植物生理学II 第8回講義
炭素同化の仕組み
第8回の講義では、光エネルギー変換によって作られたATPの科学エネルギーとNADPHの還元力を利用して、二酸化炭素を有機物へと固定する仕組みについて解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。
Q:今回は講義で学んだ二酸化炭素の固定の視点から、現在の二酸化炭素濃度が増加していく環境下での光合成生物の動向について考察する。二酸化炭素の固定は、ルビスコという酵素によって行われている。この酵素は反応速度が通常の酵素と比較して非常に低くなっており、光合成の速度の制限要因の1つとなっている。これは、ルビスコが二酸化炭素だけでなく、酸素とも競合的に反応してしまうことと、光合成生物が出現した当時は二酸化炭素濃度は現在の10倍以上であり、酸素による競合的阻害による影響はそれほどなかったこと、酸素と二酸化炭素では物性が似ており、大きさも二酸化炭素の方が大きいため競合的反応を防止する根本的な改良が困難だった為との事である。そのため、二酸化炭素濃度の低くなった現代では、陸上植物はルビスコの最大活性を低くする代わりに二酸化炭素がルビスコに結合しやすくしている。しかし、水生植物やシアノバクテリアは比較的二酸化炭素濃度の大きい水中に生息するため、最大活性が比較的高い代わりに酸素とも結合しやすくなっている。この最大活性のせいか、二酸化炭素濃度を人工的に上げても、光合成速度はそれほど上がらない、または低下するという報告も存在する(1)。この事から、今後CO2濃度が増加すると、最大活性の低い陸上植物は初期は今よりも繁栄する可能性はあるが、CO2濃度がルビスコの最大活性を追い越したとき、衰退していくと考えられる。しかし、CO2濃度を濃縮や蓄積という形とはいえ、体内のCO2濃度を制御しているC4植物やCAM植物は安定して生育すると考えられる。水中(海)の場合は、光合成生物のルビスコの最大活性が高いだけでなく、CO2が炭酸イオンなどのイオンとなる事で海のCO2の溶存量をある程度一定に保つことが出来ると思われるため、比較的安定して生育すると思われる。しかし、植物よりもシアノバクテリアなどの光合成生物の方がルビスコの最大活性が高いため、最終的には植物プランクトンなどが繁栄し、水中の光を占有する事で、水生植物が徐々に衰退していくことが考えられる。また、二酸化炭素濃度の上昇に伴い、光合成生物が対応する可能性もあるが、CO2は5億年前から7000万年前で約3000ppm減少しており(1)、1年で約0.00000628ppmの減少となるのに対し、現在の二酸化炭素濃度の上昇率は30年で約60ppmと(2)1年で2ppmの上昇となっており、その変化率の差は30万倍以上となっており、この変化速度に生物が対応できるとは考えにくい。よって、このまま二酸化炭素濃度が上昇し続ければ、陸上はC4およびCAM植物に、水中は植物プランクトンに占有されると考えられる。
参考文献
(1)彦坂幸毅・寺島一郎 「植物と二酸化炭素」2013 化学と生物 51巻 4号 p250-256
(2)国土交通省-気象庁 「二酸化炭素濃度の経年変化」
A:しっかりと考察していていいですね。海の場合は、二酸化炭素増大の影響は、pHにも及びますから、実際にはそちらの影響の方が大きい可能性も考慮する必要があります。
Q:ルビスコは炭素固定において中心的な役割を果たしているにも関わらず、著しく非効率である。酵素が働き出しても、その動作はとても遅い。通常の酵素の場合毎秒1000個の分子を処理できるが、ルビスコだと毎秒たった約3分子の二酸化炭素しか固定ができない。植物細胞はこの処理速度の遅さを、大量の酵素を作ることによって補っている。葉緑体はルビスコで満たされており、その量は葉緑体に含まれるタンパク質の半分を占めている。これにより、ルビスコは単一の酵素としては地球上で最も豊富に存在する酵素となっている。ではなぜ反応速度が遅いのか。ルビスコは昔別の代謝系に使われていた酵素が進化の過程で二酸化炭素固定能力を獲得したらしいことを明らかになっている。ということは元々は二酸化炭素固定とは全く別の酵素であり、それを改造しても限度があった、と考えられる。新しく何か別の酵素を土台に新ルビスコを作れば、もしかしたらもっと効率がよくなるかも知れない。
参考文献:https://pdbj.org/mom/11
A:悪くはないのですが、講義の内容をなぞる形になっているので、もう少し独自の視点を入れてもらえるとよいと思います。