植物生理学II 第2回講義

藻類の進化

第2回の講義では、一次共生と二次共生による藻類の進化について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:当然だが、二次共生をした生物は一次共生のものより最近になって多重膜構造を発達させたはずだ。そのため、共生に関する痕跡がDNAに残っている可能性も比較的高いだろう。そのような生物と、不完全な細胞内共生をするハテナを比較することで共生に関する決定的な因子を見つけられるかもしれない。そして、細胞内共生に関する理解が進めばこれまで実験室で培養できなかった生物の細胞分裂を宿主に制御させるといったアプローチも可能になるだろう。技術が発展して環境ゲノムを読むことができても、生態・形態は実際に観察しないと分からないため、安定して培養する技術は重要なままだ。また、話は変わるがその中で三重膜構造についても知見が得られるだろう。私は、膜の欠失・融合のタイミングについてもし一次共生後すぐに起こっていたならそれを取り込む(二次共生)生物によって三重膜がより一般的な構造になっていたはずだと考えたが、新しい知見があればこのような状況証拠的なものではなく、もっと原理的な説明ができるだろう。

A:文章として、さらに科学的な文章として考えた場合でも、悪くないと思うのですが、少しエッセイのような雰囲気で、焦点を絞って論理を構築するというタイプではありませんね。例えば、最初と最後に出てくる膜の枚数の話に絞って議論を進める、あるいは真ん中で出てくる培養可能性に絞って議論を進めた方が、この講義のレポートで求めている論理性を打ち出しやすいように思います。


Q:環境ゲノムの解読によって,研究室で培養することのできない生物のゲノムを解読することができるようになったという点について。私は、環境ゲノム研究の意義は新種の生物を発見できることではなく、生物を環境との関係性の中で理解できる点なのではないかと考えた。研究室で培養が難しい生物は固有の生物間相互作用に依存している可能性があるなど、培養できないという理由そのものが生物間相互作用を理解する手がかりとなるかもしれない。細胞内共生によって葉緑体が成立したことからも、生物間相互作用は生命の進化に大きな影響を与えてきたといえる。環境ゲノム解析を通じて、生命を独立した存在ではなく、相互作用によって成り立つネットワークとして理解することが、生物学の発展につながると考える。

A:これは、単純ですが明確なメッセージがコンパクトにまとまっていてよいのではないかと思います。強いて言うと「生物間相互作用」がやや抽象的で、具体的な例を一つ入れるとさらにクリアになるかもしれませんが、それがなくても十分です。


Q:藻類の系統分岐と光合成色素に関して、シアノバクテリアから緑藻とプロクロロンに進化するときに光合成色素がクロロフィルaとフィコビリソームからクロロフィルaとクロロフィルbに変化する。フィコビリソームとクロロフィルa、クロロフィルbの構造を比較すると、フィコビリソームはクロロフィルを開環し側鎖が異なる構造であるのに対し、クロロフィルaとクロロフィルbは側鎖のひとつであるメチル基がホルミル基となっているのみである*。したがって、緑藻やプロローグへの進化においてフィコビリソームの合成機能を失い、光合成色素の合成過程に酸化酵素が組み込まれることでクロロフィルbの合成機能を獲得したと考える。フィコビリソームはチラコイド膜表面で光エネルギーを集めて光化学系に伝達する役目をもち、水中でも比較的届きやすい青から青緑の光を吸収する*ので藻類がより多く光合成を行うために利用されている一方陸上植物ではその必要がないのでフィコビリソームが合成されなくなったと考えられる。
*村上 明男, 水と光を操る海の光合成生物─藻類─, 日本海水学会誌, 2010, 64 巻, 5 号, p. 268-274, 2185-9213.

A:前半の代謝系の部分と後半の光の利用可能性の部分を、もう少し論理的に結び付けられるとよいと思います。現状では、必要ない色素は合成されなくなる、という所で終わっていますが、それだと色素の構造を比較した前半の部分が今一つ生きません。あと、フィコビリソームが青から青緑の光を吸収するとありますが、これは事実に反します。引用された文献にも、そのような記述は存在しません。


Q:今回の授業で特に興味を持ったことは、分裂すると片方は藻類を持つが、片方には藻類は分配されず、従属栄養生物になる生物(はてな)についてである。はてなが発見されるまで、葉緑体は細胞分裂と共に分裂し、娘細胞に受け継がれ、この現象は絶対である認識だった。では、なぜはてなにおいて共生藻類は同時に分裂しないのかを考える。第一の仮説として、葉緑体を分裂させるよりも、新たに藻類を取り込んだほうが生存戦略的に何らかのメリットを得られることが挙げられる。藻類を受け継がない娘細胞は、今後新たな共生藻類に出会えなかった場合、栄養を得ることができず、生き残っていくことが困難となるリスクがある。このリスクを上回る利点として考えられるのは、ゲノムの違う藻類をそれぞれの娘細胞が持つことで、様々な環境に適応しやすくなる生物多様性である。また、第二の仮説としては、藻類がはてなに共生しつつも、細胞分裂の周期は宿主に依存していないことが考えられる。本来、葉緑体の分裂は宿主の核によってコードされているタンパク質によって制御されている(1)が、はてなにおいては藻類自身のゲノム由来の制御が行われている可能性がある。
(1) Okazaki K, Kabeya Y, Miyagishima SY. The evolution of the regulatory mechanism of chloroplast division. Plant Signal Behav. 2010 Feb;5(2):164-7. doi: 10.4161/psb.5.2.10461. Epub 2010 Feb 28.

A:これは、問題点の設定とそれに対する回答がきちんと示されていてよいと思います。ただ、2つの仮説の最初のものはどのようなメリットがあってというWhyの質問であるのに対して、2番目のものはそのメカニズムを聞くHowの質問であるので、むしろ、一つの質問に対して2つの仮説をたてた、という形にするよりも、二つの質問を立てた形にした方が対応がきれいになると思います。


Q:クリプト藻やクロララクニオン藻、渦鞭毛藻といった特定の藻類にはヌクレオモルフと呼ばれる核ゲノム、ミトコンドリアゲノム、葉緑体ゲノムと異なるゲノムを持つ細胞小器官が存在していることを知った。このヌクレオモルフは二次共生の証拠とされ、それぞれの藻類が葉緑体として取り込んだ真核生物の細胞核に由来するとされている。これらのゲノムは大きく退化しており、"Algal genomes reveal evolutionary mosaicism and the fate of nucleomorphs"、Bruce A. Curtisら著、Natureによると、遺伝子数はクリプト藻のGuillardia thetaで487個、クロララクニオン藻のBigelowiella natansで331個であり、ゲノムサイズは両者共1Mb未満であるという。これらのヌクレオモルフがなぜ完全に退化しきっていないのかについては、ヌクレオモルフから細胞核への完全なゲノム移行によって葉緑体の機能の制御能力が失われることを防いでいるのではないかと考えられる。

A:最初の3文は、事実と調べたことですから、問題点と回答は最後の1文だけです。せっかく調べたNatureの論文の情報も、回答ではなく問題点を引き出すために使われています。1文の中で単に「こう思う」という回答を与えているだけなので、論理的展開という点からは不満が残ります。


Q:マラリア原虫が光合成を失った後も、アピコプラストを持ち続けていることに興味を持った。宿主から脂質を取り込めるのなら、自分で脂質を合成する仕組みを維持する必要はないようにも思える。しかし、アピコプラストには、宿主から得られる物質だけでは補えない役割があるのかもしれない。例えば、原虫が自分で作った脂質が、宿主の免疫細胞に認識されにくくする働きを持つ可能性が考えられる。この考えを確かめるには、脂質の合成を妨げた原虫について、増殖の様子と免疫細胞からの攻撃の受けやすさをそれぞれ調べればよい。これにより、アピコプラストが生存に必要な物質を作るだけでなく、宿主の免疫から逃れることにも役立っているのかを明らかにできると考えた。

A:「原虫が自分で作った脂質が、宿主の免疫細胞に認識されにくくする働きを持つ」という部分が仮説なのだと思いますが、よくわかりませんでした。ここで原虫と言っているのは、アピコプラストではないので、宿主そのものですよね。もう少し説明が必要だと思います。