植物生理学II 第1回講義

光合成と生命

第1回の講義では、全体のイントロダクションとして、光合成が生態系や人間社会、そして植物の生育にどのようにかかわっているのかの概論を解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:講義の中で太陽のエネルギー放射について学んだ。重量あたりの発熱・輻射量で比べると人間の方がはるかに大きいということだったので、一見収支が合っていないように思えたが、そもそものエネルギーの総量が大きいことと、化石燃料のようなエネルギーの貯蔵に思い至り、納得した。そして、地球温暖化も貯蔵という見方ができるのではないか、と考えた。地球に届いた熱は地球上のあらゆる生命活動を駆動して地球外に流れ出ていく。この流入と流出の差が利用可能なエネルギーであることを考えると、地球温暖化は大気より内側にエネルギーが充電されているようなものである。極論、宇宙と地上の間に熱伝導率の高い金属の柱を通すなどして熱を交換できれば、何らかの形でエネルギーを取り出せるはずだ。このように考えると地球温暖化は人類が受け取ったエネルギーを十分に使い切れていない証拠でもあり、これからの文明のシステムに地球温暖化そのものを組み込める可能性があるかもしれない。

A:考えているレポートでよいと思います。ただ、後半の意味を取るために何度か読み直しました。地球が温暖化したということは、地球と宇宙空間の間の熱の勾配が急になったということなので、そのこと自体から人間が利用可能なエネルギーを取り出せる可能性があるということですよね。「熱」という言葉と「エネルギー」という言葉は、部分的に重なりを持っている(熱はエネルギーの形態の一つである)ので、そこをもう少し明示的に説明するとわかりやすくなると思います。


Q:地球に降り注ぐ太陽エネルギーをすべて回収することができれば地球上のエネルギー問題はすべて解決するという内容について。講義中では地球に届く太陽エネルギーは密度が小さく、面積当たりのエネルギー量はそれほど多くない。そのため、地球を覆うほどの太陽光パネルのようなものを作るのは採算が取れないと教わった。しかし、それほど大規模な太陽光パネルを設置するのであれば、地球表面上ではなくできる限り太陽表面に近いところの方がエネルギー密度も大きく、効率的だと考えた。また、地球上に降り注ぐ太陽光の数%のみを回収したとしてもその規模の大きさから、地球上の生態系にどのような影響が現れるのかは不明である。月や火星に届く太陽エネルギーを回収すればこのような心配はなく安全である。ただし、地球から離れる分だけエネルギー利用の効率も落ち、作業のコストも上昇する。実現コストとの兼ね合いにはなるが、必ずしも地球に降り注ぐ太陽エネルギーしか利用できないということはないと考えた。

A:テーマとしては悪くないと思います。ただ、宇宙空間に太陽光パネルをおいて電磁波などで地球にエネルギーを送るというアイデアは時々聞きますから、少し定量的な議論を導入するなど、もうひとひねるあるとよいかもしれません。


Q:もやしの形態的特徴について、光が遮断された環境ではクロロフィルが合成されず植物体が白くなる、細長く成長する、成長点が下向きになる。暗所では植物は土の中に居ると判断し、種子のエネルギーを使い切る前に早く日光を浴びられる高さまで伸長して光合成を行うためにこのような形態になる。光受容体と形態形成の制御機構に関して、HY4遺伝子産物であるCRY1は青色光を受けると胚軸の伸長を抑制することが分かっており(1)、もやしが縦に大きく伸長する原因遺伝子であるといえる。成長点が下向きとなることについて具体的な記述を見つけることはできなかったが、青色光が感知されない環境下においてオーキシン等の植物ホルモンの局在が変化し、成長点を下に巻き込む形態となっていると予想される。
(1)河内 孝之, 植物の青色光受容体, 化学と生物, 1996, 34 巻, 1 号, p. 35-36, 2009/05/25, 1883-6852

A:「記述を見つけることはできなかったが」とありますが、この講義のレポートは正解を求めているのではないので、自分なりの何らかの論理展開が必要です。例えば、成長点を下に巻き込む形態にするめには、オーキシンをどのようン局在させればよいのかを自分で考えてみるといったことでもよいでしょう。


Q:今回の授業において、私は太陽と人間の重さあたりの発熱量を比較すると、人間のほうが約10^4倍も太陽より発熱しているという事実から、人間の代謝によって常に発散されている熱は最も身近な熱エネルギー源になり得るのではないかと考えた。人が多く集まる都市部で熱を回収することで、電気に変換するほか、暖房などの空調に用いることも可能であると思われる。熱を回収する方法としては、赤外線センサーを用いて人から発される赤外線を感知して、カーボンなどの赤外線を吸収する素材を使用する。この赤外線を利用して、発電や、相変化材料(PCM)という蓄熱材を用いて熱エネルギーを保持することができる。ただし、人が太陽より熱を発しているのはあくまで単位質量あたりで比較したときの話であるため、上記の方法で実際に得られるエネルギーは太陽光発電などに比べて微小なものになる恐れがある。

A:一般論として、熱をエネルギーに変えるためには、温度が低い場所があって温度が高いところからそこに熱が移動することが重要です。また、その場合、温度差が少ないと得られるエネルギーも限られてしまいます。できたら、そのあたりの熱機関の仕組みを少し調べてから議論を展開すると、より具体的でよいレポートになると思います。


Q:シアノバクテリアから陸上植物まで多くの植物に備わっている光合成系が酸素を放出し、クロロフィルと2種類の光化学系を持つのに対し、光合成細菌は酸素を放出せず、バクテリオクロロフィルと1種類の光化学系を持つと講義で学んだ。また、かつて想定されていたFusionモデルでは原始光合成細菌から硫黄細菌をはじめとする系I型光合成細菌と紅色細菌をはじめとする系II型光合成細菌が分化し、その後合流して一つの生物内に共存することでシアノバクテリアの光合成系が誕生したとする。一方で、現在有力な仮説とされるSelective-Lossモデルでは、原始光合成細菌が光化学系を2種類持っており、系I型光合成細菌と系II型光合成細菌への進化の際に片方の光化学系を喪失した一方で、シアノバクテリアへは両方を喪失せずに進化したとする。この説明では、酸素の放出の有無及び光化学系の種類数の差異について説明することはできるが、使用する色素の違いには触れられていない。バクテリオクロロフィルがクロロフィルへと進化する過程と同時に光化学系が分化していったと考えられるが、その際にはバクテリオクロロフィルが排除されクロロフィルが取り込まれたのではなく、バクテリオクロロフィルが直接クロロフィルに変化したと考えられる。この結果、扱う代謝物質が硫化水素から酸素へ移行したことで、生息範囲を大きく広げることになったと考えられる。

A:おそらく最後の2文がオリジナルな考えの部分だと思うのですが、「バクテリオクロロフィルが直接クロロフィルに変化した」という主張が何に基づいているのかがわかりにくいのと、その次の「この結果」という論理展開の必然性がわかりにくいので、そのあたりを改善できるとよいですね。


Q:本講義の中で、陸上植物が光化学系を2つ持つのに対し、光合成細菌は光化学系を1つしか持たない点に興味を持った。初め、進化の過程で系が2つに増えたことは進歩であると感じたが、なぜ1つの系しか持たない光合成細菌は淘汰されなかったのかと疑問を抱いた。この点について、2つの系を稼働させ水を分解するシステムは、複雑なタンパク質複合体の維持コストが高く、猛毒の酸素を発生するリスクも伴う。ゆえに、硫化水素などの電子供与体が豊富な環境では、あえて系を複雑化させず1つの系のみでエネルギーを合成する方が、生存におけるエネルギー効率が高いという仮説を立てた。これを検証するために、光化学系が1つの紅色硫黄細菌と光化学系2つのシアノバクテリアの培養実験を考案する。光強度と硫化水素濃度などを段階的に変化させた環境下で両者の増殖速度と光吸収率を測定し、特定の条件下で光合成細菌が優占することを示せれば、系の複雑化が常に最適と言うわけではなく、環境に対するエネルギー投資のトレードオフであることを証明できると考える。

A:これは、全体の流れはよいのですが、最後に出てくる「系の複雑化が常に最適」というわけではないという仮説が、むしろやや当たり前に思える点が残念です。生物について少し考えてみれば、真核生物が出現したから原核生物が絶滅したり、シダ植物が出現したらコケ植物が絶滅したりはしていない、という点からも想像がつくと思います。