植物生理学II 第7回講義
光合成電子伝達の仕組み
第7回の講義では、Zスキーム、プロトン濃度勾配、Qサイクルなどについて解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。
Q:今回の講義で自分が一番興味深かったテーマは、プロトンの輸送でした。調べてみたところ一般にプロトン輸送の機構には、ループ機構とポンプ機構があり、ループ機構では、酸化還元反応によって膜の一方でH+が吸収され、反対側でH+が放出されるという流れである。ポンプ機構では、光吸収や酸化還元に伴うタンパク質の構造変化によりプロトン輸送が行われるというものであると分かった。今回習ったQサイクルは一部の電子を違うところへ回しATP形成が二倍になることのように、ループ機構とポンプ機構のメリットデメリットがどのようなものなのか気になった。
A:毎回同じコメントになりますが、「気になった」ところでおしまいになるレポートは評価の対象になりません。
Q:今回の講義では、Zスキームの話が印象的であった。低い可視光のエネルギーから高エネルギー反応を行うために、光化学系Ⅰと光化学系Ⅱでの二段階の励起を行うことで高いエネルギーポテンシャルが獲得できるということがわかった。Zスキームについて調べてみると、自然界のZスキームを模倣することによって、実現困難な化学反応が可能になるかもしれないとされ、人工光合成研究の一大領域となっていることがわかった。具体的には、可視光を用いて水を分解できる光触媒が発見されれば、それはクリーンに水素を生み出す技術になりうる。植物の光合成を人工的に再現することが、環境問題にも関わってくるという壮大さに魅了を感じた。
A:これも、調べた結果とその感想で終わっているので、高校までのレポートであればともかく、この講義のレポートでは、評価の対象になりません。
Q:今回の講義では、プロトン輸送について学んだ。文献より、H+輸送には、ループ機構とポンプ機構があるが、プロトン輸送はどちらに分類されるか考察する。プロトン輸送とは、チラコイド内膜でH+を作り出し、外の部分でプラストキトンの還元にH+を消費している。ここで、ループ機構とは一連の酸化還元反応によって膜の一方でH+が吸収され、反対側でH+が放出されることにより、H+輸送が起こることである。また、ポンプ機構とは、光吸収や酸化還元に伴うタンパク質の構造変化によりH+が輸送されることである。以上のことから、プロトン輸送はループ機構だと考えられる。
文献:https://photosyn.jp/pwiki/index.php?%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%88%E3%83%B3%E8%BC%B8%E9%80%81%28H%2B%E8%BC%B8%E9%80%81%29
A:これは、一応、ロジックにはなっていますが、調べたことに当てはめたら結果はこうだった、という組み立てですから、考察としてはやはり貧弱ですね。
Q:今回の講義では、光化学系ⅡのP680が強い酸化力を持ち、水を酸化し酸素をだすことで、硫化水素の存在しない場所でも、光合成を可能にしていることを学んだ。また、以前の講義で、シアノバクテリアが、FusionモデルとSelective-Lossモデルで光化学系Ⅰ、Ⅱを持つことを学んだ。前者のモデルでは系Ⅱ型光合成細菌が、酸素発生を獲得し、遺伝子の水平伝播でシアノバクテリアが生まれた。後者だと、プロトシアノバクテリアから、二つの光化学系の常時発現と酸素発生を獲得した。「光と温度が十分であれば、水のある場所では、どこでも生きられる仕組み」としては、前者のモデルの方が進化モデルとして適切なように考える。酸素発生の獲得はそもそも、光化学系Ⅱで起こった。後者のモデルであれば、光合成細菌が水のある場所(熱水噴出孔など)に存在していれば、生息範囲を広げるためなど、Ⅰ型を失ったⅡ型光合成細菌が、酸化力を強くすれば、安定的に光合成をすることが出来、特に二つの光化学系常時発現をしなくていい。とするならば、遺伝子の水平伝播で、酸素発生の獲得後に光化学系Ⅰを獲得した流れの方がよく考えられた。そのためFusionモデルの方が、適切なように考える。
A:これは、よく考えていてよいと思うのですが、日本語の使い方をもう少し工夫すると、読み手に伝わりやすいレポートになります。具体的には、「後者のモデルであれば」から始まる文は「特に二つの光化学系常時発現をしなくていい」と終わっていますが、このモデルは、「二つの光化学系常時発現」するモデルです。そうであれば、途中に逆接を入れた方が、読み手はロジックがわかりやすくなります。あと、具体的な内容についても、講義で話したように、「Ⅰ型を失ったⅡ型光合成細菌が、酸化力を強くすれば」水は分解できてもNADPHの生成ができなくなりますから、その点を考慮する必要があるでしょう。
Q:どの複合体もチラコイド膜を貫通する領域が存在することを学んだ。チラコイド膜は光合成において電子伝達やATP合成反応が行われるため非常に重要な役割を担っていることがわかる。複合体が全てチラコイド膜を貫通しないような構造になっていた場合のことを考えた。複合体がチラコイド膜を貫通しないことは電子の受け渡しを行うことができない、ということである。よって光と水と二酸化炭素が揃った条件下でも光合成の効率が悪くなるということが考えられる。チラコイド膜を貫通しない複合体が存在した場合どのような性質を持つと電子の受け渡しを行うためには複合体が磁石のような性質を以っていれば良いと考えた。チラコイド膜を挟むようにして片方は電子と反発し合う力、もう片方に電子を引きつける力を持つ複合体が存在すればチラコイド膜を貫通しなくても電子の受け渡しを行うことができると考えた。
A:これも、自分で考えていてよいとは思いますが、論理の前提を明示していないので、知らない人にはロジックがわかりにくくなっています。ここでは、チラコイド膜の片側からもう片側まで膜を横切って電子が運ばれる必要があることが前提ですよね。普通であれば、自明で省略可能な前提かもしれませんが、「複合体が全てチラコイド膜を貫通しないような構造」というあり得ない状況を仮定しての議論ですから、そのような自明と思われる前提でも、きちんと説明する必要があるでしょう。
Q:紫外線が植物の反応中心のエネルギー作用や太陽光の一部しか使えないこと、DNAが損傷を受けるという内容から、宇宙空間における植物栽培の課題とその解決策について考察した。今回は紫外線の観点に絞って述べる。まず講義内の理由から月などの紫外線を直接受ける環境下では植物の生育は難しいと考える。そこで栽培方法を考えた。それは紫外線を防ぐためにUVカットの処理を施すことである。これに関して、具体的に月面であればどの程度のUVカットを行えばよいかを推察してみる。まず仮説として、地球と月は太陽からの距離がほとんど同じであるため、紫外線量は地球の大気圏外とほぼ同等であると予想した。[参考文献1]より、UV-Bの大気圏外の強度は102~103(mW*m2*nm)であった。植物に影響のあるUV-Cについての言及はなかったものの、UV-Aにおいてもほとんど同じ推移であったためUV-BとUV-Cを同等の強度で扱う。地球環境においては大気によってUV-Cが吸収され、植物に比較的影響のない形で紫外線が浴びせられる。しかしながら月面の場合、大気は存在しないためUV-Cを直接受けることとなる。このことから、月面の環境下でUV-Cを102~103(mW*m2*nm)カットすることができれば太陽光エネルギーを利用して植物栽培を行えると推察する。
参考文献 1.太陽紫外線の概要、気象庁 オゾン層観測報告:2010、閲覧日2022/05/23https://www.env.go.jp/earth/ozone/qa/part3_chapter1.pdf
A:これは視点は面白く読みましたが、結論は、「月面を地球と同じにすればよい」ということですよね。途中に数値が出てくるので、定量的な議論がされるのかと期待したのですが、結局はそれを全部カットするということになると、やや物足りないように思います。
Q:今回の授業では、光合成の電子伝達系が取り上げられた。電子伝達系は光合成全体の反応のうちチラコイドで起こる反応である。このチラコイドによる反応によって生じるATPを用いて、カルビン・ベンソン回路では有機物を生産し、その有機物は最終的にデンプンになる。そこで、光合成の最終産物がグルコースではなくデンプンになる理由を2つ考えた。まずグルコースが分子量180に対し、デンプンは分子量が数万~数千万である。(1)によると「高分子に比べて低分子の方が溶解性しやすい」とあるので、グルコースの方が水溶性が高く、浸透圧などに対して影響を与える可能性が高くなるので、デンプンの方が植物内に存在するものとして優れていると考える。さらに、(2)によると「グルコースは酸化されやすいのに対してデンプンは酸化されにくい」とある。よってデンプンの方が安定した物質だと言える。グルコースは鎖状と環状どちらでも存在するが、鎖状ではアルデヒド基を持つため、還元性を持ち、より酸化されやすいと考えられる。(3)によると、水溶液中では鎖状構造は0.01%しかないとあるので、植物の水分保有量が少ないものほどグルコースは鎖状で存在し、酸化されやすくなるので、グルコースをデンプンにする動きが活発になると考える。以上の「①グルコースは分子量が小さく水溶性が高い」「②グルコースは酸化されやすい」という2つの理由から、光合成の最終産物がデンプンになると言える。
参考文献:(1)グルコースの構造式 (sci-pursuit.com)、(2)生物合格77講【完全版】2nd edition (東進ブックス 大学受験) 単行本(ソフトカバー) ? 2020/6/26田部 眞哉 (著)、(3)多糖類の溶解性~溶ける・溶けないの条件~ (unitecfoods.co.jp)
A:これは、これだけ読めばよいレポートなのですが、このことについては、1年生の時の生化学Iの講義で説明しています。その回をたまたま欠席していたかもしれないし、2年たてば忘れてしまったかもしれませんが、いずれにしても高く評価はしにくいですね。
Q:光化学系1、光化学系2、シトクロムb6/f複合体は巨大なタンパク質に囲まれているがこの理由について考察する。まず複合体にはチラコイド膜が存在しており今回のスライドにおいてもチラコイド膜を貫通する領域が存在し、電子伝達成分を垂直に配置していると述べられている。このチラコイド膜は極性脂質による脂質二重層と呼ばれる構造を有している。しかし、この膜は結合力が非常に弱く不安定である。そこで活用されるものがタンパク質である。内在性膜タンパク質が膜に付着しているためタンパク質の安定性と相まって位置を固定することができ、脂質二重層が崩れることによる電子伝達の阻害を防いでいると想像される。
A:これは、考えているのかもしれませんが、どこまでが事実で、どこからが論理的帰結で、どの部分が想像なのかがよく読み取れません。例えば、「この膜は結合力が非常に弱く不安定である」というのは、何かに書いてあった「事実」なのでしょうか。それとも想像でしょうか。いずれにしても、もしそうなら、チラコイド膜以外の生体膜も脂質二重層を持っていますから、全ての膜が巨大な複合体を持っていることになりそうです。もう少しロジックを明確にできるといいですね。
Q:電子伝達の仕組みについて,光化学系において光で励起させ,その後すばやく次の物質につなぐことでプロトン輸送とともに電子を伝達させていることを学んだ。光合成の電子伝達はプロトン濃度勾配を形成し,ATP合成のエネルギーを蓄える役割がある。ところで,そもそも励起したエネルギーが下がっていくときに,なぜわざわざプロトンの輸送にいったん変換し,その上でATP合成を行っているのだろうか。エネルギーの変換時にはエネルギーの損失がつきものであるから,一見非効率な仕組みに見える。わざわざプロトンの輸送力に変換することの意義を考える。まず,授業内で説明されたように,励起エネルギーをそのままATP合成に使おうとしたとき,電子伝達のエネルギーギャップが大きすぎて反応が進まないため,少しずつエネルギー準位を低くする反応を必要とし, 1分子あたりの必要エネルギー量が少ないプロトンの輸送という形が適当であったと考えられる。また,強光下での光阻害の影響から考えたとき,もし励起後すぐにATP合成できる仕組みがあった場合には,光化学系が修復されている間はATPが合成されなくなってしまう。一方,プロトン輸送というある種の緩衝を挟むことによって,光化学系の修復時も蓄積されていたプロトンの濃度勾配エネルギーを用いて,ある一定期間継続してATP合成し続けられるというメリットも考えられる。
A:これは、自分なりのロジックをきちんと展開していて評価できます。特に後半のポイントは、独自性があってよいと思います。
Q:今回の講義では、紫外線を使用して光合成をする生物がいない理由として、DNAへの影響、太陽光中の紫外線の割合、反応中心のエネルギーの主に3点について考えられていたが、植物は光合成以外で紫外線を使用することはないのか疑問に考えた。理由のうち、DNAの影響は光合成以外でもすべての反応において害であると考えられるが、紫外線の割合や反応中心のエネルギーの問題は光合成以外であれば影響はないと考えられる。ここで、植物を育てる際に、紫外線を当てる必要があると聞いたことがあることから、紫外線が植物の成長に影響を与えていると仮定し、その原理について考えていく。まず考えられるのは紫外線によってビタミンDができるのではないかという考えだ。これは、ヒトの場合に言われていることであり、ビタミンD生成に要する日照時間の研究なども行われている(*1)。しかし、植物でビタミンDを持つ種を調べるとほとんど存在しないため、この可能性は少ないと考えられる。ここで、植物の成長の中で波長が重要になる機構を考えると、発芽や気孔の開閉などの役割を持つ光受容体があるが、その中でも紫外線に近い青色光を受容するものでフォトトロピンとクリプトクロムである。この2つの受容体の吸光度をみると、青色光である450nm付近に加え、紫外線である380nm付近にもピークを持つことから(*2)、紫外線の影響をうけると考えられる。また、2つの受容体の働きの中で成長にかかわるものとしては、クリプトクロムの花芽形成促進や茎の伸長抑制などが考えられることから、伸長を抑え花芽形成が起こる必要がある背丈の低い花などには必要不可欠であり、このような観点から「植物を育てる際に、紫外線を当てる必要がある」という考えが生まれたのではないかと考えられる。
(*1) 体内で必要とするビタミンD生成に要する日照時間の推定.国立環境研究所.https://www.nies.go.jp/whatsnew/2013/20130830/20130830.html
(*2) 德富 哲,岡島公司,吉原静恵.紫外光から遠赤色光まで,多様な植物光受容体.生物物理 55(4),181-186(2015)https://www.jstage.jst.go.jp/article/biophys/55/4/55_181/_pdf
A:これも、きちんと考えていてよいと思います。ただし、最後の「考えが生まれたのではないか」という部分は、ある意味で評論家的に判断を留保していて、その考えが正しいのか、間違っているのかを断言していませんよね。もし、青色光受容体が青い光と紫外線を共に吸収することがその「考え」の論拠となっている場合、受容体は青い光と紫外線のどちらを吸収しても、シグナルとしては区別できませんから、青い光が当たっている限りは、紫外線の有無が生育に影響を与える考えることは難しいでしょう。そのように考えるかどうかについては別として、その「考え」に対して自分なりの判断を下した方が評論家的ではないレポートになります。
Q:光化学系Ⅱの方が光化学系Ⅰの構造よりも複雑な構造をしている事に目を向けた。どちらも酸化還元反応を用いた電子伝達を行う点では同じである。文献1より、「光エネルギーは光合成の反応を進めるエネルギーとして使われるが、光が強くなると光合成は光を使わない反応によって律速されるので、余分な光のエネルギーを光合成に使うことはできない。植物には防御システムがあり、ある程度の光の強さまでは、余分な光エネルギーを比較的安全な熱エネルギーに変えることができるが、さらに光が強くなると、余ったエネルギーが光合成の装置を壊す事がある。」この事より、光エネルギーを適切な量のみ受容するシステムは植物の生命活動上、重要であると考えられる。光合成における電子伝達は光化学系Ⅱから始まるため、始めの光エネルギーによる励起は光化学系Ⅱで起こっている。よって、光化学系Ⅱが光エネルギーの受容に関して大きな働きをもち、受容量の調節機能を付随させている可能性を考えた。それと同時に適切な光需要量を決定する為にはそもそも光を感知する受容体が存在しなくてはならない。光量の感知は反応の初期段階に行う必要があるため、この受容体も光化学系Ⅱに付随していると考えられる。光化学系Ⅰと比べ、光化学系Ⅱには光量の調節機構や、受容体が付随しているために構造がより複雑なのだと結論付ける。
参考文献:1光合成の森 なぜ強すぎる光は光合成によくないのか?https://www.photosynthesis.jp/faq/faq11-10.html
A:これも、自分なりの考え方で論理を展開している点は評価できます。ただ、途中で「受容」と「需要」という言葉両方出てきてちょっと混乱します。エネルギーを受け取る方が受容で、それを使う方が需要ですよね。その二つを感知するシステムは、全く異なるメカニズムを必要とするはずなので、そのあたりをもう少し整理したいところです。
Q:今回、逆反応を抑える方法として電子が次のステップに進むためにかかる時間に大小をつけることで電子を前に進めていることを学んだ。A1からFxへ移動するのにかかる時間はA1からP700に移動するのにかかる時間よりも非常に短いためA1からFxへ大部分が流れるということを学んだ。しかし、この方法では逆流を抑えることができないのではないかと考えられる。逆流でも同じ時間で行けると考えるとA1からFxへは200nsかかるのに対してA1からA0では35psで行けてしまう。これでは逆流が起き放題であるといえる。このことから、おそらくA1からFxへのスタート地点での加速とA1からA0への加速が異なると考えるのが妥当であるといえる。つまり、電子の加速の概念も考える必要があるのではないだろうか。
A:ここは、僕の説明がわかりにくかったかもしれませんが、ある電子伝達成分から別の電子伝達成分への移動速度は、マーカスの理論の所で説明したように、順方向の速度と逆方向の速度の兼ね合いで決まります。したがって、200 nsといった値は、逆方向への電子移動を考慮した値なのです。そして、それとは別に、電荷分離によって生じたプラスとマイナスの電荷が再結合する電荷再結合の反応が起きます。こちらは、単純な電子移動とは別の要因によって速度が決まることになります。