植物生理学II 第13回講義
光合成速度
第13回の講義では、光合成の速度とそれを左右する環境要因との関係について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。
Q:今回の講義では植物の光合成を律速する要素について触れられ、光・温度・二酸化炭素濃度など多くの要素が光合成速度を決定することが紹介された。とくにこの中で、光強度に対する応答性がC3植物とC4植物で異なり、またヒマワリはC4植物に近い応答を示すことについて、その意義を考えたい。
光合成速度の上昇には、光の強度がある程度強くなると飽和してしまうが弱光下では光合成速度がはやいタイプと、弱光では光合成速度が遅いが強光下でも光合成速度が速くなるタイプがあり、C3植物は前者に含まれC4植物とヒマワリは後者に含まれる。これはC4植物の場合は二酸化炭素濃縮機構を持つためであり、ヒマワリの場合は葉が厚く表が飽和をしても裏では遅れて飽和をするためで、それぞれ異なるメカニズムによって強光下でも光合成速度が落ちないというのが講義の内容であった。ここでヒマワリの葉を厚くするという戦略を考えてみると、利点としては単位葉面積当たりの葉緑体数を増やせるために講義内でグラフに示されたように強光下でも光合成速度を上げることが考えられ、また、通常ほかのC3植物が光阻害を受ける状況でも葉内部の葉緑体は表面の葉緑体によって被陰されて光合成機能を保てることが考えられた。一方、欠点としてはコストがかかることが当然上げられ、強光下ではクロロフィル総数当たりの光合成速度は非常に低くなることが挙げられると考えられた。これらの点から、ヒマワリは強光下でこそ葉の厚みを生かせると考えられ、実際に原産地を調べてみても原産は北アメリカの西部という、地球上でも比較的乾燥した場所であることが分かった1。
これらの点から、葉を厚くすることは強光下での生存に有利に働くと予想されたが、それでは光合成のC4化と厚葉は進化の収斂によって共存するのかを考えたい。より強光に強い性質としてC4型の光合成回路と厚葉は戦略が背反ではないために同時に発現しそうなものであるが、C4植物の場合には光化学系IIと光化学系Iの比がATP生成のために光化学系Iに偏っており、そもそも強光阻害を受けにくい。また、両方が同時に発現した場合には真に強光でない時間により多くの光子を必要とするC4回路とより強い光を必要とする厚葉は戦略としての噛み合いが悪く、細胞によって光合成の役割分けをするC4型光合成と輸送経路を長くしてしまう葉の大型化もそこまで相性がいいとは考えられなかった。
以上より、葉を厚くすることは強光に対する適応として有効であるが、C4回路とは共存しづらいC3植物ならではの適用様式ではないかと考えた。
文献1: 世界大百科事典(改定新版 平凡社 2007年)
A:これは面白いですね。実際に厚い葉をもつC4植物が存在するのかどうかが、この議論の一つのカギになると思うのですが、僕の知識ではぱっと思いつきません。ちょっと調べてみたいところです。
Q:温度光合成曲線で、気温上昇とともに光合成速度が上昇する傾向があったが、一定の気温を超えると光合成速度が低下する傾向が見られた。これは、高温ではCO2の水中溶解度が低下し光呼吸が盛んになることが原因とのことだった。ヒトの例を持ち出すと、高温条件では呼吸量が増えて肺での酸素の取り込みが加速し、血液循環量も増えることが考えられる、これが結果的に熱放散にも働く。同様に植物でも高温での光呼吸の増大が熱放散に働いているのではないかと考えた。
A:これも注目した点は良いのですが、ちょっと消化不良ですね。高温で光呼吸を増大させて熱放散が大きくなることのメリットをきちんと記述するだけでも、ぐっとレポートの面白みが増すと思います。
Q:ヒマワリが厚い葉を持つために強光下で活性が上がり続けることを学んだ。このように厚い葉を持つことの利点と欠点を考察する。周囲の植物に比べて厚い葉を持つ株の場合、ある一定水準以上の光強度において葉面積あたりの光合成活性が高くなり、有機物生産量が多くなる。日光を浴びる面積が同じであるなら、厚い葉を持つ方が成長が速くなり、背丈を稼ぐのも速くなると考えられる。したがって、ある程度光強度の高い場所では、葉が薄い場合よりも成長が速くなる、というのが利点であると予想される。欠点は、まず弱光下では葉の裏側の葉緑体に光が届かなくなることから面積あたりの活性が薄い葉と大して変わらなくなり、葉の厚みを稼ぐ分生産した有機物を消費するため、逆に成長が遅くなることが挙げられる。また、光合成活性が高い場合、C3植物の場合は気体交換も盛んになるため、気孔を多く開く必要がある。そのため、土壌が乾燥して気孔をあまり開けない場合は、こちらでも葉にかかるコストによって相対的に薄い葉の場合よりも成長が遅くなると考えられる。次に、C4植物と比較した場合のヒマワリの利点を考える。どちらも強光下で光合成活性が高くなるが、C4植物の場合は乾燥条件下でもCO2を濃縮して活性を高められ、ヒマワリにはこれができない。しかし、逆に土壌の水分が十分である場合には、今度はC4植物は炭素同化の過程でヒマワリよりも余分にエネルギーを消費するので、その分ヒマワリの方が光合成の純益が高くなると予想される。また、ヒマワリは地中深くまで根を伸ばすという特徴を備えているが、これは十分な水分を地下深くから供給し、多少土壌の表層が乾いていても光合成活性を最大に高められるようにする工夫であると考えられる。
参考: https://sakata-tsushin.com/oyakudachi/lesson/flower/post_25.html
A:これは、よく考えています。特に、見落としがちな蒸散の影響をきちんと評価している点は高く評価できます。
Q:植物種と最大光合成速度の関係を見たときに、木本と草本では木本の方が組織を頑丈にするため速度が低くなっているという話が出た。これについて詳しく調べてみると、「長寿命の葉は、細胞壁が多いために多くの養分が細胞壁に分配され、光合成を行うのに必要なタンパク質への分配割合が低下すること、そして細胞壁が厚いことにより、葉緑体への二酸化炭素供給の効率が低下」*1することが原因と考えられている。この「葉緑体への二酸化炭素供給の効率が低下」には細胞壁の厚さ以外にも気孔の大きさが関係しているのではないかと私は考えた。頑丈な組織を形成するためには、セルロースが多く必要だと考えられ、セルロースを多く使う方法として細胞壁を厚くする以外に細胞を小さくするということが考えられる。そうなると、草本よりも木本の方が1つの細胞が小さく、孔辺細胞も小さい。よって、細胞間隙に二酸化炭素が入りにくくなるだろう。また、気孔が大きいとそこからウイルスなどが侵入する可能性も高くなる。そのため、寿命の長い木本で気孔を大きくすることにはリスクが伴うと考えられる。こうした理由から、気孔の大きさが最大光合成速度に影響を与えているのではないかと考えた。
*1 Yusuke Onoda, Ian J. Wright, John R. Evans, Kouki Hikosaka, Kaoru Kitajima, Ulo Niinemets, Hendrik Poorter, Tiina Tosens and Mark Westoby. (2017). Physiological and structural tradeoffs underlying the leaf economics spectrum. New Phytologist.
A:これは、面白そうな話題なのですが、細胞壁と気孔の議論が一緒になっていてやや読みにくいように感じました。気孔は、それだけ分離して別に議論したほうがすっきりしたレポートになったかもしれません。
Q:講義中に量子生物学の話を聞き、興味があったので調べてみた。量子生物学とは「量子生物学とは量子力学特有の直観に反するような作用があらわになっていないか、もしくは、生物の各過程を説明するうえで重要な役割をはたしていないかを探し求める学問」とされている。量子の振るまいの例え話として量子スキーヤーの話がある。障害物を前にした量子スキーヤーは障害物の左右を同時にすり抜けているように見えるのだ。これは量子が同時に異なる状態で存在できることを現している。この性質を量子コヒーレンスと呼び、光合成の光捕集に関わっている。近年バクテリアの光合成においてこの現象が観察されており、アンテナクロロフィルに捕集された光子は、量子コヒーレンス効果によって単一の経路を通るのではなく、同時に複数のアンテナクロロフィルを通って反応中心へとたどり着く。これによって熱放射されることなく、最も効率よく反応中心へと光エネルギーを伝えることができる。このように、量子力学によって解明されつつある生命現象は他にもある。例えば、酵素の働きは量子トンネル効果によって基質の電子が障害物を無視して伝わることを利用しており、酵素はその現象を発生させる役割を担っている。また、突然変異においても塩基の水素結合部分で量子の特徴的な働きが関わっており、水素(プロトン)の隣接した塩基間における移動が突然変異を引き起こしていると言われている。光合成の分野では特に電子の動きが多く関わっているため、例えば電子伝達における電子の動きを詳細に観測し、光合成の効率を上げるような仕組み(Qサイクルなど)を発見できるかもしれない。
A:内容としては悪くないと思うのですが、調べた知識の部分が多く、自分なりの独自のアイデアという面から見ると少し弱いですね。最後の1文だけだと、やや抽象的で物足りないですよね。