植物生理学II 第6回講義
光合成電子伝達の仕組み
第6回の講義では、クロロフィルの合成酵素について触れたのち、光合成の電子伝達のあらましについて解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。
Q:光化学系ⅠとⅡの2度に分けて光エネルギーを使った酸化還元電位の上昇が起こる理由について考察する。結論からいえば、太陽の光の量に限界があるからということになる。ギブスの自由エネルギーの式から考えると、自発進行する呼吸の反応では、発熱・エントロピー増大(⊿H<0・⊿S>0)となる。一方で、光化学系Ⅰ、Ⅱで行われている反応はこの逆であるから、吸熱・エントロピー減少(⊿H>0・⊿S<0)となる。つまり光エネルギーから熱と仕事を同時に得ている。絶対零度でエントロピーが0と定義されていることから、吸熱しながらエントロピーを減少させるのにはエネルギーを多く消費することが推定される。このことから光合成は太陽のエネルギーをもってしても2度に分けないとできないと言える。もし太陽の光がもっと強ければ、光化学系は1つで済んだかもしれない、光化学系Ⅰと光化学系Ⅱはオゾン層が形成された36億年前よりさらに前に誕生した。当時はそれぞれ1つの光化学系のみで酸化還元電位を十分に上昇させられたが、オゾン層が形成されたことによって、太陽光が弱くなり、27億年前に誕生したシアノバクテリアは2つの光化学系を取り入れた。逆に1つの光化学系のまま進化した紅色細菌や緑色硫黄細菌は弱い光に対応して光化学系をそれぞれ変化させた。
A:この点については、次回の講義で詳しく解説します。「太陽の光がもっと強ければ」という部分には注意する必要があります。光が「強い」というのは、通常は「光子の数が多い」ことを意味しますが、光子の数が多くても、1つの光子によっておこる反応以上のことをさせることはできません。よりエネルギーの高い反応を起こそうと思ったら、光子1個のもつエネルギーを大きくする必要があります。これは、より短波長の光を使うことと同じです。
Q:今回の講義では、光合成や色素の合成経路について学んだ。その中で、クロロフィルaの前駆体の、プロクロロフィルドからクロロフィルドaへの合成の際の酵素が被子植物のみ光依存性である事に興味を持ち、何故被子植物のみこのような特徴を獲得したのかについて考察する。この反応には、プロトクロロフィリドレダクターゼという酵素の働きによって起こっており、この酵素には光依存性と光非依存性の2種類があり、裸子植物、光合成細菌などは両方備えているが、被子植物は光依存性のものしか持たないため、被子植物は暗条件下ではクロロフィルaを合成する事が出来なくなるため起こる(文献1) 。 今回は、植生の分布の面から考察する。主な裸子植物である針葉樹が優占する植物群落はほとんどが冷帯地域などの気候の厳しい環境に存在し、他は被子植物が優占している(文献2)。今回はこの事をこの酵素の違いが関係していると仮定する。温暖な地域の場合多くの植物同士の競争が激しい。その時、突然変異で光非依存性の酵素の遺伝子を欠失した個体が夜や、他の植物が上に存在する時など、光がないときは今まで光合成色素を作る分だった栄養を植物体の成長に回し、より体長を長くするようになる事で他の植物との競争に打ち勝つ事ができると思われ、この形質を持つ子孫が自然選択によって広まっていったと考えられる。しかし、冷帯の場合、気温が低いという事は光量及び代謝も低いという事であるため、少ない光を効率よく吸収する事が求められるが、代謝が低くなっているため光依存性の光合成色素合成経路では色素の合成が光を吸収できるタイミングとずれてしまい、結果的にいつでも色素を合成出来る裸子植物が占有する事になったと思われる。よって、被子植物の光合成色素合成経路の特異性は温暖地域での競争に適した形質であったため、そのまま被子植物全体の形質として定着したためだと考えられる。この仮説を確かめる実験としては、同程度の体長の伸長を示す裸子植物と被子植物を用意してそれぞれ低光量環境下と低温環境下での伸長の違いを比較する事が考えられる。
参考文献
(1)日本光合成学会 「クロロフィルaの生合成」光合成辞典 2015
(2)松本洋介 「スクエア 最新図説生物」第一学習社 2018 p250、251
A:面白いですね。このような視点から考察したレポートは今までなかったかもしれません。実際には、もやしが緑化するのにかかる時間は非常に短く、葉の寿命から比べればあっという間です。そのあたりも考慮に入れると、また、少し結論も変わるかもしれませんね。