植物生理学II 第8回講義

光合成電子伝達の仕組み

第8回の講義では、光合成電子伝達の調節機構を含めた仕組みについて解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:私は講義の中で、アサクサノリにて系IIの反応中心に分布するクロロフィルはわずかである、という理解をした。安直に考えると、系IIの反応中心に、よりクロロフィルを配置すれば系Iに電子を送る反応が促進され、系Iからカルビン・ベンソン回路へのNADPH輸送も効率的ではないか、という風になってしまう。そうしない理由を考える。それは強光条件への適応が大きいと考えられる。もしも系IIの反応中心に、よりクロロフィルを配置すると強光条件での系Iへのプロトンの流入が過多になる。この際、酸性条件となるため集光アンテナのLHCSR1が活性化され、集光アンテナがとらえた光エネルギーが光化学系Iへと渡されて同化反応が進行し、結果として系IIが受けた強エネルギーは逃がされるという仕組みだが(1)、系Iの反応速度に限界があり、プロトンをNADPH合成に使う反応が追いつかず、系Iの酸性化が進み恒常性を乱して傷害を受ける危険があるのではないだろうか。系Iが傷害を負うと、必然的に系IIの保護機能は失われ、系IIも傷害を負うことが予想される。よって、系IIの反応中心にクロロフィルが少ない理由は強光に対応する際、系Iの反応速度に限界がある、また、もし系Iが傷害を受けた時に系IIもおのずと傷害を受けるため犠牲となるクロロフィルを減らす方が好ましい、こういった理由で系IIの反応中心に含まれるクロロフィル量はわずかなのではないだろうか。
《参考文献》(1)プレスリリース - 植物が強すぎる光エネルギーを逃がす新たな仕組みが見つかる. 基礎生物学研究所. http://www.nibb.ac.jp/press/2018/03/20.html (2019年11月30日閲覧)

A:系IIのクロロフィルが少ないという理解はそれでよいのですが、系IIは、代わりにフィコビリソームをアンテナとして使っているわけです。フィコビリソームを単てなとして使った場合は、問題が生じない理由を記述したほうが論理がしっかりすると思います。


Q:酸素発生の量子収率のグラフを見ることで、500~600 nmでクロロフィルの光の吸収は下がるものの吸収された光は酸素の発生に大きく寄与することがわかった。このことから、「植物工場において、緑色の光を使わないから光合成効率が良くなった、という解釈は間違いである」と授業中の話にあったが、では植物工場における最適な光の利用方法とはどんなものであるか考えてみたい。植物工場で育てるものが小形の葉物野菜であると仮定するならば、一般的にはクロロフィルa,b、βカロテン、ルテインが含まれてると考えられる。まず光合成効率を上げるためにはクロロフィル励起のための435 nmの青色光、685 nmの赤色光は必要不可欠である。これについては「植物の健全な生育にはこの赤色光と青色光がバランスよく配合されていることが大切で、後に述べる光量子束密度の単位でR/B比(赤と青の比率)が10:1あるいは5:1が適切なようである」*2と述べられている。葉の内部まで光を届けるには500 nmの緑色光も利用すべきであるが、小形の葉物野菜の場合は植物群落の高さがそこまでなく葉の重なりも少ないと考えれば、光の量はそれほどなくてもよいかもしれない。これら光合成有効放射に加えて、「『光形態形成』(種子発芽・子葉の展開。節間伸長・葉緑素合成・花芽分化など)と『二次代謝物質生産』(サポニン・ポリフェノールなどの機能性物質の生産)に関与」*1している近紫外線放射(315~400 nm)と遠赤放射(700~800 nm)も必要であるだろう。酸素発生の量子収率のグラフを見る限りでは、480 nm付近でカロテノイドが余分なエネルギーを熱に変換しているということから、480 nm付近の光はそれほど必要ではないかもしれない。結論としては幅広い波長領域が植物の生育のためには必要であるのだが、それぞれの波長の光の量まで加味することが重要であると考えられる。
*1 古在豊樹 監修、『図解でよくわかる植物工場のきほん』、誠文堂新光社、2014年、p 76、*2 文部科学省、http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/toushin/attach/1333537.htm、2019/11/30

A:最初の「クロロフィル励起のための435 nmの青色光、685 nmの赤色光は必要不可欠である」は、不正確です。講義の中で触れたと思いますが、青い光でも赤い光でも、クロロフィルに吸収されたら、同じ光化学反応がおこりますから、どちらか一方だけで十分です。赤い光が必要なのは、後ろに出てくる光形態形成に大きな影響があるためです。青い光も、青色光受容体が様々な生理応答に使われていますので、そこで必要になります。


Q:本講義では葉緑体の量子収率を光の波長別に見た結果、光合成で重要なのは光の波長、つまりエネルギーではなく、光子の数であると学んだ。それは、つまり1光子あたりのエネルギーが大きい短波長が照射された際には、エネルギーの損失が多いと考える。なぜ植物はこの余分なエネルギーを利用できなかったのか疑問を抱いたが、これはATP合成酵素が1回の回転に必要なエネルギーを確保するのが重要なのではないかと考えた。

A:最後、「考えた」根拠が全く示されていないので、評価のしようがありませんね。


Q:水を分解し、NADPHを還元するためには酸化還元電位の差が大きすぎる。そこで、二つの光化学系を用いて、NADPHの還元に必要な電位差を確保している。NADPHの還元電位を見ると、光化学系Ⅱのみでも辛うじて還元できそうなものではあるが、おそらく他の電子伝達に関わる分子が間に入らなければ、光エネルギーによって励起された電子はすぐにP680の電位まで戻ってしまう。これを防ぐために、ある程度余裕を持たせた酸化還元電位の幅が必要なのだろう。また、この余裕を用いて電子伝達を担う分子を複数配置すれば、プロトンを能動輸送することもできる。であるので、Zスキームは植物にとって一つの工夫で様々な利点が得られるシステムであると考えられる。

A:最初の一文は、知らない人が読んだら全く意味不明です。後半の展開は、意味が分かりますが、講義の内容に沿ったものなので、もう少し独自のアイデアが欲しいところですね。