植物生理学II 第13回講義
光合成速度を決める要因
第13回の講義では、様々な環境要因によって光合成速度がどのように変化し、その背景にどのようなメカニズムがあるのかについて解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。
Q:今回の授業の中で反応中心にクロロフィルaのみが存在し、アンテナにクロロフィルa.bが存在しており、クロロフィルbの方が高エネルギーである短波長を吸収するために反応中心に向けてエネルギーが流れ易くなるという話があった。また紅藻類などがもつフィコビリソームは外側からフィコエリスリン、フィコシアニン、クロロフィルの順という様に、エネルギーの高い順となっているために反応中心にエネルギーが流れ易いという話もあった。これらの話を聞いて私はエネルギー段階をより多く踏んでいる事から、反応中心、アンテナよりもフィコビリソームの方がエネルギーが流れやすいのではないかと考え、フィコビリソームの方が効率が高いのではないかと考えた。しかし前述の通り、フィコビリソームは紅藻類などだけがもつ構造である。そのため私はフィコビリソームの方が効率が高いが、この構造をもつことによるデメリットも発生してしまうのではないかと考える。デメリットとしてまず1つ目に通常の植物の反応中心、アンテナよりも構造体が大きく、エネルギーの段階が多い事から、エネルギーが反応中心に流れるのに時間がかかってしまうのではないかと考える。 2つ目にフィコビリソームは巨大な構造体であるので、この構造を生産するのに必要なエネルギーが多く、割に合わないのではないかと考える。
A:基本的にはよく考えていてよいと思います。ただ、「エネルギーが流れやすい」「効率が高い」という言葉は、なんとなくわかる一方で、エネルギー移動の仕組みを考えたときに、何を意味しているのかが必ずしも自明ではありません。後ろの方で、「時間がかかってしまう」という話が出てきますが、そうであれば、少なくとも時間当たりのエネルギー移動の効率は高くないと考えているのだと思いますし。
Q:今回の講義で自分が一番興味深かったテーマは、植物の光合成と人間の呼吸の比較、動物の光合成というものでした。このテーマでは、高い光合成示す植物の最適条件での光合成速度が30 μmol/m2/sであり、睡眠時の人間の呼吸速度が170 μmol/sであることから寝ている人間の呼吸をまかなうためには 5.7 m2の面積が必要であること。1日で考えると一日の光合成量は0.6 mol/m2、人間の呼吸量は20 molであるので人間の呼吸をまかなうためには 30 m2以上の面積が必要であると学んだ。また、高等な動物は光合成をしない理由として動物には移動能力があり、エネルギーとしての光は密度が薄いため広い面積をもって移動するのは効率的でないと考えられているとしていた。ここで自分は比較的体が小さく、飛行する際には羽を広げるため光に当たる面積が体に対しては大きい鳥はなぜしていないかという疑問を持った。理由として考えたのは、1つは飛んでいる間にエネルギーを蓄えられることは効率も良いのではないかと思ったがやはりわざわざ光合成しても得られるエネルギーが少ないため、2つ目は葉緑体をもって光合成することになにかしらの不利な点が存在するためではと考えた。
A:これは、前半は講義内容の繰り返しなので、評価の対象になりません。後半の「考えた」も、あまり論理的な感じがしませんね。
Q:今回の講義では、動物の光合成の話が印象的であった。光合成ができる動物は基本的には存在しておらず、動物が光合成によってエネルギーを賄おうとすると、30 m2の面積が必要であることを学んだ。ただ、それはあくまで全てのエネルギーを光合成で賄った場合の話であって、僕は食べ物を食べることでエネルギーを得ながらも、あくまでサブの働きとして光合成を行うハイブリッドな動物がいてもいいのではないか?と考えた。特に光が当たりやすいがエサが得づらいような環境で生きる生物はこのような特性を持っていてもよさそうである。進化の過程で葉緑体を動物細胞に取り込むなどして、光合成能力を得た生物はどうしていないのでしょうか?考えられる理由は、「光合成の際に発生する活性酸素が動物にとって害であるから」「細胞に異物が入り込むと、それを排除する機構がはたらくから」の大きく2点である。どのようなメカニズムでこのような機構が働くのかはわからないが、後者の理由に関してはエネルギーを得るために必要な異物であれば、排除される理由もよくわからないので不思議な部分である。
A:これは、「考えられる理由」を2点挙げていますが、なぜそのように考えたのかの説明がない上に、むしろその後にそれらの理由が考えにくいと説明しているので、結局何が主張したいのかわからない文章になってしまっています。
Q:今回の講義では、ガス濃度と光合成速度の関係からどの酸素濃度、二酸化炭素濃度でもある一定以上の葉温になるまでは光合成速度が上昇しその葉温に達すると下降していくことを学んだ。そこで、光合成速度のピークになる葉温を決める要因は、種や酸素濃度、二酸化炭素濃度など様々であると考えられるが、どんな植物でも43℃を超えることはないという仮説を立てた。なぜなら、一般的な細胞は43℃を境に死滅するからである(1)。では、43℃になった瞬間ほとんどの細胞が死滅し、その結果光合成を行わなくなるかと言ったらそうではない。その理由として考えられるのは、熱ストレスによって誘導されるHSPと呼ばれる蛋白質の存在である。HSPが多く誘導された細菌は熱に耐性を持つとあり(1)、HSPは植物にも含まれる蛋白質であるため、植物は43 ℃を超えると光合成速度が急激に減少するとは言え、全く光合成を行わなくなるわけではないと考えられる。
参考文献 1. ヒートショックプロテイン(HSP70)の魅力/伊藤要子/修文大学健康栄養学部管理栄養学科、https://www.jstage.jst.go.jp/article/onki/77/3/77_222/_pdf
A:これも論理のすじが通っていませんね。そもそも「一般的な細胞は43℃を境に死滅」という表現自体があまり科学的ではないように思いますし、それがHSPが働いた上での結果なのか、それともHSPがない場合には、という話なのかが判然としませんし、その後の議論でもごっちゃにしているように思えます。
Q:「光合成速度を決める要因」のスライドの最大光合成速度の比較表で、トウモロコシの光合成速度は他の種類と比べても大きかった。これはトウモロコシがC4植物であるからである。C4植物は二酸化炭素を一度固定してから、リンゴ酸から二酸化炭素を取り出して光合成をしている。だから気孔の開閉の影響を直接受けにくく、高温乾燥下でも光合成速度が下がりにくい。これらのことからC4植物は効率的に光合成を行えている。しかし前回までの授業から葉にデンプンが溜まり過ぎると反って光合成速度が落ちると学んだ。効率の良い光合成を継続するには、転流も必要であると考えられる。そこでトウモロコシの場合では実が十分なシンクになっていると推測できる。実のシンクが十分であるため転流が行われ、高い光合成速度を維持できると考える。さらに全体的にC3植物に比べて光合成速度が高いC4植物は転流速度も高いと考えられる。
A:これは、C4植物におけるCO2濃縮の話とシンクリミットの話を関連付けて議論している点が評価できます。ただし、論理自体は当たり前の範囲に聞こえるように思います。
Q:今回の講義で光の強さと光合成速度の関係を学んだ。光の強さと光合成速度の関係のグラフを見ると収束したときの光合成速度は陽葉の方が陰葉よりも高いとわかった。陰葉とは陽葉の違いは日が当たる強さであるが、植物には満遍なく葉がついているため陰葉と陽葉の中間である葉も存在するといえる。このことから陰葉と陽葉の中間の位置に存在する葉はどのような結果になるかを考えた。このことを調べるために仮説を3つ立てた。1つ目の仮説は、陰葉と同様の光合成速度で収束すること。2つ目は1つ目の仮説の逆で陽葉と同様の光合成速度で収束すること。3つ目の仮説は陰葉と陽葉の中間で光合成速度の収束が起きる、ということが考えられた。このことを確認するためには陰葉と陽葉の中間に存在する葉を選出して光合成速度を場所を変えて何度か測定をする。その後に陰葉と陽葉の光合成速度と比較を行うと中間の光合成速度の収束値の特徴を知ることができると考えられた。
A:これは、形としては論理的に展開されているのですが、仮説をたてる際にあまり考えずに可能な組み合わせを挙げているだけなので、結局、どれが正解かを実験で確かめることしかできません。この講義のレポートでは、「実験系を考える」ことは評価をしますが、光合成速度が知りたい場合に光合成速度を測定する、と言うだけでは実験系とは言えません。問題設定は良いので、陰葉と陽葉の中間の葉について、どのような光合成曲線をもっていると有利になるかを考え、それを仮説として設定するようにすれば、その後の実験もより焦点を絞ったものにすることができます。
Q:今回の講義で、高等な動物は光合成をしないという話があった。その理由として、光エネルギーが密度が薄く、広い面積が必要なため、高等な生物は広い面積を持って移動するのは効率的ではないということであった。しかし、高等動物が光合成をしないのは、ほかに理由があると考えられる。※1によると、トキソプラズマの先祖は植物と同じく光合成をして宿主と共生していた。しかし、進化の過程で宿主から栄養を取り寄生することで、光合成をする必要がなくなった。このことから、多くの生物は、昔は光合成などをして光エネルギーを利用していたが、光合成以外で栄養分を摂取する方法を得ることができると、光合成をしなくなったと考えられる。また、※1によると、トキソプラズマの寄生と共生の原理が分かれば、将来、葉緑体を取り込み光合成ができる動物細胞ができる可能性があるらしい。
参考文献 ※1〝二刀流〟で挑む トキソプラズマ感染のメカニズム解明へ、https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2018/371b5t
A:光合成と寄生の関係は、植物生理学Iの講義の中でマラリア原虫を例にかなり詳細に説明しましたよね。そのあたりをもう少し踏まえてレポートを書いてください。
Q:人間の呼吸を賄うことができるのに必要な面積は30m^2以上必要であるという点から、今後の世界の人口増加の推移からどの程度の面積が新たに必要になってくるかについて考察する。[参考文献1]より、2021年の人口は78億7500万人。2030年は85億人(予測)とされている。つまり、6億2500万人増加すると算出できる。1人あたり30m^2必要であると考えると、6億2500万×30m^2=187億5000万m^2となる。この面積は地球で考えると、日本の面積3780億m^2の1/20倍の面積が必要であると推察できる。単純な人口増加による呼吸の増加に対する必要面積がたった10年で、これほどの必要になることは数値として見ると意外にも多いと感じた。実際アフリカや南極大陸のように植物が生育しにくい地域等を鑑みると、呼吸に対してより多くの面積が必要となると予測できる。持続可能な社会を作る上で人口増加と必要面積は1つ考察するべき点であると考えた。
参考文献 1.国際農研 JIRCUS、7月11日は世界人口デー、閲覧2022/07/11、https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20210708_0
A:物事を定量的に考察する姿勢は評価できますが、この場合、結局換算しただけなので、考察と言うには今一つ物足りない気がしました。
Q:吉竹研の実習において、植物の呼吸の温度依存性を調べたところ、葉は温度が高いほど呼吸速度が大きくなった。これはなぜだろうか。講義では、陽葉のほうが陰葉より呼吸速度が大きい理由について、光合成のための物資を維持するためだと学んだ。また、ある温度までは温度が上昇すると光合成活性も上がること、強光下ではタンパク質の分配が大きくルビスコに偏ることも学んだ。これらのことから考えると、植物は温度に応答して光合成活性をあげるために細胞内の物質を再編集する能力があり、そのために呼吸によって生み出されるエネルギーが必要なのだと考えられる。
A:これは、視点は非常に良いと思うのですが、最後があいまいですね。「温度に応じて・・・再編集する・・・ためにエネルギーが必要」という場合、温度が上がる場合にも下がる場合にも適用できてしまいます。問題設定は、「温度が高いほど」ということから出発したのですから、温度変化ではなく高温を議論しないと、論旨がつながりません。
Q:授業では、高等な動物は光合成をしないことを取り上げられた。これは光を吸収するためには広い面積が必要なので、広い面積をもって移動するのは効率的ではないからだ。しかし、実際に光合成を行う動物は存在する。例えばウミウシは光合成をする動物だ。ウミウシは植物から葉緑体を取り込むことで光合成の機能を得ている。人間を含めてほとんどの動物では、植物を食べても光合成の機能を得るわけではないのになぜウミウシは光合成の機能を得るのかについて2つのことを考えた。まず1つ目の理由として考えられるのが、ウミウシには免疫機能を抑制する遺伝子を発現させて、動物にとって異物である葉緑体を免疫機能に攻撃されないようにする仕組みがあることだ。免疫機能は白血球と関係するので、白血球が少なくなると免疫機能が低下すると考えられる。(1)によると「白血球はほとんどの動物で類似し ているが、割合は動物によって異なる場合がある。 魚のようないくつかの動物は、4種類の白血球を持っている」とある。よって、ウミウシは葉緑体に反応しない特殊な白血球を持つと考えられる。2つ目の理由として考えられることは、植物と遺伝子が似通っているので、葉緑体がそもそも異物として認識されないということだ。ただ、植物から動物に進化したわけではないので、ウミウシが進化途中の動物とは言えず、なぜ似通っているのかを説明することができない。よって1つ目の理由の方が可能性が高いのではないかと考える。
A:植物生理学Iの講義の中で、Why質問とHow質問の違いについて解説したと思います。冒頭の問題設定では、他の動物との比較ですから、おそらくはWhyについての疑問だと思いますが、その後で実際に議論されているのはHowです。そのあたり、Howを議論したいのであれば、導入部を少し工夫する必要があるでしょう。
Q:今回話として光の波長とエネルギー効率の話があった。葉は緑の波長の光を反射し緑色をしているが全ての色の波長を吸収する方が間違いなく効率よくエネルギーを得ることができるし、そのためなら葉の色は黒色であるべきだと考える。しかし現実では緑色が大半であるためやはり何かしらの原因があると考えられる。世界の動植物はより効率的に生活するために進化してきた、それは葉におけるエネルギー効率をとっても同じであると考えられ優先度として黒<緑となっている理由がある。考えられる理由として黒で全ての光を光合成に利用するとエネルギー過多になってしまうといったことが考えられる。現状葉の色は緑となってるのは上記でも考えたとおりその色が最適だからであり緑色がもっとも効率よく光合成を行うことができる色であると考えられる。しかし黒で全ての波長の光を吸収しうると光エネルギーがあまり無駄な要素となってしまう。その為黒ではなく緑色になり、虫の目につくなどと言った別視点でのメリットを持つために葉の色は緑が大半であると考える。
A:この点については、この講義の最初の方で、光合成色素について解説した時に、緑色の光でも葉では7割程度のエネルギーを吸収していて、反射光の多くが緑色だという事実から、葉が緑色の光を利用できないと考えるのは短絡的である、という話をしたと思います。講義を聞いてレポートを書くようにしてください。
Q:木本と草本の最大光合成速度を比較すると木本のほうが低い傾向があるということ、またその原因は葉齢の影響であるということが説明された。このことが正しいとすると、木本が1枚の葉を長期間にわたって使い続けることは最大光合成速度を下げてしまい、あまり効率のよくない戦略であるように思えるが、実際には最大光合成速度を下げてしまう程度にまで同じ葉を使い続けているのはなぜだろうか。まず容易に思い付くこととして、葉を作り出すというコストがなくなるというメリットが考えられる。また、植物体が大きい木本はシンクも大きく、光合成産物の蓄積量が多いために最大光合成速度がそれほど高くなくてもよいということや、そもそも呼吸を含めた代謝速度が全般的に低くなっていることも考えられる。また、ツバキの若葉と成熟葉の緑色の濃さが大きく異なることをヒントに考えると、葉齢による光合成活性の低下を補うために葉齢を重ねるにつれて葉緑素を増やし、光合成活性の低下を抑制する工夫がなされていることも考えられる。
A:これは、悪くはないのですが、いろいろ考え付いた答えを並べている印象を与えます。この中で最もそれらしい答えを選んで、それについて何らかの理屈をつけて「これこそが真実の回答に違いない」と結論付けた方が、読み手にメッセージは伝わりやすくなります。
Q:スライドで、植物種と最大光合成速度について紹介されていた。トウモロコシの光合成速度の幅が28-85mgCO2と、他の植物と比較して大幅に大きかった。何故3倍近くの速度の差が生まれるのだろうか。速度の差について、生育地域の違いによるものであると仮定して考えてみる。栽培国を見ると、北アメリカから、赤道付近のアフリカの国まで、気温差の大きい生育環境で栽培されている事がわかる。気温が高い方が光合成速度も上昇するため、赤道付近のトウモロコシは高速度で光合成をしているのに対して、北アメリカ等の緯度の高い地域では気温も下がる事によって光合成速度はあまり速くない事が考えられる。地域によって、最大光合成速度がこのように違うとすれば、赤道付近で育ったトウモロコシと高緯度地域で育ったトウモロコシの間に形質的な違いが現れてくるのではないかと考えた。例えば、赤道付近では速い光合成速度によって、大きなトウモロコシが育ち、高緯度では光合成速度があまり高くない事によって、赤道付近と比べ大きくないトウモロコシが育つ事が考えられる。
A:これは問題設定は良いと思うのですが、最大光合成速度と光合成速度がごっちゃに議論されているために、つながりが悪くなっています。「高緯度では光合成速度があまり高くない」のは良いし、その場合「高緯度では最大光合成速度が高い必要がない」こともよいと思うのですが、「高緯度では最大光合成速度が低い方がよい」かどうかは少なくとも自明ではありません。そのあたり、もう少し論理的にカチッと議論してほしいところです。