生命生存応答学 第6回講義

蛍光を用いた遺伝子機能解析

第6回の講義では、クロロフィル蛍光を用いて機能がわからない遺伝子機能の大量解析をすることができないか、という話題についてお話ししました。いわば光合成を道具として使う研究です。以下に、学生からのレポートとそれに対する回答を示します。


Q:シアノバクテリアでは光合成も代謝系も同一の膜状で起こっているため、クロロフィル蛍光を指標とするのは有用だと思う。時間対相対蛍光強度のグラフでは、こんなにも蛍光強度に明瞭な上下変動が再現良くグラフに現れるものだとは思わなかった。ホームページのTechnical noteを見ましたが、シアノバクテリアは対数増殖期のものを使うことになるのですか?授業で聞き漏らしたかもしれませんが、必要なことに「非破壊的に測定可能な表現系」とありましたが、数をこなす上で簡便に越したことには無いのですが、染色なんかをするのはやはりやめたほうがいいですか?

A:再現性は、努力の賜なのです。この仕事は、今ポスドクをしている尾崎君が工夫をしてやっているのですが、何しろ微妙な変化を調べる必要があるので、なかなか最初は大変でした。一番最初は、いろいろな研究室から変異体をもらってきて測定しようとしたのですが、研究室ごとに変異体を作る親株が異なると、それだけで大きな変化が出てしまうという有様でした。一度液体培養で条件をそろえてからプレートに移すとか、同じプレートに野性株を載せておいて、それを一種の内部標準とするとか、様々な工夫が凝らされています。測定自体は液体培養ではなく、プレート上で培養しているので、いわゆる対数増殖期ではないかも知れません。染色も、代謝系に影響を与えないものならば使えるのではないかと思っています。将来的には、例えば、ヒトの培養細胞などでも、代謝系の状態に応じて色や蛍光が変化するような色素を取り込ませて、同様の解析ができないかな、などと考えています。


Q:GFPを外から個体に入れるのではなく、もともと持っている蛍光を使うことにより内部指標を観測できるのだと思いました。GFPを入れる手間もいりませんし、GFPによる個体への影響も考えなくていいのです。動物にはクロロフィルを持つものはいないけれど、蛍光タンパク質を持つものはいます。例えばオワンクラゲ。オワンクラゲの持つGFPをクラゲの内部指標として使うことはできないのでしょうか?そのためにはオワンクラゲの蛍光におけるエネルギー保存則を考えなければなりません。また、クラゲは真核生物なので、細胞小器官で代謝系が区切られています。その状態でGFPを計測することになるので、代謝系の影響を受けることがないのではないかと考えられます。そもそもオワンクラゲは刺激を受けると生殖腺を青白く発光させるので、常時発光しているわけではありません。よって、刺激の強さと蛍光の強度の関係を見ることは可能かもしれませんが、代謝系を見ることは難しいと考えられます。

A:クラゲをそのままで使うのは難しいかも知れませんが、GFPに何か細工をして、例えば、ある代謝産物が結合すると蛍光の強度が変化するように変える、ということは可能なのではないかと思います。今なら、蛍光波長の違う様々な蛍光タンパク質が開発されていますから、複数の代謝産物レベルを一度にモニターする、などということも可能かも知れませんね。ただ、クロロフィル蛍光の場合は、電子伝達の酸化還元に応じて蛍光強度が連続的に変化しますが、代謝産物が結合して蛍光強度が変わる場合などは、タンパク質の構造によって2つの状態だけを取る可能性がありますから、連続的な量のモニターは難しいかも知れません。


Q:クロロフィルの蛍光を用いたフェノーム解析の問題と点として、クロロフィルを持たない動物への応用ができないという話がありましたが、動物に応用する場合はミトコンドリアのシトクロムを用いるのでしょうか?ミトコンドリアのシトクロムの還元状態を分光的に分析した例は存在するようなので、実現は可能だと思われます。シトクロムの還元状態は細胞内のエネルギー需要を反映しているはずなので、細胞の活動を端的に示す良い例になると思います。しかし、in vivoでシトクロムの還元状態を測定した例が見つからないところを考えると、そうした測定は技術的に困難なのではないかと思います。一方、そうした技術が何に応用できるかという話ですが、例えば酵母の呼吸活性と細胞周期との間にある制御の研究などに使えるのではないかと思います。シトクロムに限らず、呼吸系の酵素をターゲットとしたin vivoな活性測定の手法が確立すれば、色々広がりがあるテーマになり得るとは思うのですがいかがでしょうか?

A:そうですね。シトクロムの吸収は面白いのですが2つ問題点があります。一つは蛍光に比べて吸収は、散乱などの影響を受けやすいので、生体内で測ることが難しいという点です。蛍光は、もともと色素から四方八方に出ますから、多少散乱があっても良いのですが、吸収は、散乱によって光路長が変化することもあり、定量的な解析が難しくなります。もう一つは、シトクロムが生体内に何種類もある点です。種類によって多少吸収ピークがとこなりますから、厳密なスペクトルを取れば区別可能ですが、一波長でモニターするというわけにはいきません。というわけで、やるとしたらやはり何とかして蛍光を使った方が良いでしょうね。いずれにせよ、テーマとしては非常に面白いのではないかと思います。