植物生理学II 第10回講義
CAM光合成
第10回の講義では、乾燥した環境に適応して夜間に気孔を開くCAM植物について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。
Q:授業で、チラコイド膜上の光化学系Ⅰ、光化学系Ⅱの分布は均一でないと習った。また実習で葉の蛍光を測定したところ、葉の表側と裏側でも光化学系の分布は異なるという結果が得られた。光化学系Ⅰ、光化学系Ⅱの分布は何によって決まるのだろうか。光化学系Ⅰのアンテナタンパク質LHCⅠ、光化学系Ⅱのアンテナタンパク質LHCⅡはどちらもクロロフィルa,bの両方を持つが、LHCⅠの方がクロロフィルaの割合が多い。光合成効率を高めるために、反応中心にもなるクロロフィルaを多く持つ光化学系Ⅰは光が多く当たる場所に存在するのではないかと考えられる。しかしながら、葉緑体の電子伝達機構においてはじめに太陽光を受け取るのは光化学系Ⅱであるので、光化学系Ⅱこそ光が多く当たる場所に存在のではないかとも考えられる。また光化学系Ⅰは太陽光以外にも、光化学系Ⅱが出す蛍光の波長にも吸収帯をもつが、光化学系Ⅱは光化学系Ⅰが出す蛍光を利用することはできない。いずれにせよ、光化学系Ⅰ、光化学系Ⅱは近接していなければならないことは明らかであるが、以上のことを踏まえると、光化学系Ⅱの方が太陽光のより当たる場所に存在しているのではないかと考えた。
A:面白い考え方ですが、電子伝達の順番と、光の受容の順番は、話が別です。もし電子伝達の系Ⅰと系Ⅱの間には、さまざまな電子伝達成分がありますから、系Ⅰに最初に光が当たっても、系Ⅱに最初に光が当たっても、どちらの場合も電子伝達自体は正常に進行します。
Q:今週の講義では、CAM植物の光合成の仕組みについて学んだ。今回はその講義内で紹介されたアイスプラントという植物を福島県で見られる土壌の放射能汚染の除染への利用について考察する。この考察では、福島第一原子力発電所事故で放出された主な放射能であるセシウムについて考察する。植物によるセシウムの除染は基本的に植物がセシウムをカリウムと誤認して取り込む性質を利用してカリウムに対して競合的に行われる(2)。アイスプラントは、表皮に存在するブラッダー細胞に塩分を取り込むため、浸透圧の調整のためにカリウムを多く取り込む性質を持つ(1)。この点で、セシウムの除染植物としては適当だと思われる。しかし、この点だけでは、ネピアグラスなどの生産量の高い除染植物と比較してその価値は高くない(4)。ここで、アイスプラントの海水と同じ塩濃度の環境でも問題なく生育する(3)という性質に注目する。福島第1原子力発電所事故の放射能汚染は海にも及んでおり、この海水を利用して生育させる事で、土壌だけでなく海の除染も可能だと考えられる。この点で他の除染植物と差別化できると思われる。次に外的環境について考察する。福島県の月平均気温は1.6~25.4℃であり(5)、低温耐性を持つアイスプラントの生育温度は5~25℃であり、冬を除いて生育には影響ないと思われる。以上の考察から、アイスプラントは土壌および海水中の放射能の除染に適した能力を持つと考えられる。
参考文献
1.中小機構「塩水でも育つアイスプラント-自然から学ぶアイデアの源泉 ネイチャーテック」(2011) J-Net21
2.環境科学技術研究所「植物によるセシウムの取り込み」2008 ミニ百科
3.東江 栄「アイスプラントを用いた土壌脱塩技術の可能性」2004 熱帯農業 48巻 5号
4.環境ビジネスオンライン「除染生物「ネピアグラス」放射能汚染された農地から高効率でセシウムを吸収」2014
5.オープンデータビジネス研究会 「福島県 福島の気候」気温と雨量の統計
A:今後の講義で触れる予定ですが、CAM植物の決定的な問題点は、光合成速度と成長速度が遅いことです。アイスプラントが野菜として成り立つのは、最初に低い塩濃度でC3植物として速く育てておいて、その後に塩濃度を上げてCAM植物に変換させているからです。そのあたりの切り替えをどのように行なうかが、実用化に向けての問題点になるかもしれません。