植物生理学II 第10回講義
CAM型光合成、光合成の産物
第10回の講義では、CAM型光合成について補足したのち、光合成の産物とその転流について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。
Q:直近の台風の時期において、海水から農作地の土壌に塩分が運ばれ、塩害が起きるというニュースをみた。そこで、台風被害を受ける農作地において、アイスプラント栽培が役立つ可能性について考察する。塩害によって、農作物が育たなくなる理由については、「土壌中の塩分濃度が高くなると浸透圧に差が生じてしまい、植物の根は土壌から水分を吸収しにくくなり、それと同時に根から水分が流出」するためである(参考①)。アイスプラントは、塩ストレスおよび乾燥ストレスなどの環境作用によって光合成をC3型からCAM型に切り替えることができるという話があったとともに、「地中のミネラルを吸い上げる吸塩植物といわれ、塩分を吸って、葉や茎の表面の水泡に貯め込む」という性質も併せ持つとのことである(参考②)。塩害を受けた農作地において、除塩はより化学的なアプローチによって行われ、石灰を多く含む土壌改良資材などを利用しているとのことである(参考②)。そこで、アイスプラントの塩吸収形質を利用することで、石灰などの費用を削減することができる。しかし、アイスプラントは塩分濃度が高い条件においてはCAM型を採用するために成長スピードが遅いと考えられ、石灰などによって早急に除塩をしたのちに単価の高い別の作物を栽培した方が効率が良い場合も考えられる。
参考文献:①タキイネット通販. TOP>記事検索>野菜に関する記事検索>アイスプラントは塩水を与えて育てると聞きましたが、具体的にどのように行えばよいのでしょうか。https://www.kaku-ichi.co.jp/media/crop/earth-building/salt-damage(参照2023/06/26)
②Think and Grow ricci. HOME>農作物>土づくり>農地で塩害が発生するメカニズムと除塩の有効性、具体的な方法、https://shop.takii.co.jp/qa/detail/821/L3FhL2NhdGVnb3J5LzYvMTAv(参照2023/06/26)
A:アイデアを一つ思いついたけど、やっぱりダメかな、という感じですね。この講義のレポートで求めているのは、自分なりの論理の展開ですから、もう少し何かないと困りますね。
Q:デンプンではなくセルロースとして保存してはいけないのか。葉緑体のデンプン粒として貯蓄することで浸透圧を上げないようにしている。それならば、セルロースとして葉緑体の細胞骨格を強化しても良いのではないかと考えた。そこで光合成産物をセルロースとして貯蓄するデメリットを考察した。1つ目は、エネルギーとして使いにくくなることである。呼吸の際はデンプンをグルコースに変換する。セルロースはデンプンより分解が難しいのでエネルギー変換効率が悪くなる。2つ目は、細胞壁のようなものを作成してしまうと、葉緑体とサイトゾル間の物質輸送が困難になることである。3つ目はセルロース分解酵素が細胞壁を壊すのを防ぐためである。セルロースをグルコースに分解するために分解酵素を持つと、葉緑体外の細胞骨格を誤って壊す可能性がある。
A:考えていることは悪くないと思います。ただ、この辺りは、1年生の生化学Iの講義でやったところなので、それを繰り返しただけだとそれほど評価できません。
Q:今回の授業ではシンクとソースの組織による、圧流説と呼ばれる師管液の輸送方法について学んだ。このことから道菅と師管で植物の液体の輸送方法が異なることを知り、なぜわざわざ液体の輸送方法を分けているのかについて疑問に思った。つまり道菅は葉っぱの蒸散によって水を汲みあげる一方向の液体の輸送であるが、それを師管と同様の双方向の輸送形態としてはならなかったのかと疑問に思ったのである。道菅による一方向の水の汲みあげが、師管の双方向の汲みあげるに置き換わることで、温帯地帯で水が豊富にある地帯ではメリットは少ないかもしれないが、水が少ないような砂漠地帯や、地中の水が季節によって凍ってしまうような寒冷地帯などでは、蒸散によって水を失うことなく、自身の光合成によって生み出されたエネルギーのみによって、地中の少ない水を吸い上げることができ、また植物内部の糖の濃度の上げることができるため、植物が凍ることがないと言ったメリットがあるのではないかと考えた。しかし実際には道菅による輸送が使われているため、この方法のデメリットを考えると、植物の初期段階の発芽までの時期において、圧流説による水の輸送は難しく、十分に最初期の葉までに水分や栄養を送ることができないこと、また植物の根によって吸い上げられる栄養分を考えると、それらの栄養は植物が葉や茎を作るのに不可欠であり、光合成から作り出した糖とは、別の輸送形態を用いた方が、有用であることなどが考えられた。しかし、やはり砂漠地帯などの植物にとっての極限環境であれば、圧流説による輸送形態によるメリットが大きくなることがありうるのではないかと考えたため、そのような植物形態を持った植物がいないか、調べてみたいと思った。
A:きちんと考えていてよいと思います。ただ、圧流説のメカニズムにおける輸送は、糖濃度が高いところから低いところへしか輸送できません。乾燥地帯の根の給水に使おうとした場合、まず、根に(普通に考えれば光合成をする葉から)糖をまず輸送しておく必要がありますから、今度はその輸送をどうするか、という問題が生じます。同じメカニズムで正逆両方向の輸送をすることは難しいでしょうね。
Q:今回の講義ではCAM植物の炭素同化について学んだ。サボテンは昼夜の温度差が激しい環境を活かして、時間的分化による光合成をしている。つまりそういった環境下でなければCAM植物としての特性を十分に発揮できないのではないか。現在ではわざわざ砂漠にいかなくとも近くの植物園に行けばサボテンなどのCAM植物を見ることができる。日本のような砂漠の環境とは程遠い環境下はCAM植物にとって適していないのではないかと考えた。これを調べるのには光周期の制御を行い個体の活動の変化を調べる。例えば昼夜12時間ずつ交互に回していたリズムから24時間昼(夜)にして個体の気孔の開閉、電子伝達系を観察することで光周期によるものなのか時間周期のよるものなのかを調べることができると考えた。また温度による調節という可能性も考えるために普段生息するような暖かい昼から寒い夜に変わる周期を寒い昼から熱い夜に変わる周期にすることで温度による調節であるのか否かを調べることができると考えた。
A:話題としては面白そうなのですが、前半の疑問は、日本の環境がCAM植物にとって適しているかどうかである一方、後半の回答は時間分化のメカニズムが何かを調べる実験になっているようです。疑問と回答がすれ違っているように思いました。
Q:本講義では、光合成産物の転流について採り上げられた、その中で私は篩管中、篩板要素間に存在する篩板の役割について興味を抱いた。先生のお話によれば、一般的に篩板は、茎が折れてしまった場合など必要以上に篩管液が流出しないように存在する構造である、という説があると知った。しかし、先生も仰っていたように、その説が妥当か否か少々疑問を感じる。そこで私は篩板の役割は他にあるのではないかと考えた。それは「篩板があることにより圧流が維持される」という説である。中学校の理科の時間に、電流と電気抵抗の関係性を学んだ。その際、導線の直径が大きいほど電気抵抗が緩和され、電流は流れやすくなり、逆に言えば、直径が小さいほど電気抵抗が強まり、電流は流れにくくなる。この論理は植物の篩管においても適応できるのではないかと考える。本来ならば、上の原理より篩管要素間に篩板がない方が篩管内を篩管液は流れやすくなるだろう。しかし、実際には篩板は存在している。篩板には無数の穴が開いており、これは篩管の直径を小さくしてしまうので、篩管液の流れは滞ってしまう。一見理にかなっていないように見えるこの事実には、実際意味が隠されているのではないか。つまり、この抵抗が篩管内に圧力を生じさせ、篩管液が流れる仕組みとなっているのではないか、ということである。抵抗力が高まると、圧力差が維持されるということが一般に知られている[参考1]。従って、抵抗による圧力差の維持が篩管液の流れを向上させる効果があり、授業で採り上げられた圧流説にも関係してくると考察する。また、この仮説を立証するには、篩板を人工的に取り払った植物と通常の植物を比較し、篩管内に流れる篩管液流入速度を測定することで検証することができるのではないかと考えた。
参考文献:1) 一般社団法人 日本植物生理学会, “篩管の物質輸送機構について”, 更新日:2009/07/03, 参照日:2023/06/30, https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=277 .
A:これは、面白い点に目をつけていてよいと思います。「篩板を人工的に取り払った植物」というのは、とてつもなく作るのが難しそうですが。
Q:今回の講義では、植物ホルモンであるジベレリンの欠乏によって、細胞のセルロース繊維が未発達になり、細胞が横に伸長するという話があった。調べてみると、ジベレリンが作用することで、微小管の向きが横方向になり、セルロース合成が同じ横方向に行われるようになり、横方向への伸長が阻害、縦方向への伸長が促進されるというメカニズムであった。このメカニズムは自然界において、日陰環境下におけるジベレリンの分泌による植物の急速的な伸長や、植物が落葉を行う際に、ジベレリンを欠乏させ葉柄付近の細胞のセルロース繊維をほぐすことで、葉の耐久性を落とす等の用途が考えられる。
A:考え方が悪いわけではありませんが、メカニズムがあるところまでは前提なので、そこから用途を考えてみました、という1段階の論理展開です。せめて3段論法ぐらいにはしたいですね。
Q:今回の講義の中で、光合成産物を転流する仕組みの話題があった。転流の仕組みとして、ラフィノースを作るポリマートラップセオリーやショ糖のまま輸送される仕組みがあったが、「冷やすと甘くなるのは果糖が含まれるから」という話から果実にはフルクトースが含まれるイメージがあった。果実の転流について調べてみたところ、一般的には植物の転流糖はスクロースであるとされているが、リンゴ、ナシ、モモなどのバラ科の果物でソルビトール、メロンなどのウリ科の果物でラフィノースやスタキース、セロリでマンニトールなど、転流される糖はスクロース以外にもあるようだった。例えば、リンゴ、モモ、ナシではソルビトールを転流し、果実にはスクロース、グルコース、フルクトースの形で糖が貯蔵される。ソルビトールはスクロースよりも少ない反応で合成されるため、より少ない酵素で合成でき効率的で、光合成効率が高く、ストレス耐性、ホウ素欠乏耐性を持つことができるといわれている。他の植物に人工的にソルトビール合成経路を付与する研究は難航しているようだが、なぜバラ科果樹に限ってこの経路が用いられるか疑問に思った。バラ科果樹でソルビトールが転流される理由も明確ではなく、バラ科の果実は原産地も特徴も共通性を見出しにくいので考えるのが難しかったが、ATPがソルビトール合成に関わる酵素を阻害することから、ソルビトール合成が阻害されることとATPが結合してエネルギーとして利用できなくなるとすると、ソルビトールを合成する植物はATPの輸送に対して特殊な経路を作る必要性があるため簡単にソルビトール合成経路を導入することができないのではないかと考えた。
参考文献:[1]金山喜則, 山木昭平. 果実が甘くなるしくみ. 化学と生物. Vol.31, No.9, 1993. https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/31/9/31_9_578/_pdf/-char/ja、[2]名古屋大学白武グループ. バラ科果樹のソルビトール代謝機構の解明と非ソルビトール合成植物への導入. 園芸科学研究室. 2023-03-31. https://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~hort/shira/sorbitol/sorbitol.html
A:これも、面白い点に着目していますが、疑問点が出てくるのが全体の2/3を過ぎたぐらいなので、そこからの論理展開という点ではやや物足りなさを感じます。「考えるのが難しい」場合でも、この講義で求めているのは、「自分なりの」考察なので、広く想像力の翼を広げるようにしてください。