植物生理学II 第4回講義
カロテノイドとフィコビリン
第4回の講義では、クロロフィル以外の光合成色素と、色素としての構造の共通点などについて解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。
Q:前回の講義にて、クロロフィルとヘムの合成経路が途中まで同じであることに触れた。そして今回、クロロフィルは基本的には危険なものであり、大量摂取によって血中に入り込むと日光じんましんを発症することを知った。このことから、構造の似ているヘムも同じような事態を引き起こす可能性があると考えた。ヘムは光合成色素ではないが、共役二重結合をたくさん持っていて、クロロフィルと同様に可視光をよく吸収するだろう。そして、光エネルギーを集めてしまう。しかし現実には日光を浴びても問題ない。これについては、2つの仮説を立てた。まず、通常ヘムはヘモグロビンの一部として血中に存在しているが、これはちょうど植物がクロロフィルを単体で扱わないのと同じような状況であってこれによってヘムの有害性を抑制している、というものだ。もう一つは、ヘムは確かに光を集めるが、単に壊れるだけで特に害を及ぼさない、というものである。これを明らかにするには大腸菌などを培養したシャーレにヘムを塗布し、光を当てることで影響を可視化すればよい。
A:全体として悪くはないと思いますが、実験系がやや物足りない気もします。仮説から、もう一歩踏み込んで考えてから、それを裏付ける実験系を考えることができると素晴らしいでしょう。
Q:外洋や内海、池などでは光の減衰の仕方が異なるものの、一般的に水深が深くなるほど光の量が減少するという点は共通している。そこで、より多くの光エネルギーを利用するという観点のみに目を向けると、水中の藻類はすべて水面付近に集中するのではないかと考えた。もしそうであれば藻類による光の吸収が増えることにより、水深に伴う光量の減衰は実測値よりも急になるはずである。しかし実際には、水の流れが少なく浮遊物の多い池においても光がほとんど届かなくなるまでには数メートルの深さがある。このことから、藻類の生育する水深は、光合成色素が吸収できる波長だけでは決まらないのではないかと考えた。今回の例のようにすべての藻類が水面付近に密集した場合は、光を効率よく利用できる一方で、窒素やリンなどの栄養塩が不足し増殖が制限される可能性がある。また、光合成色素の合成にも物質が必要となるため、どの水深で必要な栄養塩を得られるかという点も生育場所を決める重要な要因になると考えられる。さらに、水の流れによる混合や藻類の種類ごとの光への適応能力なども生育する水深に影響している可能性がある。以上より、藻類の生態的地位を理解するためには光合成色素の種類や水深による光の減衰だけでなく、栄養塩の分布や水の流れなど、複数の環境要因を考慮する必要があると感じた。
A:途中までは非常によいと思います。ただ、最後は、「いろいろ考えないといけない」という、ある意味で当たり前の結論になっている点がややもったいない気がします。
Q:紅藻はクロロフィルに加え、フィコシアニン、フィコエリスリンを持っている。一方で、褐藻はクロロフィルの他、ペリジニンというカロテノイドなどを持つ。このような藻類が種によって異なる色素を持つ理由について考察した。紅藻は赤色のフィコエリスリンを持つため、緑色光をよく吸収することができると考えらえる。これは、植物プランクトンによって赤色光と青色光が浅瀬域で吸収されてしまっても、紅藻は、緑色光を吸収することで、深水域でも生存できることが推察できる。一方で、褐藻はフィコエリスリンを持たないため、緑色光を吸収することに秀でておらず、浅瀬に生息していることが考えらえる。このように、色素が異なることで吸収する光の波長を分散し、それに伴って生息地の住み分けも促進されていると考えられる。
A:一般論としては、全く問題のないレポートなのですが、今回の講義の内容を考えると、ある意味で当たり前の論理という気もします。もう少し独自のアイデアが欲しいですね。
Q:今回の講義では水深や水質によって到達する光の波長が異なるということを学んだ。ここから、生息する光合成生物の分布も採用している光合成色素によって水深や水質が異なることは容易に想像できる。外洋では波長の長い赤色光が水深の浅い部分で水分子に吸収され、青色光と緑色光が水深の深い場所まで届く一方で、植物プランクトンといった光合成生物が水深の浅い部分に生息する環境では植物プランクトンに含まれる光合成色素であるクロロフィルによって青色光と赤色光が吸収されるため、水深の深い場所に青色光が届かない。ここから、植物プランクトンの生息する環境下では水深の深い部分に植物が生息しにくくなると予想できる。この環境を水深の深い部分に植物が生息する環境へと改善させるにはどうしたら良いのだろうか。ただ遮光するだけでは水質改善を行いたい場所の面積の多くを覆わなくてはならないという景観及びコスト上の問題が発生する。「複合型植生浮島浄化技術による湖沼等の水質浄化と沈水植物群落の再生」島多義彦で行われた実験では、抽水植物を植栽し水の透明度を向上させることを目的とした水浄化用浮島と沈水植物の群落を再生することを目的とした沈水植物再生用浮島を複合させた植生浮島を採用し、水質と動植物プランクトン、水生植物の成長量が調査された。すると、水浄化用浮島では遮光作用や栄養塩の吸収に比べて、抽水植物の持つアレロパシー(他感作用)機能が大きく寄与していることが分かった。また、浮島の設置によりクロロフィルaや懸濁物質の濃度の低下やCOD、総窒素、総リンの減少といった水質の改善や動物プランクトンの個体数の増加及び植物プランクトンの細胞数の減少が見られ、実験区域の約4割において沈水植物群落の再生に成功した。この沈水植物群落においてもクロロフィルaや懸濁物質の濃度の低下やCOD、総窒素、総リンの減少といった水質の改善が見られた。この研究は、将来湖沼の水質改善のためのシステムの開発に応用されることが期待されている。
A:講義の最初に注意したと思いますが、単なる調べものレポートは、この講義のレポートの採点対象にはなりません。
Q:ニンジンのβカロテンは葉のβカロテンと同様に抗酸化作用を持っているのではないかと考えた。栽培種におけるβカロテンの蓄積は人為的な品種改良の副産物という見方が妥当かもしれません。しかし、あえて生物学的な存在意義を考えるならば、根のβカロテンは「土壌のストレスに対する抗酸化防御」として機能しているのではないかという仮説を立てました。葉のβカロテンが過剰な光による活性酸素を消去する安全弁であるように、根においては病原菌感染や乾燥で発生する活性酸素を消去し、組織の破壊を防いでいるという考えです。この仮説を検証するため、βカロテンを正常に合成する野生型ニンジンと、合成経路を阻害した変異体ニンジンを用いた比較実験を提案します。結果として、無菌土壌では両者の生育に差がないにもかかわらず、病原菌接種土壌においてのみ変異体ニンジンの活性酸素が異常蓄積し、病原菌の侵入が著しく進むことが確認されれば、光が当たらない根においてもβカロテンが土壌ストレスに対する化学的な安全弁として機能しているという仮説が支持されると考えます。
A:この講義のレポートとしては、以下の二つの点が気になります。(1)「病原菌感染や乾燥で発生する活性酸素」とありますが、抽象的で、病原菌感染や感染がなぜ活性酸素の発生につながるのかの論理がわかりません。(2)色素の合成経路を阻害すると、根の色素だけでなく葉の色素も合成されなくなりますから、見られた変異体の表現型が根の色素の変化によるものかどうかが区別できなそうです。そのあたり、もう少し工夫が必要でしょう。