植物生理学II 第10回講義

C4光合成とCAM光合成

第10回の講義では、通常のカルビン回路だけを使う代謝とは異なる戦略によって炭素同化を行なう植物について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の講義では、C4型の炭素固定回路を持つ植物について扱われた。この講義を踏まえて、C4植物に木本が少ない理由を考察する。C4型・C3型光合成の比較を行った場合、C4型光合成はC3型よりも炭素の固定・同化にATPを2分子多く要求するが、二酸化炭素の濃縮によってRubisCOの炭素固定効率を上げられる特徴があることは講義で触れられた。また、この特徴によってC4植物は光が光合成の律速要因にならない場合には優占すると、ケニアでのC3植物とC4植物の分布を例も踏まえて考えられた。これらを考えると、C4型の光合成では光をより多く得ることが重要に思えるだろう。ここで、高木を例に考えた場合には、光環境で多種よりも高く成長することは決してC4型光合成に不利にはたらくとは考えにくい。つまり、多種との競争ではC4植物に木本が少ない理由は説明できないと考えた。同様に、森では林床が暗いために出芽が難しいことも、陽樹が陰樹に先駆けてギャップ等の形成後に成長する戦略が成立することから、それ以上に炭素同化効率のいいC4植物が不利な理由には弱いと考えた。しかしながら、同種間での競争では互いに同じように成長すると考えられ、他と高さで勝るということが難しくなる。こうなると高く成長することとのコストのバランスがとれなくなることが予想される。加えて、個体内での葉の光環境を比較した場合にも、個体を無闇に高くしても下方の葉は十分に光を得られるとは考えづらく、高くなるという戦略自体がC4型光合成にあまり向かないと考えた。以上より、C4型光合成は高木化という戦略に、とくに同種で群落を作った場合の競争や個体内での葉の配座の面から噛み合わず、木本が少なのだと考察した。

A:面白いところに注目していると思います。実際には、このテーマを考えるにあたっては、祖森林と草原がそれぞれどのような環境で優占するのか、という点にも注目したほうがよいかもしれませんね。生態学的には、森林が成立するのは、草原よりも降水量が多い気候帯だと思いますから。


Q:ケニアで海抜によってC3植物、C4植物の構成比が変化するという話に興味を持った。比較的低標高帯(<2050 m)にC4植物が存在し、C4回路を持つ植物は基本的に草本である事から、一般的に草本を食す草食動物とそれを捕食する肉食動物の生息分布も低標高帯に偏っているのではないかと予想がつく。実際に、低標高帯サバンナにはアフリカゾウ、シマウマ、トムソンガゼルなどの多くの草食動物がおり、それを食すライオンやチーターなど数多くの肉食動物がおり間違っていないように思える。では、C3植物が繁栄する高標高帯に草食動物は進出し食性もC3植物に適応する選択肢は無かったのだろうか。結果として高標高帯にC3植物を主食とする草食動物が繁栄していない理由として動物にとっての水分の確保のしやすさの違いがあると考えられる。標高が上がることで湿度は上昇しC3植物が水を吸収して生息できる環境となるが、あくまで植物が、水を媒介する土壌から水を受け取る高表面積な根を持っていた結果であり、(土壌などに含まれている状態からではなく)水場のように基本的には独立して存在する水分を口から摂取する(もちろん植物を食す事で間接的に水を得ることもする)動物にとっては、水分が利用しやすい環境とは言えないと考えられる。また、動物が水を得る事ができる場所、つまり水場は、水が高いところから低いところへ重力に従って流れる以上、水分不浸透の岩盤が出現しない限り高標高帯に出現することは考え難い。これらの利用可能な水分条件という点で、高標高帯に草食動物が進出し同時に食性もC3植物に適応するという事には至らなかったと考えられる。
《参考文献》(1) L. L. Tieszen. et al. The Distribution of C3 and C4 Grasses and Carbon Isotope Discrimination along an Altitudinal and Moisture Gradient in Kenya. Oecologia (Berl.)1979. Vol.37, P.337-350

A:これも面白い考え方でよいと思うのですが、最初に答えが水場の存在に限られてしまっていて、それと他の条件が矛盾しない、という論理構成になっているので、その他の可能性があるのかないのか、あるとすれば、その可能性と、水場が原因である可能性は、どちらがもっともだと考えられるのか、という点が少し弱いように思いました。


Q:今回の講義では、C4植物の方がC3植物と比べて、CO2濃度が光合成の律速条件になる環境下での生育に適していることと理解し、また、C4植物は単系統ではなく、多元的に発生したことを学んだ。そのことから、C4植物の現在に至るまでの繁栄はCO2濃度の低下によって引き起こされたことが推測できるが、C3植物がすでに繁栄していた時代にどのように分布域を広げたか気になった。いくらCO2濃度が低下したとはいえ、すでに成長しているC3植物の群落でC4植物が生育するのは無理がある。私が思うに、C4植物の繁栄はCO2濃度の低下とは別にC3植物の生育に不適な環境変化が起き生じたのではないかと考える。

A:レポートのテーマとしては面白いと思います。ただ、最後に考えた上で、それを何らかの形で論証するような記述があると、全体としての説得力が増すと思います。