植物生理学II 第3回講義

光合成の進化

第3回の講義では、地球に始めて誕生した光合成の形態から、シアノバクテリアが生まれ、そして陸上植物の光合成へと進化していく様子を概観しました。また、真核生物と原核生物の違いや、遺伝子の水平伝播についても触れました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:なぜロドプシンではなくクロロフィルを用いた光合成が主流になっていったのかを考察したい。陸上植物の多くはクロロフィルを有しており、これは憶測だが、ロドプシンよりもクロロフィルを用いたほうがATPの生産効率は高いだろう。現在では、塩湖や岩塩などに生息する高度好塩菌がロドプシンを用いたATP合成を行っている*1。はたして本当にATP生産の効率だけでクロロフィルが主流となり、ロドプシンが例外的な光合成(厳密には光合成っぽい反応らしいが)であると決まったのだろうか。どうやら、ロドプシンは光受容によってつくった濃度勾配を用いて、光リン酸化反応を行っている。そして通常は普通の好気呼吸を行っているが、飽和塩濃度条件下では酸素溶解度が低下してしまうため、ロドプシンをATP生産に使っているらしい。故に、光が存在してかつ低酸素濃度条件であるときにロドプシンが選択されうる、ということになる*2。もしかしたら、ある時期まではロドプシンによって光合成を行う細菌とクロロフィルを用いる細菌の総数は同程度だったかもしれない。だが大気中に酸素が増えてきた頃から、クロロフィルが台頭してきたのかもしれない。また、ロドプシンを獲得するよりも共生によってクロロフィルを獲得するほうが早く、単純だった可能性もある。ロドプシンとクロロフィルの生存競争について考察をしてみたが、恐らく「共成のほうが簡単」「様々な環境に適応できる」「ATPが多く得られる」という点からクロロフィルが台頭してきたのだろう、というように結論づけてみることにする。
*1 ”マイナビニュース” [http;//s.news.mynavi.jp/news/2012/02/17/086/index.html]
*2 “Wikipedia - 光化学反応” [http://ja.m.wikipedia.org/wiki/光化学反応]

A:レポートとしてきちんと構成されていて、読みやすい文章になっています。どうしても限られた知識を元に展開することになりますから、論理の部分はやや「憶測」などに頼ることになりますが、この講義のレポートとしてはそれでも構いません。むしろ、自由に想像力を働かせたレポートを歓迎します。


Q:今回の講義では、真核細胞におけるオルガネラの意義について触れたが、私は原核生物の存在意義に疑問をもったため考察することにした。原核細胞から真核細胞への進化が生物を高等にさせたのではあるが、原核生物も原核細胞によって存在することが可能である。菌類のなかには原核生物であるものも真核生物であるものも存在し、真核生物の菌類のほうが原核生物の菌類よりも高等な生物であるかの判断は難しいと感じる。よって、真核細胞をもつ菌類などは動物や植物など高等な生物を生み出すまでの通過点にすぎず、本来原核細胞でも存在可能な単純な生物なのではと推測する。原核生物は生殖を行わないため進化が難しいが、原核生物は外来DNAを組み込むことで多様性を生み出すと講義で触れた。多様性が生物を洗練することになり進化を生むが、外来DNAがどのように進化に影響を与えるかについて疑問に感じた。

A:きちんと考えようという姿勢が感じられてよいと思います。ただ、もしかしたら、菌類と細菌を混同しているのかな、と思いました。また、最後の部分は、2種類の光合成細菌が、おそらくは遺伝子の水平伝播によってシアノバクテリアに進化したという話をしたと思いますので、それこそがまさに「外来DNAがどのように進化に影響を与えるか」の実例だと思います。


Q:今回の授業の最後に触れたウミウシについて興味深かったので、ウミウシの色について考察したいと思う。ウミウシは動物であるのにも関わらず光合成をしていることが不思議であり、葉緑体色素を持っているのに緑色をしている種があまりないことについて疑問に思った。カラフルな多様な色が存在するのは自分の存在を威嚇するための警告色であることや背景の色に隠れて目立たなくしていることが挙げられるが、前者の理由であるように目立たせるためだけに色をはっきりさせるのだと理由が弱いので、毒を出したり殻を無くしたのだと考えられる。また、光合成をする動物としてはプランクトンであるミドリムシも挙げられる。ミドリムシとウミウシの共通点としては葉緑体が存在する点等だが、取り込み方が異なる。さらに、ミドリムシは移動するので光合成をより効率よく行うことができ、新たな資源としても注目されていることを考えると、ウミウシの光合成の力が今後注目されるのではないかと考えた。

A:ウミウシについて考えたことを書いているのはわかるのですが、できたら、いろいろ考えるのではなく、全体を通した問題設定と、それに答える論理が欲しいところです。ウミウシの中でも、さらに問題点を一つに絞ったほうがよいと思います。


Q:葉緑体の起源について、授業で触れたのでそのことについて書きたい。テーマは、古細菌がどのようにして細胞内共生を行ったのかの推論とする。生命体の祖は、古細菌である。その後シアノバクテリアが生まれる。シアノバクテリアは、2種類の光化学系をもちかつ酸素を生産するため、地球の生態系が一気にここで変化する。真正細菌が増え、古細菌を食してエネルギー生産する細菌が増えるため、古細菌はDNAに膜を作り対応し(これが後の核膜と考えられる)、真正細菌も古細胞を食し絶滅させるよりも、共存させたほうが古細菌の中で増殖していきやすいと判断したからだと思われる。こうして経緯で細胞内共生が始まったのではないだろうかと推論する。
参考 光合成の進化 Itou Shigeru (http://www.researchgate.net/publication/233740588_Evolution_of_photosynthesis_)2015/10/11アクセス

A:おそらく古細菌の「古い」という字から、古細菌の方が真性細菌よりも地球上に早くに現れたと考えたのだと思いますが、実際には、系統的には古細菌が古いわけではありません。引用されている文献の中の図でも、われわれ真核生物は、古細菌に由来しているのがわかると思います。


Q:細胞内共生説について、好気性細菌とシアノバクテリア以外に共生しうる生物がいるのでは無いか疑問に思ったので考察する。共生というからには、お互いにメリットがある事が第一条件である。細胞内に迎え入れる側に期待されるのは、おそらくエネルギーと安全な環境であると考えたので、逆に迎え入れる側が求めるメリットについて考えた。最初に考えついたのは、窒素を得る事であった。窒素は、アミノ酸の合成など多くの生物にとって必須の物質であるが大気中から窒素を得ることができる生物はごく一部に限られている。もしも、窒素固定を行う細菌と共生して動植物が呼吸と同時に窒素を得る事ができるようになるのであれば、細胞内共生としては悪くないであろう。次に迎え入れる側が求めるメリットとして考えたのは、免疫であった。逆転写酵素をもつレトロウイルスは、人類をはじめ多くの生物を苦しめている。もしも細胞ないの異常を発見してDNAを守ってくれるのであれば、細胞内共生の相手としてなかなかいいのでは無いかと考えられる。

A:問題設定をきちんとして、考察を進める構成になっていてよいと思います。ただ、これだけだと考えた結果だけで(考えることは非常によいのですが)、その根拠がよくわかりません。例えば、現実に共生した例としてミトコンドリアと葉緑体があるわけですから、そこでのそれぞれのメリットがどのようになっているのかを考え、それを根拠に未知のオルガネラを議論すると、ぐっと説得力が出るでしょう。あと、エネルギーはおそらく迎え入れる側のメリットでしょうね。


Q:今回の講義では、オルガネラの存在意義の中の一つとして、生体の反応に必要な膜構造を集約し、表面積をかせぐといったものがあった。「表面積をかせぐ」ということを聞いて私が最初に考えたのが人間の小腸の柔毛構造のことである。小腸では消化を効率よくするために柔毛と呼ばれる突起をたくさん存在させ、表面積を稼いでいる。この構造のことを思い出し、私はオルガネラ構造にしなくても細胞膜を柔毛構造のようにヒダ状にすることで真核生物の細胞は生体反応を進行することができるのではないかと考えた。ただし、授業でも習ったようにオルガネラは表面積を稼ぐためだけに存在するのではなく、タンパク質濃度やpH、塩濃度などをオルガネラごとに変え、それぞれの反応にとって有利な条件に環境を整えるという役割もある。ただ単に柔毛構造にしただけでオルガネラ構造の代わりは務まらない。オルガネラ構造のようにそれぞれの小器官のpHなどを変えることはできないため、それぞれの生体反応の触媒となる物質を細胞内で分泌できれば生体反応の速度が速くなり、反応の環境が悪くても効率よく反応がおこなわれるのではないかと考えた。オルガネラ構造は細胞膜の中に膜を作るため、膜の表面積の大きさに限度があるが、柔毛構造ならば細胞膜そのものであり、突起を細かく数多く構成すれば、オルガネラ構造にくらべて表面積の大きいものができる。よって、細胞内に生体反応の触媒となる物質を存在させることができればオルガネラ構造よりも柔毛構造の方が効率よく生体反応を行なえると考えた。

A:よく考えていると思います。せっかくここまで考えたら、オルガネラ構造型と絨毛構造型の二種類の可能性があるわけですから、どのような場合にはオルガネラ方が得になり、どのような場合には絨毛構造が得になるか、という点まで議論できるとすばらしいと思います。


Q:今回の授業において、葉緑体は核がなければ増殖することが出来ず、またユビキチンのように葉緑体と核が作り出すタンパク質があわさって作られるタンパク質まであるという。仮に、葉緑体が完全に独立して増殖できた場合、どのようなことが起こるだろうか。葉緑体が独立して増殖できるとき、それは植物の細胞とは完全に違う生物といえるだろう。そのときに葉緑体が取る行動は、2つ考えられる。一つ目は、植物の細胞を無視し、細胞がいっぱいになるほど増殖することである。これにより植物の細胞はその他の細胞小器官が圧迫されたり、細胞内・細胞間での物質のやりとりが上手くいかなくなる可能性がある。2つ目は、植物の細胞と上手く共生する可能性である。植物と上手く共存することにより外敵から身を守ることができ、またより日光に当たりやすい位置を確保することができるため、ただ大量に増殖して植物細胞に悪影響をあたえるよりもこちらの方がメリットが大きい。もしかしたら、葉緑体自身はそのような数の調整などが行えなかったため、葉緑体が独立して増殖する植物は子孫を残していくことができず、核が葉緑体を支配することが出来るようになった個体だけが現代まで生き残ってきたのかもしれない。

A:「ユビキチン」ではなく「ルビスコ」です。それはともかく、葉緑体が自分では数の調節ができなかったので、核支配が確立したという考え方は、非常にユニークでよいと思います。


Q:講義では、体積が大きくなるにつれて 表面積/体積 の値が小さくなるため、表面積を広くとれる膜構造が発達したとのことだが、単純に 表面積/体積 の値を大きくするだけを考えると、サイズを小さくすることも解決法として考えられる。それなのに、なぜサイズを小さくするのではなく、膜構造を発達させる方法を選択したのか疑問に思った。理研のホームページによると、葉緑体のサイズは葉緑体分裂装置を構成するタンパク質の量によって制御できるようである。さらに、(見つかっているのかは不明だが)膜構造を制御する因子も併せて利用することで、様々なサイズ・サイズの葉緑体を作製できるはずである。この手法を用いて作製したそれぞれの葉緑体における光合成効率を比較することで、葉緑体のサイズ・形状と光合成効率の相関関係を調べることができ、疑問を解決するヒントになるのではと思う。

A:問題点を明確にしていて、疑問の解決へ向けての方向性も示していますから、よいのではないかと思います。ただ、問題設定は、考察に専門的な知識を必要とするようなものではありませんから、もう少し、自分で論理を追求してみることができたのではないかな、という気がします。


Q:本日は葉緑体の起源として、シアノバクテリア様の祖先種との一次共生のお話があったかと思いますが、ギンリョウソウやヤツシロランなどの光合成を止めて菌に寄生するような従属栄養化した陸上植物などは葉緑体はどのようなかたちで存在するのでしょうか。また菌従属栄養植物にとって葉緑体と細胞内で共生することは、光合成による炭素の同化という利益が貰えないことと等しいのとともに光合成以外で宿主細胞が葉緑体に依存している機能はそれほど多くなさそうなので、この後共生関係が続く保証はどこにもないように感じます。陸上植物の中で一度は一次共生によって獲得した葉緑体を完全に放棄するような種が現れてもおかしくは無いのではと思ったのとともに、「植物」の定義がまた曖昧になりそうだと感じました。生物の用語の定義が不明確なことが多いのはきっと生物学者が大雑把なだけではなくて、生物の性質そのものによるところも大きいのではないでしょうか。

A:考えようという姿勢は感じられます。ただ、前半と後半で、論旨が変わってきてしまっていますよね。数百字の短いレポートなので、できたら、一つのテーマに絞って議論したほうがよいでしょう。なお、葉緑体は、光合成以外にも脂質代謝、窒素代謝などに重要な役割を果たしています。


Q:今回は光合成の起源というテーマであり、葉緑体が登場してきた。葉緑体は太陽エネルギーを使ってATPを合成するものであるというのは勿論だが、光定位運動などの現象から光を感知する器官であることも推測できる。そこで考えたのは、食虫植物についてである。ここでは、具体的にハエトリソウを例として挙げる。ハエトリソウは二つの感覚毛を用いて虫を察知し、食する(キャンベル生物学,原書9版,丸善)。ハエトリソウに虫がやってくると、虫がいる部分には影ができるはずである。葉緑体はその影を認知して虫の存在を認識しているのではないかと思う。以前見た生命大躍進というNHKの番組で、葉緑体は眼の原型であるというのを見た。もし、今回考えたように、影によってものを感知しているというのが正しければ、ある意味植物にも目が存在しているということもできるのではないだろうか。

A:考えていることは伝わるレポートです。しかし、「葉緑体はその影を認知して・・・いるのではないかと思う」の根拠が「虫がいる部分には影ができるはず」だけだと、やはり弱いですね。奇想天外でもよいので、もう少し人を納得させる論理が欲しいところです。


Q:今回は細胞融合について疑問を抱きました。授業で緑色硫黄細菌と紅色光合成細菌の細胞融合により単独の光化学系から二種の光化学系で水を分解する酸素発生型光合成に進化したとわかりました。ではどうしてこのような細胞融合が起こったのか。今後生き残るために環境に適応することが必要となり起こしたとも考えられる。しかしそれが起こるにしても何か原因があったのではないか。現在では細胞融合をポリエチレングリコールを使用することで界面活性剤を処理して行う方法であったり、電気ショックを与える方法、センダイウイルスに感染させる方法などがある。この中で考えられるとすれば過去にポリエチレングリコールが発生し、それが自動的に界面活性剤を処理することで細胞融合が起こったか、センダイウイルスの発生が細胞融合を促進させたのではないかと私は考えます。

A:確かに、スライドには「細胞融合?」と書いてありましたが、その際の説明では、遺伝子の水平伝播などにも触れましたので、なるべく講義全体を聴いてレポートを書いて欲しいと思います。


Q:細胞内は、いくつもの区画に分かれているが、反応が相互に干渉して悪影響を及ぼさないようにするだけでなく、表面積を増やすためでもあるという理由にとても納得した。また、生物は凄まじい年数をかけてここまで多様かつ複雑に進化してきたが、今後何十億年も経過した地球の生物は、どのようになっているのか、そもそもどの程度の種が生存しているのか、疑問に思った。近年、異常気象が多発しており、環境が極端化している。そのため、環境の変化に弱い種は絶滅していくだろうと思った。本当に地球温暖化が起きているかはわからないが、このまま地球環境の極端化が進むのであれば、数億年後にはクマムシなどといった環境の変化に強い生物のみが生存するような地球になるのではないかと考えた。

A:考えているという点ではよいのですが、自分の頭の中の考えを単に書き綴るだけではレポートになりません。全体としてのきっちりとした論旨が必要です。テーマ(問題点)を明確にして、それについて根拠を示して論理的に答える、というレポートを目指してください。


Q:今回講義の中でリボソームの大きさによって原核生物と真核生物の違いを確認したが、そもそもリボソームの構造はとても不思議な気がする。リボソームは図1のような見た目だが、これほど蛋白質と核酸が絡みついた構造体はなかなかないし、tRNAの固定とそれに伴うアミノ酸同士の結合という機能だったら1つの構造体とならずとも務まるようにも思う。リボソームの蛋白質とリボ核酸それぞれの役割と、1つの構造体を形成する利点は何なのだろう。これを確認するために、まずリボソームを蛋白質あるいはリボ核酸のみの状態にしたときに翻訳の過程にどのように影響を与えるか見る。またリボソームの蛋白質と同じような機能を果たす別の蛋白質を代わりに導入したとき、通常のリボソームのはたらきとどのような違いがみられるかを確認する。
(図1)http://www.rcsb.org/pdb/101/motm.do?momID=10 出典RCSB Protein Data Bank

A:問題点に対して実験系を提案しているところはよいのですが、実験系がやや荒いですね。タンパク質やRNAだけにしたら、やはり働かないでしょうし、もう一つの実験では、タンパク質を入れ替えて何がわかるのかがはっきりしません。もしかしたら、「タンパク質と同じような機能を果たす別のタンパク質」ではなく「RNAと同じような機能を果たす別のタンパク質」と言いたかったのかな。ただ、その場合でも、「同じような機能を果たす別のタンパク質」をどうやって見つけるのかが書かれていないと、どうすればよいのかわかりませんね。


Q:真核生物である植物は細胞の中に葉緑体やミトコンドリアがあり、どちらも膜に覆われている。こうしたオルガネラの存在は、呼吸や光合成の反応に適した pHや塩濃度を保ち、複数の反応が干渉しないようにする上で非常に重要である。それに対してオルガネラを持たない原核生物は細胞内で呼吸も光合成も行っている。反応によって最適 pH や塩濃度が異なることから、当然呼吸と光合成を同じ膜内で行うと互いに影響し合い、エネルギー生産効率が下がると考えられる。しかし、このような構造でも原核生物の生命力が高いのは外部からDNAを取り込むことができるからだと考えられる。真核生物はミトコンドリアや葉緑体でそれぞれのDNAを持つことが分かっている。原核生物は呼吸と光合成の反応を調節するためにも外部からDNAを取り込むことができるのではないかと考える。また、原核生物は真核生物よりも構造的に遥かに小さく、DNAの複製や増殖が早い。こうした理由にも細胞構造は関与していて、原核生物はそもそも生活していく上であまりエネルギーを必要としていないの、複数のオルガネラを持たず構造を簡易化することで効率よくエネルギーを循環させているのではないかと考える。

A:考えているようですが、結局何が言いたいのかがもう一息理解できません。最初の部分は講義の繰り返しですね。その後の展開で、問題点は原核生物の生き方なのでしょうか。


Q:今回授業内において葉緑体はシアノバクテリアが細胞内共生をすることにより出現したと学習した。ミトコンドリアも同様に共生したと考えられているそうである。葉緑体は二酸化炭素と水を消費し酸素と有機物を供給する。そしてミトコンドリアは二酸化炭素と水を供給し酸素と有機物を消費する。私はこれをあまりにも都合よく出来すぎていると考えた。まるで逆回転しているようである。実際に光合成の反応と呼吸の反応を見てみる。光合成では光化学系において、ミトコンドリアでは電子伝達系においてプロトン勾配を作ってATPを作り出す仕組みやプロトンを運ぶ役割をしているNADPHとNADHの類似性が見つけられる。このようなことから、まずシアノバクテリアにおいて光化学系のタンパク質が光の受容に関係なくプロトン勾配を作るようになる。その結果、光の受容がないため水の分解は起こらなくなり酸素は作らなくなる。そして上手くATPやNADPHを作ることができなくなった状況でクエン酸回路様の糖を分解する能力を持つようになった種が現れ、NADHを供給されることで好気呼吸系として働き始めたのではないのだろうかと考えた。

A:考えた内容自体はよいのですが、やはり考える際には論理が欲しいですね。なぜそのように考えたのか、根拠や論理が伝わるように書くとよいレポートになります。


Q:葉緑体やミトコンドリアは元々その細胞の生物とは別の原核生物で、細胞中にとりこまれて共生するようになったという「共生説」について授業で取り扱った。この共生説の証拠として、葉緑体中には核のDNAとは異なる葉緑体独自のDNAが存在することが知られている。そして元の原核生物が持っていたゲノムの一部は既に核に移行してしまっている。しかし、なぜ「一部」なのだろうか。元のゲノムすべてが核に移行してしまっていても良いのではないか。まず考えられるのは、このDNAの「移行」という現象の困難さである。葉緑体中のDNAが転写されると、そのmRNAは葉緑体中のリボソームによって翻訳されるが、ここで使われるリボソームは真核生物よりむしろ細菌ら原核生物のそれに構造が似ているのである。これは葉緑体が元は原核生物であった頃の名残だと考えられる。つまり葉緑体中では原核生物の転写・翻訳のルール(コドンの使用頻度や独自の遺伝暗号など)が適用されているので、それらが真核生物のルールで行われるように改変されるには相当な時間がかかる。したがって葉緑体から核へのゲノムの移行はまだ途中なのであるということがまず考えられる。一方で、紫外線や放射線などの外部からゲノムに対するリスクを分散させるということも考えられる。核内のゲノムが損傷する確率と葉緑体内のゲノムが損傷する確率を掛け合わせれば、葉緑体内のタンパク質をコードする遺伝子が失われる確率はかなり低くなる。このために葉緑体から核へのゲノムの移行は、あえて完全には行わないのであると考えられる。
(参考)細胞の分子生物学、第5版、ニュートンプレス

A:きちんと考えられていてよいと思います。ただ、ルビスコのサブユニットは、一部が葉緑体コードで、残りが核コードであるという話をしたと思います。ということは、どちらが損傷しても機能しなくなりますから、リスク分散が目的という仮説とは相容れないような気がします。


Q:狭い意味での光合成細菌。つまり、緑色硫黄細菌と紅色硫黄細菌のことであるが、それらは酸素を生み出さない。緑色硫黄細菌は光化学系Ⅰを持ち、紅色硫黄細菌は光化学系Ⅱを持っている。光合成といえば、光エネルギーを使って有機物を生産し、酸素を放出するという考えが一般的であるだろうが、これらの光合成細菌は酸素を放出しない。ではどのような機構で酸素が発生するのか。光化学系Ⅱの反応で酸素が発生することはわかっている。光化学系ⅠによってNADPHが発生する。NADPHによってカルビンベンソン回路が回っていく。光化学系Ⅰだけでは酸素を発生しないが有機物を発生し、光合成をすることができる。光化学系Ⅱでは酸素をさせることができるが紅色硫黄細菌は酸素を発生させることができないので、何かしらの酸素を発生させることができない阻害機構があるもしくは2つの光化学系が存在しないと酸素を発生させることができないと考えられる。

A:「ではどのような機構で酸素が発生するのか」というのが問題設定だったはずですが、最後は「酸素を発生させることができない」メカニズムの議論になっています。短いレポートなので、整合性には気をつけてください。


Q:本講義では光合成生物の進化について触れたが、その中でも単独の光化学系を持つ光合成細菌の細胞融合から酸素発生型光化学系を持つシアノバクテリアに進化し陸上植物へとさらに進化していったという流れが非常に興味深かった。授業の中では緑色硫黄細菌と紅色光合成細菌の細胞融合からシアノバクテリアに進化したとあった。緑色硫黄細菌は光化学系Ⅰを使用し、紅色光合成細菌は光化学系Ⅱを使用するとあったが、その二つが融合することによって光化学系Ⅰと光化学系Ⅱの両方を使って水を分解し酸素を発生させるシアノバクテリアへと進化したのだろうか。陸上植物において光化学系Ⅰ、Ⅱが行われるのは葉緑体内のチラコイドだが、原核生物であるシアノバクテリア以下は葉緑体を所持していない。光合成細菌においてはクロマトフォアと呼ばれるものを所持し、シアノバクテリアに進化するとそれは細胞内のチラコイドになる(文献1)。緑色硫黄細菌と紅色光合成細菌でのクロマトフォアはそれぞれ別のものであり、細胞融合するにあたり組み合わさってチラコイドになって進化を遂げたのではないだろうか。このように生物が進化していく段階で細胞の融合やDNA伝播が大きな要因となってさまざまな生物に派生していったのだろうと考えられる。
[参考文献1] http://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/dspace/bitstream/2261/42300/1/sk041003002.pdf、「光合成細菌の光化学系と分子構造(小林正美・渡辺正)」(2015年10月9日最終閲覧)

A:進化の流れを追っているのはわかるのですが、自分なりの論理がどこにあるのかがわかりません。この講義のレポートにおいては、なるべく問題点を明確にして、それを論理的に解明するようにしてみてください。


Q:植物の系統樹においては非光合成生物と光合成生物が混在しているため単系統にならないが色素遺伝体による植物系統樹で見てみると単系統になっていることが知られている。この色素遺伝体の系統樹から考えるとシアノバクテリアが祖先であることがわかる。この二つの事実に関して二つの理由を考えることができる。一つ目はすべての共通の祖先が光合成をおこなうシアノバクテリアを取り込んだあとに育つ環境などにより光合成をしなくても済むようになったことなどにより、単系統であった系統樹に穴ができてしまったため混在しているという形に現在だと見えてしまうということ。もう一つは色々な場所で同時多発的に真核生物にシアノバクテリアが取り込まれその後個々が進化していったという理由である。しかし多くの場所で同時多発的にシアノバクテリアを取り込むという共生が起きたと考えるのは厳しく現実的には前者の理由のほうが可能性が高いと考えた。

A:この点は、まさに講義で詳しく説明したところなのですが・・・


Q:「細胞の分化は物質生産において効率的である」という議論から生態系を広義の分化と捉え、「個々の生物種の分化は生態系を維持する上で有利なのではないか」という仮説を立てた。まず「細胞の分化は物質生産において効率的に働く」という仮定は正しいのだろうか。2つの細胞A、Bを考える。各細胞は共に物質PとQを生産できるが、細胞Aは物質Pの生産に100ATP、Qの生産に200ATPを必要とし、細胞Bはそれぞれ180ATP、120ATPを必要とする。このとき300ATPを分配し、細胞A、Bの生産する物質P、Qの和が最大になる場合を考えると、細胞Aが物質Pのみ、細胞Bが物質Qのみを生産した時である。つまり個々の細胞は分化することで、物質生産に効率良く働くという仮定は正しいと言える。ここで生態系をひとつの生物と捉え、そこに生存する生物種は分化した細胞であると考えると、先に示した仮定を当てはめることができ、生物種の分化(=多様化)が生態系を維持する上で有利であるという仮説が立つ。生態系の維持には個々の生物種が効率良く子孫を残す必要があり、その戦略のひとつが進化(≒分化)であろう。環境条件等に合わせて子孫を残すために自らを有利な形態を変化させてきた結果が生態系であると考えられる。このような仮説を検証するための方法として、単一の生物で構成される空間と複数の生物で構成される空間の2つを考えればよい。有性生殖による遺伝的多様性を考慮すると、生態系に維持に有利であるのは後者の空間である。なぜなら遺伝的多様性が生まれることにより、環境の変化等の要因で生物種の全滅を免れる可能性が高くなるためである。

A:進化はどのようにして起こるのか、という前提がやや不明瞭ですね。進化においては、複数の種の合計が最適化されるということにはなりませんから、ゲームの理論における囚人のジレンマのような状況を常に考慮に入れる必要があります。


Q:原核生物は外来のDNAを取り込む遺伝子の水平伝播をよく行い、シアノバクテリアは遺伝子の水平伝播によって誕生したという説もあるということだった。この仮説が実際に正しいかどうかを調べるために次の実験を考案した。シアノバクテリアのもととなったとされる2種類の原核生物に対してそれぞれに異なる薬剤耐性遺伝子を導入する。そして、その2種類の原核生物を共培養する。しばらく培養、した後にそれぞれの薬剤を添加し生き残った細胞を観察する。その細胞とシアノバクテリアを比較観察し考察する。

A:実験系というのは、せめて、どのような結果になったときに何が結論できるのか、という点がないと成り立ちません。「比較観察し考察する」部分こそが命なのです。


Q:今週の授業では、なぜ細胞が分化しているのかということに関して、細胞のそれぞれの働きに適した環境が異なっているためという考えを得られたのが新しかったです。そこで、細胞の環境を分けることによってそれぞれの機能を適切に働かせることができるならば、そこに、細胞のひとつの個体内における位置はどのように関与しているのかが気になりました。例えば葉は光エネルギーを受け取る役割を担っていて、そのために個体の上部に太陽光の降り注ぐ方向に対して垂直に位置していることが多いです。また、根は土壌から栄養分や水分を運べるように個体の下のほうに位置しており、また毛細根という形で土壌に触れる表面積を多くしています。そこで、どのように植物が進化したかをみれば個々の機能を担う器官がどのように発達してきたかが分かると思い調べてみたところ、私には、まず胞子などの生殖器官を高い位置にもっていくという役割のために枝が伸びたのかと考えられました。また道管等の器官が比較的早く発達していたことは、植物が背丈を延ばした結果栄養分や水分の輸送という役割にエネルギーを割く必要があったからだと考えられました。次に葉が髙い位置についているのは、他の植物よりも光を多く受けて成長するためだと考えました。またここで、現在の植物の葉に多様な形があるのは、葉が光エネルギーを受け取るという重要な役割を担った器官だからこそだと考えました。

A:論理には根拠が必要なので、できたら「調べてみたところ」の後に、実際に植物の器官がどのよう発達してきたのかを引用元を示して記述し、その記述に基づいて議論するようにすると、レポートの説得力が格段に増します。


Q:今回の授業で、細胞とオルガネラについて学んだ。その中でも、ミトコンドリアと葉緑体は進化の過程で共生し、今日では、植物細胞の中で独自のゲノムを持って呼吸や光合成の役割を担っている。ここで、ミトコンドリアや葉緑体のゲノムの遺伝は雌親から遺伝する利点とは何か、という疑問を持った。核が持つ遺伝情報は親の雌雄半分ずつが受け継がれる。特に雄の遺伝情報は花粉となって飛散する。一方、オルガネラの遺伝情報は雌だけからもたらされる。雌雄の違いから考察すると、雌の遺伝情報は花粉と違って不要な遺伝子拡散をせずに、受粉をしたら確実に子孫へゲノムを受け継ぐことができるというのが最大の利点ではないか。葉緑体やミトコンドリアは植物細胞の中での働きは決まっている。よほどの環境変化がない限り、環境への適応のために進化する必要性もそこまで大きくないので、雄親のゲノムをあえて取り込もうとしないのではないであろうか、と考えた。

A:面白い点に注目していますが、宿主の雌雄の話と、オルガネラの話がごっちゃになっているように思えます。オルガネラに雌雄があるわけではありませんからね。


Q:授業では、バクテリアなどの原核生物は外来DNAを取り込むことが多く、遺伝子の「水平伝播」が起こることを学んだ。この「水平伝播」が、動物のような有性生殖を行わない原核生物にとって、遺伝子の多様化を生む点がメリットであるという。私は、この「水平伝播」が、ヒトで起きた場合にどうなるのかについて疑問を持った。最新の研究[1,2]を調べていくと、この原核生物やウイルスからの「水平伝播」は、実際にヒトを含めた真核生物でも、比較的多い頻度で起きていたことが分かった。私は、この遺伝現象を応用し、ヒトの体内に特定の原核生物のDNAを導入するという新しい手法により病気の治療法となるのではないかと思った。例えばそれにより、手足の冷えや乾燥肌を改善するかもしれないし、アルコールを分解しやすくするかもしれない。しかしもちろん、これらは、一歩間違えれば死に至らせたり、新種の生物を生み出したりする行為である。家畜に限らず、ヒトへの実用化は非常に難しいものであろう。しかし、今後のテクノロジーの進歩によっては、こうした新しい治療法の開発は不可能ではないだろう。

A:引用元が載っていませんね。それはともかく、レポートでは、もう少し論理展開を考えることが必要です。「病気の治療法となるのではないか」はよいとしても、なぜ突然「手足の冷え」などが出てくるかわかりませんし、どうして「死に至」るのか、「新種の生物が生み出」されるのか、何の説明もありません。単に頭に浮かんだことを書くのではなく、文と文の間を論理でつなぐように努力してください。


Q:講義では,細胞小器官をもつことによって反応の干渉を防ぎ,反応条件を特殊化できることを学んだ.しかしこれは,αプロテオバクテリアやシアノバクテリアを共生させる,宿主にとってのメリットである.そこで,寄生者にとってのメリットを考えた.(以下,ミトコンドリア,葉緑体という言葉を,それらの元になった細菌を指して用いる.)第一に,自分より巨大な細胞内に寄生することで,捕食を回避できる.これは確かにメリットであるが,宿主に分解される可能性があること,真核生物の出現時は捕食が活発に行われていたわけではないことが問題である.第二に,反応基質の得やすさについて.ミトコンドリアでは,宿主が合成,摂食した有機物が利用できるが,酸素はむしろ得にくくなる.文献より,宿主は嫌気性の古細菌とされており,酸素除去システムにより細胞内の酸素濃度は低かったと考えられるからである.葉緑体がすでに共生しているならば酸素も有機物も豊富に存在するが,実際にはミトコンドリアの方が先に共生したと考えられている.一方,葉緑体は水と二酸化炭素を必要とするが,細胞外でも十分に得られるので,メリットは少ない.第三に,2重膜の獲得について.電子伝達系ではマトリックスと膜間腔のプロトン勾配を利用してATPを合成する.故に,共生で得た2重膜がミトコンドリアにとって有利に働いていると言える.一方,光合成はストロマとチラコイドで完結しており,2重膜を必要としない.以上より,ミトコンドリアは共利共生であるが,葉緑体は宿主にしか利益の無い偏利共生であると考えられる.ただし,文献より,ミトコンドリアと葉緑体の細胞への侵入は1度だけ起こったとされる.寄生者にとって有利ならば,より多くの細菌が細胞内共生し,より多くの植物系統が生じてもおかしくない.逆に言えば,寄生者にとって有利でなくとも,生存,増殖が可能で,かつ宿主にとって有利であれば,寄生が起こったその系統は保存されるのである.
 参考文献 西村幹夫 編,「朝倉植物生理学講座1 植物細胞」,朝倉書店,2002

A:よく考えられていると思います。得に、一つの視点からの考察で結論を急ぐのではなく、複数の観点から考察を加えて全体として結論することにより、説得力が増しています。


Q:今回の授業ではオルガネラの存在意義について、「物質・状態の局在」「生体膜を増やす」の2点が挙げられた。その中で物質・状態の局在について、細胞内で起こるさまざまな反応に適した環境をオルガネラごとにつくる、という理由は理解したが、オルガネラ構造のない原核生物はどのように細胞内の環境を制御して細胞内での反応を行っているのか疑問に感じた。細胞内で行われる反応はタンパク質の合成やエネルギー産生などが挙げられるが、これらの反応は原核生物の細胞内でも行われているはずである。原核生物の細胞内では、それぞれの反応に対する細胞内の環境をどのように変化させているのか、実験方法を考えた。細胞内で起こる反応にはpH変化がともなうはずであるので、原核生物の細胞内のpHを可視化し、その変化を観察すれば細胞内でどのように反応が進んでいるかがわかる。したがって、観察対象の原核細胞に蛍光試薬を導入し、時間ごとに蛍光スペクトルを測定することで細胞内のpHの変化を知ることができる(文献)。また私は、もし原核細胞内で同時に複数の反応が行われていると仮定すれば、原核細胞ではオルガネラがない代わりに細胞の場所によってpHが変化しているのではないか、と予想している。そして、場所による区別だけでは不十分であったということが、オルガネラが進化した理由の一つになるのではないだろうか。したがって、ひとつの細胞内の場所によるpHの違いもこの実験方法で見ることができるのではないかと考えている。(文字化けがあったので1文省略)
[文献] pH計測の新たなる挑戦 www.hobira.com/uploads/media/R026-03-012_01.pdf

A:着眼点はよいと思います。ただ、実験のためには作業仮説が必要ですが、それが明確ではないようです。少なくとも「原核細胞内で同時に複数の反応が行われていると仮定」の部分は、実験の前に持ってきたほうがよいでしょう。そして、「場所による区別だけでは不十分」かどうかを実験によって区別する方法を示すことができると論理がきちんとつながるようになります。