植物生命機構学特論I 第2回講義
光合成研究の歴史その2
第2回は、光合成研究の歴史を光化学系の研究を中心に解説しました。光化学系反応中心、アンテナ複合体とも、生物種によって様々なものがありますが、なぜ、それぞれ違うのかは生物のおかれた環境と密接に関係があります。そのような意味合いをくみ取ってもらえたらよいのですが。以下に寄せられた感想および質問と、必要に応じてそれに対する答えを掲載します。
Q:炭酸固定系や光化学系の話は学部時代の授業やゼミ等で学習しておりました。学習していたにもかかわらず、ここで素朴な疑問なのですがなぜ光化学系は光化学系I、光化学系IIという名前がついているのですか?そして、電子が流れる順番はなぜ光化学系IIの方からなのでしょうか?
A:系I、系IIという名前は、いわゆるZスキームと呼ばれる光合成の電子伝達が明らかになる前につけられたのです。そもそもは、チトクロ−ムfという酸化還元すると色が変わる物質を指標にして、チトクロ−ムfを酸化する系を系I、還元する系を系IIと名付けました。チトクロ−ムfは系Iと系IIの間にあるb/f複合体にのっていますから、現在の知識からすればすぐ理解できますが、当時は、電子伝達鎖という概念すら曖昧だったのです。
Q:光合成の電子伝達系については多少の知識があったので、進化のお話は非常に分かりやすく納得のいくものでした。ただ、酸化還元電位についてがいまひとつ分かりづらく(物理化学的な考え方ができていないせいでしょう)、もうすこし勉強をしなければいけないと感じました。また、ATPaseにアクチンを結合させ、回転していることを証明した東工大の研究については、前にインターネットで見た事があり、最初はなんじゃこれ?と思っていたのですが、これがNatureに載ったという事を聞き、こういう発想がNatureのような論文に載るのかと驚きました。最後に、一つ質問なのですが先生の図では、ATP合成酵素がATPaseになっていましたが、これはATP分解酵素ではないのですか?こちらの勘違いであれば申し訳ありません。
A:やはり、回転すると言葉で言うのと、回転しているのを実際に見せるのではインパクトが違いますよね。Natureのような雑誌は、ある意味で素人でも意味のつかめるということが大事ですから。ATP合成酵素は同時にATP分解酵素としても働きます。実際、東工大のグループがやったのは外からATPを加えて、それが加水分解するときのエネルギーが回転に使われたわけです。そのためATPaseという言葉は合成酵素の意味にも分解酵素の意味にも使われます。
Q: 今回は、主に光化学系のお話でした。緑色光合成細菌と紅色光合成細菌のそれぞれの光化学系から高等植物の光化学系が成り立っているという点、アンテナ複合体が種によって違うという点、また、葉緑体のチラコイド膜における物理的な構造の配置により内外で酸化・還元の役割をわけることを可能にしている点など、植物が進化の長い長い過程で得てきたものといいますか、環境に応じてなるべくして獲得してきたものに、あらためて感動しました。生物学では特にそうですが、真理を追究していくことで、そのもののできてきた進化の過程を垣間見ることができるということに(客観的ではありますが)私はたいへん興味をもっているようです。
A:進化を直接実験で確かめることは難しいですが、現在の生物をよく観察することで、進化に思いをはせることは僕も重要だと思います。
Q:「酸化還元電位は知ってますか?」と講義中に質問されましたが、当然知ってしかるべきことだと思います。しかし、いざ説明せよと言われたら自信はありません。知っているということはどのレベルまで知っていれば、知っていることになるのか…と思ったからです。(あいまいな知識なので自信がないのですけど。) もうちょっと具体的に、「Z-schemeの図では上から下に電子が流れるわけですが、上下の高さの差は何を現していますか?」と質問してもらえると答えやすいような気がします。実際に生化学辞典で酸化還元電位を引いてみると、標準水素電極etc.などの説明でいまいちピントきません。生化学で使う酸化還元電位とはZ-scheme図に尽きるのでしょうか?
講義全体の感想は、光合成の復習ができて頭の中が整理できてよかったです。緑色・紅色光合成細菌がそれぞれPSI、PSIIの原型しかもたないことはなんとなくしっていましたが、それが可能なのは硫化水素を使っているから、NADPHは別の経路で作っているから、という仕組みが理解できたので有意義でした。
講義のかなり最後の方で、Chlが光を吸収するときの、Chl分子と光の相対的な方向で吸収するエネルギーが違っていて、そのために青の吸収と赤の吸収が有るというよな説明を聞いたような気がするのですがそれは本当ですか?説明を聞き逃してしまったようなのですが、初耳なことなのでとても興味があります。さらにChlは結局、赤色の光子分のエネルギーしか利用しておらず、青色と赤色の光子のエネルギー差は、熱として発散されて、結局青色の光子で励起されても熱運動で減衰してしまうというのは本当ですか?興味あります。
研究テーマがChlorophyll-Proteinなのですが、蛋白とChlの相互作用の違いによって、もしくはChlの環境の違いによってChlorophyll
Formの違いが生じますよね。つまり、CPの吸収スペクトルのピーク波長が異なるわけです。この蛋白とChlの相互作用とChlrophyll
Formについて何かご存知でしたらお教えください。研究され尽くした古いテーマなのでしょうか?あまり情報がないような気がするのですが。
次回の講義では、植物研究のミクロからマクロまでの話と今後の展開ということで楽しみです。
特に聞きたいと思うことは、これまでの植物研究さらには光合成研究で得た知識を何らかの形、特に工学的な形で応用していくことが具体的に可能なのか?実際にどんな取り組みがされているのか?ということです。
A:
Q: 光化学系の由来として、PSIが Green
Sulfer Bacteria & Hellobacteria と似た、PS
IIが Purple & Filamentous Bacteria と似た経路を持っており、それぞれ共通する祖先型なのではないか、というお話はとても面白かったです。それぞれの酵素自体の構造の類似性がどれくらい残っているのだろうか、などと想像をたくましくしておりました。
さて、授業で先生がおっしゃっていた緑色光合成細菌のクロロソームについて質問なのですが、学生時代に勉強した生化学では(僕は他大学の出身です)、光合成細菌については、クロマトフォアを持つものと、ラメラ膜構造を持つものがいる、ということしか習っておりませんでした。このクロロソームは、紅色無硫黄細菌のクロマトフォアのような顆粒ではなく、たとえばクロロプラストのグラナ程度の大きさを持つオルガネラなのでしょうか?具体的な大きさや機能(例えば反応中心が異方性を持っているかなど)について教えていただければと思います。
A:
Q:高校の授業や学部の講義で何度か光化学系の説明を聞いてきたのですが、その形が理解できないまま今日まで来てしまいました。しかし、今回授業を聞いて光化学系の図の意味が理解できました。以前に習ってたことでも、別の視点から説明していただくと、より深く理解できます。ありがとうございました。
A:お役に立てて何よりです。
Q:植物が、緑色細菌由来の光化学系Iに紅色細菌由来の光化学系IIが加わるという光合成電子伝達を進化させることで、水とNADPHの大きな酸化還元電位の差をうめて、水からの電子でニ酸化炭素を還元する能力を獲得した、という所が非常にダイナミックで大変面白かったです。
A:そうですね。ぼくもかつて高等植物で2つの光化学系があるという話を聞いただけではなぜ2つ必要なのかがわかりませんでしたが、光合成細菌と比較して考えると初めてその意味が分かってきました。