植物生命機構学特論I 第1回講義
光合成が地球環境に与えたインパクトと光合成研究の歴史その1
第1回の講義では、光合成が現在の地球環境を形作る上でどのようなインパクトを持っていたのかを、地球の歴史を概観しながら解説しました。その後に、光合成研究の歴史的背景を、光合成色素と炭酸固定系の解明を中心に説明しました。以下に寄せられた感想および質問と、必要に応じてそれに対する答えを掲載します。
Q:地球に生命の誕生からあれほど講義を受けたのは初めてでたいへん興味深かったです。私は修士論文で水溶性クロロフィル蛋白を扱っているので先生のこれからのお話に大変期待しています。よろしくお願いします。
A:期待されるとプレッシャーになりますが、がんばります。
Q:本日の講義は、スライドも多く、新しい知見も沢山盛り込まれていて非常に興味深く拝見しました。 生命圏における酸素の役割については、近年の一般書やドキュメンタリーで言うと、「地球大紀行」や「ワンダフルライフ」で触れられていたような内容を掘り下げられていたと思うのですが、近藤先生のお話も含めて、専門性を持ちながら、普遍的な話題をきちんと扱われている、こうしたお話は大変興味深いです。カルビンらの研究手法と、原子力研究の発展をつなげてお話されていた部分も、今まで私はこうした科学史的視点から考えたことがありませんでしたので、とても新鮮でした。
本題から外れますが、今回の講義で、園池先生は大絶滅の原因として小惑星説を挙げられていましたが、白亜紀末期のもの以外の大絶滅については、マントルプルームの涌昇によるもの、とする仮説も出ている、という話を、サイエンスライターによる読み物で目にしたことがあります。これはまだ古生物学上の仮説以上のものにはなっていないのでしょうか。
A:1998年に出た「生命と地球の歴史」岩波新書(丸山・磯崎著)は刺激的な本で、僕は非常に興味を持って読みました(今回の講義の地球の歴史の部分はこの本をかなり参考にしています)。ここに、マントルプルームの上昇についても詳しく述べられており、僕には論理的な仮説に思えましたが、専門の学会で大勢を占めている学説なのかどうかはよく知りません。
Q:講義の冒頭で先生自身がおっしゃっていたように、内容が植物に関することではなく地球の生命誌をたどるものでした。 地球の誕生、環境変化、生命の誕生からその発展まで。わかりやすい話し方で、随所に写真が示されていたのでよかったです。地球の歴史の再確認ができました。もうちょっと時間が有れば、シアノバクテリアから高等植物に進化していく植物の進化の歴史を講義して欲しいと思いました。 光合成機構の違いや進化を知りたいです。
私は光合成では光エネルギーを電子伝達のエネルギーに変換する部分に興味があります。学部4年次には緑藻のLHCの精製を試みました。結晶化が目標だったのですが、精製がままならず、現在は別のテーマに切り替えています。 現在はノリのシトクロムc6、アブラナ科植物に含まれるWSCP(水溶性クロロフィルタンパク)の精製・結晶化に取り組んでいます。WSCPは生理機能が未知なので、植物生理の講義を受ける度にWSCPの関わっている生理機能があるのでは?と、講義内容と自分のテーマを重ねて考えることができるので、講義が楽しみです。
Q:この前は一回目と言う事でイントロダクション的なお話でしたが、ストロマトライト関連のお話は、NHKの番組でも紹介されていたので、非常に理解しやすい内容でした。私自身は動物系の人間なので光合成については多少の知識しかありませんが、この講義で光合成について勉強するとともに、動物でも使えるようなテクニックがあれば是非学びたいと思います。短い期間ですがよろしくお願いします。
A:光合成の分野の研究で、動物でも使えるようなテクニックというのはなかなか難しいかも知れません。一般的な生化学の手法(例えば膜タンパク質の可溶化など)は動物のミトコンドリアの研究を参考に発展してきましたし、光合成分野で開発された手法は、その特徴である「光」を利用したものが多く、光合成以外の分野に応用が利く例はそんなに多くないと思います。すみません。
Q:OHPなどの資料を使い、なるべくわかるやすく説明してくださり、とても嬉しく感じました。特に、植物が当たり前のように行っている光合成の機能、光合成は中学校から習ってきた、最も身近に感じられる植物の機能のひとつです。しかし、聞き慣れている言葉なだけに、その重要性を軽視してしまいがちだと感じました。今回の授業では、その光合成自体の意味と重要さを改めて認識させていただき、とても興味深い授業だったと思います。
その中でもHowではなく、Whyということから考えていく…そのことが、印象に残りました。なぜそうなるか、ということから、疑問を解決していくということは、最近のミクロな生物学に欠けている点だと思っています。科学はその機能ばかりを追い求め、それで全てがわかったような気になりがちですが、そのミクロな機能が、全体の生態的な位置づけとして、なぜそうなっているのか、ということに結びつけていくことが、これからは重要になってくると考えています。生態学(マクロ)の考え方、分子レベル(ミクロ)の考え方、この二つの研究が結びつけば、これからの生物学の研究はもっと面白くなると思います。その点で、もしかしたら、光合成の研究は、すでにもう分子レベルの研究(ミクロ)と、全体の自然状態(マクロ)とを結びつけて、一歩先に研究を進めている分野なのかもしれない…ということを感じました。
今回の授業をお聞きしながら、お伺いしたいことがあります。自然の光(つまり太陽の光)と蛍光灯の光、これら二つを植物に当てた場合、おそらく波長が違うので光合成レベルにおいては変わってくると思います。しかし、現在では太陽光の変わりに、蛍光灯などの人工光を利用して野菜などの栽培も行われていますし、実験でも用いられています。具体的に植物は、この光の違いによって、どのような影響が現れるのでしょうか?それとも、その影響は無視できるほどのものなのでしょうか?
A:僕自身は生態学はやっていないのですが、10年ほど生態学研究室というところにいたので、門前の小僧で生態学的な考え方が知らないうちにしみこんだのかも知れません。
人工光での植物栽培に関しては、光の波長が異なっても、それがクロロフィルに吸収され、光合成に使われる場合は、普通大きな影響を与えません。しかし、太陽光は赤外領域に富んでいるのに対して、通常の蛍光灯などでは赤外部分が少ないため、フィトクロームへの影響はかなり異なります。従って、人工光で育てると、一般に茎の長さのつまった形状を取るようになります。
Q:私の研究テーマが動物(チョウセンサンショウウオ)ということで、植物について考える機会が少ないので、私にとってこの講義は大変貴重な時間です。毎週の講義をを楽しみにしています。
A:研究の参考にはならないかも知れませんが、一般の知識として少しでも参考になれば幸いです。
Q:OHPで実際の写真を見せて頂いて、こういうものだったのかと、知識だけだったものが、実際の物として認識でき、たいへんためになり、面白かったです。生物の進化には昔からたいへん興味があり、特に私は、バージェス頁岩で発見されたカンブリア紀の動物群や細胞の進化におけるLynn Margurisの共生説のあたりに関心があります。植物の進化についても少し詳しくOHPなどで説明をして頂きたかったです。
A:光合成細菌なども含めた光化学系の進化については、次回の講義で少し触れる予定です。
Q:ストロマとライトの最古の化石と思われていた(TVで見て私も信じていた)ものが、実は深海の熱水噴出口で無機的に生成したもので、生命の痕跡でも何でもなかったということや、さらに、浅い海での光合成のはじまりが、27億年前の地球磁場の発生をきっかけにするという学説を初めて聞くことが出来て、はじまりにまつわる因果はいつも新鮮で、面白いものなのだと、あらためて思いました。
A:そうですね。ここの部分の話は、僕の専門ではないので、実際にどの程度広く受け入れられているかについては断言できないのですが。
Q:今回の講義で一番興味深かったのは、やはりストロマトライトが深海でできたという話題でした。そして、無機のものから生き物が生まれて、その生き物から生まれた無機の物が地球自体を変化させ足跡を刻んでゆくこと。普段は当然のものとして見ていたけれども、改めておもしろく思いました。(今、悪い意味でも人は地球を変化させてしまっていますけど。)人どうしでも影響しあいながら生きてゆくんですものね。これから数回の講義が楽しみです。どうぞよろしくお願いします。
A:ストロマトライトが深海でできたというのは、若干誤解を招く表現かも知れません。あくまで、ストロマトライトと思われていたものの一部が、実は深海で無機的に生成した可能性があるということです。従って、もしそれが本当なら、むしろその岩石はストロマトライトではないことになります。