植物生理学II 第4回講義
光の吸収とクロロフィル
第4回の講義では、光の吸収と色素、特にクロロフィルの種類と役割について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。
Q:本講義において、色がついて見える仕組みは「①色素による光の吸収②構造による光の干渉」の二つであるという話があり、構造色の例としてコガネムシが挙げられていた。また、フラミンゴは餌の色素によって体がピンクに発色しているという話を聞いたことがあった。ここで、まず生物が発色する理由について考えた。1つは鮮やかな色によって異性にアピールするという求愛行動、もう一つは天敵から身を守るための擬態のためなのではないかと考えた。以上を踏まえたうえで、生物にとっては構造と色素どちらによる発色が都合いいのかを考える。結論としては、構造色の方が好都合であると考えた。理由としては、餌による制限がなくなるためである。つまり、フラミンゴは色素としてピンク色以外を発色できない一方、構造色ではその多様な構造によって様々な発色の選択肢が担保されているということである。また、餌から色素を生成する際にエネルギーを消費してしまう点からも構造色が有利であるといえるのではないだろうか。
A:フラミンゴの例を挙げているだけに、続く議論で色素が不利であるという結論になってしまうと、論理展開としては改善の余地があるでしょう。生物の進化において、すべての条件で一方の選択が有利であれば、もう一方の選択をする生物は絶滅するでしょう。いずれにしても、生物学において、単純に一方が有利であるというところで思考停止してしまうのは、極めて危険です。
Q:今回は植物の色素や、色の見え方の違いの原因、また構造色などについて学んだ。その中で、なぜの多くの植物の花弁は構造色ではなく、色素によって色づけられているのか疑問に思った。まず一つ目の理由として花弁は葉が変形して出来上がった器官であるため、元々色素を持つ葉の進化としては、花弁を色づける際にも、色素を用いた方がコストが低かったからであると考えた。しかし、これだけでの理由であると、植物が色素を用いて花弁を色付けている理由にはなるが、なぜ多くの植物が構造色を持たないかの疑問に答えられていない。そこでその疑問を解消する理由として、色素で色づけられた方が多様な花の色を生み出すことができると言う利点があるからではないかと考えた。植物は昆虫から目立ちやすいようにするため、その花弁を色づけているが、昆虫は種類によって見えやすい色が異なる。そのために構造色によって花の色を作り出してしまうと、一部の種類の昆虫にしか見えづらいような花弁の色となってしまう。その一部の種類の昆虫がその地域で優位に多ければ、植物が昆虫を使って受粉を行うのに問題はないが、様々な種類の昆虫が混在するような地域であると、色素によって複数の色を用いる花弁の方が受粉において有利であると考えられる。この仮説が正しいのであれば、一部の昆虫が多く存在するような地域では、構造色を持って進化した植物がより多くなるのではないかとも予測する。
参考文献:https://www.sapporoholdings.jp/foundation/record/list/2021/pdf/list_2021_02.pdf
A:これは、一つのテーマを多方面から考えていてよいと思うのですが、議論の前提に、昆虫の視覚が固定されていて、花の色はそれに応答して進化するという方向性があるように見えます。花と昆虫の間の関係は共進化でしょうから、両方向の議論が必要かもしれません。
Q:本講義では、「光合成色素」について学習し、その中でも私は「Acaryochloris」(以下Aと呼称する)というシアノバクテリアについて興味を抱いた。そのシアノバクテリアにはクロロフィルdが含まれており、ホヤの体内や紅藻に付着している。クロロフィルdは始め、ホヤや紅藻にのみ存在する光合成色素なのではないかと、研究が進められていたが、結果、クロロフィルdを持つAがホヤや紅藻に付着しているだけだと判明した。そこで、私はなぜAとホヤが共にいるのだろうか。その疑問を考えるべく、以下では議論を進める。
まず考えられるのは、ホヤにとってこの関係がメリットのあるものだから、という見解である。光合成を実施するAが酸素を供給してくれれば、海で生息するホヤは海水に溶解している酸素を受容するよりも、効率的に酸素を獲得することが可能である。従って、酸素獲得の効率を高めることができるのがホヤにとってのメリットであると考える。しかし、私はホヤだけでなくAも、ホヤに共生することで何かしらのメリットがあるのではないかと考える。例えば、「ナガヒカリボヤ」という生物は蛍光色を発することが知られている(参考1)。このように蛍光発色を行うホヤは珍しいのかもしれないが、もしかすると、このような蛍光発色が光合成を促進させることもあるのかもしれないと考えた。海の中は光が届きにくい。海に生息する光合成植物と異なり、シアノバクテリアはサイズが小さいため、効率よく光を得ることができないのではないかと考える。その場合、蛍光発色を行うのホヤに共生するのは光を得る上で十分なメリットになり得ると考える。しかし、全てのホヤが蛍光発色をするわけではないため、議論としては不十分であることは否めない。蛍光発色以外の要因がAにメリットを与えているかもしれない。この仮説を調べる実験としては、真っ暗な空間でAがついたホヤを観察することを提唱する。
参考文献:1) 豊海おさかなミュージアム, 第1部 そもそもホヤとは何者なのか?, 更新日:2021/7/20, 参照日:2023/5/13, https://museum.suisan-shinkou.or.jp/guide/hoya-like/1209/ .
A:蛍光というのは、吸収した光のエネルギーが、別の波長の光として放出される現象です。その場合の吸収光と蛍光のエネルギーの比率、つまり収率は、高くても30%程度です。つまり、一定の光が照射されている環境で、色素がその光を吸収して蛍光を出した場合、全体としての光は、必ず弱くなります。まず、その点を理解しておく必要があります。また、シアノバクテリアにとってのメリットという点については、光合成と呼吸による物質の循環の話をこの講義の中ですでにしていますから、そのあたりから考えることもできると思います。
Q:今回の講義で出てきたものの中でも、持っていると赤外線だけで藻類やシアノバクテリアが育つというクロロフィルfに興味が湧いた。ホヤの内部やストロマトライトの中でも光を利用することができるなら、クロロフィルfを持つことで可視光が遮られた環境や光を巡る植物同士の競争が激しい場所で植物は生育することができるのに、なぜ多くの植物はクロロフィルfを持たないのかと疑問に思った。クロロフィルfについて調べてみると、構造自体は他のクロロフィルとほとんど違いが無かったが、多くの植物が持つクロロフィルaやbなどとは役割の違いが大きかった。クロロフィルfは遠赤色光の照射時にクロロフィルaが光化学系に結合するのを阻害して光化学系に結合する。また、クロロフィルaは光化学系での電子伝達に直接関与するのではなく、赤外光から得た低いエネルギーをクロロフィルaに受け渡してから通常の電子伝達を行うという仕組みを取っていた。そのため、クロロフィルfを使った光合成はクロロフィルaとfの両方を持つコストがかかり、またエネルギーの受け渡しによってロスが発生することも考えられる。また、クロロフィルfを持つ生物は主にシアノバクテリアや藻類などで、具体的にはどのような生物かは分からなかったが、陸上植物よりも生存にかかるコストが低いのではないかと考える。太陽光の中で最も地表に届きやすいのは可視光で、これを赤外線のみで生育するとなると得られるエネルギーは大幅に低くなる。赤外線のみによって得られるエネルギーとクロロフィルfを用いる光合成システムを作るコストを比較してみて、多くの光合成生物の場合はつり合いが取れず、可視光のエネルギーを利用し続けなければならないのかと考えた。
参考:東京理科大学. "目に見える光がなくても大丈夫!?遠赤色光で光合成を行えるシアノバクテリアの秘密を解明 ~光化学系Iにおける、クロロフィルfの位置と機能の特定~". 2020-01-15. 東京理科大学. https://www.tus.ac.jp/today/archive/20200115001_1.html
A:よく考えていてよいとは思いますが、議論の中で挙げられている理由は、いずれも、ほとんどすべての環境について当てはまると思います。その場合、シアノバクテリアでは問題がないのに、陸上植物でクロロフィルfを持つことが不利になる理由にはらなないように思います。もうすこし、生育環境との関係を考えた方がよいかもしれません。
Q:ベコニアの葉が450 nm-500 nmの青色であり、その理由はベコニアが熱帯雨林の林床にあり、上を550 nm-600 nmの緑色の葉で覆われているからということであった。そこで、もし地面に緑の光が届かないのであれば散乱しやすい短波長よりも長波長の赤色などにしたほうが光を吸収しやすいのではないかと考えた。しかし葉は赤色ではなく青色を選択している。その理由を考察する。それは短波長のほうが光合成効率が良いからだと考えられる。ベコニアには葉緑体に似た構造のイリドプラストがある。ここで光合成を行うとき長波長であると葉の海綿状構造部分で乱反射せず光合成量が少なくなってしまうことが考えられる。
A:「550 nm-600 nmの緑色の葉で覆われて」「地面に緑の光が届かない」というのは、色と吸収の関係を誤解しているのだと思います。それぞれ「550 nm-600 nmの緑色の光を透過する葉で覆われて」「地面に緑の光しか届かない」というのが、講義の中で説明したことです。
Q:講義の中で、強酸性環境でクロロフィルのマグネシウムを亜鉛に置換するバクテリオクロロフィルが存在しているということを学んだ。なぜこのようなことが起こるのかを考える。まず、クロロフィルの構造を考えると、テトラピノールという環状構造の中心に、二つの窒素原子と配位結合しているのがマグネシウム原子である。そして、この構造はクロロフィルが酸性条件の環境に置かれたりすると、マグネシウムが脱落し、代わりに水素が2つの窒素原子に結合し、フェオフェチンとなる。そこで、環状構造の中心に入り込む条件として、最外殻に電子を2つ持つ原子1つまたは最外殻に電子を1つ持つ原子2つが入り込むことで安定するのではないかと考えられる。したがって、バクテリオクロロフィルは、酸性条件下で水中に溶け込んでいる金属イオンの中で最外殻に電子を2つ持っていて、マグネシウムよりもイオン化傾向の低い亜鉛原子が置換されたことでクロロフィル分子が安定化したため、その形質が優勢となり現在も残っているのではないかと考えられる。
A:少し不安になったのですが、バクテリオクロロフィルも多くの場合は中心金属がマグネシウムですが、その点は大丈夫ですかね。論理構成については、シアノバクテリア、藻類、陸上植物の色素はすべてマグネシウムを中心金属とするクロロフィルですから、それらでは「クロロフィル分子が安定化」するとかえって不利益になる条件が存在するのか、という点についての議論が必要になると思います。
Q:植物や動物が持つそのもの自体の色には色素によるものと構造色によるものとがあることを今回の講義では学んだ。それぞれの発色法にはそれぞれのメリット、デメリットがあるはず。なぜ我々の肌にはメラニンという色素が存在するのか考えた。色素による発色のメリットは、幅広い色の生成やその生産コストの低さなどが考えられる一方でデメリットは日光や水といった環境要因によって色素自体が劣化してしまうことなどが挙げられるだろう。我々人間の肌は強い紫外線を浴びることで色素であるメラニンを産生することによるものである。このメラニンは元来、肌の細胞を保護する役割を担う色素であるがフェオメラニンというメラニンは紫外線から影響を受けることでガンの原因にもなる。ではなぜヒトがメラニン色素を持つのか。紫外線からの保護以外の理由はいくつかの理由が考えられるが先ず、メラニンには酸化に対して抗う特性があり我々が普段生きている中で引き起こされる酸化のストレスから皮膚を保護しそして体表付近の熱を吸収することで体温の調節を担うのではないか。ではなぜメラニンには体温調節機能があるのかを考えた。メラニンの構造を調べてみると共役した二重結合が存在することが分かった。この二重結合によって光や紫外線のエネルギーを吸収することが可能になると考えてみた。吸収されたエネルギーは、メラニンの分子内で電子を励起し、高エネルギー状態にしておく。そして、この励起された電子が基底状態に戻る際に、余計なエネルギー分が放出されてその際に熱を生み出すのではないかと考えた。
Chemical book メラニン | 8049-97-6 (chemicalbook.com)、閲覧日 2023/05/13
A:メラニンを例にして議論すること自体は問題ないのですが、講義とは直接関係しない以上、自分できちんと調べて議論を始めるようにしてください。そもそも、一般的には、メラニンによる光からの保護効果は、光の吸収が寄与すると考えられますから、「吸収することが可能になると考えてみた」というのは話が逆向きに進んでいるような印象を受けます。また、「熱を吸収する」のと、「光や紫外線のエネルギーを吸収」して「熱を生み出す」のは、全く正反対ですよね。もう少し正確な知識に基づいて論理的に議論を進めるようにしましょう。