植物生理学II 第2回講義
光合成研究の意義
第2回の講義では、光合成を研究することの意義を、光合成の地球生態系に対するインパクトや、人間生活における役割などから解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。
Q:地球上のエネルギーの流れとエネルギーシステムについて、人口増加を絡めて考察する。世界人口は1800年代から2000年代にかけて急速に増えている。人間は他の動物と違って自ら植物を育てるが、このために例えば山を切り開いて畑をつくるとなると、それはつまり、それ以前にそこに存在した植物が可視光を吸収し光合成によって合成した糖のほとんどが人間よりも小さな動物たちにしか利用されなかった(地球上の動物の70%以上が昆虫であるということから。) のが、私たち人間が摂取する植物に生え変わることで、同じ光合成量でも化学エネルギー、最終的には熱、赤外光に変換される割合が増えるということではないだろうかと考えた。よって人口が増加すると、太陽放射の量がかわらないのに対して、地球放射の量は増えていくので、次第に地球の温度は下がっていくはずである。また現在、人口が増加しているのはアフリカなどで、欧州やアジア大陸では人口が減少している。アフリカは第一次産業の割合が大きいこともふまえると、地球温暖化は人口増加に伴って収束していくのではないか。
A:面白い考え方ですね。これに加えてもう一つ考える必要があるのが、二酸化炭素の側の問題です。人間が摂取しない山の森の材木は、分解しにくいセルロースが主成分ですから、そのまま有機物の形で残っていたはずです。そうすると、人口が増加すると、分解量が増えて、二酸化炭素濃度は上昇します。そちらの側からは、今度は地球温暖化は人口増加に伴って加速していくことになってしまいます。さて、どちらの効果が大きいでしょうか。
Q:今回の講義の中で、葉緑体の起源はプロトシアノバクテリア(以下PC)であり、シアノバクテリア(以下C)や光合成細菌はその生物から分化したというFusinon説に興味を持ち、このPCの光合成では何を利用していたかについて考察する。まず、現在確認されている最古のC(と考えられている)の化石と、Cの繁栄を示す縞状鉄鋼層の年代の間には数億年の差がある(1)(2) 。この時、PCがCのような酸素発生型の光合成を行っていたと仮定すると、先述の化石の年代である35億年前の時点でもある程度縞状鉄鋼層が形成されたはずであり、この化石がCではなく、PCと仮定しても、数億年の空白期間が出来るとは考えにくい。この事から、PCの光合成は酸素発生型ではないと考えられる。次に、生命が誕生した環境として有力である熱水噴出孔からは光合成細菌による光合成に必要な硫化水素も排出されている事(3)、熱水噴出孔には硫化水素を利用しエネルギーを得ている生物がいることから(4)、プロトシアノバクテリアは光合成細菌のような硫化水素を利用した光合成を行なっていたと思われる。ただし、海底に存在する熱水噴出孔付近では太陽光が届かない事、太陽光の届く海面付近では熱水噴出孔の栄養分は拡散してしまうことから、PCは熱水噴出孔ではなく、温泉などの比較的水深の浅く、現在光合成細菌が主に生息しているような環境で誕生したと考えられる。このように、PCは現在の光合成細菌に近い仕組みを持っていたと考えられる。
参考文献
(1)ロバート・ジェンキンス 「古生物の部屋-生命の進化」1999-2007
(2)国立環境研究所「環境展望台-環境学習-探求ノート-地球の成り立ちと気候変動-地球の大気と水
(3)柳川弘志・小林憲正 「生命の起源の場としての海底熱水噴出孔」1988 地球化学 22巻p96-105
(4)園池公毅 「光合成の森-光合成の教室-光合成とは?」2015
A:その通りだと思います。もし、プロトシアノバクテリアが存在していたとすれば、酸素発生はしていなかったでしょうし、おそらくは、代謝を切り替えていずれかの光合成細菌と同じような生活をしていたと考えられますから、生育場所の、現在の光合成細菌とそれほど変わらなかったでしょうね。
Q:太陽光発電を自宅に設置するとなるととても高価な買い物をすることになる。しかし固定価格買取制度という制度で電気を売れることが保証されている。日中に節電をし、太陽光発電して電気を貯めることで売電量を増やし、収入を多く得ることができる。しかし、2019年に売電ができなくなる。これを「太陽光発電の2019年問題」という。売権がなくなった後も電気を売ることができるのか、売れる場合いくらになるのかという点が問題視されている。2018年になってもどうなるかを電力会社がはっきりと説明していない。経済産業省の見解では11円/kWhとされ、2009年の48円/kWhと比べると著しく下がっていることがわかる。売電するにしても値段が安いため余剰分の電力を売るよりも自分の家で消費した方が得になる。そのため、日中も節電はせずどんどん使って行った方が良いということになる。その電気を生かし生活がより良くなるようなシステムが生み出されれば太陽光発電の2019年問題は解決されるだろう。
A:最後の所、「生活がより良くなるようなシステム」の具体例が、少しでもあると面白みがぐんと増しますが。もう一工夫欲しいところです。