植物生理学II 第11回講義

光合成の速度

第11回の講義では、光合成の速度を測定する様々な方法と、光合成の速度に影響する環境要因について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業ではタコクラゲが褐虫藻と共生していることを学んだ。太陽の光を追ってタコクラゲが動くことで光合成を行っているように見える。ここで本当にタコクラゲは光合成のために光を追って動いているのかを検証する実験を考える。まず、褐虫藻と共生しているタコクラゲ、共生していないタコクラゲの2種類を用意し、水槽で飼育し、光を任意の方向から当てられるようにする。共生個体のみ光を追っていれば光合成に利用するため動いていると考えられ、共生個体、共生していない個体ともに光を追うことが確認できれば、光合成のためではなく正の光走性を持つために移動していると考えられる。

A:検証の対象が「光合成のために」という点になっていますが、このような目的論は、自然科学の研究においては、きちんと客観的な事実に落とし込む必要があります。もし、それが「共生しているときに」ということだとすると、提案されている実験は、単なるトートロジーです。また、タコクラゲは、共生藻からのエネルギーで生きているわけですから、そもそも、「共生していないタコクラゲ」をどうやって用意するのかを考えないといけませんね。


Q:高速型(低速型)ミオシンにより植物の大型化(小型化)が可能になると別の講義で学んだ。光合成能力だけが生長速度に影響を与える訳ではないが、大型化植物は同じ時間でより大きく成長するため光合成速度は従来のものより大きくなると考えられる。イネやトウモロコシの大型化によりCO2を削減するプロジェクトが進んでいるようだが、別の視点で大型化(小型化)を応用できるか考察する。葉を大型化、茎を小型化させた植物…①と(葉を小型化させる意味はあまりないが)その逆の植物…②である。①の植物は縦への成長が乏しく、周りの植物との生存競争には勝てないが、風や水流に対する安定性は上昇すると考えられる。従って、生存競争が低く、環境条件の厳しい(強風や水流が速い)群落に生息する植物にはもってこいの技術となり得る。②の植物はより縦へ成長して光を受けやすくなるので生存競争に強くなる。従って、希少植物の絶滅危機や外来種による在来種の浸食といった問題に対してこの技術は効果を発揮すると考えられる(希少植物を遺伝子操作する時点で問題はあるが)。ただ単に大きくすることにも意味はあるが、個体内で大型化と小型化を組み合わせることで上記のような問題解決の糸口となるのではないだろうか。

A:考察の道筋はきちんとしています。ただ、やや「それはその通りだろう」という感じもしなくはありません。もう少し何らかの独創性が欲しいところです。「個体内で大型化と小型化を組み合わせる」部分などは面白そうなので、そこを具体的に考察できるとよいですね。


Q:太陽を追っかけるタコクラゲについて調べてみたところ、タコクラゲは褐虫藻という植物プランクトン相利共生関係があるとのことで、ではなぜ褐虫藻は数多のクラゲがある中でタコクラゲに寄生したのかについて考えてみる。「ほぼ常に自力で遊泳している」…②とあることより、大人になることで代謝量も増え、その上増加した体重を動かして餌を取りに行くためのエネルギーを必要とし、自力ではまかなうことが出来なくなったためであると考えられる。また生殖にも多大なエネルギーを要することも影響しているはずである。問題はどの様に共生したかである。「稚クラゲから親クラゲになる過程で寄生される」…①とのことで、考えられることとしては、変態の際に褐虫藻を遊走する物質を生産し放出することや、成体では蛍光を発することからその光エネルギーを求めて褐虫藻が遊走されるのを利用して、植物プランクトンを取り込んでいることである。
(参考文献) ①餌は太陽の光?タコクラゲの特徴と魅力について、http://kurage-ya.com/mastigias-papua/、②タコクラゲ|神畑養魚株式会社、http://aquarium-fish.kamihata.net/kurage/tako.html

A:なぜタコクラゲか、という問題設定だとすると、「タコクラゲが多大なエネルギーを要する」では答えになりません。ほかのクラゲより「多大である」ことを示す必要があるでしょう。次に共生のメカニズムに話題が移っていますが、こちらでも、選択肢を挙げているだけなので、論証になっていません。何らかの形で「これこれこうだから」という論理が欲しいところです。


Q:今回の講義で植物が移動能力を持たないのは光はエネルギーが薄く、移動するのは効率的ではないからという話を扱った。例えば向日葵などは太陽の向きに合わせて花の向きを変えるがこれは運動であって移動とは異なる。まずこの場合移動能力と光合成能力をしている例外として挙げられるのはミドリムシの仲間であろう。では何故それが可能なのだろうか。ミドリムシも植物と同様に真核共生によって葉緑体を獲得したと考えられている。その面では植物と差はない。つまりその後の進化においてミドリムシは移動能力を失わない道を進んだということになる。どのような環境において移動能力があることが有利に働くかはミドリムシとその他の植物プランクトンとの比較を行うことで推測が可能になると推測される。

A:レポートの論理としてはきちんとしています。ただ、最後の部分、ミドリムシと例えばクロレラを比較することはちょっと調べればできるでしょうから、そこまで踏み込んだレポートにしてほしいところです。


Q:今回の講義では、様々な光合成速度の測定法を学んだ。光合成速度の測定では基本的にその植物の葉を用いて、酸素量や二酸化炭素量、光などを測定するが、同一の植物でも光が当たりやすい葉と当たりにくい葉などがあり、それぞれ条件が少しずつ異なる。そのため、どの葉を測定するかによって測定結果が変わってくると考えられる。だからこそ、複数の植物うの光合成速度を比較する際に葉を用いて測定する場合は、全ての葉を調べてその結果を総合しないと正確には比較できないのではないかと考えられる。

A:これも論旨はもっともなのですが、別に光合成測定に限らず、ほとんどすべての科学的測定に成り立つ話ですよね。もう少し、問題設定に対応した議論が欲しいところです。


Q:今回の講義では、光合成活性の測定法や葉緑体および葉緑素を利用している生物について学んだ。その中で、クラゲの一種が藻類と共生し、ウミウシの一種が葉緑体を食事から得て貯めることで光合成から得たエネルギーを利用していることを知った。しかしウミウシの場合、体色が葉緑体により緑色へと変化してしまっていた。こうなると、生息場所によっては目立つ色となってしまい捕食される確率が著しく上昇する。このことから光合成からエネルギーを得ている未知の動物は緑に同化できる、あるいは葉などに擬態している昆虫に発見できることが考えられる。昆虫が、含まれる葉緑体からエネルギーを得ているか判断するために、まず葉緑体が光合成を行っているかどうかを暗所と明所での二酸化炭素収支を特定個体で測定し評価し、含まれる葉緑体が光合成を行っていることが分かった後それを含む昆虫が光合成からエネルギーを得ているかを判断するため、遮光下および明所での摂食量を比較することが考えられる。(呼吸量の測定により判断する場合はエサとなる草や葉などの呼吸量と区別しなければいけなくなり、難しい実験になってしまうと考えられるためここでは摂食量を挙げた。)今回挙げた評価法ではなく、より古典的な方法が存在すると考えられるが、今回は私なりの実験法として考えた。

A:これは、レポートの論理構成は良いと思いますし、実験もきちんと考えています。昆虫は、特に飛翔能力のあるものに関しては、消費エネルギーが非常に大きいでしょうから、少しぐらい光合成をしても追いつかない可能性が高いことは考慮する必要があるかもしれません。


Q:今回の講義は、さまざまな要因と光合成の速度の関係をグラフから読み取るといった内容であった。講義の中で、C3植物の温度光合成曲線が、光合成速度がピークに達したのち、温度上昇に伴い緩やかに減少していくのは、光呼吸の温度依存性が関わっているというお話があった。この光呼吸の温度依存性というのは、温度によるCO2とO2の溶解度の違いが原因であるとのことだった。そこで、CO2とO2の各温度での溶解度は常に一定であるのに、C3植物の種によって、光合成速度のピークの温度がさまざまである(幅がある)のはなぜだろうと考えた。この要因について考察する。1つ目は、種によるルビスコ活性の違いではないかと考えた。例えば、イネはピーク温度が約25℃、コムギは約10℃くらいである。(参照1)これは、中国長江下流付近(気温高)が原産であるイネはルビスコのCO2の選択性を上げる方向に進化し、それにより温度上昇に伴う光呼吸の影響を下げたと考えた。一方コーカサス地方(気温低)が原産であるコムギは、低温である分光呼吸の影響がイネに比べて低いため、CO2の選択性より、ルビスコの最大活性を上げた(実際に光合成最大速度はコムギの方が高い)と考えた。このように、ルビスコ活性の違いが、光合成速度ピークの温度の違いを生み出しているのではないかと考えた。
 2つ目の要因として、葉温維持能力の違いが挙げられるのではないかとかんがえた。これは、温度光合成曲線の横軸が、気温であったため、もし葉温調節能力に差がある場合、グラフのように光合成速度のピークの温度に違いが生まれると考えたからだ。これは、葉温ごとの光合成速度のデータを取り直し、種によって光合成速度のピークの温度に幅があるかを見れば確かめられるとかんがえた。

A:非常によく考えていてよいと思います。なお、最大光合成速度は、品種によって大きく影響を受けますから一概には言えませんが、それぞれの最適温度で、一番速度の高いイネとコムギを比較すると、イネの速度の方が高いと思います。


Q:動物の光合成は、移動する必要性と光合成を十分に行えるような広い面積の確保の両立が難しい。タコクラゲやウミウシで光合成をするものもいるようだが、彼らは藻類との共生によって光合成を行っている。これらを参考にして、動物、特に人間も光合成を行えるような環境はありえるのか考えてみる。調べたところ、脊椎動物で唯一、藻類との共生によって光合成を行えるサンショウウオの仲間がいるらしいということがわかった。体が大きくなると光合成ができる表面積も増える一方で、体積も大きくなることから必要な酸素量などが増えることから、表面積の確保のために体のサイズを変えることは効率的とはいえない。そして、人間の皮膚は層構造をとり代謝によって剥がれていくことから、皮膚の下に葉緑素を貯めておくのは難しそうである。さらに人間は服を着る文化があるので、特に冬では皮膚をほとんど日に当てることはなくなる。こうした理由から、人間が光合成をするとしたら、皮膚を改良するよりも例えば頭の上に葉っぱができるような、体外に光合成器官を作り出すのが一番よいのではないかと考えた。動物が光合成を行うことは非常に非効率であるといえそうだが、光合成を行うデメリットはあまりないようにも思われるので、今後研究が進んでいくのかもしれない。

A:レポートのロジック自体は良いのですが、講義で紹介した定量的な側面が欠落していますね。せっかく講義で様々な数値を挙げたのですから、もう少し量の問題を考えてほしいところです。「光合成を行うデメリットはあまりない」とのことですが、頭の上に30 m2の面積を持つ葉っぱを載せたら、ちゃんと立っていられないように思います。


Q:今回の講義では光合成の種類ごとの最大光合成速度について話があった。その中でCAM植物の最大光合成速度が1-4(mgCO2 dm-2 h-1)とC3型やC4型と比較して著しく低いことが気になった。今回はこれについて考察しようと思う。CAM型が他と異なる点は気孔を閉じてしまうことで、光合成によって生じる酸素を捨てることができないという点である。生体内での酸素の蓄積は活性酸素種を生じる危険性を高め、発生した活性酸素種は光合成反応に関わる酵素などと反応してしまうことで光合成を阻害すると考えられる。活性酸素種の量は光合成が進行するほどに増加していき、阻害の影響はそれに伴い大きくなる。ゆえに光合成速度はすぐに頭打ちになり、最大光合成速度が著しく小さくなるのではないだろうか。

A:よく考えていると思います。ただ、光合成の速度が他の植物の数分の一になってしまうほど活性酸素による阻害がかかっているとすると、光合成以外の細胞内の反応も大きく阻害されそうです。その場合、CAM植物が生きていくのはなかなか難しい気もします。