植物生理学II 第3回講義
光の吸収とクロロフィル
第3回の講義では、光の吸収とクロロフィルの種類について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。
Q:クロロフィルの吸収スペクトルについて、葉緑体が最も効率よく光合成を行うためには黒い光合成色素ですべての波長の光を利用した方がよいのではないかという考えが浮かんだ。しかし黒はその他の色に比べて熱エネルギーをため込みやすく光合成生物の生存にとっての適温を維持しにくかったためクロロフィルは黒色にならなかったと考えられる。ここで、最初の光合成生物が誕生した海中には鉄イオンが多量に存在していたことを考えると、二価鉄イオンは淡緑色、三価鉄イオンは黄褐色であるから当時の海は緑色から黄色であり、光合成色素は緑色光を吸収しにくかったと予想される。また水中では赤色光は遠くまで届かないので、その環境において光合成色素が最も吸収しやすかった光の色が青色、反対に吸収しにくかった色が緑色から黄色であったため現在のような吸収スペクトルになるように色素が変化していったと考えた。
A:「二価の鉄イオンが緑」なので「海が緑」はよいのですが、そのあと「光合成色素は緑色光を吸収しにくかった」となる理由がわかりません。逆になる気がしますが。「水中では赤色光は遠くまで届かない」というのも一般論としては正しくありません。何かを参考にして書いているのであれば、出典を明記してください。
Q:植物のクロロフィル分解経路において、窒素単体が取り出されない理由として、元々はその機能を持っていたが進化の過程でそれを欠失したのではないかと考えた。現在の植物は窒素固定菌との共生によって窒素を取り込んでいるし、講義で軽く触れられていたように葉として落とせば土壌の微生物が分解してくれるので再利用できる。 しかし、そのような共生状態が確立するまでの間は、窒素は今以上に貴重な資源だったはずだ。根の周囲以外からの窒素の供給がない環境下ではエネルギーを費やしてでも徹底的に分解して再利用しなければ生きていけない。そういった作業の効率において、菌類が植物を超えた段階で、植物の側は窒素の取り出しにかけていたエネルギーを成長に使うようになったのかもしれない。 もし実際にこのような順序だった場合、系統をまたいで窒素を取り出せる植物が複数存在するはずだ。見当のつけ方としては、貧窒素状態に強いことが考えられる。一度窒素を取り出せる酵素を見つけられれば、抗体による判別が可能になるため、系統をまたぐかどうかは比較的簡単に調査できるだろう。
A:これは、過去のレポートに全く見られなかった視点で、素晴らしいと思います。ただ、窒素固定菌との共生によって窒素を取り込んでいる植物は、全体の中でむしろ少ない存在です。
Q:今回の授業で私は、色の見え方には色素による発色と構造による発色の2種類があることを学んだ。これを通して、生物はどのようにこれらの発色の違いを使い分けているのかに興味を持った。まず、色素による発色では、クロロフィルなどの光合成色素が例として挙げられるが、緑色であることで赤色と青色光を吸収し、光合成を行うことができる。一方、血液中で酸素運搬を担うヘモグロビンは赤い色素であるが、この場合は進化の中で酸素に結合する効率的な構造をとった際に偶然付随した性質であり、赤色であることは、ヘモグロビンが生命活動において担う働きに直接関与しているものではないと考えられる。また、構造色の代表例はタマムシが挙げられるが、これは光を反射することで周囲に擬態することができると推測される。このように、どちらの発色方法も、生存戦略の一つとして進化してきた結果生まれたものだが、色素は特定の光の吸収に役立ち、構造色は光を反射させることで多様な色彩を生み出し、色あせにくいという利点を持つ。ただし、ヘモグロビンのように適した分子構造を持つことで、結果的に呈色する場合もある。
A:悪いわけではないのですが、結局、吸収してそれが役立つ場合、吸収はするけど付随的でそれが役立つわけではない場合、構造色による色が役立つ場合、の3つが列記されている構成になっているので、全体として論理の流れが感じられません。最初に何らかの問題を設定して、最後に議論をそこに収束させることができるとよいと思います。
Q:今回の講義でクロロフィル及びバクテリオクロロフィルの構造を知り、マグネシウムが環状炭素構造の中心に配位されていることを学んだ。このマグネシウムは光合成において、太陽光を吸収し、吸収した光エネルギーを反応中心へ運搬し、電気エネルギーへ変換するという重要な役割を担っている。ここから、他の元素がマグネシウムの配位されている場所に存在していた時、どのような影響が見られるのかという疑問が生じた。「金属置換クロロフィルの物理化学」小林正美ら、蛋白質・核酸・酵素によると、クロロフィルのマグネシウム部分を多くの金属元素及び水素原子2個に置換した合成クロロフィル及び合成バクテリオクロロフィルについて考察されている。これによると、光を吸収する特性は多くの種類の金属元素及び水素原子2個に見られ、光エネルギーを運搬するために蛍光を発する能力を持つ元素はマグネシウム、亜鉛、4価スズ、カドミウム、バリウム、鉛及び水素原子2個に限られるという。この中で、電気エネルギーへの変換を考えた際に最も効率が良い光合成色素たり得るのがマグネシウムであり、次いで効率が良いのが亜鉛であるという結果になった。天然のクロロフィルの殆どがマグネシウムを含むものであり、また強酸性下で生活するAcidiphilium rubrumという好酸性細菌からはマグネシウムよりも酸性環境下でより安定である亜鉛を含むバクテリオクロロフィルが検出されたことからも、マグネシウムを含む(バクテリオ)クロロフィルが高効率でありつつも他の元素を含む(バクテリオ)クロロフィルが天然に存在し得る余地があることを示している。ここから、吸収する際にマグネシウムと競合するカリウムやカルシウムの多い環境下や、マグネシウムが失われやすい砂地においては、マグネシウムを用いない(バクテリオ)クロロフィルを持つ光合成生物が存在する可能性があるのではないかと考えられる。
A:これも悪くはありませんが、参考文献のロジックと内容にかなり依存しているので、独自性という点でやや不満が残ります。例えば、可能性のある金属の中で条件を考えたうえで一つに絞るなどすると、その過程に独自性が生まれます。
Q:今回の講義では、光の波長と色素による吸収の仕組み、および光合成生物が持つ色素の多様性について学んだ。その中で、紅藻が青緑色の光を吸収するフィコビリン系色素を持つことで、深場での生育に適応しているという点に強く興味を惹かれた。水深が深くなるにつれて赤色光が水に吸収され、青色光が相対的に多く残ることを実感している。この物理的な現象を考慮すると、深場に生息する紅藻の色素組成は合理的な適応に思える。しかし一方で、光が比較的豊富な浅瀬や陸上に生息する緑藻や陸上植物が、なぜ緑色光を赤色光や青色光ほど強く吸収しないクロロフィルを主要な色素としているのか疑問に思った。光合成に利用できる光を最大限に獲得するのであれば、より広い波長域の光を吸収する色素を持つ方が有利なのではないだろうか。この疑問について、私は「光エネルギーの獲得と強光ストレスへの耐性の関係」という観点から仮説を立てた。植物は吸収した光エネルギーを光合成に利用する一方、利用しきれない過剰なエネルギーによって光合成装置が損傷するリスクも抱えている。そのため、色素の吸収特性は、光の獲得効率だけでなく、過剰な光エネルギーへの対応も含めた環境適応と関係している可能性がある。緑色光を比較的吸収しにくい色素組成も、このような適応を考えるうえで興味深い特徴だと考えた。ただし、緑色光の反射が強光ストレスを回避するために進化したのか、それとも別の要因によるものなのかは、現時点では明らかではない。この仮説を検証するためには、例えば緑藻のクラミドモナスを用い、緑色光の吸収特性を変化させた株と野生株を、低光条件と強光条件のそれぞれで比較する実験が考えられる。活性酸素の発生量や光化学系IIの最大量子収率を測定し、色素の吸収特性と光障害の程度との関係を調べることで、両者の関連を検証できると考える。もし緑色光の吸収特性を変化させた株で、特に強光条件下において光障害が増大するならば、色素組成と強光耐性との関連を示す証拠となる。ただし、その結果だけで緑色光を反射することの進化的な意義まで証明できるわけではなく、他の防御機構や進化的要因も考慮する必要がある。
A:これは仮説が唐突に出てきて論理的な背景がわからないのと、仮説の文言があいまいなので、問題点の定義がうまくいっていないように思います。「環境適応と関係している」の「関係している」や、「興味深い特徴」というだけでは、何をどのように考えているのかがはっきりしません。そして、おそらく一番はっきりさせなくてはならないのは、「過剰な光エネルギー」という量(光量)の問題と「緑色」という質(光質)の問題は、本来別の話なのに、それがどのように結びつくのかを説明することです。仮説がぼんやりしていると、論理の組み立てもうまくいかないことが多いと思います。