植物生理学II 第8回講義
二つの光化学系
第8回の講義では、2つの光化学系をもつ意味や、そのバランス、そして水分解のメカニズム、電子移動の理論などについて解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。
Q:今回の授業ではアサクサノリとアオサの吸収スペクトル、作用スペクトルを比較した。グラフからアオサは吸収した光を利用しているが、アサクサノリは青色光を吸収しても利用していないことがわかった。これはフィコビリンが青色光を吸収できないことに起因している。フィコビリンを持つ紅藻のアサクサノリはフィコビリンによって青色光を集め、系Ⅱ、系Ⅰのクロロフィルに分配している。同じ藻類でもこのような違いを持つ意義を考えてみた。それぞれの生息域について調べてみると、アサクサノリは潮間帯上部に、アオサは潮間帯中部~下部に生息している。アサクサノリは上部にいることで広範囲の波長の光を浴びることができ、フィコビリンは必要な光を吸収できる。一方、青色光は水中でも深部までよく透過するのでアオサは青色光を積極的に利用しているのだと考えられる。このようにそれぞれの種は環境に適応しているのだと考えられる。
参考文献:市場魚貝類図鑑、https://www.zukan-bouz.com
A:藻類の分布については、一般的にそのように言われているのですが、臨海実験所の先生などに伺うと、実際には、あまり教科書通りの分布はしていないとのことです。都市伝説とまでは言いませんが、広く受け入れられているそれらしい話でも、無批判に信ずるのは危険かもしれません。
Q:水の溶媒効果で電子伝達体が複数のエネルギーレベル(以後Eと記す)を持ち「偶然」Eが一致すると電子の移動が可能となる。なぜ「偶然」という確率的な理論にも関わらず確実に電子が移動し光合成できるのか疑問に思った。Eが一致せず電子伝達にもたついていると反応中心に電子が再結合すると考えられる。この電子の再結合を防止するため…(1)に複数の電子伝達体を持つと学んだが、複数持つ理由はもう一つ存在し、それがEの一致確率を上げるため…(2)だと考えられる。しかし、実際植物は光合成できているためEが一致しないことはほとんどなく、逆に電子が移動しない方が低確率だと考えられる。ここで一つの電子伝達体をノックアウトした個体を作製して光合成ができるかという実験系を考える。電子伝達体A1を例にとって話を展開する。A1をノックアウトし、その個体が光合成できた場合、A1とFxの間でEの重なりが存在し、A1の役目は(2)より(1)にウェイトがあると考えられる。逆に光合成できなければA1とFxの間でEの重なりはなく、A1の役目は(1)より(2)にウェイトがあると考えられる。(1)にウェイトがある場合、その電子伝達体は他の電子伝達体より反応中心へ電子の逆反応が生じやすいのではないだろうか。また(2)にウェイトがある場合、その電子伝達体は「つなぎ役」のような役目であり前後の電子伝達体が複数のEを持つことができず、その電子伝達のサポートをしている可能性が考えられる。
A:「ノックアウトして光合成ができた場合」に、どのようなメカニズムで光合成ができるのかがよくわかりませんでした。A0から直接Fxへ電子が移動するイメージなのでしょうか。面白そうな考え方なのですが、論旨を完全に理解できませんでした。
Q:アサクサノリとアオサの吸収スペクトルと作用スペクトルに違いに着目してフィコビリンを含む集光性分子フィコビリソームによって光化学系が動かされているとのことだが素朴な疑問として酸素発生の収率の悪い波長をなぜあえて吸収し利用ているのであろうか。系統的に以前シアノバクテリアから始まり光合成細菌との共生により、フィコビリソームを含むものと含まないものに別れる事になったが、アオサは「一般に潮の満ち引きのある浅い海の岩などに付着して生息・繁殖する。」…(1)一方アサクサノリは「主に内湾の河口域を中心とした浅海干潟にすむ光合成を行う生物」…(2)とあり、光環境としてはどちらも同じような条件である。ところが実際にはフィコビリソームの働きにより光化学系が働いているのである。これは考えられることとして水深と透過するする光の例から分かるように緑色の光が一番透過するので収率効率が多少悪くても十分補うことができるためであると考えられる。
(参考文献)(1)アオサ、 Wikipedia、https://ja.wikipedia.org/wiki/アオサ、(2)菊池・アサクサノリ-千葉の県立博物館、https://www.chiba-muse.or.jp/UMIHAKU/kenkyu/kikuchi-asakusanori/kikuchi-asakusanori.htm
A:酸素発生の量子収率が悪いのは、緑色の波長領域ではなく、青色の波長領域です。もしかしたら、その前提が間違っていませんか。ただ、後半の論旨には影響はないようですが。
Q:今回の講義で光合成色素の吸収、効果スペクトルのグラフを扱った際種類によってピークを迎える波長が異なることに気づいた。確かに種類によってピークが変わらないなら最も効率が良いもの以外が淘汰されるはずである。そこでなぜ光合成色素が多様なピークを持つのか考察してみた。植物の種類によって持っている光合成色素の種類が変わることからその植物が生息する環境によって最適な光合成色素が変わるという仮説が考えられた。例えば海中と陸上では届く光の波長に違いが見られるはずである。この仮説が正しいとすればそれぞれの光合成色素がどのような環境で誕生したのか推察できるようになるはずである。
A:きちんと考えていると思います。ただ、講義で説明した内容の繰り返しに少しなっているようですね。
Q:今回の講義では、電子伝達系においてどのような原理に基づいているかということで溶媒効果とマーカスの電子移動理論やトンネル効果についてという量子生物学を学んだ。その中で、酸素発生の量子収率の測定実験で700nmの波長において量子収率の低下が著しいことから光化学系が2つあることを予測したことに驚きと考察力の高さを感じた。そこで私はこの画期的な実験を他の実験系に応用できないか考える。前提としてこれは光化学系ⅠおよびⅡのような連続的に機能することで電子伝達が起こるなどの役割を果たす機構の定性的な調査に有効であると考えられる。例として光反応型のチャネルが単独で働いているのか、他の光反応型のチャネルと連続的に働いているのか調べる際に有効であると考えられる。
A:一つの現象に2つの光受容体が働いている場合は、わざわざ光受容体の受け取る光の波長を変える必要はないように思いました。光受容体の場合は、信号として受け取ればよいのですから。光合成色素の場合は、エネルギーとして受け取るので、幅広い波長の光を受け取ることはメリットになるので、状況は光受容体の場合とだいぶ異なることになります。
Q:今回の授業では、電子伝達系の電子はどのように移動するのかについて学んだ。電子は、溶媒効果を受けて電子伝達成分が様々なエネルギー状態をとり、次の電子伝達成分とエネルギーレベルが合致した時に移動するというお話があった。その話を聞いて、2つの電子伝達成分(電子供給側と電子受容側)のエネルギーレベルが合致しないエネルギー状態の時の電子伝達成分は電子を受け取ることも渡すこともできない状態であるから、意味があまりないのではないかと疑問に思った。そこで私は、電子伝達成分は、溶媒効果を受けてなるべくエネルギー状態がすごく安定かすごく不安定のどちらかに動く仕組みになっている方が、電子伝達効率は良さそうだと考えた。電子伝達成分を取り囲む溶媒は基本水と考えると、水は正電荷を帯びているHを2つ、負電荷を帯びでいるO1つから成るため、基本的に電子伝達成分の溶媒との結合が安定であると仮定すると、電子伝達成分の表面に正の電荷の側鎖などが多い方が、溶媒との結合が不安定になった時の、エネルギーレベルの移動度は大きくなるのではないかと考えた。また、実際の電子伝達成分もその方が電子伝達は理想的であるためそのような仕組みをとっていてもおかしくないと考えた。
A:これも面白そうな話題なのですが、論理の展開を完全に追うことができませんでした。「安定かすごく不安定のどちらかに動く仕組みになっている方が、電子伝達効率は良さそうだと考えた」という部分が問題設定で、それについて論証するのかな、と思って読み進めたのですが、今一つわかりませんでした。
Q:今回の講義で、アサクサノリなどはクロロフィルやフィコエリスリン、フィコシアニンといったさまざまな色素を含んでいることを知った。特に、参考文献より、紅藻の仲間でも水面に近いものほど多くの種類の光合成色素を含み黒っぽい色になるという。ここで、どうして陸上植物はアサクサノリのようにたくさんの光合成色素をもたずに基本的にはクロロフィルによる光合成のみ行うようにしたのかと疑問に思った。陸上植物が、浅瀬に生息する緑藻から進化したものであるからという考えもあるが、それでは同じく浅瀬に生息する紅藻から進化しなかった理由はわからない。私はこの理由を、水中の光の量と地上の光の量の差にあると考えた。紅藻は浅瀬に生息するものもあるが、多くは水深10m程度のところに生息しており、その深さであればたくさんの光合成色素を用いて光合成を行おうとするのもわかる。一方、緑藻はほとんどが浅瀬に生息している。もし陸上植物が紅藻ほどたくさんの光合成色素を持つと、光エネルギーが過多になってしまうのではないか。やはり環境の面では上部にあがった紅藻よりも緑藻のほうが地上に近いために、陸上植物はクロロフィルを持つようになったのかと考えた。
参考文献:つくば生物ジャーナル カラフルな海藻は語るhttp://www.biol.tsukuba.ac.jp/tjb/Vol3No10/TJB200410YY.html
A:「クロロフィルを持つようになった」というよりも、「クロロフィル以外を捨てた」でしょうね。考える姿勢が感じられてよいと思います。
Q:今回の講義では光化学系が主役であった。以前に「光化学系ⅠとⅡは別々の起源を持つのなら、それぞれが独立して働かずに協調的に働くのはなぜだろうか」といった内容のレポートを投稿したが、改めてこの内容についてより深く考えてみることにした。以前の講義で電荷の再結合を習ったが、これが2つの光化学系が独立で働かない理由ではないかと考えられる。光化学系での電子伝達は次のような流れである。光化学系Ⅱで光を捕集しそのエネルギーでH2Oを酸化して、それによって得た電子を様々な分子を介して伝達していき、最終的に光化学系ⅠでNADP+に渡りNADPHが生成する。この一連のプロセスを、仮に1つの光化学系内で行うとするとかなり限られた空間内で電子伝達が行われることが予想される。しかし、その場合は電荷の再結合が起こりやすく効率は低下するだろう。一方で2つの光化学系に跨って電子伝達を行うことで、広い空間を確保することができ電荷の再結合が起こりにくくなるのではないかと考えられる。起源が異なっていてもそれぞれが独立して働かず、協調的に働くのは電荷の再結合による効率の低下を避けるためではないだろうか?
A:よく考えていてよいと思うのですが、最後の、「協調的に働くのは電荷の再結合による効率の低下を避けるため」というのは、やや擬人的ですね。「協調的に働かなかった場合には電荷の再結合によって効率が低下して絶滅するため」ということでしょうね。
Q:今回の講義では、光合成が実現している反応
2H2O → O2 + 4H+ + 4e-
は、水を酸化している極めて危険な反応であることがわかった。この反応を行っているのは、光化学系Ⅱ反応中心複合体の水分解部分であるマンガンクラスターであった。(1)マンガンクラスターが水分解の際に電子を放出過程ではS0,S1,S2,S3,S4と段階があり、光照射によってS1からS2、S2からS3で1個ずつ、S4からS0で2個電子を放出し、暗所の場合はS2,S3のときはS1へ逆向きに遷移することが分かった。では、暗所の場合なぜ最も電子を抱えている(分解が起こっていない)S0までは戻らず、1個放出したS1の状態に戻るのであろうか。この疑問に対して私は、S2,3では、電子を2個放出してしまった場合だと、酸素原子が放出され、これによって酸化反応が起こり障害をもたらすため、次の電子の放出がスムーズに行え、かつ酸素(原子)を発生させない安定した状態のS1が、暗所での待機に最も適した状態であると考えた。
参考:https://www.photosynthesis.jp/newres.html
A:これも、考えていてよいと思います。途中の問題設定は、「S0までは戻らず」という点に力点があるので、結論もそれに合わせた表現にした方が説得力が増すと思います。現状ではS1の側からの説明になっているので。
Q:アサクサノリの作用スペクトルと吸収スペクトルの違いは光化学系ⅠとⅡのバランスによる物だと学んだ。そこからなぜ、アサクサノリの光化学系ⅠとⅡは別々に働いているのか疑問に感じだ。アオサや一般的な植物のように光化学系ⅠとⅡが一連に働けばその方が生物にとって都合がいいように思う。そうでないのは、おそらくアサクサノリが発生した初期の頃の環境が影響しているのではないかと思う。光化学系ⅠとⅡを一連でない働きにすることでうまく繁栄することができたのだろう。
A:アサクサノリで二つの光化学系が協調しないのは、あくまで青色光などの狭い波長範囲の光があたったときです。つまり、むしろ考えるべきなのは、そのような条件が実際の生育環境でどの程度おこるのだろうか、という点なのでしょう。