植物生理学II 第11回講義
炭素同化の仕組
第11回の講義では、カルビン回路による炭素同化の概略について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。
Q:講義内にあった「Rubiscoの進化」のグラフで、C4植物に存在するRubiscoはO2に対するCO2の反応性の比が、C3植物に比べ大きく異なっていた。そのため、C3植物とC4植物のRubiscoにどのような違いがあるのか疑問に思った。このことについて考察する。
C4植物はC3植物と違い、CO2を葉肉細胞で固定し濃縮してから維管束細胞の葉緑体に供給できるようになっている。そのため、C4植物はC3植物よりも高濃度のCO2を光合成に使用することが可能になっている。このことから、C4植物が、C3植物よりもCO2反応性の低いRubiscoを所持できるのは、CO2量を十分確保できるためであると予想できる。しかし、CO2の反応性が高いRuniscoのみを所持している方が光合成効率は良くなるはずである。なぜC4植物はCO2反応性の低いRubiscoを持っているのだろうか。文献①によると、「長期にわたって(週から月単位)植物が高CO2環境下で生育すると、その乾物生産量(バイオマス量)は一般に増加する」とされている。しかし、「高CO2環境下ではRuBisCOタンパク質量の減少が認められている」ともあり、高CO2環境に長期間晒されることは植物にとって良いことばかりでは無いようである。C4植物は、こういった長期間高CO2環境に晒される事による悪影響を、CO2反応性の低いRubiscoを持つことで回避していると考えられる。CO2反応性の低いRubiscoは、CO2反応性の高いRubiscoと比べてO2と比較的反応しやすくなる。RubiscoがO2と反応して産出される2-PGによってカルビン回路が阻害される。これにより過剰な炭素の流れが抑制され、C4植物のRubiscoの不活性化を防いでいる。
・・・と考えていたが、文献①を最後まで読み進めると高CO2環境下でのRubiscoタンパク質量の減少は、単純に葉への窒素供給量が減少するためであるらしく、生化学的な調整によるものではないということが分かった。つまり、自分の考察は間違いである可能性が高い。
【参考文献】①”化学と生物” Vol.51 No.5 (2013) 326-332『高CO2と光合成の生化学』牧野周
A:ルビスコに限らず、多くの酵素で、基質特異性と最大活性の間にはトレードオフの関係があります。これは、基質特異性を上げるためには、基質との結合力を強くする必要がある一方で、結合が強固になると、基質の回転速度が低くなるために最大活性が下がるのだと解釈できます。従って、ルビスコのCO2反応性に関していえば、CO2を濃縮できるC4植物は、基質特異性を上げる必要がないので、最大活性の高いルビスコを使っていると考えるとつじつまが合います。
Q:枯草菌はルビスコに似たRLPを持っていて、RLPを破壊した枯草菌にルビスコ遺伝子を導入すると生育機能を取り戻すことが紹介されていた。では、植物のルビスコを破壊し、そこにRLP遺伝子を導入した場合には、生育機能を取り戻すのかどうかを考察する。ルビスコは炭素固定の機能を有していて、RLPは硫黄代謝の機能を有している。このように、ルビスコとRLPはそれぞれ異なった役割を担っているものの、ルビスコ触媒部位近傍の19アミノ酸のうち11アミノ酸が共通していて、RLPはルビスコの祖先と考えられている。そのため、ルビスコとRLPの役割は異なっているものの、それぞれの酵素が行っている反応には共通点が存在すると考えられる。実際、ルビスコとRLPは、共通してエノール化を触媒する働きがあるそうだ(文献1)。しかし、RLPはエノール化のみを行うのに対し、ルビスコはエノール化以降にCO2を付加することができる(文献1)。そのため、RLPを破壊した枯草菌にルビスコ遺伝子を導入すると、ルビスコはRLPと同様にエノール化を触媒することができ、生育機能を取り戻すのだと考えられる。一方、ルビスコを破壊した植物にRLP遺伝子を導入すると、RLPはルビスコと同様にエノール化を触媒するものの、CO2を付加する反応を行うことができない。よって、ルビスコを破壊した植物にRLP遺伝子を導入しても、生育機能を取り戻すことはできないと考えられる。
参考文献 (1)中野寿宏「枯草菌RuBisCo-like proteinと光合成RuBisCoに保存されたアミノ酸残基の機能解析」、https://library.naist.jp/mylimedio/dllimedio/showpdf2.cgi/DLPDFR007791_P1-64(最終閲覧日:2021/12/11)
A:エノール化についてきちんと考察していてよいと思います。ルビスコ触媒部位なるものが、エノール化反応とCO2との反応に対してどのようになっているのかが、もう少し議論されると説得力が上がると思います。
Q:RLPの機能について考察する.授業内容より,RLPを破壊した枯草菌は生育できないが,Rubiscoを発現させると生育できることから,Rubiscoの酵素活性は硫黄代謝にも利用することができる.また,RLPは,Rubisco触媒部位近傍の19アミノ酸の内11アミノ酸を保持している.これらのことから,Rubiscoはもともと硫黄代謝で行われていた触媒機能(共通する11アミノ酸により触媒される)に加えて,二酸化炭素や酸素を付加する触媒機能(残り8アミノ酸により触媒される)を獲得したと考えられる.さらに,Rubiscoの基質であるRuBPの反応前後の構造を比較すると,反応によって酸素又は二酸化炭素が付加されると共に,3番炭素の酸素からプロトンが奪われ,2番炭素の酸素にプロトンが付加されている.このことから,RLPは少なくとも3番炭素の酸素からプロトンを引き離す反応,又は2番炭素の酸素にプロトンを付加する反応を触媒すると推察される.
A:「触媒部位近傍の19アミノ酸の内11アミノ酸を保持している」ことから、残り8アミノ酸の機能を推測しているので、その推測がどの程度説得力があるのかが重要になると思います。そのあたりをもう少し説明してもよかったかもしれません。