植物生理学 第3回講義

光の吸収と電子の伝達

第3回の講義では、葉の構造、葉緑体の構造から始めて、光のスペクトル、反応中心とアンテナなどを中心に解説しました。以下に寄せられたレポートの一部と、それに対するコメントを載せておきます。


Q:私が今回の講義で興味を持ったのは葉緑体とチラコイド膜に説明していた箇所です。まず一つ目はシアノバクテリアの共生は葉緑体の二重の膜が証拠であると指摘されたことに驚きました。今までは生命が誕生した当初は嫌気的環境から大気中の酸素が増増加という環境の変化に応じて酸素呼吸を行う好気性細菌を取り込んで、その高度なエネルギー生産システムを利用するという進化の上での理由にしか目を向けていなかったので形態的な理由から細胞内共生説に有力な証拠を提示されたのは初めてでした。ゆえに2回共生したら4重の膜、さらには3重の膜の葉緑体も存在するという提案は驚かされたした。与えられた知識に対してもっと柔軟な考えをもつように心がけたいと思いました。二つ目に興味がわいたのは「全ての植物の起源は1つであり、第一回目の共生は一度しかおきていない」という提案についてです。まず全ての植物の起源は一つであるという根拠は何でしょうか?全ての生物の遺伝コードが偶然に1個決まって全生物種に広まったと考えているからでしょうか。たしかにある特定の生物種間では類似した構造を持ちますが、4塩基の組み合わせで何通りもの遺伝コードが考えられるのにもかかわらず、なぜたった一個の遺伝コードからと考えるのか納得がいきませんでした。

A:あるタンパク質(またはRNA)の遺伝コードの類似性から植物・動物・最近などにまたがった系統樹を考えることができます。一方で、葉緑体も独自のDNAを持っていますから、その遺伝コードから植物(と藻類)の系統樹を作ることができます。例えば、もし、葉緑体の情報からの系統樹が、全体の系統樹の一部にぴったり重なったら、これは、あるポイントで葉緑体が1回だけできて、それが子孫に伝わったことになります。実際には、葉緑体をもつ生物は、全体の系統樹の中のいろいろなところに出てきますので、これは、葉緑体の起源は、少なくとも2次・3次共生も含めて考えれば、1つではない、ということを示します。さらに、一回光合成を獲得してから、また失う生物もいるので、話はさらにややこしくなりますが、現在1次共生が何度も起こったとする根拠は見つかっていないと思います。「4塩基の組み合わせで何通りもの遺伝コードが考えられるのにもかかわらず」とのことですが、まさにそれにもかかわらず、遺伝子配列が似ていたとしたら、それは祖先が共通だったためではないか、と考えるわけです。もちろん、同じ機能を持つために、同じ配列が必要な場合もあり、その場合には、起源が異なっても似た配列になるかも知れません。しかし、機能とは直接無関係の部分を使うことによって機能による配列の収斂を避けることができます。


Q:今回はクロロフィルは細胞膜にくっついて端にある理由を考察する。植物の葉の構造を見れば分かるように、与えられたエネルギーを最大限活用すべく、効率的な形を植物はとっているが、それならば、細胞内でも細胞膜にくっついているのではなくもっと細胞内に散乱した形でもいいのではないかと考えられるのだ。この疑問に対する一つの答えとして考えたのは、葉緑体の比重の大きさが細胞質を満たす溶液よりもかなり大きいというものである。少し程度では溶液の粘性によりほとんど動かないと考えられるため、それなりに差が生まれるのではないかということである。ここでこの考えがあっているとすると、植物の葉緑体は、葉のように常に鉛直面に対してある程度水平であるものばかりではないということである。
 植物は日光が当たっている所にはすべてといっていいほど葉緑体を持っている。茎などは地面に垂直でありながら葉緑体を持っている。このような部位でも効率的に光合成を行うために細胞膜にくっ付くことになったのではないかということである。もし、くっ付いていなければ、葉緑体が細胞の下のほうに重なり合ってしまい働けなくなっていることが起こりうると考えられる。

A:実際には、葉緑体は、細胞内でその位置がきちんと決められており、しかも、必要に応じて動くこともできます。これについては、今後の講義の中で触れます。


Q:光合成色素の光エネルギーの吸収に関して、太陽光によって色素の活性中心の元素が励起され、基底状態からエネルギーの高い軌道に入る状態をとるようですが、エネルギーの高い軌道から基底状態に戻るときのエネルギーが光化学系の起動力となるが、これはあくまで光エネルギーで熱エネルギーとはいえないのだろうか? 熱エネルギーになる場合は、励起状態の高いエネルギーから組織が受けるダメージを防ぐ為のカロテノイドのより安定な軌道による緩衝やキサントフィルの相互変換を利用しているとのことでしたが。基底状態にあるとき、ある程度振動によってポテンシャルが高まり、またその波動が励起の軌道の波動と重なって始めて遷移が起こるわけで、吸収強度がそれによって変わってくるのだと思う。陽生植物と陰生植物の光の効率が違うのは、クロロフィルなどの光合成色素の組成、つまり元素の組成が関連して遷移の起こりやすさが違うのだろうか?などといろいろ考えた。

A:光化学系の機動力となった場合は、熱エネルギーとは言えないですね。結果としてできたATPが消費される際に、最終的に熱にはなりますが。陰生殖物と陽生殖物については、今後の講義の中で触れる予定です。


Q:βカロチンとキサントフィルは色素であるため、クロロフィルと同様の働きをしているのだと思っていたため役割が異なることに驚いた。
励起状態のクロロフィルが3重項クロロフィルにエネルギーが落ちてきた状態から、一重項の活性酸素になることを防ぎ、3重項βカロチンから熱を放出しβカロチンにすることで電子が1つ足りないことで不安定になっている活性色素を正常な状態に戻す。この活性酸素というヒトの体内での活性酸素による悪影響、活性酸素が電子を血中の脂質から奪い通常の酸素に戻ることによって血管壁に蓄積し互いが重なりあうことで血管を塞ごうとする動脈硬化の発生にかかわっていることがまず思い出された。
ヒトの場合はビタミンEを摂取し、活性酸素に電子を渡して酸素を正常にし、電子の不足するビタミンEにはビタミンCが電子をわたすためビタミンCも摂取しておくことで体内から活性酸素は短時間で排出されやすいビタミンCと体外へと出ていく。ヒトの場合ならば、呼吸で吸い込む酸素の2%が活性酸素に変化してとしても体外に出すためには成分の摂取によって容易なことのように考えてしまうが、植物の場合では移動できないため必要な成分が外からすぐ得られるということはできないだろうから、できる前に作用するということは重要なことだろうと思った。だが、植物の体内ではヒトのような動脈硬化はないため、細胞が傷ついたりすることで悪影響になるのだと思われる。

A:人間は、ビタミンE(トコフェロール)もビタミンC(アスコルビン酸)も主に植物からとりますよね。これらのビタミン類は、植物中でも、活性酸素消去に働いています。特にアスコルビン酸の場合は、活性酸素の消去だけでなく、酵素活性などにも必要です。


Q:今回の講義で一番興味を持ったところは、葉の構造のところである。葉の構造について調べてみると、C4植物の葉と、C3植物の葉の構造は違うということがわかった。主にC3植物では、講義のように葉の表面の細胞はきれいに棒状に並んでいるが、葉の裏側は、不規則に並んでいる。C4植物では、維管束を中心にして囲むように細胞がきれいに並んでいる。C4植物の葉肉細胞は炭素固定よりも二酸化炭素の取り込みを行うように特殊化し、その働きで維管束鞘細胞中の二酸化炭素:酸素の比を高く保つためであるという。
 C4植物にはサトウキビや、とうもろこしなど主に暑いところに存在する植物であるため、高温乾燥化では、維管束系へのエネルギーの消費のほうが、C3植物での光呼吸よりも、エネルギーの損失のほうが少ないと思われるために、このように環境に適合した葉の構造をとるのだろう。
 また、光合成色素の吸収波長がなぜ、可視光線よりエネルギーの高い紫外線や、X線に吸収がないのかということにも疑問がわいた。多分これは、紫外線などのようなエネルギーの高い光は、電子を励起するには十分なエネルギーでも、自分自身の細胞を損傷するリスクも、それだけ大きくなるために、吸収を示さないのであろう。

A:C3植物とC4植物の差については、今後の講義で触れる予定ですので。


Q:今回の講義でおもしかったのはβ−カロチンの役割の話です。β−カロチンが不足していると三重項状態のクロロフィルは電子を通常の三重項酸素に渡してしまい、反応性の大きい一重項酸素が生じる。それが photodamage (光傷害?)を起こして細胞や組織にダメージを与える。カロテノイドの吸収波長では光合成はそれほど効率よくは行われないことから、β−カロチンは励起したクロロフィルのエネルギー順位を安全に落としていくことを目的としてできた物質だと思います。いろいろなメディアでβ−カロチンなどの抗酸化物質が「癌を予防する」とか「老化を抑える」などという情報が流れています。ヒトの体の中でもβ−カロチンがエネルギーの高い物質から電子を受け取って活性酸素の発生を防ぐのなら、そのような効果が期待できるのだろうと少し納得できました。
 疑問に思ったのは、ヒトは活性酸素が発生してもそれを処理する酵素をいくつか持っていますが、植物はどうなのかということです。現在の私の理解では、活性酸素に対してヒトは対処型で植物は予防型です。やはりヒトも活性酸素発生の予防機構を、そして植物も活性酸素処理機構を持っているのでしょうか。

A:植物も活性酸素消去系を持っています。植物の場合、光エネルギーといういわば危険物を扱っているので、絶対に必要なのです。これについても、今後の講義で触れる予定です。


Q:βカロチンの役割について植物の視点から見ると、いつもと逆の視点だったのでおもしろかった。植物において、光によって励起状態になったクロロフィルは、エネルギー準位が高く不安定である。三重項状態に移行する際には、熱が放出されるはずである。しかし、βカロチンがない場合活性酸素になるが、植物にとっては非常に有害である。活性酸素は細胞の老化を促進させてしまう。それを防ぐために作られるのが、βカロチンの三重項状態であり、その後熱を放出してβカロチンが作られる。この一連の反応において発生した熱はどこに行くのだろうか。単に植物体外へ放出されるのだろうか。それとも、その後の反応に利用されるのだろうか。私は放出すると仮定するのは不効率に思える。しかし、熱エネルギーはその他のエネルギーに変換しにくいので、利用できる形で取り出されるのか分からない。また、三重項状態から基底状態に移行する際りん光がでるはずだが、植物が発光していると考えるのは無理がある。三重項状態に関する私の知識不足かもしれないが、それらの放出されるエネルギーがどのように利用されるのか興味を持った。

A:放出される熱は、単に捨てられます。確かに「効率」という面からすると無駄ですが、そのようなことが起こる状況というのは、光が強い時(つまりエネルギーがあまっている時)ですから、問題ないわけです。三重項状態から一重項状態に戻る時には、確かにリン光が出ます。そして、実際に、非常に感度のよい測定器を使えば、クロロフィルのリン光を捉えることができます。ただ、カロチノイドの場合は、エネルギーのうち熱になる割合が高いので、リン光はクロロフィルの場合に比べて弱くなるはずです。植物もごくわずかですが、発光するんですよ。


Q:同じ分子はどれも同じように働く、と今まで何の疑問も持たずに思っていたので、光合成色素の反応中心の概念にはびっくりした。同じ分子が同じように働かず、少数の特別な分子に反応を任せているなんて、何だか生物らしからぬ非効率的な感じがした。反応に必要な角度や距離の設定を確率に任せているのにも、万が一、条件の合う分子が少なかったらどうするのだろうと思った。
 植物は反応する分子を確率的にではなくて、自身の制御できっちりと作り出そうとはしなかったのだろうか。それができればとても安心だろう。しかし、そのような分子は大きくならざるを得ないだろうし、今のような反応中心を作るのに比べ、何十倍もの複雑なシステムが必要になるだろう。また、タンパク質合成のミスの確率が同じとき、同じアミノ酸数でも、長いポリペプチドを一本作るより、短いポリペプチドを複数本作った方が、異常なものができる確率が低く効率がいい、というのを思い出した。こう考えてみて、反応中心を作り出すのはむしろ効率的なことなのだろうと思った。万が一、生命を維持していくくらいの反応中心ができなかったら...。これは、本当に万が一のように低確率なことだろうから、そうなったときのことは別に考えていないのだろう。そんなことまで考える方が大変だ。
 今回の講義はこのこと以外にも、アンテナのことや、各光合成色素の吸収スペクトル、クロロフィルを持つ魚など、興味を引かれるようなことがたくさん出てきて楽しかったです。

A:基本的には、クロロフィルの空間配置は、タンパク質に結合することによって固定されています。ですから、確率に任せているわけではないのです。生物の細胞の中では、間違って作ったタンパク質は積極的に分解するシステムがありますから、まあ、反応中心がなくなることはないでしょうね。


Q:今回の講義では植物の光の吸収と電子伝達についてであったが、今回は光の吸収に焦点をあてて考えていく。光のスペクトルによる植物の色の見え方や光エネルギーの吸収、クロロフィルなどに関しての代表例としてはこの時期に見られる紅葉である。よって、今回は紅葉がどのようなメカニズムで行われているかについて考察する。
 まず、植物は一般的に緑色である。これは、植物内に含まれるクロロフィルによるものである。クロロフィルの働きとしては光合成を行なってデンプンを合成し、植物が生きていくための栄養をつくることである。では、紅葉の時期に植物は何色に紅葉するのだろうか。これについては大きくわけて赤色と黄色の2色に分かれる。
 まず、黄色に紅葉するものの代表例としてはイチョウやポプラなどがある。これらが黄色に見えるのはもともと葉に含まれるカロチノイド系の黄色の色素が葉の中に存在するためである。つまり紅葉により葉が緑色から黄色に変化するメカニズムは以下のようになる。紅葉が始まるまではカロチノイドはクロロフィルの強い緑色に隠れてしまっているが、季節が変わり気温が低下することでクロロフィルの分解が始まる。これに対してカロチノイドは分解がよりゆっくりと進みむため、クロロフィルの緑色が分解により薄まると同時に今まで隠れていたカロチノイドの黄色が葉の表面上に現れるというものである。
 次に赤色に紅葉するものについて考察していく。代表例としては、カエデなどがある。では、黄色に紅葉するものと赤色に紅葉すものにはどのような違いがあるのであろうか。カエデ類の葉においても黄色に紅葉する要因であるカロチノイドは含まれているが、これらの種の葉では、クロロフィルの分解とともに新たに赤いアントシアニン系の色素が大量に作られる。これによりアントシアニンとカロチノイドの色とが混ざり合って鮮やかな赤色から橙色に変化する。
 では、なぜ赤色に紅葉するカエデ類の植物はわざわざ紅葉をする一時期のためにアントシアニンを葉の中に作り出すのか。これについては、アントシアニンとクロロフィルの性質が関係していると考えられる。
 葉緑体では光をエネルギー源として水と二酸化炭素からブドウ糖と酸素をつくりだす。しかし、葉緑体の構造からクロロフィルのみが光を受ける状態になるとエネルギーを吸収して励起状態となり、異常に酸素を生成する。これにより非常に毒性の強い活性酸素をつくり出してしまう。つまり活性酸素の作用により葉の細胞の構造が壊されるため、葉に残る栄養分の回収作業の能率が大幅に低下してしまう可能性がある。ここでアントシアニンが必要となる。アントシアニンは青色の光をよく吸収するため過剰に酸素を産生することを防ぐ。これによりクロロフィルの励起を抑制し、光酸化障害を防ぐと考えられる。つまり、紅葉する植物は葉緑体のクロロフィルの構造が分解されるのと同時に葉の細胞のクロロフィルに強い光が当たることで過酸化状態にならないようにアントシアニンが生成されると考えられる。

A:よく紅葉のメカニズムが説明されていますね。カエデの紅葉は、クロロフィルが分解されてアントシアンが残った時に一番きれいに見えます。でも、アントシアンの働きがクロロフィルの励起を防ぐためであれば、クロロフィルが分解された時には、アントシアンも一緒に分解された方が効率的なような気もします。なぜ、そうならないのか僕もよく知りませんが、僕の予想では、アントシアンやカロチノイドは、クロロフィルと違って窒素(植物にとって一番不足しがちな元素)を分子中に含まないので、使い捨てにしているのではないかと思います。


Q:クロロフィル分子の発明は、生物と地球の歴史にとって大きな出来事であった。その中でもシアノバクテリアの誕生に伴ったクロロフィルaの出現であったと考える。シアノバクテリアの誕生以前は光合成色素としてバクテリオクロロフィルが利用されていた。しかし構造上の制約のため、バクテリオクロロフィルでは水を酸化するだけの高い電位が得られず、硫化水素などが電子給与体として利用されていた。そのため光合成をしても酸素を発生しなかった。しかしバクテリオクロロフィルの代謝経路を一部働かなくすると、バクテリオクロロフィルのB環の単結合を二重結合することができる。こうして作られたクロロフィルaはバクテリオクロロフィルに比べ短波長側に吸収極大をもち、水を酸化するのに十分な高い酸化還元電位を実現する事ができた。このシアノバクテリアの誕生が代謝的には容易な変化だった。バクテリオクロロフィルaの合成系を持った光合成細菌は2,3の遺伝子を失うだけでクロロフィルaの合成が可能である。生物と地球環境に大変大きな影響を与えたシアノバクテリア中のクロロフィルaが代謝系としては昔から完成していたところに興味をもった。そして1つの遺伝子が生物全体に与える影響の大きさを目の当たりにした。

A:確かに、クロロフィルaを作るだけならそんなに難しいことではないのですが、水を酸化するほどの酸化力を持っているということは、他の物質をもあれこれ酸化しかねないということでもあります。ですから、水の酸化系を作るのは容易ではなかったでしょうね。また、シアノバクテリアの誕生には、光化学系が2つになったという変化も必要です。これなども、どのようにして起こったのか、いまだに全くわかっていない点です。


Q:光合成色素の吸収スペクトルを見ると可視光領域にピークがある。球表面上に到達する電磁波は可視光領域が多い。植物はそれにあわせるかのように吸収できる波長領域を持っている。しかし、今の世の中はオゾン層がなくなってきているので、少なからず紫外線の量は年々増加している。生物は進化していくものなので、そのうち紫外線も利用できるようになるのではないだろうかと思った。紫外線はDNAに変異を与え、またエネルギーも高く利用しづらい波長の光である。しかし、”クロロフィルを持つ魚?”や一部の光合成細菌は赤外線を利用しているようだ。紫外線はDNAに変異を与える。逆にこれが引き金になることで進化していく植物が生まれてくることはそう簡単に起きないのであろうか。光合成色素であるクロロフィルには様々な種類があることを学んだ。よって、短波長を吸収する光合成色素が増えてきてもおかしくないのではと思った。

A:赤外線は、水に吸収されますが、さほど悪さはしません。しかし紫外線は核酸やタンパク質に吸収されますから、これを使うのは至難の業でしょうね。


Q:葉が緑に見えるのはクロロフィル(クロロフィルa)の吸収波長のピークが赤色と青色にあり、その補色で緑色に見えるわけである。では、なぜクロロフィルは緑色の域の光の吸収率が低いのだろうか。理由をしてもっともなものは、環境によってそのようにならざるを得なかったということである。たとえば、海中に生息する藻類は生息している深さによって色が異なっている。これは水中において赤色光は水分子に吸収されてしまい青色光のほうがより深くまで透過するため、効率よく光合成をおこなうために色素を進化させてきたためである。紅藻類はフィコビリンという色素をもっており、フィコビリンは緑色の光をよく吸収するため、その補色で橙~赤色が人間の目に見えるのである。では、地上では赤色と青色の光が多く降り注いでいるかといえばそうではない。では、別の見方をしてみると、緑色植物の葉緑体は遥か昔に植物の祖先であった生物と共生を始めた原核光合成生物であったと考えられていることから、その原核光合成生物が水中で生息していたため、水中をよく透過する青色光に吸収のピークができ、その後地上に進出してからは、大気中で波長が短く散乱しやすい青色光よりも、波長の長く遠方まで届く赤色光のほうが利用しやすくなり、赤色光にも吸収のピークがくるようになり、その結果現在のような吸収スペクトルになったと考えられないだろうか。

A:面白い考え方ですね。ただ、全ての波長を吸収する色素(黒い色素)というのは、実はあまりありません。吸収帯というのは、分子の構造によって決まるのですが、1つの吸収帯の幅は、そんなに大きくは変わりません。クロロフィルの場合は、青と赤に吸収帯を持つのですが、緑の部分がかけています。吸収帯を増やせばよいはずですが、そうすると分子の構造はどんどん複雑になっておそらく合成が大変でしょうね。進化的には、「それが必要かどうか」ということも問題ですが、それと同時に「それがどの程度簡単に実現できるか」も問題となるのでしょう。


Q:今回の講義では、中心金属が亜鉛であるクロロフィルがあるという話にとても興味を持ちました。もしかしたら、中心金属がMgになる前はどの光合成細菌もZnを使っていたのではないでしょうか。酸素濃度の上昇、オゾン層形成などの環境の変化による太陽光のスペクトルの変化や、より安定な構造を目指した結果、周囲にある元素の組成の変化によってMgに変わっっていったのではないかと思いました。ヘムやコバラミンも含めて、ポルフィリンの中心金属がどのような役割を果たしているかが気になりました。
 また、アンテナの数に比べ反応中心が少な過ぎるのではないかという印象を受けました。特にshallow trapでは無駄なエネルギーのやり取りをしているのではないかと。反応中心を増やせばもっと効率がよくなるのではないでしょうか。

A:確かに中心金属が変われば吸収特性も変わりますから、中心金属にも進化があったと考えることはできますね。ただ、光合成細菌、シアノバクテリア、藻類、高等植物を通して、ほとんどの光合成生物はMgを使っていますから、何か、特別な意味があるのかも知れません。


Q:今回の講義の中で一番興味を持ったのは葉緑体の膜の構造から明らかになった進化についてである。葉緑体を持たない単細胞真核生物が光合成が既にできていた原核生物のランソウ類をとりこんで、遺伝的な支配下に置くことで葉緑体を獲得したことは授業などで習っていたが、その最初の一回目の共生は、その一度だけで、地球上の植物全ての葉緑体がもとは同じ起源のものだということに驚いた。葉緑体が、二枚膜を持っていることは、共生によって取り込んだランソウ類膜と宿主の膜だということと同様に、四枚ある場合は一次共生で葉緑体を獲得した生物を再び取り込む二次、三次共生の結果である。しかし、一回目で遺伝的にも機能的にも確立している生物を再び取り込み、遺伝的に支配できるのか疑問である。また、調べるうちに、共生を繰り返すうちに、食虫生物で葉緑体自体を失った生物もいると知った。しかし、毎回餌がとれることは保証されないわけだから、毎日光の当たるところにいれば、必ず養分を作れる光合成を失うことで不利になるのではと思う。 しかし、反対に光合成の効率が悪い場所で生息していたり、寄生植物の場合なら納得できると思った。

A:食虫植物を栽培して鑑賞する時には、肥料をやりすぎてはいけないといいます。これは、栄養(特に窒素)が十分ある時は、食虫作用を示さなくなるからです。光合成は、水と二酸化炭素を原料としますから、水素、酸素、炭素は充分まかなえますが、タンパク質や核酸に含まれる窒素、リン、イオウなどは外から吸収する必要があります。食虫植物の場合、主に窒素源が足りない時に虫のタンパク質から窒素を得ることが虫を捕まえる主な目的なのでしょう。


Q:組織の形や位置関係にも意味があるという事に興味を持ちました。講義では葉の構造についてでしたが、葉緑体そのものの形状はどうなのでしょうか。ほとんどの葉緑体が碁石上の形状ですが、中にはアオミドロのようにひだ状や、ホシミドロの星状の葉緑体があります。これらの葉緑体の形状にも意味があるのでしょうか。葉の構造でさく状組織と海綿状組織の形状やその位置関係はより効率よく光を吸収する意味を持つと講義で知りましたが、ひだ状や星状の葉緑体はそれを持つ生物にとって有効なのでしょうか。
 アオミドロについて考えてみると、ひだ状の葉緑体はまるで一本の螺旋構造のようです。光を吸収する際に光が屈折などしても、その構造上より多くの屈折光を吸収しようとしている感じがします。まぬけな疑問かもしれませんが単純に考えると一本でなくても、DNAのような二本の螺旋構造だったらもっと効率が良く光を吸収できるように思えました。

A:これは目から鱗の質問でした。僕自身、あまり考えてみたことがありません。確かに、葉緑体自体もいろいろな形のものがありますね。葉緑体のレベルの大きさになると、形が変わっても光の利用効率はさほど変わらない気もします。僕にもよくわかりません。


Q:クロロフィルはポルフィリン環を持つが、血液中の赤血球の構成成分であるヘモグロビンに含まれるヘムも類似した構造をしている。光合成において、光エネルギーを吸収する役割を持つクロロフィルと酸素の運搬を行なう赤血球の構成成分であるヘムがなぜ類似した構造を有しているのかについて考察する。
 まず、クロロフィルの合成系とヘムの合成系は類似しているという事から、進化的に、クロロフィル合成系が進化してヘム合成系を形成したと考えられる。クロロフィルの機能は光子エネルギーを吸収して分子中の電子を励起し、励起した電子を他の分子に飛び移らせて吸収した光子エネルギーを電子のエネルギーに変えるというものである。一方、ヘムの機能は器官から吸収した酸素と結合し、各組織に酸素を運搬するというものである。この機能には一見類似点がないように見えるが、両分子とも酸化還元反応を行なっているという点で共通している。クロロフィルは電子を渡し、電子を失ったクロロフィルは強い酸化力を有し、シトクロム複合体を酸化する。ヘムは酸素を受け取ることによって酸化され、酸素を他組織に渡すことによって還元される。
 以上のことから、クロロフィルとヘムが類似した構造を有しているのは、クロロフィルとヘムに共通して存在するポルフィリン環が両分子の行なっている酸化還元反応に都合が良いためであると考えられる。

A:酸化還元に都合がよい、というのは正解だと思います。ただ、これはポルフィリンの性質と言うよりは、金属の性質かも知れません。例えば、チトクロ−ムb/f複合体と系Iの間で働くプラストシアニンという物質は、銅を含んでいて、酸化還元をします。ポルフィリンは、そのような金属をタンパク質に取り込む1つの方法なのかも知れません。


Q:細胞内共生を繰り返して、三重や四重の膜構造になっているものもあると聞いて、どのようなものだか調べてみた。シアノバクテリアが細胞内共生して出来た藻類が、原生生物に二次、三次の共生を繰り返す事で新たな葉緑体、ひいては新たな藻類へと進化していく。共生した藻類の細胞内小器官は時間と共に消失してゆくが、包膜は残る。そのため、ユーグレナでは3重、褐藻類・珪藻類や黄金色藻類などの黄色植物では4重膜が観察されるとのことだった。
 また、共生は自然界でかなり頻繁に見られるもので、なかには共生体が既存の細胞器官と競合したり、その代わりをする事もある事や、共生した両者は依存しあい、どちらかが欠けると生存できなくなる事なども分かった。共生に対して、弱肉強食のようなイメージを勝手に抱いていたので驚いた。疑問なのは、共生が頻繁に見られる生物の進化に欠かせない現象なのだとしたら、構造は無理の無い程度に単純な方が良いに違いないのに、なぜ何重にも膜を残したままにしているのか、という事だ。そこまでしないと拒絶反応でもしめすのだろうか。内部に取込まれ、生存していく上で相互依存の関係にあっても、同化した訳ではないのでしょうか。

A:何十もの膜は、もしかしたら、ヒトの盲腸のようなもので、進化的にはいずれ消えていくのかも知れません。進化というものは、現在もまだ続いているのでしょうから。


Q:葉緑体は古細菌が光合成細菌を細胞内部に共生させる事によって生じた細胞内小器官である事は有名ですが、そもそも共生のきっかけとは何だったのでしょうか?共生のきっかけに関して考察してみると考えられるのは、古細菌は他の細菌を貪食して生活していたので、古細菌が貪食した光合成細菌が消化されずそのまま細胞内小器官になったと考えられます。しかし、貪食された細菌がどうして消化されなかったのか(消化作用に対する防御機構をもっていたのか)、どのようにして古細菌と光合成細菌の間にATP供給関係が生まれたなど様々な疑問が残ります。ATP供給関係が共生のきっかけであるとするならば、共生体である光合成細菌は個体自身が必要とする以上にATPを合成でき、かつそのATPを細胞外に放出する事が出来た事になるので、ATP供給関係は共生のきっかけではなく共生の結果生じたものである事は明白です。では共生のきっかけとは一体なんだったのでしょうか?

A:このような進化的な疑問というのは、答えるのが大変ですね。「個体自身が必要とする以上にATPを合成でき・・・」とありますが、これは、個体だけでは必要以上にATPを合成できなくとも、共生関係によって、宿主から栄養なり何なりを供給されると「必要以上に」ATPを合成することができるようになったのかも知れません。その場合、宿主にとって消化するのと、そのまま共生させるのと、どちらがより利益になるか、ということで、共生するかどうかが決まるのでしょう。しかし、これらを実験的に証明するのは難しいと思いますが。