植物生理学II 第3回講義

オルガネラの成立

第3回の講義では、植物・藻類・シアノバクテリアの生理学的特徴、形態的特徴、分子系統解析から、葉緑体が細胞内共生に起原を持つことが明らかとなってきた様子を解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:光合成反応において、なぜ酸素を出すのか考えてみる。現在、光合成細菌とシアノバクテリアをつなぐ中間的な生物は見つかっていない。この間の差の一つに、酸素を出すかどうかという点が存在する。遺伝子の水平伝播により酸素を出す機能を獲得したが、なぜ酸素なのだろうか。CO2とH2Oの反応であれば、(元素記号の組み合わせを少しいじるだけは安直だろうが、)H2や天然ガスで知られているCH4が合成産物として得られても良いのではないだろうか。合成産物が天然ガスのCH4であった場合を考えてみる。CH4は二酸化炭素に比べ約25倍もの温室効果作用があるが、大気中にCH4は二酸化炭素の1/200程しか存在しないので(※)、地球環境が保たれている。仮に、地球上の全光合成生物がCH4を選択した場合、環境は破壊される。CH4を光合成細菌が選択しなかったのは、合成産物として大気の主成分でもある酸素を選択した方が自然淘汰を受けずに生存できると考えたのだろう。
※http://www.mh21japan.gr.jp/mh/01-2/

A:ちょっと生物学専修の学生としては恥ずかしいレポートですね。進化というのは、ポケモンではないので、個体レベルで起きるものではありません。また、そもそも、「考えて」選択したりしなかったりするものではありません。メタンを出す光合成細菌が淘汰を受けるのは、地球環境が破壊されたときですよ。


Q:今回の授業では光合成細菌が、特に緑色硫黄細菌と紅色硫黄細菌の遺伝子伝播によりシアノバクテリアが発生したが具体的な発生メカニズムはまだ分かっていないとのことだった。バクテリアの場合はDNAを振り掛けると取り込んでしまうことが多々あるとおっしゃっていたが、調べていくうちに放射能を吸収する光合成細菌が存在しているとの記事に目が止まった。「光合成細菌は重金属イオン吸着能があり、放射線をエネルギー源にしている」…①、②とのことであった。シアノバクテリアが発生してきた時期としてはまだオゾン層が発達してなく、強い放射線がそのまま地球に注がれていたはずである。するとただでさえ放射線が強いのにエネルギーのための吸収能を持つことから外的にDNAの損傷であったり、塩基配列での逆位・置換などが頻繁に起こることが推定される。これがバクテリアの他のDNAを取り込む性質もあり、シアノバクテリアとしての光化学系Ⅰ/Ⅱを持つように塩基配列が組み込まれたのではないだろうか。これを実験系として組み立てれば、光化学系Ⅰ/Ⅱを持つ光合成細菌にX線といった弱い放射線を継続的に照射することで容易に経過は見られるはずだ。
(参考文献)①光合成細菌は「放射線吸収」と「放射能崩壊加速」を並行して行なっている、http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&m=287927、②放射性物質を吸収する微生物編、http://www.seibutsushi.net/blog/2014/07/2127.html

A:これもまた理系の学生としては恥ずかしいレポートですね。引用元の記事を読んで、「変だな」と思いませんか?理系の大学生であれば、最低限、放射能と放射線の違い、物理過程と生物過程の違いを理解していて欲しいと思います。


Q:今回の講義で共生説について扱った際シアノバクテリアを取り込んだ生物がどのようにして植物に進化したのかが気になった。他種の生物を取り込むという行為はほとんどの場合従属栄養生物が行いそのためには口もしくはそれに準ずる器官が必要になるが現存する植物では一部の食虫植物などの例外を除きそのような器官は観察されない。そこで思い出したのはミドリムシという葉緑体を持ちながら鞭毛で移動できるという植物と動物の中間の形質を持つ生物である。そこからシアノバクテリアを取り込んだ生物はまず捕食を行う能力を失い次に鞭毛を失い移動能力を無くし代わりに根を獲得し一か所に定着するようになったという仮説が考えられた。サンゴなど既に移動能力を無くしている動物がシアノバクテリアを取り込んだ場合でも同様の現象が起こる可能性があるが多細胞生物では一つの細胞で取り込みが起こってもそれが全身に移動するのは発生初期を除き困難なので可能性は低い。

A:講義で光合成生物の分子系統樹を紹介した時に、陸上植物が緑藻と同じグループに入ることを見たと思います。そうであれば、シアノバクテリアが細胞内共生によって緑藻の葉緑体となったステップと、緑藻が陸上に上がって植物へと進化するステップをきちんと分けて考える必要がありますね。


Q:原核細胞と真核細胞とを比較したときに、真核細胞はオルガネラを持つことで、様々な反応を細胞内で行うことができ、生物のもつ機能は複雑に多様になっていった。しかし、その分細胞の体積が大きくなり、体積あたりの表面積は小さくなる。生体の反応には膜構造が必要なものがおおい。細胞はどうしてこのような形態ととることにしたのか。それは、様々な反応を行える利点があるが、オルガネラによって膜で区切られていないと各反応が他の反応に有利な影響を与えるとは限らない。そのため、表面積が小さくなり、反応の効率が少し下がったとしても、複数の反応を同時に行えることの方が生存に圧倒的に有利であると判断されたためだと考えられる。

A:途中の「細胞はどうして」の部分は、「真核細胞は」ということでしょうか。それとも「原核細胞」でしょうか。そのあたり、きちんと定義するようにしないと論旨がつかめません。


Q:今回の講義で、光合成細菌は光化学系ⅠあるいはⅡのどちらかしか持たず、シアノバクテリアや高等植物は両方を持っておりこれは遺伝子の水平伝播によって起こったという話があった。過去に光化学反応は系Ⅱ→系Ⅰの順に電子が伝達され反応が進むと習ったことがある。系ⅠとⅡの起源が別々であったとすると両方を持つ高等植物などでは系ⅠとⅡが独立して働きそうであるが、実際にはしっかりと順序が決まって連動して働いている。なぜこのようなことが起こったのか疑問に思い、考察することにした。考え付いたのは、水素イオンの濃度勾配によってATPを合成できる利点である。系Ⅱから系Ⅰへと電子伝達を行う際、それと共役してチラコイド内腔に水素イオンが移動する。こうしてできた水素イオンの濃度勾配によってATP合成酵素を稼働しATPを合成する。つまり、系Ⅰと系Ⅱを連動することで副産物的にエネルギーを得ることができるわけである。よって、系Ⅰと系Ⅱをそれぞれ独立して働かせるよりも得であるため、起源が異なる2つの光化学系が連動して働くシステムが完成したのではないかと考えられる。

A:注目するポイントはよいと思うのですが、最後の部分、「独立して働かせるよりも得」である理由が分かりませんでした。それぞれでATPを合成してもよいように思います。そこが論理のポイントになるわけですから、丁寧にロジックを説明するようにしましょう。


Q:今回の講義では細胞内共生説について触れた。細胞内共生説は、真核生物が好気性細菌の一種を取り込んでミトコンドリアとしてその後動物や菌類に、さらにシアノバクテリアを共生させ葉緑体とすることで植物や藻類に進化していったという説(1)であるが、これに関して真核生物と好気性細菌がどのようにして遭遇し、共生するに至ったか疑問に感じた。光合成を行い酸素を放出していたシアノバクテリアは、太陽光の当たる海面付近に生息していたと考えられ、酸素を利用する好気性細菌も同じく海面付近に生息していたと予想できる。一方、酸素がない時代から生息していた生物にとって、酸素はタンパク質やDNAを酸化せてしまう毒であり、これらはシアノバクテリアや好気性細菌がいる海面付近には生息できず、別の場所(海中深く)にいたはずであろう。この状態のままでは、好気性細菌は真核生物に出会うことはなく共生まで至らないはずだ。また、いくら真核生物がDNAを保護する核を持つとはいえ、猛毒の中に飛び込んでいくのは非常に危険であり、取り込めたとしても共生に至るまでに死んでしまうのではないだろうか。そこで、私は好気性細菌を取り込んだ真核生物には、わずかながらにも呼吸能力があり、そのため酸素のある海面付近に浮上し、そこで好気性細菌を取り込んだ結果、好気性細菌のほうがより酸素の利用効率が優れていたために自分の呼吸能力を放棄して、好気性細菌と共生することを選択したことが、細胞内共生の始まりであると考える。
参考(1)独立行政法人理化学研究所,『RIKEN NEWS』,No.347,May,2010,p3

A:まず、シアノバクテリアの細胞内共生と、好気性細菌の細胞内共生のどちらが先に起こったかは、知っているでしょうか。好気性細菌を共生させてミトコンドリアを持つようになった生物は、当然、酸素の存在下で生育できる生物ですから、シアノバクテリアを共生させることに何ら問題はなかったはずですよね。そのあたり、一つ一つロジックを進めるようにしましょう。


Q:今回の授業ではシアノバクテリアなどの原核生物にウイルスDNAを混ぜるとDNAの一部がとりこまれるという話である。真核生物と比べて原核生物はウイルスなどのDNAを取り込みやすいそうである。そこで考えたのがウイルスが取り込んだDNAを利用して例えば葉緑体などの植物の構造の一部を復元できたとしたら面白いのではないのかということである。例えば海洋中に浮遊しているウイルスの中には地球上ですでに絶滅した生物のDNAの一部をもっているかもしれないし、なぜ絶滅したのかなど歴史研究や人間に役立つ薬の開発などができるのではないかと感じた。実験手法としてはPCR法や大腸菌などを用いて目的断片を増殖させていきたい。最近の研究によると鶏から鷹を生み出せる技術もあるようだ。目的DNAを増殖させてIPSの技術を利用すれば絶滅した生物の復活に役立つのかもしれない。

A:ちょっと誤解があるようですが、講義で話したのは、DNAの取り込みによって遺伝子の水平伝播が起こりうるということと、そのDNAの取り込みにウイルスの感染が一役買う可能性があるということです。そこがごっちゃになっているようですね。後半は、(やや記述がぼんやりしている点は気になるものの)大胆に考察していてよいと思います。