植物生理学II 第9回講義

C4光合成

第9回の講義では、ルビスコの光呼吸による光合成効率の低下を防ぐ仕組みとしてのC4光合成について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:C4植物はO2による光合成阻害をほとんどうけない。大気中のO2濃度の上昇に伴ってC4植物が登場したが、いまだに多数派はC3植物である。そのことの理由についてC44植物にはエネルギーを余分に消費するデメリットがあるということであったが、もう1つ考えられるのがC3植物のもつルビスコの進化である。ルビスコはCO2との基質特異性がとても高いため反応速度が遅いが、ルビスコが出現した35億年前には大気中のCO2濃度は現在よりもかなり高くO2も存在しなかったため、この“基質特異性の高さ”が本当に必要であったのか疑問に思われる。なので私が考えたのはO2濃度の上昇に伴ってルビスコの基質結合部位に変化が生じ現在のように基質特異性が高まったのではないかということである。ルビスコの基質特異性を高め、その数を増やすことで反応速度の遅さをカバーすることでC3植物は生き残った。現在C3植物がC4植物よりも多いのは、このルビスコの進化が、維管束鞘細胞を発達させ新たにC4回路を作り出す、C3植物→C4植物の進化よりも低コストで容易であったからである。

A:このような考え方もあってよいと思います。ただ、C3植物のルビスコの量は、葉緑体の全タンパク質の1/4を占めますから、コストという面からすると、なかなか厳しいものがあります。


Q:今回の講義では、主に光呼吸とC4植物の光合成の原理について学んだ。その中でC4植物がC4回路という合成経路によって二酸化炭素を濃縮して、ルビスコと酸素の反応を抑制し、二酸化炭素の固定を効率化しているという話題から、このC4回路を植物よりもルビスコの最大活性が高いシアノバクテリアなどの微小な光合成生物に導入すれば、その光合成生物の生産量は大きく上昇するのではないかと考え、この仮説について検討する。まず、植物と光合成生物の形態的な観点から見ると、多細胞生物と単細胞生物という違いが目につく。植物の場合、C44回路とカルビン・ベンソン回路は別々の細胞の葉緑体に存在し、ルビスコと酸素が出来るだけ出会うことのないようにして、二酸化炭素の濃縮をより効果的にしている。この時、単細胞生物は文字通り1つの細胞であるため、酸素の流入は避けられず、C4回路の効果は植物のものよりも落ちる事が考えられる。また、流入した二酸化炭素とルビスコが濃縮する前に反応しないように、チラコイドとストロマの他にもう一つ空間が必要となる。そのため、実質チラコイドのみ持つシアノバクテリアなどの原核生物はC4回路は適さず、ミドリムシなどの真核生物への導入が最もC4回路が効果を発揮すると思われる。次に、生態の面から考えると、光合成生物は基本的に水中に生息している。水中にも光は届くとはいえ、屈折や散乱によって地上よりも光は弱くなり、弱光の環境ではC4植物は不利である。これらのことから、C4回路の微小光合成生物への導入は、人工的な環境でしか生育できず、自然界ではすぐに淘汰されると思われる。

A:よく考えていてよいと思います。シアノバクテリアなどの水中の単細胞光合成生物は、C4とは異なる二酸化炭素濃縮機構を持っていますので、必ずしもC4回路を人工的に導入してもが役立たないとは言えないかもしれません。