植物生理学II 第8回講義
光合成色素
第8回の講義では光合成色素の種類と機能について説明しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。
Q:今回の授業内容から微生物マットについて疑問に感じた。微生物マットは異種の微生物がそれぞれ適した環境下の位置において存在し、層となる現象のことであり、例えば可視光が当たらない位置には赤外線を吸収することのできるクロロフィルdを有する光合成細菌が存在するケースが多いことは授業で扱った。わたしは微生物マットの形成過程に疑問を抱いた。層を作り出す過程のなかで、いずれの層も最初は一番外側に位置するはずであり、どの種類の微生物も可視光にさらされるはずである。なぜ層が形成した後で層の内側を調べると可視光を利用しない微生物が存在するのかを疑問に感じた。授業のなかで、クロロフィルaを有するシアノバクテリアに赤外線を当てて培養するとクロロフィルdを産生するという事例があったように、微生物マットも層を形成していく中で、環境の変化に対応できるように形質が変化していくのではないかと考察する。
A:目の付け所は非常によいと思います。ただ、形質が変化することによる説明は、複数の種から構成される微生物マットについては適用できませんから、別の説明を考えないといけませんね。あと、培養の光条件によって色素量を変えるのはクロロフィルfの方です。
Q:今回の講義の中で、『透過する光の波長は水深等により異なるように水の中の光環境は多様であり、環境に合わせて進化している』という話を伺い、植物はなぜ全ての光合成色素を持つのではなく必要な分を得ているのか疑問に思った。様々な光合成色素を持つことで多様な厳しい環境にも耐えられる植物体になることができるのではないかと考えたからだ。一つの理由としては、特定の光合成色素のみを持つことで効率性を上げているためであると考えられる。もう一つの理由としては、植物は一度根を下ろしてしまうと自力で移動することは困難であるために自分の光合成色素に見合った場所に生息するためではないかと考えた。これらのことから陸上植物と藻類を比べると、光合成色素の進化が分かるのではないかと考えられる。例えばクロロフィルaとbを比べるとクロロフィルaのみを持つ植物体が存在するため、光合成色素は初めは多くの生物が多様な光合成色素を保持していたが次第に失っていったと考えることができる。これは水かきが例に挙げられるように、自然選択の一種であると考えることができるであろう。
A:これも目の付け所はよいのですが、最後の例は、藻類でクロロフィルbを持たないものが多いのに対して、陸上植物ではクロロフィルbを持つものがほとんどなので、やや例としては適切ではないのではないかと思います。
Q:今回クロロフィルのことについて学んだので、クロロフィルに関することを考えてみた。今回疑問に思ったのは、ピーマンは実が緑色であるが、ピーマンの皮は光合成するか否かということである。それについての実験系を考えてみたい。赤ピーマンの皮の色素はクロロフィルが分解されて生成されるカプサンチンであることが知られているので、緑ピーマンの皮が仮に光合成をしていて、赤ピーマンの皮が光合成していなかった場合、それはクロロフィルによるものであり、「葉」のみに依存しないことがわかる。それぞれのピーマンの皮を7.8cm程度に刻み、ビニール袋に入れ、二酸化炭素の含有量をあらかじめ図っておく。その後日中光に当て、数時間後の二酸化炭素含有量を測定すれば、光合成してるか否かがわかる。
A:なんというか、ちょっと中学生か高校生の感じですね。別に実験系が複雑である必要はありませんが、もう少し論理展開に大学生らしさが欲しいところです。
Q:今回はフィコビリンについて考察する。フィコビリンはクロロフィルのように光を吸収する色素であり、クロロフィルに比べて長波長の光を吸収する。クロロフィルと同様の働きをするフィコビリンであるが、この色素を持つ植物はシアノバクテリアや一部の藻類だけである。私たちが街中で見かける植物にはフィコビリンを持たないものが多い。なぜフィコビリンを持たないのか。その理由について考える。考えるヒントはフィコビリンの構造にある。フィコビリンはクロロフィルと異なり、タンパク質と共有結合で結合している。そのため、高温になると結合しているタンパク質が変性してしまい、フィコビリンは作用しなくなってしまう。気温は水温に比べて高く、地面から反射される熱もあり、陸上ではフィコビリンが壊れてしまうリスクがあるため、植物はフィコビリンを持たず、温度が高くても安定しているクロロフィルを持つのだと考えることができる。では、寒冷地帯の植物はなぜフィコビリンを持たないのだろうか?水中の深いところでは太陽光があまり届かない。そのため、様々な波長の光を吸収する必要があるが、陸上では十分に光を吸収することができる。カロテノイドが余分なエネルギーを熱として捨てるように、植物に必要なエネルギー量は決まっている。よって、光を吸収する物質は多くなくてよい。このとき、タンパク質が壊れると機能しなくなるリスクのあるフィコビリンよりもタンパク質が壊れても配位結合のため、タンパク質と解離して機能することのできるクロロフィルの方がリスクが低いため、寒冷地帯の植物にもクロロフィルが光を吸収する色素として残ったのだと考えられる。
A:問題点がきちんと提示されていて、それに対して論理的な考察がなされていてよいと思います。一点だけ、「クロロフィルに比べて長波長」とありますが、クロロフィルの赤い部分の吸収帯と比較すると短波長です。
Q:亜鉛クロロフィルは、中心金属としてマグネシウムの代わりに亜鉛を使用することにより酸性条件下における光合成を可能にしている。それは、マグネシウムでは酸性条件下で容易に変性してしまうが、亜鉛は変性しにくいからである。この性質を見ると、亜鉛の方が中心金属として適しているように見えるが、実際にはその他のクロロフィルではマグネシウムを中心金属として使用している。この理由について考える。まず考えられることは、酸性条件の環境が少なく、メリットが少ないことである。また、仮に急激な環境の酸性化が起こるとしてもそれには火山の噴火のような大きな自然現象が伴い、その際には火山灰による日光の遮断や急激な水温の上昇などが伴うため酸性条件下で光合成ができたとしても生き残ることが出来ない。よってメリットが少ない。二つ目に考えられることは入手のしやすさである。自然界においてマグネシウムの方が多く存在しているため、マグネシウムの方が容易に十分な量を入手することができる。以上の理由により、多くのクロロフィルではマグネシウムを中心金属として使用していると考えられる。
A:これも、問題設定が明確で、きちんと考える姿勢が感じられてよいと思います。
Q:あるシアノバクテリアに対し、照射する光の波長を変えることによりクロロフィルaとクロロフィルfの存在比が変化することが分かった。この実験結果から、このシアノバクテリアにおいて照射する波長でクロロフィル合成量を調節できることがわかる。ほかの植物においても光の波長による調節が可能であると仮定して話を進めていく。それぞれの光合成色素の吸収スペクトルは異なっているが、1つの植物体あたりでもっている光合成色素の種類はわずかなので、どの葉においても一様な吸収スペクトルを示す。ここで、人為的に従来もつ光合成色素に加えて新しい光合成色素を合成できる変異体を作製する。すると、上に葉が存在していても下の葉は別の吸収スペクトルを持つことができるので、葉の重なりによる光のロスを解消できるのでは?と思ったのだが、植物の伸長成長のメカニズムを考慮すると、成熟した下の葉の上に新しい葉が形成されるので、下の葉の吸収スペクトルを最適化するためには、下の葉の光合成色素を総取り替えしなければならず非効率である。そう考えるとわずかな光合成色素でやりくりすることは理にかなっていると思った。
A:考え方がユニークで非常によいと思います。僕も考えたのですが、一枚おきに色素の組成を変えるのはどうでしょうか。少なくともすぐ上のはとの重なりを避けることができれば、総取替えしなくてもメリットにはなるような気がします。それでも、単純に同じ葉をつけるほうが結局得になりそうな気はしますが。
Q:ストロマトライトは、シアノバクテリアの出す粘液に水中の浮遊粒子がトラップされ細菌体の表面を覆うため次第に拡大成長し、内部が堆積岩と化した生物由来の構造物である。シアノバクテリアは光合成細菌であるため、より光条件の良い表層に増殖することが拡大成長の原動力であるが、このストロマトライトの形態にはこれに加え潮流や潮位、他の藻類など様々な要因が働いて多様化の原因になっているらしい〔1〕。そこでストロマトライトの形態形成の知見から、コケボウズと呼ばれる南極の湖底にみられる植物群落の形態形成と比較したい。コケボウズとはストロマトライトと同様にシアノバクテリアの群落が造りだす構造物で層状に拡大成長する点でも共通している。従って両者の形態形成にかかわる要因には共通性があるかもしれない。ストロマトライトと異なる点は、層ごとに種類の異なるシアノバクテリアの棲み分けがされていること、細菌の他にコケや藻類も共生していること、中心部は岩石化しておらず泥状の有機物からなっていることである〔2〕。円錐状のコケボウズが南極の湖底に林立している様は我々のもつストロマトライトの半球状の構造とはずいぶん異なるように思える。しかし潮間帯下のストロマトライトは円錐状のものもみられる〔1〕。これは引き潮の際に海水面に露出する部分はストロマトライトが上方に成長できないという制約を受けず、一方で側方への成長は藻類によって阻害されているためである。コケボウズは水深10m弱の閉じた湖に形成されるため、潮位の影響を受けることはない。従って上方への成長が阻害される要素はなさそうであるが、側方成長の阻害として、ストロマトライトのように海藻存在は考えにくいのではないか。そこは南極の貧栄養の湖底である。生命の生育に厳しいという点ではストロマトライトの形成環境と変わりないが、強光による光合成の阻害と極端に強い紫外線が降り注ぐ環境には大型の固着性藻類は生育できない。そこで等方成長するシアノバクテリアの集団に抑制がかかり円錐型になっているのではなく、雪の結晶や金平糖のデコボコのように自己組織化によって異方成長することによってコケボウズの形態ができている可能性も考えられる。自己組織化の要因を考慮するならば、より成長したコケボウズではシアノバクテリアが上方成長しやすいまたは浮遊性のシアノバクテリアをとらえやすいなどの性質を裏付ける証拠が必要だろう。参考資料〔1〕伊津野郡平, 地質ニュース 1995年8月号No.492.〔2〕田邊優貴子,光合成研究 17 (3) 2007
A:非常にきちんとしていて、一般的なレポートとしては優秀だと思います。ただ、ここで紹介されたアイデアのうち、どの部分が参考分家印に依存したもので、どの部分が自分独自のものなのかがわかりづらいのが難点です。できたら、独自の視点の部分(おそらくここでは自己組織化?)以外の部分をばっさり削った方が、(この講義のレポートとしては)より高く評価されます。長すぎるぐらいですし。
Q:今日は色素の話で、個人的に興味深い話が多かった。その中でも最近発見されたクロロフィルfの話が面白いと思った。クロロフィルfが赤外線を吸収し、光合成反応を行うのは、微生物マットをつくるような場合、より下に存在するほど短波長の可視光は通りにくく、光合成に用いることができないため、赤外線を利用するように進化したという話だった。それはとても理論的で納得できるのだが、この層状の構造によって、光環境だけでなく、光合成に必要であるCO?の量も下にいくほど少なくなるのではないかと思った。そのために、このクロロフィルをもつ植物は通常のクロロフィル(おそらくクロロフィルa)をもつ植物に比べ、CO?に対する反応性が高いのではないかと思った。そこで、これを調べるのに実験を行うならば、通常のクロロフィルをもつものの代表として、ミドリムシとシアノバクテリアで比較してみたいと思った。具体的には同じCO?濃度条件下(この時、かなり低いCO?濃度にしておく)に二種類の生物を置き、呼吸量をはかることで、有機物量に換算する方法を取りたいと思う。一匹ずつ単離は困難な可能性があるので、その場合は全体の数を計測することで解決したい。
A:独自の視点に基づいた問題設定で、非常によいと思います。ただ、最後の部分はなぜ呼吸を測るのでしょうか?「光合成に必要なCO2」という出発点からずれる理由がわかりませんでした。「有機物量に換算する」という部分になにか理由がありそうですが。
Q:今回私がとても興味を持ったのがクロロフィルを持った深海魚が存在するということです。クロロフィルについていろいろ学ぶ中でなぜ進化の過程でその魚がクロロフィルを持つことが利点だと考えたのかに疑問をいだきました。深海はもちろん光のない世界です。したがって波長の長い光であっても海水に吸収されてしまうために深海まで光が届かないと考えられます。私が知っているなかでチョウチンアンコウなどは自分の体から発する光を利用して獲物を寄せて捕獲して食べることは生きていく上で利点あると思う。今回の深海魚は赤外線照射と感知の機能をもっていることを知った。よって他の獲物が発するわずかな光を照射し自分自身で感知することで獲物を捕獲するためのメリットになっているのではないかと考える。だからクロロフィルを持つことで赤外線感知の役目を果たし、生きていく上での重要な役割を担っているのではないかと思いました。
A:「他の獲物が発するわずかな光を照射し」という部分の意味がわかりませんでした。「光を照射し他の獲物が反射するわずかな光を」ならば意味が通りますが。
Q:ヘモグロビンとクロロフィルの構造はよく似ており、ヘモグロビンの中央が鉄で、クロロフィルはマグネシウムである。私たちは植物を摂取することでクロロフィルも体内に取り込んでいるわけであるが、このクロロフィルが体内に入ると、分解されてしまうわけではなくマグネシウムが鉄と入れ替わるのではないかと考えた。そのために野菜は貧血に効くと言われているのではないかと思った。逆に、植物体にヘモグロビンを入れるとどうなるのだろうか、と不思議に思った。ヒトは食べるとこで鉄を体内に取り込んでいる。植物体は土壌中から養分を取り込んでいることから、土壌中にマグネシウムが十分に存在している環境下で生育することで、ヘモグロビンからクロロフィルに変換されるのではないか、と考えた。
A:思いつきは面白いと思います。ただ、もう少し論理的な展開があるといいですね。理由として「野菜は貧血に効くと言われている」というのは、ちょっと弱いかな、と。
Q:授業で、魚類は4色覚持つという話があった。それはわたしたちには見えない紫外光を見ることができるのだという。その世界はさぞかし煌びやかで色彩にあふれているように思えるが、具体的な色などは想像し難いので、今回は4色覚になることでどのような見え方の違いがあるか考えてみる。魚類の他にも鳥類の多くは4色覚である。2色覚である哺乳動物や3色覚である霊長類と違う点は何かと考えてみると、それはわたしたちの移動は二次元的な方向(前後左右)に制限されているが、魚類や鳥類は三次元方向(上下)の自由な移動が可能であるということが挙げられる。移動する次元が1段階多いことで、物との距離感をつかむことがより難しくなる。よって4色覚を持つことで、より多くの色を見分けることができるため、物をより立体的に認識できるようになり、距離感をつかむことができるのではないか。例えばわたしたちが飛行機に乗ると、機体が上空に進むについて今まで自分がいた地上の様子はだんだんと平面的に見えてくるが、それが鳥の場合、でこぼことした立体感をもった様子で認識できるのではないだろうか。
A:これは面白い考え方ですね。移動の方向の共通性を考えることによって、このような結論に持っていく論理は評価できます。
Q:今回の講義において海藻の色素がカラフルなのは水の中の多様化した光によるものだという点に興味を持った。光のない暗い環境で植物を生育すると白いもやしになる。吸収する光がない環境下では光合成を行わないため色素を持たないからである。しかし、光(自然光)を当てると白かったもやしは緑色になる。このもやしを使って様々な単光を当てると、もやしのような陸上植物も海藻のように色々な色素を持つようになるのか疑問に思った。もやしは陸上植物であるためクロロフィルa.bを合成することは予想できるが、当てる単光によって本来陸上植物は持たないフィコビリンやクロロフィルc.d.fなども合成できるのだろうか。もし合成された場合は、植物も海藻と同じ光環境によって合成する光合成色素を調整できると考える。一方、合成できない場合は陸上植物に、例えば近赤外線を当てても光を認識せず、暗いところで生育するのと同様、光合成色素を合成せず白いままになると考える。海藻のよえに合成できる色素が多様化する程、光合成可能な光環境は広がるが、陸上植物にもそのような適応能力があるのか興味を持った。
A:これも目の付け所は面白いと思います。ただ、生物の進化は、その環境とのかかわりにおいて起きます。従って、自然界でありえない環境(例えば単色光の世界)に適応した進化を自然界で検出できる可能性は極めて小さいでしょう。
Q:今回の授業では、光合成色素の二重結合の長さと数によって、吸収する光の波長が異なるという話を聞きました。昼の太陽と夕日の色が違うことや、プランクトンの多い海の水が緑色に見えたり汚い湖の水が赤色に見える理由もこれによって説明できるということでした。授業の後、オーストラリアにピンク色をした湖があるという話を思い出したのですが、これらの話から理由の一部は予想できるのではと考えました。一つ目の理由は、赤い湖ほどではないがある程度水が汚れているためちょうどピンク色の波長の光が散乱しやすい環境になったからであり、二つ目の理由はピンク色の色素を持つフィコエリスリンを持った生き物が住んでいるのではないかと考えられます。
A:太陽の色の違いや汚い水の話は、散乱の性質によるもので、二重結合の話とは別のトピックです。後半、考えようという努力は感じられますが、理由を二つ思いついたところで頭をストップしないで、では、実際にはどちらの可能性が高いのか、どのように考えたらわかるだろうか、といった点まで考察をすると、論理的なレポートになります。
Q:今回の授業でフィコビリンが紹介された。このフィコビリンはクロロフィルの吸収が少ない緑色を吸収しているとのことであった。このフィコビリンを所持していれば植物はさらに多くの光の波長を吸収することができるはずである。しかし、実際にはこれを持たない。それはなぜであるかを考えてみたいと思う。本来光合成をする生物はクロロフィルしか持っていなかったのではないかと考える。当初はクロロフィルだけでも光合成を十分に行えていたのではないだろうか。ところが、光合成生物が増加してくるにつれて光環境の上位に生活する生物と下位に生活する生物とに分かれてきた結果、同じクロロフィルを用いて光合成をしていると十分な光を下位に生活する生物は得られなくなってしまった。その中で、一部の特に光が得にくいような水深が深い環境に生活している生物が持つクロロフィルがフィコビリン様のタンパク質へと変化したものが現れたのではないだろうか。クロロフィルがフィコビリンへと変化していったということも、それらの構造に類似性があったことから推測した。このような理由から、フィコビリンは光を得にくい環境で生活していた生物が獲得したものであるため十分な光を得られる光合成生物はフィコビリンを持たないのではないかと考える。
A:きちんと論理展開はされていて、よいと思います。「クロロフィルがフィコビリン様のタンパク質へと変化した」というのは誤解を招きますね。色素がタンパク質に変化することはないでしょう。フィコビリンの色素部分に変化する可能性はあると思いますが。
Q:本講義において海水の性質、水環境と色の見え方などについて学んだが、その中で特に浮遊物が多く汚れている海が赤く見えるという点に着目する。授業の中でこのような環境においては赤色光が水深3m程まで届く程度であとの波長の光はすぐに散乱や吸収されてしまうと学んだ。赤色光は波長が長いため一番透過しやすく、短い波長ほど散乱されやすいという特徴もある。これに関して、環境問題のひとつにも挙がっている赤潮も同様の原因として考えられるのではないかと思う。赤潮は植物性プランクトンの異常発生によって起こる。植物性プランクトンはクロロフィルを含有しているため赤や青の光を吸収してしまうため水の色は緑に近い色になるのかと思われるが、海水汚染による浮遊物の多さとプランクトンの異常発生という点でプランクトンの多い内海とは事情が異なってくるのだろうと考えられる。自然状態のプランクトンの数であれば光はそう散乱することもなく光の吸収だけで考えられるだろうが、数が増えるとプランクトン自体の色と光の散乱の両方が影響して海が赤色に変色するのだろうと考えられる。
A:テーマとしては面白そうなのですが、論理展開がよくわかりませんでした。細胞数が少ないときには細胞の吸収が主に効き、多くなると散乱の影響が主に効くようになる、ということでしょうかね?
Q:今回の講義の中で、私は赤外光を吸収、利用するクロロフィルdやfに興味を持った。授業の中では、可視光を利用できない状態に生育する植物体内で可視光以外の光を利用するため、赤外線を利用できるクロロフィルd,fが合成された、というお話があった。私の中で疑問として上がったのは、「一つの植物体の中でクロロフィルd,fが合成されることはあるのか」である。大きく葉の多い植物体は、植物体にある葉全体に日光が当たるように、葉のつき方を螺旋状にする、葉柄の長さを高さによって変化させているなどの工夫をしている。しかしこの工夫をしたとしても、下の方にある葉に当たる可視光は上にある葉に比べると少なくなってしまう。私は今回のクロロフィルに関する講義を聞いて、もし植物体の下のある葉でクロロフィルd,fを合成させることができれば、植物体全体として効率の良い光合成ができるのではないかと考えた。しかし、詳しく文献をあたったわけではないが、一部にのみクロロフィルd,fが存在する植物体を見つけることはできなかった。これは、クロロフィルd,fを合成するよりも葉のつき方や葉柄の長さなどで対応した方がメリットが多いからではないかと考えられる。クロロフィルd,fを合成できるようにするには遺伝子の変異などが必要だと考えられるので、それよりも変化しやすい部分で対応したのではないだろうか。
A:論理展開がきちんとしてよいと思います。非常に常識的な発想なので、ここに独自の発想を入れられるとよいのですが、まあ、それはおいおい。
Q:前回の講義でホヤと共生している藻類の存在を知った。藻類にとってホヤの体内で共生するということは、光合成に必要な光が得られにくくなることを意味している。ではなぜ藻類はホヤと共生することを選んだのだろうか?今回は藻類とホヤの両視点から、ホヤと共生することのメリットについて考えられる理由をそれぞれ2つずつ考察する。藻類がホヤに共生する一つ目のメリットは、外敵に捕食されにくくなることである。藻類の大きさはホヤに比べるとはるかに小さい。このことはホヤに比べて、藻類は他の生物の口に入りやすいため、捕食されてしまう可能性が高くなってしまうということを示唆している。つまり、ホヤの体内に共生することにより捕食されるリスクを軽減していると考えられる。二つ目のメリットは、ホヤの体内環境は外界と比べて濃度が低いため、浸透圧調節に必要となるATP消費量を抑えることができる。藻類は光合成や呼吸に代表されるように、生存するためにはATPを用いた反応系を進行させる必要がある。もし藻類が外界で生活する場合、生産した多くのATPを浸透圧調節につぎ込まなくてはいけない。そこで外界よりも濃度の低いホヤの体内に共生することにより、浸透圧調節に使うATP量を節約していると考えられる。一方、ホヤが藻類と共生する1つ目のメリットは、藻類の光合成により生産されたグルコースの一部をホヤ自身が使うことができる点であろう。これによりホヤは、自身の摂食にかけるコストを共生前よりも低くすることができる。自らで移動手段を持たないホヤにとっては、その場でエネルギーを生産できることで、より生存に有利になると考えられる。二つ目のメリットは、藻類の持つクロロフィルfによって紫外光が吸収されるため、DNAの変異が起こりにくくなることが考えられる。ここからは推測に過ぎないが、ホヤのDNAの塩基配列の中には、紫外光によって変異しやすい領域が存在しており、その領域の塩基配列が直接、ホヤの生存に大きく関わってしまうのではないかと考えている。そのため、藻類と共生しDNAの変異が起こりにくくなったホヤが自然選択を受け、生存しているのではないだろうか。事実は不明であるがひとつの可能性として考慮の余地はあるだろう。
A:面白い点に目をつけていて、論理の展開もしっかりしていてよいと思います。ただ、海中の紫外線量は、それほど高くないと思いますから、ホヤの二つ目のメリットは、紫外光によって変異しやすい領域の存在に依存しますが、もしそれが存在しているとすると、今度はその存在のメリットを考える必要が出てきますね。
Q:今回の講義ではクロロフィルfを持つシアノバクテリアがいるとのことだった。クロロフィルfは赤外の光の波長を吸収する役割をもつ。植物ではこのクロロフィルfを持つものはいない。私はなぜ現在までクロロフィルfをもつシアノバクテリアが発見されなかったか疑問に思った。現在、地球温暖化が問題としてよくとりあげられている。地球温暖化の原因の一つとしては二酸化炭素の増加があげられる。太陽から地球に向かってくる可視光は地表にあたり、熱と赤外線となって再び大気に放射される。その時二酸化炭素が赤外線を吸収し、また地表や宇宙に向かい赤外線を放射している。二酸化炭素が増加することで吸収される赤外線も増加するのである。私は地球温暖化がクロロフィルf発見に繋がっているのではないかと考えた。近年の地球温暖化により地表に存在する赤外線が増えたことで発見されたシアノバクテリアはクロロフィルfを持つようになったのではないか。地球温暖化以前の環境ではクロロフィルfを用いた光合成では赤外線の量が少なく効率が悪くクロロフィルfを持つ意味がなかったが、赤外線の量が増え効率があがりクロロフィルfを持つことができるようになったと考えた。そのため近年になり、クロロフィルfは発見されたという考えである。
A:これは、今まで僕が見たレポートの中でも、かなり大胆な論理展開ですね。このように自由に想像の翼を広げる能力は、サイエンスに関わる人間にとって非常に重要です。
Q:赤色光は水に吸収されやすく光合成でも利用されるため,水中深層には届きにくい.故に,深層では緑色に吸収のピークをもつフィコビリンをもつ紅藻が優占する.一方,表層および陸上では,赤,青色に吸光のピークをもつクロロフィルを主に用いる緑藻や高等植物が優占する.しかし陸上は緑色光が不足している訳ではない.単位波長あたりの光量子束密度は,むしろ青色光の方が少ない[1] .なぜ,陸上植物は緑色光を吸収する光合成色素をもたないのだろう.まず,もたない種が偶然繁栄しただけである可能性がある.しかし,フィコビリンがピロール環を開いたような(クロロフィルとよく似た)構造をもっていることを踏まえると,変異は容易に起こり得るように思える.フィコビリンをもつ変異体が陸上においても有利であるならば,これが繁栄しているだろう.つまり,陸上ではフィコビリンをもたない方が適応的と考えられる.次に,過剰な光エネルギーは活性酸素を増加させる.現生の高等植物でさえも,カロテノイドなどによるエネルギー消去系をもつのだから,フィコビリンをもつ変異体は極端な弱光下でしか生存できないだろう.高等植物の作用スペクトルを見ると,緑色光は赤,青色光と比べ色素にほとんど吸収されないが,光合成作用は比較的強い[2] .これは,緑色光の方が光合成に効率的に利用されていることを示す.吸光係数が一定で吸光度の比率を変えるには,一定波長のみ光路長が長い必要がある.例えば緑色光が葉内で反射を繰り返せば,光路長が長くなる.これは,光合成色素による緑色光の吸光度が小さいからこそ可能であると言える.ただし,以上は一部の波長の吸光度が小さいことに対するメリットであり,それが緑色であることを説明できない.これは偶然なのだろうか.
文献:1.寺島一郎,『植物の生態』,裳華房,2013、2.秀文堂編集部 編,『NEW PHOTO GRAPHIC 生物図説』,秀文堂,2011
A:これはよく考えています。ただ、最後のところで、結論を出せずに終わってしまっているのが残念です。ここまで考えることができるのであれば、何でもよいので、こうだろう、という推論で終わる方がよいでしょう。
Q:魚が種類によって、多様な色覚を持っている理由は、魚が種々多様な光環境に生息するからであると学んだ。では、トンボのように、幼生は水中、成体は陸上と住み分ける動物の色覚はどのようになるのであろうか。国立研究開発法人産業技術総合研究所、生物プロセス研究部門、主任研究員の二橋亮氏によると(科研費NEWS 2015年度 VOL.1)、「トンボは水中に届く光、空から直接届く光、地表の物体からの反射光を別々の遺伝子セットで認識することにより異なる光環境に適応するという、非常に複雑な色覚システムを持っていると考え」られていることがわかった。水中で過ごすヤゴの時代ではあまり動かないため、水中で最低限の光を拾えばよいのであるが、成体の時代では、飛行するため、上からと下からで、受容する必要のある光(視覚情報)が多いのだと考えられる。同様に考えると、ミツバチや、チョウ、またカエルなども複雑な色覚システムがあるのではないかと推測できる。これらのように、幼少期と成体期で形態や住む場所が大きく異なる生き物は、光の受容システムに大きな相違があるものと予想できる。これらの動物の色覚システムを研究すれば、ヒトの色覚システムの解明およびその疾患に対しての打開策に発案につながるのではないかと思う。
A:これもよく考えていてよいと思います。ただ、アイデアを参考文献に負っているところがやや不満です。もう少し独自の考え方で切り込めると、さらによいレポートになるでしょう。