植物生理学II 第12回講義

光合成の収率

第12回の講義では、光合成の各ステップにおけるエネルギーの変換効率の観点から陸上植物と藻類の光合成を比較してみました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の講義において、光飽和点はあった方が良いといった内容であったと受け取ったが、飽和点など無く光合成速度が光の強さに比例して伸びた方が植物にとって都合が良いと私は考える。なぜならば、講義における説明で出てきた「葉を斜めにする」植物は、C4植物であることが多いように感じるからである。前回の授業で、C4植物はC3植物に比べ、光合成速度が光の強さに比例して伸びる形であると学んだ。もしも頭打ちがが顕著にあった方が葉を立てる形態をより生かせるのであれば、C4植物の光強度-光合成速度における光合成速度の頭打ちの形はもっと顕著であって良いはずである。しかし実際には、どちらかといえばC4植物の光強度-光合成速度のグラフの形はソーラーパネルのそれと似通っていたように思える。もちろん、C4光合成においてC4回路が行なっているのは光呼吸の予防であり、その結果できた酵素反応の形的に飽和しづらい形となっているのかもしれない。しかし、ならばこそ葉を立てる必要など無く、その葉の能力を引き出す為に、平たい葉をつけるべきでは無いであろうか。

A:サイエンスの世界では、相関関係と因果関係を区別することが重要です。「葉を斜めにする植物は、C4植物であることが多い」というのは、確かにその通りだと思います。しかし、これはあくまで相関関係です。一方で、今回の講義では、「光が強い環境では葉を斜めにする方が有利である」という話をし、また、炭素同化について話した際には、「光が強い環境ではC3植物よりC4植物の方が有利になる」という話をしました。この2つを合わせて考えれば、「葉を斜めにする植物は、C4植物であることが多い」という相関関係は当然考えられる一方、2つの物事の間に因果関係がある必然性はなくなります。ですから、因果関係はないかもしれない、という前提のもとに議論を進める必要があるでしょう。


Q:シアノバクテリアなどの微細藻類はバイオマス速度が大きく、新たなエネルギー源として注目されている。藻類のバイオマス速度は生育環境によって大きく左右される。そこで、より効率良く成長できる環境を考えて見る。まず、光合成を行なうには光が必要なので、なるべく強い光を当て続けることが考えられる。しかし、強光阻害などが起こる可能性もあるので、光強度を変えて成長速度を確かめる必要が有る。また、培地も生育には重要であり、その組成を変えることで成長速度の変化も確かめられる。このように生育環境を変えて、成長速度を測定することで効率良く成長できる環境を調べられる。

A:このレポートを一言でまとめると、「生育が良い環境を用意すれば、生育は良くなるはずだ」ということになりそうです。もう少し考えてレポートを書くようにしましょう。


Q:一枚の葉の一生の光合成量には上限があると学んだ。そこで、「葉の寿命が短い草本植物は新しい葉を低コストで形成できる。また、寿命の長い木本植物は高コストである。」と仮説を立てる。低コストであるとは、「新葉に対してその植物個体で獲得した栄養(有機物)をあまり与えなくても良い、つまり、新葉形成が起きる場合も他の葉や茎の生長速度が(著しく)下がらないこと」と定義づける。この仮説を確かめる実験を以下に示す。新葉が茎から生え始めている草本植物とそれとサイズが殆ど等しい個体を準備して茎の長さや他の葉の大きさを測定する。その後、新葉をアルミホイルで遮光することで新葉の生長を茎や他の葉からの栄養に完全に依存させる。一定期間同じ環境条件で育てた後、2個体の生長の差を測定する。木本植物においても同様の実験を行って生長の差を比較することで仮説を判断する。草本植物の方が生長の差が小さい場合、仮説は成立すると考えられる。草本植物の生長の差が大きい場合や生長に差がない場合、仮説は成立せず、寿命と新たな葉の形成コストの間には関係性がないと考えられる。

A:これは面白い考え方ですね。きちんと考えられていてよいと思います。ただ、葉を遮光すると老化が促進されるなど、光合成が停止する以外にいろいろな応答を示すことが知られています。実際にこの実験を行った場合には、その解釈はかなり難しいと思います。


Q:光合成と葉の寿命について、木本は葉の寿命が長いが光合成速度は小さく、反対に草本は光合成速度は高いが葉の寿命が小さいとのことであった。この議題は生物学特殊講義ⅥでSLA(葉重量当たりの葉面積)とSRA(根の窒素吸収能)の関係が大切であるらしく、SLAを大きくする(葉を薄くする)こととSRAを大きくする(側根を発達する)ことでかなり効率よくできており、反対にSLAとSRAを小さくすることで、葉を厚く小さくし耐久力をあげるとのことであり、結論としてそれぞれがニッチを満たし共存するとあったが、この共存が一次遷移から始まるとすると少々不思議である。というのも一次遷移は一年草から多年草、そして木本へと大型の植物群が徐々に発生してくるのだが、肝心の木本が発生する過程としては疑問が残っていた。つまり突然、風や鳥に運ばれて木本型の植物種が発生したとも考えられるが、進化として新しいニッチを見つけるために、植物が適応としてSLA、SRAを小さくしたのではないだろうか。

A:これもよく考えていると思いますが、後半の論理展開がやや不明瞭ですね。もう少し感覚的な記述を避けてかっちりした記述にした方が科学的なレポートになります。また、一次遷移が一年草→多年草→木本と移行していくという昔の教科書に書いてあった記述は、現在では誤りであると考えられているはずです。おそらく二次遷移の際に、急速に背が高くなる一年草が目立つことに引っ張られたのだと思います。富士山の溶岩で覆われたすそ野の一次遷移を見ると、最初に目立つのは多年生のイタドリです。


Q:今回の講義で藻類は陸上植物と異なり非光合成器官を持っていないため速度をそのままに培養量をスケールアップするには人間が代わりとなる器官を作ってやる必要がある、ということを扱った。では具体的にどのような補助をしてやれば良いのだろうか。光合成効率に影響を及ぼす要因として二酸化炭素濃度が挙げられる。自然界なら通常二酸化炭素濃度はある一定の範囲に収まっている。しかし実験室での培養の場合培養数が増えていくにつれ二酸化炭素濃度は低下し効率は落ちていくと考えられる。そこで陸上植物では細胞間隙が担っている通気性の確保という役割の代わりに培養容器中に二酸化炭素を常に注入するという解決策が考えられる。

A:このレポートの結論は「光合成生物の生育をよくするためには、光合成の基質となる二酸化炭素の濃度を上げればよい」ということになるのだと思います。そうすると、高校の生物基礎の範囲ですよね。もう少し大学生らしいレポートを目指しましょう。


Q:今回の光合成の収率について学んだが、そもそもどうして光合成を行う生物が存在しないのだろうと疑問に思った。光合成をして太陽光を利用して自身でエネルギー生産を行うような生物がいてもいいのではないかと思った。そのような生物がいない理由として、動物は植物と違って運動をするので、エネルギー消費量が植物よりも多い。生きていくうえで、植物にとっては光合成で得たエネルギーで充分かもしれないが、動物にとってはすぐになくなってしまい、光合成をできたところでエネルギー効率が悪くあまり意味がないのではないかと考えた。また、光合成をしなくても、光合成を行うことができる植物を食べればいい話である。また仮に光合成を行うことができる生物がいたとしても、他の動物にとっては、自身で作れない栄養分を作ることができる動物を捕食したいと考えのではないかとも思うので、捕食の対象にもなりやすいのではないかと考える。また光合成のためには日の当たる場所にいなければならず、周りに木や草がない方がいいが、その分視界が良くなるので、また捕食されやすい。このようにメリットよりもデメリットの方が多く想像できるため、光合成を持つ動物というのは存在しないと考える。光合成を持つのではなく、タコクラゲのように藻類を共生させている生物も存在していることからも、光合成を持つことはあまり効率のいいものではないと考えられる。

A:最初の部分の「生物」は「動物」ですね。これも、一部は講義で議論した内容ですし、大学生としては内容がやや幼いように思われます。


Q:今回の講義では、光合成の効率を、光吸収、電荷分離の反応、光化学エネルギー変換、炭素同化など、複数の側面から見て学んだ。講義の中で、バイオマス燃料として、陸上植物に比べてバイオマス増加速度が大きい藻類が、現在注目されているというお話があった。そこで、この藻類を用いたバイオマス燃料生産をさらに向上させるには何が必要か、自分なりに考察してみる。自然界の光合成を行う生物は、自然環境に適応するために、さまざまな光合成抑制が掛かっている。その抑制の1つとして、光阻害への対応が考えられる。自然界の藻類(他の光合成生物もだが)は強光による光阻害への対応として、余分なエネルギーを熱放散するβカロテンや、特に光環境が多様である水中の光合成生物である藻類は、光の波長に合わせて色素の比率を変えるための補助色素を持っている。しかし、バイオマス燃料の生産に使用される藻類は人工培養であるのだから、最適な光強度と光の波長の調節を人為的に行ってやれば、藻類がもともと持つ光阻害の対応策となる色素は必要なくなるだろう。そこで、この最適光強度、波長の調節を行うとして、藻類の光阻害対策の色素の発現をストップさせることで、本来光阻害対策の色素材料として使われていた炭素や、水素などを光合成の材料としてまわせるようになり、光合成効率が上昇するのではないかと考えた。

A:きちんと考えていてよいと思います。でも講義の流れのまさに延長ですね。素直というのは、一般的には褒め言葉なのですが、研究の世界ではそうとも限りません。もう少し講義に対して批判的であってもよいかもしれません。


Q:光合成の光化学エネルギー変換効率について。光合成の変換効率は本当に悪いと言えるのかについて考える。太陽電池の変換効率は現在30%近いものもある一方、光合成の変換効率は自然環境下で0.1%程度だと知った。これは製造コストや生物・非生物などの差はあるにしろ数値だけ見るとかなり大きな差であり、光合成の変換効率はよくないと言えるかもしれない。しかし、植物が特に問題なく存在しているということは、その程度の変換効率でも植物の生育には影響がないということになる。また、タンパク質合成を止めると光合成の活性が落ちるという話について、仮にタンパク質が壊れないようにしたとしても活性自体が上がるということにはつながらないと考えられる。活性があがることで逆に様々な制御機構がはたらくと思われるが、これは効率を上げることよりも植物での化学反応を安全に行おうとする方を重視していると考えられる。つまり、一見低く見える変換効率は植物にとっては制御できる最大限の効率であるといえるのではないか。

A:考え方はよいと思います。しいて言うと、結論がやや予定調和的なので、一ひねり欲しい気もします。例えば安全機構が重要だとすれば、太陽電池に安全機構を組み入れる必要がないのだろうか、というような疑問に発展してもよいかもしれません。


Q:今回の講義では藻類への処方箋として、「構造を人間が供給する」という例が挙げられた。しかし、大きさに限りがある構造を用意した場合、その中で藻類が増殖してしまえば、通常の培養と同じく想定増殖速度は得られないのではないだろうか。そこで、私は構造というよりは動き(流動性)のある装置の中での藻類の培養を提案する。常に撹拌されている状態であれば、藻類それぞれは分散し、お互いに妨害しないまま、個々の成長が望めるのではないだろうか。問題があるとすれば、動きの程度によっては細胞が壊れてしまうこと、動きが小さすぎると、お互いの距離が近くなってしまい、スケールアップした培養と同じように「小さい」という利点を生かせなくなってしまうことなどである。これを解決するために、藻類はどの程度の流動性まで細胞を壊さずに堪えることができ、増殖を行えるのかの実験をするとよいだろう。

A:考え方はよいと思います。ただ、実際の藻類の小規模培養でも、液体培養の場合攪拌はほぼ必須ですから、スケールアップをした時にどの程度攪拌速度を上げる必要があるか、および攪拌に伴なうエネルギー投入が経済性をどの程度阻害するか、という定量的な視点が重要になるはずです。そのあたり、定性的な議論だけだとやや消化不良になりがちですね。