植物生理学II 第3回講義
光合成生物の進化
第3回の講義では、主に一次共生の際のオルガネラから核への遺伝子の移動と、二次共生の成立過程について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。
Q:私は今回の授業の中で光合成を行うことで得られる栄養が必要でないために、後に葉緑体を失って光合成を行わなくなった植物が存在するという話に特に興味をもった。そのような植物について調べてみるとこのような植物はギョリンソウなどの菌従属栄養植物であることが分かった。菌従属栄養植物とは『一般的な植物でみられる、菌根菌と相利共生を行い、植物からは光合成によって得られた炭素を与え、菌からは窒素やリンなどを与えるという関係と異なり、植物から何も供給することなく菌から窒素やリンなどを奪い取るという特徴がみられる』...(参照 ①) このような特徴を知った際に私は菌従属栄養植物の始まりは相利共生を解除し寄生関係となることと、光合成を行うために必要な葉緑体を失うことのどちらが先に行われたのか疑問に感じた。結果として私は次世代へと移行する際に葉緑体に関わる遺伝子の変異などによって、光合成を行うことが出来ないことで菌に対して炭素を供給不可能な程、炭素が不足した植物個体が生まれ、不足しているために菌に対しての炭素の供給が停止した、あるいは植物が菌に炭素を与えることを阻害する遺伝子が活性化したのではないかと考えた。
【参考文献】①… 光合成をやめた植物ー菌従属栄養植物のたどった進化の道のり 辻田有紀 遊川知久 菌従属栄養植物の系統と進化 遊川知久 植物科学最前線5:85 (2015) T.Yukawa - 1(参照 2022 04 30)
https://www.google.com/url?sa=t&source=web&rct=j&url=https://bsj.or.jp/jpn/general/bsj-review/BSJ-Review5C.pdf&ved=2ahUKEwio-_-xkLr3AhUTCKYKHYy6BTAQFnoECAMQAQ&usg=AOvVaw13_xk_Phqdc1u1swlTBe_P
A:「疑問に感じた」ー「と考えた」となっていて、その間には「答えだと自分が思ったこと」が書いてあるだけです。これでは、論理になっていませんよね。なぜそのように考えたのかのロジックをきちんと示してください。また、参考文献は、単に話題提供のきっかけにしかなっていません。この内容であれば、講義を聞いていなくても書けてしまうという点でも物足りません。
Q:今回の講義では、分裂すると片方が捕食装置を持ち、もう片方は緑色で光合成が可能な真核藻類の共生体を持つハテナと呼ばれる生物の存在を学んだ。原初の植物はシアノバクテリアから一次植物、二次植物の段階を経て進化していったが、ハテナはどれに分類されるのか考察する。ハテナはシアノバクテリアを既に持っているため、一次植物の段階には達していると考えられる。では、二次植物として考えてみると、代表的二次植物のクリプト藻類とクロララクニオ藻類と比べて、ヌクレオモルフ段階には達しておらず、共生体自身の核とミトコンドリアが残っている状態である。また、分裂後の共生体を持っていない方のハテナでは、そもそもシアノバクテリアを持つ共生体を失っているため一次植物とすら考えることができないのではないかと考えられる。以上のことから、分裂前のハテナは一次植物より二次植物に近いが、二次植物にまでは至れていない、いわば一次植物と二次植物の中間に位置する生物なのではないかと考えられる。
【参考文献】日本植物学会/第一回 ハテナという生物/井上勲 岡本典子/2022-4-30 閲覧、https://bsj.or.jp/jpn/general/research/01.php
A:「シアノバクテリア」をもっているという言い方は、やはりよくありません。共生しているのであれば葉緑体でしょう。考えのロジックは一応示されていますが、なんとなく当たり前な感じのロジックになっているので、もう少し「考えた感」のあるレポートにできるともっと良いでしょう。
Q:シアノバクテリアは真核生物と共生してからゲノムサイズを小さくしたことを学んだ。この時、10分の1以下という割合で、未だに葉緑体にゲノムを持たせているのだろうか、全部を真核細胞がゲノムを管理すればよいのではないか、疑問に思った。葉緑体にゲノムを残す利点があると考え、(1)葉緑体DNAから生産するタンパク質が重要、(2)物質としてDNAをある程度残すことが必要、(3)真核生物のゲノムを大きくする必要が無い。(1)は、前回講義で知ったルビスコなど、実際に真核生物のゲノムと協調することで、個体として最適な機構を保てることなど、DNA自体がとても重要である考え。(2)はDNA自体が、個体が生きる上の貯蔵庫的存在であるという考えで、実際に、植物にとってリンは需要であり、それを保てる。(3)は、葉緑体としての秩序を保つ以外で、真核生物がゲノムとして保持しなくても、葉緑体のみが持っていてくれていれば良いゲノム情報があるという考え。(1)に関して、実際にタンパク質を作成しているが、ゲノムがかなり縮小されていて、ルビスコも半分のサブユニットは真核生物由来であったことから、ゲノムを縮小する中で、単に最適な割合を見つけたとも考えられ、葉緑体にゲノムを残す理由にはなるが、最も重要な理由でなさそうである。(3)は、葉緑体の秩序を保てる最小限のゲノムが結果的に残ったという考えであるが、真核生物が葉緑体の秩序を保つことも可能そうである。(2)の化学物質の貯蔵は、DNAという安定な分子でリンなどの重要な元素を、万が一のために保てるため、また、個体のゲノムからは物質を扱えられないので、この案はある程度考えられる。葉緑体に、あえてゲノムを残しておくという疑問に対しては、(2)の元素貯蔵庫的な考えもでき、存在自体がメリットになるという考えもできる。
A:これは、自分の疑問に対して複数の回答を考え、それらを比較検討している点で評価できます。講義の中では、寄生藻類やマラリア原虫のゲノムの大きさについても触れたと思います。そのようなデータに基づいて論理を展開できるともう少し説得力が出ると思います。
Q:ハテナは藻類を共生させている不思議な鞭毛虫である。ハテナは藻類を共生体として葉緑体を得て植物化をする。ハテナの分裂の様子は特殊である。娘細胞の片方は藻類を保持しているが、もう片方の娘細胞は無色で藻類を持っていない。この分裂について考えてみる。このようにハテナの分裂において藻類部分の分裂は行われていない。その原因としてハテナが共生藻類を制御しきれていないことが挙げられる。ハテナの共生藻類も共生時の方が通常時よりも葉緑体の数が増加している傾向に見られ、ハテナによる支配が起きていることに間違いない①。さらにハテナが支配を強めれば、分裂が同調し、分裂後も二個体とも藻類を共生した状態できるのではないか。しかしハテナがそれを行わないのは、共生藻類の細胞小器官を用いるためではないだろうか。前回の授業のクリプト藻類でも、共生した藻類の細胞小器官は機能や形を失っていた。またハテナの共生藻類の眼点はハテナの鞭毛側にくるという規則性がある。これによってハテナは光を感知している①。つまりハテナは葉緑体の分裂まで制御をしてしまえば、ハテナが持つ眼点など器官を利用できなくなってしまうと考えられる。ハテナにとって、葉緑体と自身の細胞分裂を同調させることと、共生藻類の器官を用いることには1種のトレードオフの関係があり、結果として共生藻類の器官を用いるためにこのような分裂になったと考える。
① 山口春代, 「動物と植物のあいだ?半藻半獣の生き物ハテナ」, http://bsj.or.jp/frontier/BSJreview2010A4.pdf, (閲覧日2022年4月30日)
A:これは、議論を論理的に進めてはいますが、その内容は、参考として挙げられているWEBページの内容をなぞってしまっています。この講義のレポートで重要なのは、自分なりの独自の考えなので、なるべく、自分で論理を組み立てるようにしてください。
Q:今回の講義で植物の部位によって色素体が違っていることを聞いた。葉には葉緑体、根には白色体、未分化な植物細胞には原色素体、花には有色体が存在する。植物の葉の色は葉緑体で緑色か黄緑色であるということが理解できるが、花の色は植物によって多種多様である。なぜ花の色は種類が豊富なのだろうか。調べると花は3種類の光合成色素で色を呈色していると知った。薄い黄色の元となるフラボン、オレンジ色の元となるカロテン、赤、青、紫色の元となるアントシアンだ。この3種類の光合成色素が混合されることによって多種多様な色ができている。しかし、緑色の花を見たことがないように感じた。花の色を緑色にするために私が考えたのは葉に存在する葉緑体を花に入れ込むということだ。葉緑体は緑色の光合成色素であるクロロフィルなどが多く存在している。よって葉緑体を花の細胞に入れ込むことができれば緑色の花ができると考えた。花に入れるためにはABCモデルの理論を使って、葉の部分を花弁のような形状にすることはできないかと考えた。また、萼も葉と同じように緑色の光合成色素を持っていると考えられるため萼の部分を花のように見せると形状的には萼であっても見た目的には緑色の花弁ができると考えた。
参考文献:学研 花にはどうしていろいろな色がついているの https://kids.gakken.co.jp/kagaku/kagaku110/science0238/
A:「調べると」というのは、少し情けないですね。この話は、既に履修しているはずの必修の植物生理学Iで詳しく解説したはずです。また、アントシアンが光合成色素ではない、という話もそこでしています。まずは、復習が必要かもしれませんね。
Q:講義中において、100個の葉緑体を持つ細胞の分裂の話があった。細胞分裂様式を見る限り、赤道面の中央に細胞板が生じることでおおよそ半数近くに分けたのち、フィードバック調整によって葉緑体が多かったら減らされ、少なかったら増やされるとのことである。この葉緑体数を調整する仕組みの詳細について気になったので調べてみると、「植物の葉緑体分裂装置の構成因子であるPDV1、PDV2(PLASTID DIVISION 1と2)タンパク質の量によって葉緑体の分裂速度が変化し、葉緑体の数や大きさが調節されている?」とのことである。この仕組みを応用することで、葉緑体数を通常より増やすことが可能になり、デンプン量の多い作物の開発などが可能になると考えられ、より栄養価の高い作物の開発につながるのではないかと考えた。
参考文献1:理化学研究所.Home>研究成果(プレスリリース)>研究成果(プレスリリース)2009、植物の葉緑体の数と大きさを調節する仕組みを解明、-葉緑体の制御でデンプンなどの生産新作物の開発にも貢献-2009年7月1日、https://www.riken.jp/press/2009/20090701/index.html(参照2021-04-11)
A:これも、調べたプレスリリースの内容をなぞっているだけで、論理の独自性は感じられません。もう少し、自分の頭で考える習慣をつけましょう。
Q:講義の中で出てきたユーグレナに関して、近年完全栄養食としての活用が期待されているが、1点推測を立てた。それは、ユーグレナが完全栄養食になりうるほどに栄養素を豊富に含んでいるのは、ゲノム数が多いためであるという推測である。渦鞭毛藻であるユーグレナは4ゲノムであり、動物や植物に比べゲノム数が多い。世に出回っている完全栄養食であるBASE BREADやHuelなども1種類の植物を軸に作られているわけではなく、あらゆる植物を組み合わせて作成されている。以上から異なる栄養を生み出すためにはその分多くの種類の遺伝情報を必要とし、異なる生物種を共生させた生物は生み出すことのできる栄養素が増加するためであると推測する。また、ゲノム数の多さから単純に必要な栄養素も増加したためであると推測する。
A:栄養素をゲノム数と結び付けて考えているのは、独自の考え方として評価できます。一方で、ここでは、それを論証するために、3つの例の内、ユーグレナと残りの2つの違いを使っていますが、それだけだと、やはり説得力に欠けるように思います。また、「完全栄養食」なるものを前提として無批判に使っている点も気になります。
Q:ハテナという生物は、緑藻の仲間が二次共生してできた二次植物であると考えられる。この生物は、細胞分裂の際に葉緑体が片方の娘細胞にしか分配されず、葉緑体を持たない方の細胞は捕食装置ができ、新たに藻類を取り込むという不思議な生物である。一方、ミトコンドリアと葉緑体を細胞内に1つしか持たない藻類では、核とオルガネラの分裂が同調して1つずつ分配される。このことから、ハテナには核とオルガネラの分裂を同調させるような機構がまだ発達していないため、葉緑体が偏ってしまうのだと考えられる。しかし、藻類を取り込むための捕食装置は葉緑体を持たない個体にしかない、共生藻の眼点をいつも同じ位置に配置する[1]といった点から、葉緑体と宿主の細胞とで全く連携がとれていないわけではない。ネット上の情報では、これはハテナが二次共生の途中の段階の生物であることを示すとの記述がある[1][2]が、別の可能性も存在する。それは、ハテナの遺伝子発現のシステムがその他の藻類の宿主に比べて頑健であるため、葉緑体から核への遺伝子の移行が起こりにくかった可能性である。もしそのような特徴があるなら、葉緑体と核の分裂は同調しないことの説明がつく。また、同じように共生を起源とするミトコンドリアについても、ハテナにはミトコンドリアが複数あるようなので([1]の図5より)、核の分裂と同調していなくても両方の娘細胞にいくつかずつ分配されるだろう。これについてもミトコンドリアから核への遺伝子移行が少ないからだと考えられる。
[1]山口晴代, 動物と植物のあいだ?―半藻半獣の生き物ハテナ―、https://bsj.or.jp/jpn/general/bsj-review/BSJreview2010A4.pdf、[2] 日本植物学会, 井上 勲・岡本典子(筑波大学大学院生命環境科学研究科), 【第1回】ハテナという生物:植物になるということ、https://bsj.or.jp/jpn/general/research/01.php
A:これは、調べた結果のWEBページに書かれたことをうのみにせず、そうではない可能性をきちんと考えている点で評価できます。論理構成としては、最後のミトコンドリアの話を前にもってきて、それを遺伝子発現の頑健性の一つの証拠として説明すると、流れがよくなるように感じました。
Q:授業では共生説が取り上げられていた。そこで、シアノバクテリアが取り込まれた時になぜ吸収されずに葉緑体として残ったのかについて考えた。例えば、人が魚を体の中に取り入れたとしても、人は魚の機能を取り込むことはない。これは消化によって魚をアミノ酸などの形で吸収して取り込んでいるからだ。このように考えると、シアノバクテリアが取り込まれて、葉緑体という形で光合成の機能を残したことは非常に稀である言える。ただ、シアノバクテリアは葉緑体と等しくないことから、シアノバクテリアの遺伝子のほとんどは失われたが、光合成をおこなう遺伝子のみが残ったと考えた。光合成の遺伝子がそのままの形状で残ったのは、光合成の遺伝子がバラバラになることがないか、またはバラバラになったとしてもすぐに元に戻るからだと考えた。すぐに元に戻ると仮定すると、光合成の遺伝子は磁石のように引き合う性質を持っていると考えられる。そして、光合成の遺伝子のみが残ったとすると、葉緑体の遺伝子はシアノバクテリアの遺伝子の数よりも少なくなっているのではないかと考えた。そこで調べてみたところ、(1)より「シアノバクテリアが3000~4000個の遺伝子を持っているのに対し、葉緑体にはわずか100個ほどの遺伝子しかない。」とあった。葉緑体の遺伝子の全てがシアノバクテリアから受け継がれているとは限らないので、シアノバクテリアの遺伝子の中で光合成の遺伝子は2.5%~3.3%以下だと考えられ、稀に共生したとしても、ほとんどの遺伝子が失われることがわかった。
参考文献:(1)遺伝子が「一生を過ごす」場としてのゲノム 小保方潤一、https://www.brh.co.jp/publication/journal/056/research_11_2
A:「調べてみたところ」とある部分は、まさに講義で紹介した部分ですし、配布しているプレゼンのPDFファイルにも、ゲノムサイズの比較が出ていますよね。レポートを書く前提として、講義の内容を踏まえるようにしてください。
Q:今回生物のゲノムの数についての言及があった。動物は核とミトコンドリアの2ゲノムだがクリプト藻類を共生させた繊毛虫は6ゲノム存在している。つまりこの世の中の生物は全て2ゲノムではなくもっと多数のゲノムを持つことも可能である。しかし食物連鎖の頂点ともいえる人間は2ゲノムとして存在している。6ゲノムの方がより多くの事ができる可能性があるが6ゲノムではないということはデメリットがあるともいえる。デメリットとしては機能の重複が考えられる。人間は2ゲノムとして存在しているが突然変異として6ゲノムになったら新しい機能を有している個体は体が適応できずに亡くなってしまう可能性がある。生き残ったとしても元の機能と被って余計なエネルギーを必要とする個体になってしまうと考えられる。そのため今現在の人間として存在するなら2ゲノムが適切であると考えられる。
A:これは、考え方の独自性という点からは評価できます。ただ、ヒトも酵母も2ゲノム生物なので、「食物連鎖の頂点」という見方は、あまり適切ではないのではないでしょうか。
Q:進化の過程で,葉緑体ゲノムの一部の遺伝子が核ゲノムに移行してきたと考えられることが紹介された。転写システムが違うなど,原核細胞由来の葉緑体ゲノムの遺伝子が核に移行することの難しさについて紹介されたが,そのような困難の伴うことが起こったということは核ゲノムに移行する何らかのメリットがある可能性が高い。どのようなメリットが考えられるだろうか。一部が核ゲノム由来遺伝子で作られる,ルビスコを例に考えてみる。ルビスコは光合成において炭素固定という重要な役割を果たす。細胞内に十分な光合成産物があるとき,炭素固定の速度を落とす負のフィードバックが,さまざまな機能に関与する核ゲノムにはたらいているとすると,その核ゲノムへのフィードバックが核のルビスコ関連遺伝子にも伝わっている可能性が高い。すなわち,核ゲノムにはさまざまな情報が集まってくるため,核ゲノムに葉緑体関連遺伝子を移行させることで,その情報に応答して葉緑体の機能を制御しやすくなるのではないか。これを示唆する検証実験としては,たとえばルビスコタンパク質に関して,核ゲノムのルビスコ遺伝子が核ゲノムの他の遺伝子や転写因子によって調節されていること,これがルビスコタンパク質の活性に影響を与えていることを確かめる実験が考えられる。
A:これは、ある程度独自の論理を展開していますし、情報の核への集約といった面白い観点を導入していて評価できます。検証実験についても、やや抽象的ではありますが、よいと思います。
Q:今回の講義の中で寄生性の渦鞭毛藻類が存在するという話があったが、なぜ葉緑体を持っていたのにもかかわらず従属栄養生物へと進化した渦鞭毛藻がいるのか疑問に思ったため考えていく。まず、寄生性の渦鞭毛藻の宿主を調べると、他の渦鞭毛藻であることが分かった(*1)。また、宿主は寄生生物に比べて保持するエネルギーが高いと考えられることから、宿主は従属栄養生物であると考えられる。つまり、寄生性の渦鞭毛藻よりも従属栄養生物で捕食性などの渦鞭毛藻の方が先に存在していたと考えられる。そこで、まず捕食性の渦鞭毛藻が誕生した過程を考えていく。まず、葉緑体を失った原因としては、はてなのように分裂した際に失ったことが考えられる。また、その際に通常であれば新たに葉緑体を取り込むことで得るが、誤って他の渦鞭毛藻などを取り込んでしまったものの、得た個体から得られるエネルギーのほうが自身の葉緑体で生産するエネルギーより高い、もしくは使用しやすいことから種として確立されたと考えられる。次に、寄生性の渦鞭毛藻が誕生した原因を考えていくと、他の渦鞭毛藻に捕食された際に生体内で捕食者のエネルギーを利用しながら生き残ったことが考えられる。また、生体内であるため葉緑体は退化していったが、マラリア原虫のように名残として今も存在し、光合成以外の何らかの役割を果たしている種も存在していると考えられる。よって、葉緑体を失った従属栄養生物の渦鞭毛藻でも、寄生性と捕食性によって葉緑体を失った過程は異なると考えられる。
(*1) 寄生性渦鞭毛藻の分子分類および海洋生態系における役割.東北大学 大学院農学研究科.https://www.agri.tohoku.ac.jp/aquaeco/nishitani/parasite.html
A:話題としては面白そうですが、文章内で、やや混乱があるように思います。捕食性の渦鞭毛藻の誕生過程で「得た個体から得られるエネルギーのほうが自身の葉緑体で生産するエネルギーより」とありますが、これははてなのように分裂して葉緑体を失った片割れの話をしていますよね。そうであればもう「自身の葉緑体」はもっていないはずです。おそらく「自身の葉緑体で」ではなく「自身の葉緑体にして」と言いたいのでしょうか。もう少し文章を推敲するとよいレポートになると思います。
Q:授業で、ハテナという微生物について知った。口のついたハテナが取り込む藻類はプラシノ藻類の1種である。ハテナとプラシノ藻は共生関係があると紹介された。プラシノ藻類は単細胞であり、細胞分裂によって増殖する。ここで私は、ハテナに取り込まれた後、プラシノ藻の細胞分裂はどうなるのか疑問に思った。プラシノ藻が増殖をし続ければ、ハテナの容量を超えてしまうからである。この事について、3つの説を上げる。ハテナの細胞サイズが約30μmであり、プラシノ藻類の直径サイズは約1μmである。ハテナの体積を単純に30μm2、プラシノ藻を球形だと仮定すると、体積は0.52μm2となる。最大でプラシノ藻はハテナの中に57細胞入ることができる。藻類は1日で細胞分裂するため、(文献1)1つの藻類の細胞を取り込んだとしたら、6日目にはハテナの容量を超えることになる。藻類を取り込んだハテナは6日で絶命するという説である。この説であると、共生しているとは言い難い。2つ目は、細胞分裂はし続けるが、ハテナ側も対策として、増殖した藻類を排出する器官を持っている説である。これであれば、ハテナもプラシノ藻も絶命すること無く、共生という形を保つことができる。3つ目はハテナに捕食された途端、増殖を止める説である。この説だと、プラシノ藻類は捕食された事により増殖活動が止められるので、若干不利だと言え、共生関係とは言い難い。共生関係に焦点を当てて、考えると、2つ目の説が最も有力だと考えられる。
1 https://www.nig.ac.jp/nig/images/research_highlights/PR20140509.pdf
A:これは、考え方は独自でよいとは思いますが、そもそも「はてな」が分裂しても片方はには葉緑体が受け継がれない、という話をしているわけですよね。とすれば、1つ目、2つ目の考え方は自動的に排除されてしまいませんか。
Q:今回の授業で真正細菌、動物、植物、クリプト藻など、細胞内に共生させていった器官が増えることでゲノム数が増加することを知った。しかし、このゲノム数の増加は分裂の際に不利になると考えることができる。ゲノム数が多ければ多いほど分裂の際正確なコピーが多く必要になるといえる。ハテナのような一部の特殊な細胞を除き、ミトコンドリアや葉緑体が分裂前と分裂後であったり、なかったりしてしまうことになってしまうからである。分裂が失敗した場合、すでに共生関係にある細胞はうまく機能しなくなってしまうと考えられる。複雑な機能を獲得する最も簡単な方法であるが生存確率が下がってしまうと考えられる。クリプト藻類を共生させた繊毛虫というものを授業で紹介されたが、この繊毛虫はほぼ単細胞であると見える。つまり、分裂に失敗した場合そのまま死ぬことになる。この繊毛虫はまだクリプト藻の核などを保有したままであるがこれは進化の過程で死ぬ個体が多かったがために進化が遅いと考えることもできる。複雑な機構の獲得を細胞内共生に頼ることと生存率の向上は相反することであるといえる。
A:これも、自分で考えていることはわかりますが、考えていることをそのまま次々分にしている感じで、全体として一つの論理構成にまとまっていないように思います。論理的な文章を書くためには、最初に問題設定をして、最後に結論をもってきて、その間をロジックでつなぐという書き方が必要です。このレポートの場合、最初に議論する問題をきちんと規定するだけでもだいぶ違うと思います。
Q:今回の講義は、葉緑体の起源の続きであった。細胞を構成するゲノムがいくつの起源をもつかということを生物を見る視点に加えると、真正細菌や古細菌は1ゲノム生物、ミトコンドリアを獲得した動物や菌類などは2ゲノム生物、さらに葉緑体を獲得した植物や一次共生藻類は3ゲノム生物、クリプト藻やクロララクニオン植物は4ゲノム生物となると学んだ。ここで疑問に感じたのは、共生した真核藻類のミトコンドリアもあるはずなので、クリプト藻やクロララクニオン植物は5ゲノム生物と呼べるのではないかということだ。これについて調べてみると、この証拠はまだ見つかっていないので現状は4ゲノム生物と呼ぶのが正しいことが分かった。
A:そもそも共生藻類では多くの場合ミトコンドリアが失われるという話は講義の中で紹介しました。講義を聞かずにレポートだけ書いても、評価の対象にはなりませんよ。