植物生理学II 第8回講義

酸素発生・カルビン回路

第8回の講義では、酸素発生にかかわるマンガンクラスタに触れた後、炭素同化経路であるカルビン回路について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:講義において、ルビスコは2種類の反応を行い、そのうち酸素との反応によって光合成効率が低下しているという話があった。そこで、ルビスコが酸素と反応することは植物にとって本当に意味のないことなのか考える。ここで、古代においては現在よりも二酸化炭素濃度が高く、酸素が少ない環境であったという話を思い出してほしい。つまり、古代環境下においては現在よりも光合成効率が非常に高くなっており、消費されるエネルギーを上回るエネルギー供給が起こり得る状況下であったと仮定する。このとき、植物では光過剰下で生成する反応性の高い活性酸素種や三重項クロロフィルなどによって葉緑体成分が酸化・損傷を受けるために光阻害が起き、光合成効率が大幅に低下してしまう。従って、ルビスコは光環境下において無駄に酸素と反応して無駄にATPを消費しているのではなく、緊急事態に備えるための安全装置といえるのではないだろうか。
参考文献:光阻害. 日本光合成学会. 光合成辞典. https://photosyn.jp/pwiki/index.php?光阻害

A:「植物では光過剰・・・損傷を受ける」までに下線がひかれていましたが、これが参考文献からの引用部分ですね。引用部分であることがややわかりにくいと思います。内容としては、後半は良いともいますが、前半の「光合成効率が・・・エネルギー供給が起こり得る」という部分がよくわかりませんでした。二酸化炭素濃度が高く、どんどん有機物を生成することができるのであれば、エネルギーの消費が大きくなるでしょうから、むしろエネルギー供給は足りなくなるのでは?


Q:今回の講義ではカルビンベンソン回路において、ルビスコが触媒するRuBPにCO2を固定してPGAを産生する反応には、酸化還元力や光エネルギーは関与していない。これは、RuBPがエネルギーを貯蓄しているからということを講義で触れていた。ここで疑問に思ったのが、高エネルギーということは即ち不安定ということを表しているが、この回路反応は逆転しないのだろうか。このことについて光が当てられている状況から考えてみた。光が当たっている場合、電子伝達系によってNADPHが活発に産生されているため、1,3-ビスホスホグリセリン酸→グリセルアルデヒド3-リン酸になる反応は亢進し、その前の段階のPGA → 1,3-ビスホスホグリセリン酸の反応、その前のRuBP→PGAへの反応も進行し、回路反応は正常な向きに反応する(ルシャトリエの原理による)。次に光が当たっていなく光合成が行われていないような状況を考える。この場合は、5-ホスホリブロキナーゼは働くことが出来ないため、リブロース5-リン酸の濃度の方がRuBPの濃度よりも高くなっていると考えられる。つまり、酵素が触媒しないため順反応が起こらないのであるが、逆反応はもっと起きにくい環境であると言える。これらのことから、カルビンベンソン回路は逆転的な反応が生じないと考えられる。

A:「5-ホスホリブロキナーゼは働くことが出来ない」という部分の根拠がわかりませんでした。講義で述べたように、レドックス酢制御によって、ということであれば、そもそも逆転反応が起こらないことが講義の段階で明らかです。そうでないのであれば、きちんと根拠を説明するようにしましょう。


Q:本講義では、カルビン-ベンソン回路の中で、重要な役割を果たしているルビスコについて深く学習した。ルビスコは、光に由来する要因が不必要であるものの、速度が一般的な酵素(毎秒1000個の分子を処理)よりも極端に遅い(毎秒CO?を3分子固定)こと、ルビスコの2種類の反応の内、O2が反応する方で生じる2-PGはカルビン-ベンソン回路酵素の阻害剤となってしまう恐れがあること、といったようにメリットよりもデメリットの方が多かった。私はデメリットの内の後者「カルビン-ベンソン回路の阻害剤を生成する恐れ」が最も問題視される点であると感じた。植物の生育に影響を与えてしまうこの反応経路が生じないようにするためには、何らかの調整機構が存在しているのではないかと考えた。ただし、現時点ではルビスコ反応経路の選択的な調節に関しては謎に包まれているという(参考1)。ここで私は、植物生理学Ⅰで学習した「葉緑体の存在場所」を思い出した。葉緑体は柵状組織や海綿状組織の膜に接するように位置していた。これは、液体中のCO2速度が気体の時よりも格段に遅くなってしまうことから、CO2の吸収を効率的にするためにとられた措置だと考えられた。この観点は、CO2の吸収量を増加させる効果もあると思われるので、この葉緑体の配置が、ルビスコにおける反応機構の選択的調節に関係しているのではないかと考察する。
参考文献:1) 一般社団法人 日本植物生理学会,“ルビスコの活性とCO2/O2濃度”, 更新日:2020/9/5, 参照日:2023/06/17, https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=4837 .

A:これは、悪くはないのですが、ルビスコについて少し調べてみたのであれば、ルビスコが酸素との反応を触媒した際のメリットデメリットの話などは、すぐに検索に引っかかってくると思います。もう少し調べるか、あるいは、自分なりの考察をもう少し深めるか、どちらかにできるといいですね。


Q:ルビスコはRuBPと二酸化炭素との反応を触媒する。しかし、その反応速度は遅く、二酸化炭素だけではなく酸素とも結合する。これを解消するためにルビスコに別の酵素を結合させることを考えた。まず、ルビスコよりも酸素との結合しやすい酵素を使うことである。ここで結合した酸素を呼吸に回す。次にアロステリック効果を利用することである。反応前は正、反応後は負のアロステリック効果を利用すればスイッチングができる。

A:これだけだと、あまり論理展開という気がしません。もう少し、自分の考えを論理的に説明する必要があると思います。


Q:今回の講義で、非常に反応速度が遅く、二酸化炭素と間違えて酸素と反応することも多いという、ルビスコの光合成に全然最適化されていない性質に興味を持った。ルビスコはそもそも硫黄代謝に使う酵素が光合成に転用された、という説もあったり数十年研究を続けた結果二酸化炭素との反応性が高くかつ最大活性が高いものを作ることができなかった、などその酵素の大まかな構造を変えずにこれ以上改良することが不可能なのではないかといった捉えられ方になっている。しかし、今までにルビスコの遺伝子が大きく入れ替わったり、ルビスコ遺伝子から離れた部分に新しい酵素が生まれることはなかったのか?という疑問が湧いた。授業内で気になった箇所として、ルビスコの構造が紹介された時、その巨大な複合体の中でも大型サブユニットは葉緑体のDNAにコードされているという点がある。葉緑体やミトコンドリアが独自に持つDNAは進化のスピードがゲノムDNAと比較して遅いという話を聞いたことがあるが、すぐに酸素の多い大気に適応されなかったルビスコの活性部位で、特に重要な役割を持つのはこの葉緑体DNAにコードされる大型サブユニットであるからなのではないか、と考えた。また、ルビスコが複合体によって成り立つ巨大な分子であることを考えると、植物の持つ遺伝情報の中ではかなり大規模な遺伝子が核と葉緑体の二か所に渡って存在することになる。この遺伝子は、その大きさから発現させること自体かなりのコストをかけることになり、ルビスコのような働きを持つ他の遺伝子がルビスコと同様に巨大な遺伝子領域を必要とする分子である可能性を考えると、ルビスコに似た分子が生じるまでの長期間ルビスコの塩基配列が大きく変化せずに保持されることは難しいのではないか、と考えた。

A:これは、考えて書いていることは十分に読み取れます。ただ、結論が何なのかをきちんと理解することができませんでした。最後の一文は、結局何が言いたいのでしょうか。塩基配列は大きく変化したはずである、と言いたいのでしょうか。


Q:今回の講義では、ルビスコが活性が低く、CO2によるカルボキシラーゼ反応とO2によるオキシゲナーゼ反応の両方を触媒するが、オキシゲナーゼ反応がカルボキシラーゼ反応を阻害してしまうということを学んだ。なぜ、このような酵素が幅広い種の光合成生物で用いられているのだろうか。理由として、ルビスコにO2よりもCO2を優先的に結合するしくみがあり、オキシゲナーゼ反応による阻害が致命的なものにならない(少なくともカルボキシラーゼ反応の生成物である3-ホスホグリセリン酸が1分子得られる)ということが考えられる。また、活性が低いことについては、トレードオフと反応を制御する観点から見ると、活性の高い酵素が少量あるよりも活性の低い酵素が大量にあるという状況の方が適しているように思える。

A:これも、考えているという点ではよいのですが、例えば、「トレードオフと反応を制御する観点から見る」という部分の意味があまり明確ではありません。もう少しきちんとした説明が欲しいところです。