植物生理学II 第4回講義
細胞内共生と葉緑体の起源
第4回の講義では前回に引き続いて細胞内共生によってシアノバクテリアがどのように葉緑体に変化していったのか、その進化の様子を解説しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。
Q:クリプト藻類やクロララクニオの葉緑体は4重膜を持ち、これは二次共生が行われたために獲得した形質だと考えられる。そして4重膜のちょうど中間にヌクレオモルフというオルガネラがあり、これは一次共生の段階で取り込まれた細胞組織の名残だろうと考えられるらしい。このことから私は「共生によってはじめに取り込まれた細胞の核はヌクレオモルフとして残存しているのに、なぜミトコンドリアは消失してしまっているのか」ということを疑問に思い、考察をしてみることにする。ミトコンドリア消失の理由として私が思いつくのは「核DNAとミトコンドリアDNAのbp長の違いによる、核DNAの残留」「核DNAには用途があったが、ミトコンドリアは全く不要であり排除された」「最初の共生で取り込まれた細胞は原核生物と真核生物の間にあり、核を持つがミトコンドリアを持たない細胞であった」という3項である。第一の説が正しいとき、やがて残留核DNA(ヌクレオモルフ)もやがて消失することとなる。第三の説は、シアノバクテリアの特徴に倣ったアイディアである。第二の説について更に考察を深める。4重膜の葉緑体を持ったクリプト藻類は、葉緑体外にミトコンドリアを有している。そして二次共生の過程において最初に取り込まれた細胞は、4重膜の葉緑体の内部にオルガネラを有することとなる。4重膜に阻まれたミトコンドリアは細胞質との距離が遠ざかり、好気呼吸の場として相応しくない場所に押し込められたために排除されたのではなかろうか。
A:問題点の提示、複数の考えられる仮説の提示、そしてその仮説について考察していて、きちんと書かれたレポートだと思います。考察もよいと思います。後は、できたら仮説間の比較検討が欲しいですね。第二の仮説について考察しているのはよいのですが、これだけだと、そもそも他の仮説に比較してもっともらしいのかどうかがわかりません。比較検討があると、結論に説得力が出ます。
Q:今回の講義内容のにおいて二次共生について最も興味深いと感じたため考察してみる。葉緑体が4重膜構造、ヌクレオモルフを保持する等の特徴をもつ生物は授業で扱ったクリプト藻類とクロララクニオ藻類があるが、わたしは今回の講義を受けたとき、この二種類の生物だけが二次共生を表しているのだと理解した。しかしこのレポートを書く際に考え直してみると、現在存在する光合成生物のほとんどが二次共生の賜物ではないか、授業で扱った二種類は、現在の光合成生物細胞の構造に進化する過程においての通過点にすぎないのではないか、と考え直すことができた。文献(http://natural-history.main.jp/Algae_review/Cryptophyta/Cryptophyta.html)を調べてみるとその考えは肯定することができた。また、この考えからさらにユーグレナや渦鞭毛藻の葉緑体が三重膜構造であることについて考察ができ、クリプト藻類の例と同様に、共生後の細胞内の不必要なものの退化の過程として葉緑体の三重膜構造が見られるのではないかと考察する。
A:ややわかりづらいのは、前半の「進化する過程においての通過点」ということと、後半の「退化の過程として葉緑体の三重膜構造」ということが同じことを指しているように見えることです。同じであるならば、「また、この考えからさらに」というつなぎの言葉は意味がわからなくなってしまいます。もう少しロジックがはっきりするとよいですね。あと、講義では、植物の系統樹を説明したときに、二次共生が繰り返しとこったことについて触れたと思います。
Q:私は授業中に取り上げられたハテナという生物について興味がわき、ハテナの光合成機能について考えてみた。分裂すると片側に光合成機能が受け継がれ、もう片方は従属生物の機能を持つようになるということだが、これはハテナが体内で機能の分業がしっかり行われているからできることであると思う。生物は自分の都合の良いように生活形態を作ると思うが、ハテナの身になって考えると、私は緑色のままで捕食部分も持つことが一番生存できる可能性が高くなるのではと思ってしまった。だが実際に分裂して違う性質を持つのは、その方が光合成機能を高め、エネルギーを沢山作り出すことができるからだと考えた。似たような生物としてミドリムシが思い浮かぶが、ハテナのように分裂して光合成機能を外部から新たに取り込むことで常に新たな光合成機能を獲得し、分裂して光合成機能をお互いで分け合わなくてもすむために、ハテナにとってはお得であるのだと考えられる。
A:きちんと考えている点は評価できます。ただ、考えたことを、単に思いつくままに並べるとエッセイになってしまいます。なるべく問題点を絞り込んで、論理構成をしっかりするとレポートらしくなります。例えば、ここでは、「緑色のままで捕食部分も持つ」ことが前半のポイントになっていて、「分裂して光合成機能を外部から新たに取り込む」ことが後半のポイントになっています。どちらも面白いテーマなのですが、2つの間の関係は明示されていません。そのあたりに改善の余地があるでしょう。
Q:ハテナの分裂するごとに一方が葉緑体を取り込みなおす性質を用いて何か新しい発見ができるのではないかと考えたので考察する。この話を聞いてすぐに思いついたのが、細胞内共生の仕組みをもっと詳しく調べられるということだ。ハテナは、分裂するごとに葉緑体を持っていない個体が生まれ、また藻類を取り込み葉緑体とする。ただ単に藍藻を細胞内に入れればきちんと葉緑体として働くとは考えられないので、細胞内に取り込んだ後あるいは取り組む前に藍藻に何らかの処置がハテナによって行われているはずだ。その処置がどのようなものであるか突き止めることができれば、人工の葉緑体を作製の実現に一歩近づけるかもしれない。太陽パネルとはことなり、二酸化炭素を減らすことができる上に、葉緑体のみを作製し培養する事ができれば植物よりも面積あたりの光合成効率がよくなる。さらに完全な植物体よりもエネルギーを消費しない分エネルギーを多く取り出せるので、優秀なエネルギー源として用いることができると考えられる。
A:まず、講義で説明が足りなかったのかもしれませんが、ハテナが取り込むのはシアノバクテリアではなく藻類です。ですから細胞内共生のモデルといっても、一時共生のモデルではなく、二次共生のモデルであることになります。応用面についての考察は面白いのですが、葉緑体を苦労して培養するよりは、自然に増殖するシアノバクテリアを培養した方がよいと思えます。シアノバクテリアではダメで、葉緑体である必要性をどこかで説明する必要があるでしょう。
Q:今回の講義で一番印象に残っているのは「ハテナ」という生物のことである。「ハテナ」の一番の特徴は細胞分裂のときに葉緑体をもつものともたないものができるということである。そこで、他の生物では起こらないこのような現象が「ハテナ」にとってどのようなメリットやデメリットがあるのかを考えてみた。デメリットとしては、共生する藻が無い環境では増えることができないという点が挙げられる。生物にとって、子孫を残すということはとても大切である。このデメリットはとても大きいと思うのだが、「ハテナ」はその状態から進化することなく今もあるので、このデメリットを越えるメリットがあると考えられる。どのようなメリットか考えてみた。考えられるメリットとして、葉緑体をまるまる1つのハテナの細胞にいれることで、葉緑体の量がふえるのを待たなくて良いぶん、細胞分裂で時間やエネルギーを必要としないことと葉緑体を得る藻を自分で補食できるため、DNAの欠損などにより、葉緑体のタンパク質に不備があったら光合成できないというリスクが減るということがある。後者のメリットは考えすぎかもしれないが、子孫を残すことが重要であるとするとき、大きなメリットになると考えた。
A:きちんと考えていてよいと思います。多様性を考える上で、メリットとデメリットの両方を考えることは非常に重要です。もし、メリットだけだったら、他の形の生物も同じ戦略を採るはずですし、デメリットだけだったら、絶滅してしまうでしょうから。
Q:今回の授業の中で分裂すると片方が緑色でなくなるはてなという生物について触れていた。はてなは藻類を取り込み、共生しているだけであり、完全に自分の一部にしているわけではないと説明された。では、はてなが完全に植物になるためにはどのようにすれば良いのだろうか。はてなが藻類を完全に自分の一部とするための方法を考える。授業内において、光合成細菌が植物の葉緑体となったが、その際にゲノムの90%を失ったという内容があった。このことから、取り込んだ藻類のゲノムを改変・編集することにより取り込んだ藻類を自分の一部にすることができるはずである。そのためには制限酵素やDNAリガーゼが必要であるが、上手く光合成などはてなにとって都合のよい機能のみを残していくことは非常に難しいだろう。しかし、最初の植物も取り込んだ藻類のゲノムを変化させて自分の一部にしていったはずであり、将来的にはてなが完全な植物になる日がやってくるかもしれない。
A:考える方向性はよいと思います。ただ、進化の過程をやや目的論的に捉えているようです。「上手く光合成などはてなにとって都合のよい機能のみを残していくことは非常に難しい」とありますが、実際には、進化は都合のよい機能を残すのではなく、単に都合のよい機能が残った個体が生き残るのです。その影には、都合のよい機能が残らなかった個体の累々たる屍が横たわっていることを常に意識する必要があります。
Q:講義では、真核生物中心で一次共生や二次共生の話を聞いたので、真核生物に取り込まれた葉緑体が一方的に搾取させている印象を受けた。そこで、ここでは反対に葉緑体の視点に基づいて共生を考えてみる。取り込まれる利点としてまず、膜の数が増加することがあげられる。葉緑体が由来の二重膜に加えて真核生物由来の二重膜の4重の膜によって外界と隔てられるので、内部構造を保護する機能を強化できる。次に、DNAを安定的に保存することがあげられる。葉緑体のDNAの一部は真核生物の核内に移動し、真核生物のDNAに組み込まれるため構造の変異が起こりにくくなり、遺伝情報をより正確に次世代に残すことができる。こうしてみると、真核生物と葉緑体の双方に恩恵があり、確かに共生が成立していると考えられる。
A:きちんと考えていてよいと思います。膜については3重の膜の葉緑体の存在について講義で触れたので、その部分についての評価・解釈が欲しかったように思います。
Q:二次共生移行段階にあるような不思議な藻類ハテナの話があった。同じようなことは一次共生の初期にも起きたのではないだろうか。現生の葉緑体をもつ生物の葉緑体は宿主と独立に分裂する。その際、外膜と内膜で独立した収縮環が形成されることで葉緑体は分裂するらしい(参考1)。葉緑体やミトコンドリアなど細胞内共生に由来するオルガネラが二重膜を持つのは、宿主細胞の食作用によって形成された食胞の宿主由来の外膜と、捕食者の細胞膜由来の内膜に起源しているのだという説明を受け入れるとして、共生初期には宿主細胞が分裂しても片方の細胞には祖先葉緑体は含まれない可能性が高い。宿主細胞が共生以前は従属栄養として捕食を行っていたことを考えれば、祖先葉緑体が配分されなかった方の細胞が生存するのはさほど難しくないことを考えると、注目すべきは①宿主が捕食を止める機構と②宿主細胞の分裂と祖先葉緑体の外膜分裂機構の獲得の進化であるように思う。①についてはハテナの無色細胞と緑色細胞で捕食行動を誘発する機構を調べることで推測はできるかもしれない。②はもともとは宿主の食胞に由来する膜の分裂が捕食者の分裂と同期する必要があり、その機能を獲得するまでは常にハテナのように分裂する細胞が生じ続けることになりかねない。いずれにせよ光合成生物を体内に取り込んで共存するだけでは継代的に細胞内共生を維持することはできないのだとハテナは教えてくれる。ハテナの取り込んだ緑色藻類は食胞の中で分裂をするのかどうかは気になる。
参考文献1:http://www.nig.ac.jp/labs/SyCelEvo/documents/23_61.pdf
A:書きっぷりが鮮やかですね。手馴れた感じがします。レポートの中では、分裂のメカニズムについて考察されていて、これがポイントになっています。自分でも最後に書いていますが、これに加えてもう一点、ハテナ、サンゴなど、さまざまな共生体の分裂がどのようになっているのかの知識があると、ぐっと説得力がまします。ただし、この講義のレポートではそこまでは要求しません。
Q:今回の授業で登場してきたハテナに関心をもった。ハテナは分裂の際に葉緑体をもつかもたないかで動物相になるか植物相になるかが決定する。これはどのように決まるのかについて考察してみたい。まず、光合成が活発に行われるには光がよく当たる方が適しているので、左右で光が当たる方に共生体が移動して分裂するのではないかと考えた。ただ、約30μmという大きさで左右で光の当たり方に有意に差があるとは思えない。もう一つ考えたのは、生物が発生する際にシグナルの濃度勾配によって、頭部と尾部とが決まるように、ハテナにおいても何かシグナルの濃度勾配があって、その勾配を感知して共生体が移動し、分裂するのではないかというものである。どのようなシグナルかはわからないが、ハテナに特有のものなのではないかと思う。あるいは、シグナルではなく、ちょっとしたエネルギーの偏りに応じて、エネルギー不足の方へ共生体が移動し、エネルギー産生するといったこともあり得るのだろうか。これらはあくまで推測にすぎない。ハテナの研究が進めば、共生のメカニズムが明らかになるかもしれず、非常に興味があるので、今後の研究にも注目したいと思った。
A:問題点の設定と仮説の提示がきちんとしていてよいと思います。目の付け所も面白いし。一つ目の仮説に関しては「左右で光の当たり方に有意に差があるとは思えない」という論拠を示していますが、同様な論拠を他の仮説に関しても示せると完璧でしょう。それらの論拠は、別に知識に基づいたものである必要性はなく、自分なりの考えで十分です。
Q:「はてな」という生物が存在することを初めて知った。「はてな」は分裂すると、片方は緑色であるが、もう片方は緑色ではなくなる、という特徴があるが、これは、外部から取り込んだ葉緑体が分裂しないために、片方のみが葉緑体をもったままになる、ということであった。そのため、葉緑体をもったままのほうは植物、もっていないほうは動物、ということになる。このように、「はてな」は、自身の細胞については分裂させることができるが、葉緑体を分裂させることができず、共生の途中の段階といえる。私からすると、生物が他の生物を取り組み、取り組んだ生物を体内に生かし続けられることがとても不思議である。当然であるが、通常ならば、消化されてしまう。(テレビで、ヒトの胃の中で植物が発芽してしまった、とやっていたのを見た記憶があり、思い出した。)生物の進化の過程において、この「はてな」のような段階を経て共生にまでなったのだと思うが、たまたま1匹多くても数匹に消化不良が起こった、ということはありえそうであるが、その種すべての個体が、そのような特徴をもっているということが興味深かった。おそらく、はじめは1匹もしくは数匹に消化不良による葉緑体(をもつ生物)の取り込みが起きたが、葉緑体を獲得することで生存競争に有利にはたらくようになったため、その個体の生き残る確率が高くなり、そして、葉緑体を取り込むことのできる個体の増加により、長い年月をかけてその種すべての個体が葉緑体を取り込むことができるようになった(遺伝子レベルでの変化が)生じたのであろう、と思った。「はてな」は細胞分裂の際に葉緑体を分裂させることはできないが、数千年、数万年後には(「はてな」という種が生存していたとして)葉緑体をも分裂させることができるようになってはいるのか、と疑問に思った。外部から取り込んだものをどのようにして自らの分裂時に分裂させているのか、について考えた。外部から取り込んだ葉緑体の分裂と自身の細胞分裂のタイミングが運よく重なった個体が現れ、そのような個体は生き延びやすくなり、葉緑体を獲得した、のではないかと考えた。
A:考えているポイントはよいと思います。ただ、頭からさらさら書いている感じで、全体で一つの論理になっていません。最初に論理を組み立てて、それから文章を書き出すと、そのあたりは改善すると思います。
Q:マラリア原虫はアピコプラストという藻類由来の細胞内小器官があり、これがマラリアに対する薬剤として注目されていると紹介されていた。今回はマラリア原虫の生活環を利用することでその薬の有用性を広められるのではと考えた。マラリア原虫の繁殖の仕方としては、ハマダラカに媒介されヒト体内の赤血球に侵入したマラリア原虫が(ガメサイトという段階で)ハマダラカの吸血によって蚊に移ると蚊の中で受精し次の感染の機会を待つ。つまりアピコプラストに対する薬をワクチンのようにあらかじめヒトの血液の中に注入しておけば、それを吸ったハマダラカで寄生しているマラリア原虫にもその薬が効くのではないか。
A:なんとなく、これは人間を救う方法ではなくて、ヒトを使ってハマダラカを感染から守るほうへ働くのではないかと思いますが、違いますかね?もう少し詳しい説明が欲しいところです。
Q:今回の講義で特に印象に残っているのは、マラリア原虫が葉緑体の名残であるアピコプラストを持っているが光合成の機能を失ってしまったということだ。なぜ一度持った光合成の能力を失ってしまったのかについて考察したいと思う。その理由として、外部から有機物をもらい寄生生活ができるようになったからだと考える。その背景に、生物の多様化が関係していると考える。生物が少ない環境では光合成によって自分で有機物を作り生き延びる必要がある。一方、光合成によって有機物を作る生物が増えたことにより、外部に十分栄養がある環境下でマラリア原虫が光合成をするよりも他の生物に寄生した方があまりエネルギーを使わず楽に生活できるのではないだろうか。このようにして、マラリア原虫は光合成よりも寄生することを選んだのだと考える。
A:これは悪くはないのですが、寄生しているからエネルギーが得られて光合成をする必要がない、という部分は誰でも考えますよね。一方、その背景として生物の多様化が関係しているという点は、ある程度オリジナリティーがあると思います。そうであれば、エネルギーの部分の記述は最低限にして、多様性についての論理をきちっと展開するほうがよかったでしょう。
Q:本日は植物の系統樹について学習した。自然界には光合成植物と非光合成植物が混在しており単系統にはならないが、色素体遺伝子によって植物の系統を分けると単系統になる。クロロフィルa、クロロフィルbに注目して系統を見ると、シアノバクテリア(クロロフィルaのみ含む)とプロクロロン(シアノバクテリアの一種。クロロフィルa,bを含む)に共通の祖先が存在し、シアノバクテリアからは紅藻、灰藻類、プロクロロンからは緑藻、そして陸上植物と進化していることがわかる。クロロフィルaとbでは吸収する光の波長が異なる。クロロフィルは主に青い光(波長435 nm前後)と赤い光(波長680 nm前後)の光を吸収し、緑色の光はあまり吸収しないので、反射されたり散乱されたりして葉っぱが緑色に見える。多くの高等緑色植物では青緑色のクロロフィル a と黄緑色のクロロフィル b とがおよそ三対一の割合で含まれる。つまり植物の系統は葉の色で説明がつくのではないか。
参考文献 http://cacao55.fc2web.com/sub76.html
A:講義では、色素の面から見るとプロクロロンから緑藻や陸上植物が生まれたように見えるが、系統解析をしてみると、どうもそうではなさそうなことがわかった、と解説しました。このレポートの結論は「植物の系統は葉の色で説明がつく」という部分なのだと思います。そうであれば、その直前の論理展開が重要なのですが、それが「つまり」の一言で済まされてしまっています。事実を提示したのちに、「つまり」の部分で、きちんと論理を展開するようにしてください。
Q:今回授業内においてマラリア原虫はアピコプラストという共生藻類の名残を持っており、そこでマラリア原虫は植物と同じように脂肪酸の生合成をしていると学習した。そこで動物細胞の脂肪酸の生合成経路はどのようになっているのか疑問に思ったため、調べてみるとミトコンドリアや滑面小胞体、細胞質で行われているようである。また脂肪酸の生合成には真核型と原核型があるようであり植物の場合は葉緑体による原核型のみで真核型は存在しないようである(Ⅰ)。では、動物細胞が行う真核型の生合成経路はどこから由来したのか考えてみたいと思う。まずミトコンドリアで行われている経路については、ミトコンドリア自体葉緑体を起源とすると考えられているようであるため今回は葉緑体を起源とすると考えておく。植物もミトコンドリアを持っているのに原核型と分類されるということは、ミトコンドリアがあることのみが真核型と原核型の違いとは考えにくい。そのため、滑面小胞体や細胞質で行われている経路に違いがあるとしてその理由を考えてみる。そこで考えられるのが外来性の遺伝子の挿入である。それは、かつて脂肪酸を生合成する原核細胞と祖先の真核細胞は共生していたがその遺伝子が宿主側の遺伝子へと完全に移動してしまったということである。そして、共生していた細胞の細胞構造も崩壊してしまいそこで反応していた脂肪酸を作る酵素は核内における遺伝子発現によって細胞質や滑面小胞体で作られたと結論付ける。これが真核型の脂肪酸生合成経路が出来た過程と考えた。
(Ⅰ)”植物細胞は真核細胞型脂肪酸合成装置を持つか?”[https://kaken.nii.ac.jp/d/p/08456170/1997/3/ja.ja.html]
A:きちんと考えていて、論理展開もしっかりしているように思えるのですが、読み手にわかりづらい文章になっています。それは、例えば「真核型」の意味が説明されていない点にあります。これが、「核に遺伝子がコードされている」という意味なのか、それとも「真核生物によく見られる」という意味なのかによって、論理の道筋は違ってきます。また「ミトコンドリア自体葉緑体を起源とする」というような言い回しも、これだけだと葉緑体がミトコンドリアに変化したように読めますが、違いますよね。「ミトコンドリアの脂肪酸合成系が葉緑体の脂肪酸合成系に由来する」という意味で使っているのではないかと想像します。読み手にわかりやすい文章にすることもレポートとしては重要です。
Q:講義内で、アピコプラストという葉緑体が退化したものと考えられる小器官を持つマラリア病原虫の話題が登場した。そこでマラリア病原虫は植物なのか動物なのかという疑問が生まれるが、マラリア病原虫の細胞核DNAを見てみると植物のそれとは大きく異なっているので、動物寄りの存在なのだろうと考えられる。マラリア病原虫は二次共生によってかつて葉緑体を獲得したのだと考えられている。二次共生によって葉緑体を獲得したと考えられている生物はクリプト藻類やユーグレナなどたくさん報告されているが、なぜマラリア病原虫は葉緑体が退化してしまったのだろうか。アピコンプラスト類は現在他の動物に寄生をすることによって生きているので、寄生することを覚えた代わりに葉緑体を失ったということがまず考えられる。またアピコンプラスト類は二次共生で葉緑体を得た他の生物群と異なり、紅藻葉緑体を期限に持つので、おそらく紅藻葉緑体に原因があると考えられる。
A:藻類の核コードのrRNAで系統樹を書くと単系統にならない、という話はしたと思います。とすれば、「マラリア病原虫の細胞核DNAを見てみると植物のそれとは大きく異なっているので」というのは、論理として成り立ちませんよね。また、紅藻系統の(アピコンプレクサ以外の)藻類の話もしたと思います。もう少し講義を聴いて、レポートを書くようにしてください。
Q:今回の授業ではまずクロロフィルaを持ったシアノバクテリアが発生しその後クロロフィルaとbを両方持った原核緑藻類が発生してそれが陸上植物に進化したという流れが大まかに分かった。それぞれのクロロフィルについて調べてみたところ、クロロフィルaにCAO遺伝子が作用することでクロロフィルbが発生することがわなった。つまりシアノバクテリアと原核緑藻はシアノバクテリアが共通祖先からCAO遺伝子を消失してクロロフィルbを失ったのか、もしくは原核緑藻がCAO遺伝子を獲得してクロロフィルbを得たかの2通りのことが考えられる。
A:これも講義を聴いていませんね。上にも書きましたが、色素の面から見るとプロクロロンから緑藻や陸上植物が生まれたように見えるが、系統解析をしてみると、どうもそうではなさそうなことがわかった、と解説しました。レポートを書くには、やはりまず講義をきちんと聴かなくてはいけません。
Q:今回の授業で二次共生を行った生物の中でも、クリプト藻類やクロララクニオ藻類の葉緑体膜が四重膜であり、ユーグレナや渦鞭毛藻の葉緑体膜が三重膜であるということが気になったので、その理由について考えてみようと思う。クリプト藻類やクロララクニオ藻類は共生した真核生物の核の名残であるヌクレオモルフがあるが、ユーグレナや渦鞭毛藻にはない。これは後者の方が2次共生を行ってからの期間が長く進化の過程で不必要なものを無くしていったからであると考えた。同じように葉緑体膜もタンパク質の輸送などの際に障害となる不要な葉緑体膜を進化の過程で減らしたため、ユーグレナや渦鞭毛藻では三重膜となっているのだと思う。一次共生によって誕生した二重の葉緑体膜を持つ植物も独自のDNAが葉緑体から宿主細胞の核の染色体に移動し葉緑体タンパクも細胞質で作られ、葉緑体に運ばれるようになっているので、二重膜である必要がなく、むしろ輸送などが行いやすい一重膜に変わっていくのかもしれない。
A:考えてはいますが、やや「ありがちな」レポートですね。二次共生してからの時間の違いに着目していますが、そうであれば、一次共生をしてからの方が長いはずですから、そこで最後に触れられているように一重膜になってもよさそうです。そのあたりをもう少し深く考察するとオリジナリティーのあるレポートを書くことができます。
Q:本講義にて触れられたアピコプラストとそれを保持するマラリア原虫について述べる。アピコプラストはマラリア原虫などの胞子虫類に見られるオルガネラで、塩基配列が葉緑体に類似しており、かつ4重膜構造を持つことなどから、共生藻類の名残として考えられている。毎年数百万人の死者を出しているマラリア熱の原因であるマラリア原虫だが、現在最も新しいとされる抗マラリア剤はミトコンドリアの呼吸鎖を阻害するものである。これと同様に、葉緑体機能を止めることで類似構造のオルガネラであるアピコプラストの働きを阻害し、マラリア原虫を殺していくという方法が考えられるという。アピコプラストは、光合成能は無いとされるが、脂肪酸の合成などマラリア原虫の生存に欠かせないオルガネラであると言える。よって葉緑体機能の停止と同様にアピコプラストの機能停止を考えるのであれば、葉緑体における光合成経路は視点から外し、塩基配列が類似しているという点を考えるべきであろう。塩基配列が類似しているということは、様々な物質の生合成の経路も似通っていると考えられる。アセチルCoA化カルボキシラーゼ阻害剤は葉緑体の脂肪酸の生合成阻害に使用されるが、こういった活性阻害の物質探究、また根本的に塩基配列を上手く壊していく方法を見出すといったことも、マラリア原虫撲滅への足掛かりになるのではないだろうか。
※参考文献※公益社団法人日本薬学会HP TOPICS 抗マラリア剤の現状と開発 http://www.pharm.or.jp/hotnews/archives/2000/07/post_108.html
(2015年10月18日最終閲覧)
A:まとまってはいますが、自分なりの考えは、どの部分にあるのでしょうか。この講義でのレポートで評価されるのは、論理とオリジナリティーです。講義の内容を繰り返した部分や、他のサイトで得た情報の部分などは評価の対象にはならないので、自分のオリジナリティーを前面に押し出すようにしてください。
Q:共生体として生物内に入った時に共生体のゲノムから宿主の細胞核へ遺伝子移行が起きる。原核生物より真核生物のほうがゲノムが大きいのはこれらのことを繰り返してきたからであると考えた。ゲノム情報のすべてが宿主の核に移行し、有益なタンパク質合成の情報などを手に入れられた場合もその共生体を体内に持つ意味がなくなるため失われた。逆に考えると光合成のための葉緑体や呼吸のためのオルガネラなどはすべてのゲノム情報の移行がされていないため体内に存在し今も共生していると考えることとができる。これらのように数多くのゲノム情報をとりこみ、その持つ情報の中で必要なものと必要でないものを取捨選択しているということが、非コードDNAなどの配列のすべてを使っていないなどの現象から考えることができる。
A:これは、アイデアとしては非常に斬新だと思うのですが、当たり前のことのように記述されているので、その斬新さが伝わりません。核の遺伝情報の複雑性の由来が、今は消え去った数多くの共生体に由来するという主張自体が、生物学の常識に反することをまず認識して、従来の常識へのアンチテーゼとして展開すると、すばらしいレポートになります。
Q:今回の講義の中で、シアノバクテリアが本来持つゲノムの9割は葉緑体になる際に核に移行している、という内容に興味を持ったので、注目して考察する。葉緑体ゲノムが核に移行するメリットを考えたとき、核というひとつの場所にゲノムの転写をまとめて行わせるため、という1つの理由が浮かんだ。前回の講義で、オルガネラごとに役割分担をする利点が挙げられていたためである。しかし、葉緑体ゲノムの転写を可能にするには核本体にもかなりの進化が必要なのではないかと私は感じた。シアノバクテリアの転写機構は原核生物型だが、植物本体の核の転写機構は真核生物型で、葉緑体ゲノムがそのまま核で転写、発現することは難しいと考えられるからである。実際に葉緑体ゲノムからの遺伝子は発現があるので、プロモーターの新生があると授業では学んだが、そこまでして葉緑体ゲノムを核に移行させる理由は何なのだろうか、と私は疑問に思った。ある教授のHPを参照したところ、葉緑体ゲノムの核への移行は植物の転写産物に多様性を持たせるために重要なのではないか、とあった。また、プロモーターについても、葉緑体ゲノムのための新生が多く行われるというよりはもともと植物が持つプロモーターで対応している場合も多いということで、私が考えていたよりも難しい進化の伴うことではないとわかった(文献)。葉緑体についての細胞内共生は、生物が体内で栄養を作るという機能を獲得するだけでなく、生物の核自体の多様性を高めるというとても意義のある進化の結果であるということができるのではないだろうか。
[文献]遺伝子が「一生を過ごす」場としてのゲノム http://www.brh.co.jp/seimeishi/journal/056/research_11_2.html
A:これも、きちんとまとまっているので、感想文としては申し分ないのですが、この講義のレポートとしては、やはり論理とオリジナリティーが不足しています。調べること自体はよいのですが、レポートには、自分なりの論理を盛り込むようにしてください。
Q:講義では,葉緑体から細胞核へ遺伝子が移動する際にプロモーターが新生される場合があることを学んだ.一方で文献1より,真核生物のプロモーターは,DNAが極端に軟らかい部分とそのすぐ下流の硬い部分からなり,これがプロモーター活性のシグナルとなっていることが示唆されている.(以下,このような機械的性質をもつ配列を軟硬配列と呼ぶ.)しかし葉緑体由来遺伝子の場合,プロモーター配列に変化が起こるとは考えにくく,軟硬配列による制御が成り立たないように見える.軟硬配列だけがあってもプロモーター活性は生じず,構造遺伝子からのシグナルがあって初めて発現すると考えれば,軟硬配列による制御が成り立つ.つまり,もともと存在した軟硬配列の下流に葉緑体由来遺伝子が挿入されたため,発現したということである.ここで,文献2より,葉緑体由来遺伝子のプロモーターには,TATAボックスなどのモチーフ配列がほとんど存在しない.さらに,文献1より,TATAボックスなどと比較し,モチーフ配列をもたないプロモーターは軟硬の差が小さい.以上より,導入前の配列でプロモーター活性が低かったのは,軟硬の差が小さいためではないかと考えられる.元の配列と,構造遺伝子断片をランダムに挿入した配列の柔軟性を解析し,プロモーターの新生が起きた部分で挿入の前後に共通して弱い軟硬配列が確認できれば,この仮説の裏付けとなるだろう.
文献1: Fukue, Y., Sumida, N., Nishikawa, J. and Ohyama, T. (2004) NUCLEIC ACIDS RESEARCH, 32(19), pp.5834-5840.、文献2: 小保方潤一,“植物の光合成遺伝子システムに特有なコアプロモーター構成の起源と役割”,LSDB,http://lifesciencedb.jp/houkoku/pdf/001/c039.pdf (access: 2015/10/17)
A:レポートで紹介されている事実自体は参考文献に基づくものですが、2つのまったく異なる文献を結び付けて新たな議論を展開している点に、独自性が認められます。
Q:シアノバクテリアは、ゲノムの9割を失って葉緑体になった(宿主と共生した)、と授業で習い、興味深いと思った。このように、シアノバクテリアと他の真核生物などと言った生き物同士が細胞内共生し、進化したケースは良く扱われている。しかし、生き物と半生物的であるウイルスについての共生の場合、どうなるのであろうか。それについて考察したい。ところでまず、葉緑体になる上で失った9割のゲノムと残った1割のゲノムの内容は何だったのであろうか。名古屋大学遺伝子実験施設の小保方潤一氏(『生命誌ジャーナル 2008年春号』)によると、「葉緑体ゲノムに残っているのは、葉緑体自身の形成・維持と、光合成のコア反応(光による酸化還元反応やATP合成など)に関わる必須遺伝子の一部だけである。細胞内共生進化とは、宿主ゲノムが共生者のゲノムから遺伝子と自律性を収奪し、共生者を宿主細胞の単なるパーツに変化させてゆく過程の別称といってもよい」と言う。また、この時、共生体になる過程で、葉緑体DNAから宿主の核へのDNAが移行される。宿主と葉緑体がお互いに害を及ぼすことにないようにお互いのDNAの変化に変化を重ね、何万年(百万年)もの歳月の中で手に入れた、ベストな調和体系なのだと思う。以上は、生き物同士の共生であるが、生き物とウイルスの場合はどうであろうか。通常ウイルスは、共生というよりもむしろ、宿主自体の生命現象を利用することで、結果的に宿主を蝕んでいく働きが大きいように思う。この点でまず、宿主側が相手を変えていく生き物同士の場合と、ベクトルが異なる。それに、そもそも、ウイルスは宿主側と永遠に共存していこうとは考えていない。ウイルスの一生のサイクルの一部分に、生き物の中で過ごす時間が含まれているだけであって、ある意味、生き物を自己複製の道具としてしか見ていないということである。しかし、万が一、ウイルスが生き物内で共生する可能性を考えた場合、それはウイルスのもたらす働きが、生き物にとってメリットとなる場合ではないだろうか。ウイルスと聞くと、インフルエンザウイルスなどの、生き物にとって害となるウイルスを想像してしまいがちである。しかし、もしも今後、生き物にとって利益をもたらすウイルスが出てきて、それに感染してもそのまま宿主が追い払うこともなく、ウイルス自体もそこに留まり、生体内での二つのバランスがとれるようになること、さらにそれが遺伝子として刻まれていくことがあれば、新たな共生生物が生まれる可能性は考えられなくはないだろう。しかし依然として、それには、様々な偶然が重なることが求められるため、他の進化と同様に、数千年または数万年単位で考えていく必要がありそうである。
参考資料:小保方潤一『生命誌ジャーナル「遺伝子が【一生を過ごす】場としてのゲノム」』(2008年春号)http://www.brh.co.jp/seimeishi/journal/056/research_11_2.html#3 (2015/10/16閲覧)
A:これは、科学エッセイとしては高く評価できます。ただ、この講義のレポートとしては、論理性という点でやや評価が落ちます。前半は、主題に入る前に生物同士の共生が扱われ、これはエッセイにおいては比較対象としての意味を持ちますが、その比較がレポートの後半の論理構成には利用されていません。後半の本題では、著者の考えが述べられていますが、問題点・事実・論理が渾然一体となっているので、論理展開としては不満が残ります。一方で、文と文とのつながりにはきちんと配慮がなされているため、すらすら読めて違和感はありませんし、渾然一体となっている部分も日本語としてはむしろ高く評価できます。せっかくこれだけのレベルの文章が書けるのですから、あと、独自のロジックをそこへ注入できさえすれば完璧なレポートになるでしょう。