギーは植物によって作られ、大気中の酸素量も、植物が存在するからこそ維持されている。しかし、人口が増える一方森林が焼かれたり緑が減っている今日、植物と動物による物質の循環のバランスが崩れてきているように思う。さらに、他に人間によってくずされている地球環境の1つとして、オゾン層の破壊がある。紫外線の問題はもちろんあるが、これは逆手に取れないだろうか。太陽から放出されるエネルギーは薄く、広範囲にわたって地球に降りそそがれている。ならば、オゾン層が薄くなった分多く注がれる紫外線などのエネルギーを何らかの方法で集めて利用できれば、病気などの心配も消え、さらに自然破壊なしに得られるエネルギーも増えると思った。
 また、光合成を行える海洋植物プランクトンを増やそうという試みで無機塩類を海に撒くなどの実験があったが、人体や他の動物にとって有害な物質を撒いてしまうと、大気ガスの問題よりも食物連鎖の面で、多くの生命が危険にさらされると思った。1つの目的を達成するためには、派生して起こり得る危険性を十分に考えた上で動いていかなければと思った。ただ、海という、広くて、物質の拡散がしやすい場所を標的にするのは正解だと思った。失敗は許されないが、地球規模の問題解決には必要不可欠な所だと思う。

A:できたら、「何らかの方法で集めて利用できれば」と言わずに、荒唐無稽でもよいので、具体的なアイデアを考えつけるといいですね。「1つの目的を達成するためには、派生して起こり得る危険性を十分に考えた上で動いていかなければ」というのは、まさにその通りです。これは、地球環境問題に限らず、ほとんどすべての技術に当てはまりますね。


Q:太陽が放つ光がこんなに多量のエネルギーを含んでいることを知り驚いた。そして,講義の内容について考え,光合成というしくみは画期的な進化に思えた。動物があふれた現在だからこそ光合成をしている生物はただの消費物でしかなく,消費されていくような生物は生物が繁殖する上で不利だと思っていたが,考え直すとその逆だと思った。「水と光と二酸化炭素」と地球にいれば必ず存在し,常に光合成できる状態であるのだから,成長・繁殖する上でかなり有利であるからである。それに対して,餌となる生物がいなくなるとエネルギーが獲得できず成長・繁殖がままならなくなる動物のほうが不利である。
 また,光合成をする生物の誕生に際して,光合成でできた物質をもとの二酸化炭素と水の状態に戻してくれる呼吸のしくみをもった生物の誕生も必然である。そして,この二つのしくみができたからこそ地球の生命が安定な状態で生存できるようになったと理解できた。

A:最近は、生物学の分野にも、システム生物学などと銘打つものが現れました。個々のコンポーネントの理解が進んでくると、それを全体として理解しようという方向性が出てきます。その際には、大きな枠組みの中で、全体像を見抜く能力が重要になってきます。この講義は、「植物生理学」という題名ですが、植物生理学に関わることを起点にして、幅の広い知識を統合していく講義にしたいと考えています。


Q:今回の講義の中で興味を引かれたところというか感心したところは、普段何気なく存在している太陽が、我々がこの地球上で生きていく上でとても重要であるということでした。光合成のエネルギー源である光エネルギーのもとはもちろん太陽であって植物はとても関係しているということは想像できたのですが、大きな意味で光合成をする植物のみならず地球や人間のエネルギー源であるという発想は今まで自分にはあまりありませんでした。そこで植物では光合成のエネルギー源として利用されている太陽の光が、我々人間には講義内の考え方以外では具体的にどのような活動というか作用に関与しているのかを考察してみることにします。人間は太陽光の中のある波長の光を浴びることで、体内で生成できる数少ないビタミンのビタミンDを生成できるそうです。ビタミンDはカルシウムの吸収を助け、骨や歯の成長を促進させる働きがあって人間が生きていくうえで確かに必要なものであるといえるでしょう。このように太陽は人間にとって講義内であったの燃料等のエネルギー源だけでなく、生きてく上での重要なエネルギー源であるといえる実感しました。

A:そういえば、人間に対しても、光はそのような直接的な作用を持っていましたね。見落としていました。


Q:もやしは光がない場所、または光があまり当たらない所では緑色だった葉が黄色に変わる。これは光が当たらない場合では光合成ができないので、成長するためにより多くの養分を使うためである。それではどのようにして緑色から黄色へと色を変えたのだろうか。
 植物の緑色の色素はクロロフィルである。クロロフィルは緑色の光の波長を反射して緑色に見える。もやしが黄色に見えたということはクロロフィルが変化して違う波長の光を反射したことになる。このクロロフィルの変化は光の有無が関係していると思われる。光が充分当たっている時は緑色の光の波長を反射する。しかし、長い間光が当たらない状態が続くとクロロフィルが何らかの変化を起こして黄色の光を反射するようになる。そして再び光が当たるようになるとクロロフィルがもとの状態に戻り、緑色になるのだろう。

A:面白い考え方ですね。このように、自分なりに論理を追求することは、サイエンスにとって非常に重要です。ただ、この場合、気になるのは、量の調節の可能性、つまり、暗いところでは単にクロロフィルを分解し、明るくなるとまた合成する、という量を通じて調節している可能性について考えていないことです。なるべく、いろいろな可能性を考えることが大切です。


Q:今回の講義で興味を持った所は,大陸が出来ると大気中の酸素濃度が上昇するという点です。大陸が出来た結果,生物(炭素)が土砂に閉じ込められ,二酸化炭素濃度が下がるという事を聞いて,以前新聞で,工場などで発生した二酸化炭素を地下水に溶かし込み,温暖化を防止する,という記事を読んだことを思い出しました。しかしこれでは地下水が弱酸性化し,どのような影響があるか予測できません。二酸化炭素を地下に送り込むのにもエネルギーが必要ですので,炭素の地下への封じ込めということから言えば同じですが,自分にはこれで上手くいくとは思えません。もちろん太古にあったように二酸化炭素濃度を下げるほどの規模で土砂崩れを起こすのは現実的でありません。そこで,普通の植物や動物をただ単に土に埋めただけではそのまま分解され二酸化炭素が排出されてしまうので,二酸化炭素を腐らない物質に固定できる微生物を作り大量に増殖させれば,温暖化は予防できるのではないか,と考えました。

A:一つ、腐りにくい炭素の形に、炭酸カルシウムがあります。貝の殻やサンゴなどもそうでしょうね。植物プランクトンの一種でも、細胞の周りに炭酸カルシウムの殻を作るものがあり、研究がなされています。


Q:動物が光合成をしない理由をタコクラゲから考察する。タコクラゲは光合成をする藻類と共生している。この共生によるメリットをタコクラゲと藻類の双方で考えてみる。
 タコクラゲ側のメリットは「光合成によって糖と酸素が得られるので、それらから呼吸によってエネルギーを作ることができる。」などが考えられる。次に藻類側のメリットには「自分よりも広い面積を移動できるのでより効率的に光合成ができる。」などがかんがえられる。よって双方のメリットをあわせると、タコクラゲは藻類と共生することによって呼吸も光合成もできるようになって光と水と二酸化炭素さえあれば自分自身だけでエネルギーを作り出してそれを消費するということが可能になると思われる。
 このタコクラゲのように藻類など共生すれば他の動物もわざわざ外からエネルギーを取り込まなくてもすむのにとも考えられるのだが、残念ながらこの共生はクラゲなどの水中を漂うような動物だけに限られると思われる。なぜなら他の動物が光合成と呼吸で生きていくには太陽の光をずっと浴びつづけなければならないし、水分も絶えず吸収しつづけなければならない。地上の環境を考えればそのようなことは効率的でない。よってほとんどの動物は光合成をしないのではないかと考えられる。

A:なるほど、そうかも知れませんね。講義では言い忘れましたが、このタコクラゲは、他のクラゲのように刺胞を持ちません。藻類との共生からエネルギーを得られるので、他の生物を襲う必要がないと考えると説明がつきますね。


Q:なぜ少なくとも高等な動物が光合成をしないのか?ということについてだが、講義で示された理由の他に、私は酸素を消費するものの存在が必要になったのではないかと思った。植物による太陽エネルギーの有効利用としての光合成によってできた酸素も必要な分以上はいらない。酸素は他のものと結合して(酸化)悪影響を与えるなど、ある意味毒になりうる。もちろん植物による消費もあるが、酸素を効率よく消費し、また材料である二酸化炭素を出す存在として動物が選ばれたのではないだろうか。レストランのスタッフを揃え、せっかく食事も作ったのにそれを食べてくれる人がいなければ店は成り立たない。また客側からしてみれば、色々な店に行くために移動手段が必要なので、運動能が強化された。と、おかしな表現かもしれないが太陽から与えられた光をスタートとする地球規模のサイクルを構築するためのハタラキを、我々も担うことになったのではないだろうか?よって高等な動物は光合成をしていないというより、直接行わないだけであり、大きくとらえれば光合成を続けるためのサイクルに組み込まれた部品の一部にすぎないのではないかと考えた。

A:なかなかユニークな考え方ですね。このような柔軟な考え方は、僕は好きです。レストランが出来た以上、客が来るはずだ、という論理は、かなり強引な気もしますが・・・


Q:今回の講義で「太陽光のエネルギーは薄いが、総量は膨大」という点に興味を持ち、太陽電池のみで人類1年分の消費エネルギーをまかなうにはどの程度の面積が必要なのかを大まかに計算してみました。
 地表に届く太陽光は、雲・大気で減衰する分を差し引くと地球に届く光の50%。大陸上に届くのは陸:海=3:7と考えて、さらにその30%。1日の日照時間を、朝夕は弱いと考えて8時間とおくと、陸上全土に1日で降り注ぐエネルギーは1.2年分。1年間で438年分。陸上の1%の面積に絞ると4.38年分。
 太陽電池の効率は20%程度なので、陸上の1%の面積を太陽電池で覆うと0.876年分となります。1年分を獲得するには陸地の1.142%の約170万平方キロメートルを太陽電池で覆えば良いということになります。 …ちなみに、インドネシアは国土面積約190万平方キロメートルで赤道上というすばらしい条件の国でした。実際には年中晴れている訳もないし、獲得した電力を送電する際の損失も考えるともっと少なくなりそうですが、それでも太陽光が膨大なエネルギーであることが分かりました。

A:このような定量的な考え方というのは、非常に大切です。世の中には、ふれこみばかりで、どの程度役立つかを計算してみると、実際にはほとんど意味のないものが随分あります。でも、インドネシアを丸ごと使わなくては、という意味では、やはりなかなか大変ですね。


Q:大陸ができることで大気中の酸素濃度が上昇する、ということにまず驚きました。そのメカニズムについても、死滅した生物の炭素分などが陸から海に流れ込むことによる、ということもよく分かりました。 このことに関して、地球温暖化との関連も重要なことでは、と思いました。システムとしての地球における、可視光と赤外光のバランスで、地球上の二酸化炭素濃度上昇によって、赤外光を吸収し、バランスが崩れ地球温暖化となりますが、この温暖化により、地球上の海面上昇が起き、陸地が減ることによる酸素濃度の問題も出てくるのでは、ということです。
 また、植物の光合成に関して、もやしの例がありましたが、この明暗による形態形成の違いについての、それぞれの色、長さ、成長点の形における、「why」についての先生の見解が、とても納得いくもので、興味深かったです。
 この形態形成に関して、ここでは光について扱ってましたが、個人的に、音による形態形成が気になりました。よく、音楽を聞かせるとよく育つ、というのを耳にします。このメカニズムについて、音による振動、また、曲による振動数の違いで成長の差が生じるか、また、この原因としては、音の振動により、植物内の分子や物質への影響、また、光合成に関与するか、などの様々な疑問、考えが出てきました。
 タコクラゲに関して、太陽を追いかける、ということで、タコクラゲ時計みたいなものはできないか?などと考えました。光合成と時間の関係を、目で楽しく見つめられるのでは、と感じました。
 海洋に鉄をまくことで、クロロフィルが増え、つまり、植物プランクトンが増える、ということで、この鉄に関して、これをまくことにおける、環境への影響は大丈夫なのか、と素直に疑問に思いました。また、鉄ではなく、他の金属ではどうなのか、ということが気になりました。

 400文字程度、ということでしたが、書いていたら長くなってしまいました・・・長すぎるのは問題でしょうか?また、書いていて気になったのですが、「レポート」として書く場合、文章の改行、段落構成は、普通の文章のようにした方がよろしいのでしょうか?それとも、「メール」的な、見やすい改行、段落構成をするべきなのでしょうか?

A:タコクラゲ時計というのは愉快ですね。
 レポートの長さについては、長くても問題はありません。ただ、複数の話題に均等に触れるよりは、一つの話題について深く掘り下げて考えたものを歓迎します。書き方については、ホームページに載せる時の手間を考えると、なるべく余計な改行などがない方がありがたいです。段落を切り替える必要がある時に改行を入れるだけで、あとは、なるべくそのまま書いてもらえればと思います。


Q:面積当たりにすると1.4kw/m2しかなくなる太陽エネルギーをどのようにエネルギー源としたらよいだろうか。単純に太陽電池の面積を増やすのもひとつの方法である。道路をアスファルトの換わりに太陽電池をひきつめたりビルの屋上や外壁を利用することもできるだろう。またわ、鏡やレンズなどを利用して、面積当たりのエネルギー量を増やす方法もある。宇宙空間でできたエネルギーを地上に送ることが簡単ならかなりのエネルギーが集まるだろう。最後に考えたのが、集めて濾したら石油のようなエネルギー源になる植物プランクトンを作り出すことである。できれば良いエネルギー源になるが環境に与えるリスクは大きいだろう。使えるエネルギーを増やすことも大切だが、やはり使うエネルギー量を減らしていくことが重要である。講義で使った世界地図の分布図はとてもためになりました。クロロフィルのような小さなものを宇宙から測定するという、地球規模での評価もできるんだと思いました。小さなものでもいろいろな視点で見ることができるのがとても興味深かったです。

A:最近、屋上緑化がだんだん進んできていますが、これは、エネルギー源としては役立たなくても、ヒートアイランド現象を和らげるためには、役立つようです。宇宙空間でエネルギーを集める、というのも、そろそろ夢物語ではなくなるかも知れません。


Q:今回の講義を聞いて、二酸化炭素濃度が増加すると地球から宇宙への赤外光の輻射が少なくなるため地球温暖化が進むと学びました。しかし、ここで思ったのが二酸化炭素濃度の増加と、気温の上昇は共に光合成の反応を促進する条件であるため、地球温暖化が進めばそれと共に植物の働きも活発になり二酸化炭素濃度は減少に転じるのではないかということです。よって人間の手による化石燃料などの使用による二酸化炭素の放出などの作用がなかった17~18世紀以前は、地球の二酸化炭素濃度は一定の範囲内で増加、減少を繰り返したのではないかと考えました。
 あと今回の講義で触れられたタコクラゲの話ではタコクラゲは自分の中に藻類を共生させることで間接的に光エネルギーを利用していましたが、これは人間における農業の戦略と根本的には同じなのではないかと思いました。

A:前半の部分は、地球環境を考える上で、非常に重要なポイントです。楽観的に考えれば、二酸化炭素濃度が上昇すれば、光合成が盛んになるので、どこかでまた、二酸化炭素濃度は減少する、となるのですが、実際に、植物を二酸化炭素の濃度が高い状況で育てると、短期的には光合成速度が上昇するのですが、長期的には気孔が閉じ気味になるなどの影響で、思ったほどは光合成があがらない、ということがわかってきました。今のところの結論としては、やはり人間が何とか手を打たないといけないようです。