植物生理学II 第13回講義

エチレン、ブラシノステロイド、ペプチドホルモン

第13回の講義では、前2回に引き続いて植物ホルモンの働きとシグナル伝達について解説しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:ブラシノステロイドの機能の一つに葉の展開促進がある。しかし、暗所ではブラシノステロイド欠損型はむしろ子葉を展開する。これは矛盾しているように思える。では、なぜこのようなことが起きるのだろうか。3つの可能性を考えた。ひとつは、光の有無により機能が変わるということである。光が当たらないときは茎の伸長は促進するが、子葉の展開を抑制する。これは欠損型と野生型をくらべることから言える。二つ目は、濃度によって機能が変わるということである。ブラシノステロイドは他のホルモンより濃度が低くても働き、ある程度の高さでも働く。これにより、振れ幅が大きくなり濃度差を作りやすくなる。ブラシノステロイドが葉で産生されるとしたら、暗所では葉がでないため、濃度が低くなる。光が当たるところでは葉ができるため、正のフィードバックにより濃度が高くなる。つまり、濃度が低いと葉の展開を抑制するが、濃度が高いと葉の展開を促進する可能性が考えられる。三つ目は、機能に変化はないということである。子葉の展開には直接はかかわっていないが、欠損型において伸長作用が見られなくなったのを感知して子葉の展開をつかさどる別の因子に作用している可能性がある。この考え方においては、光の有無で反応が変わるのは別の機構である。この3つの可能性を検証するのに欠損型、野生型に加え、過剰発現するものを光の有無を変えて実験を行うことが必要ではないだろうか。

A:非常によく考えられていると思います。あと、もう一つの可能性として、子葉と本葉の違いも考えられるかもしれません。葉の変異体を数多く見てみると、本葉だけ、あるいは子葉だけに変異が現れる例がかなりあり、葉における形態形成は子葉と本葉でかなり異なる可能性があります。あと、正のフィードバックについて言及したのですから、その結果について今一歩考えてもらえればと思います。負のフィードバックが安定性をもたらすのに対して、正のフィードバックはスイッチング効果をもたらします。地中と地上で形態を切り替える、という目的を考えると正のフィードバックは理にかなっているでしょう。


Q:今回の授業では、ジャスモン酸やアルカロイド、前回のホルモンの生合成経路などについて学んだ。この中で、アルカロイドについて興味を持ち、考察することにした。授業ではトリカブトの毒を例に植物が作る二次代謝産物であることを説明していたので、そこから「ジャガイモの芽を食べてはいけない」という有名な話を連想し、ジャガイモのアルカロイドについて調べてみた。ジャガイモの芽やその周辺の緑化した皮に含まれる毒は、ステロイドグリコアルカロイド(SGA)と呼ばれるもので、もしこれを減らすことができれば、購入したジャガイモを少しでも長持ちさせることができるのではないかと考えた。SGAを減らすには、ジャガイモのアルカロイドの生合成経路を断つことが必要と考えられた。そこでジャガイモのアルカロイド生合成経路について調べると、コレステロールが絡んでいることがわかった。実際には、理化学研究所の研究で、そのコレステロールを合成するための遺伝子SSR2が特定され、この遺伝子を破壊した遺伝子組換えジャガイモが従来のジャガイモよりもSGA含有量が少ないことまでわかっている。これを利用することで将来ジャガイモの芽まで食せるようになるかもしれないと思った。植物の自己防衛ホルモンを破壊することには、植物が病気にかかるのではないかという安全面での不安はあるものの、食の安全を確保することが最重要であると思うので、このような研究は興味深いと感じた。
参考文献:理化学研究所、ジャガイモの有毒アルカロイド生合成酵素遺伝子を同定−ジャガイモ食中毒の低減が図れる育種に期待−、http://www.riken.jp/pr/press/2014/20140913_1/

A:基本的に、理化学研究所の研究に沿ったレポートになっていて、独自性が感じられません。この講義のレポートでは、自分なりのロジックを評価します。


Q:授業中に腐ったみかんの話が出たが自分はあの表現を人間に例えるのは間違っていると思う。みかんはエチレンの作用によって腐ってしまい、その作用は近くにあるみかんに伝わってしまう。それはみかんにエチレンから守る方法がないからである。人間には守る方法がある。腐った人間から離れるという方法もあれば一人一人が腐らないように意識しておけば腐らない。それに周りの人間が腐っているのを更生させることもできる。よって腐ったみかんを人間に例えるのは間違っていると考える。

A:レポートの題材としては、このようなものでも構いません。ただ、ミカンではなくてリンゴですね。また、論理としては、間違っているかどうかは実際にそのようなことが起こるかどうかに依存すると思います。「人間には守る方法がある」けれども、実際には多くの場合腐った人間のそばの人間が腐ってしまう例が非常に多ければ、たとえとしては成り立ってしまうでしょう。それを否定するためには、そのような例が実際には少ないのではないか、という論理展開に持っていく必要があると思います。


Q:今回の講義でエチレン、ブラシノステロイド、ペプチドホルモンについて学んだ。エチレンの生理作用として、落葉の促進や果実の成熟の促進、離層の形成促進などがある。同じ空間にあれば、気体であるエチレンが葉、茎、果実に触れる割合は等しいはずである。しかし、エチレンガスを放出するリンゴの周りで自分のガスの影響で、成熟はするが、すぐに葉を落としたり、離層を形成するという事をあまり聞かない。これはどうしてなのか。おそらく、作用するエチレンの量によって各部で作用が起こるかどうかが決まって、そのなかで果実が最も少量で作用するのではないかと考えられる。

A:一応、論理は成り立っていると思います。ただ、一つ考えてほしいのは、講義で繰り返して話したシグナル伝達経路です。細胞にホルモンの受容体があって、それがホルモンを受容すると信号が細胞内部に伝わって遺伝子発現の変化が引き起こされます。あるホルモンが部位特異的な作用を示すとした場合、一番簡単な説明は「特定の細胞にのみ受容体が発現する」というものでしょう。


Q:今回の講義も前回に引き続き植物ホルモンについて学んだ。その内エチレンは離層形成を促進させるとあった。これは落葉をしやすくするためであるがそれ以外にも理由があるのではないだろうか。離層を形成し落葉する場合とそうでない場合の違いについて考えてみる。一番の大きな違いは離層を形成することで外界との接触を避けることができる点である。もし、離層を形成せずに落葉した場合、細胞内が直接外界と接触することになる。落葉は根から水分の吸収が困難な寒さが厳しい冬か水分があまりない乾季に起こる。葉からの水分の蒸発は防いでいる。しかし、外界と接触してしまえば水分が蒸発してまい、植物は水分不足になってしまうだろう。また、ウイルスや菌が侵入する可能性も増すであろう。このように考えると、離層形成はただ単に落葉しやすくするだけでなく、生体維持にも関わる重要な働きであるであると言える。

A:離層形成の意義について考えていてよいと思います。ただ、ややありがちな発想なので、いまひとつ独自性をつけたしたいところですね。


Q:講義で登場した様々なホルモンの中から今回はブラシノステロイドに関連した考察をする。まずブラシノステロイドは一般的な動物のステロイドホルモンと異なり、その受容体であるBRI1は細胞膜上でブラシノステロイドを受容することが特殊であると考えた。この理由として考えられるのが、後に紹介されたBRI1がブラシノステロイドだけでなくシステミンというペプチドホルモンの受容体としても働き、ペプチドホルモンの受容体は一般に細胞膜上に存在するというものである。またシステミンというホルモンは植物が物理的な傷を負った時、捕食者を消化不良にするホルモンで、分泌時に損傷部から離れた部位に作用する必要があるため、細胞膜上に受容体であるBRI1がある必要があるとも考えられる。このシステミンが機能することが重要であると同時に、ブラシノステロイドの受容体が細胞内にあることが必須でないため、BRI1は細胞膜上で働くのであろう。

A:細胞膜上で働くことが特殊という前提でレポートが書かれているようですが、基本的に細胞外からのシグナルを受容するのに細胞膜を使うことはむしろ自然であると思います。植物ホルモンのなかでは、エチレンが小胞体膜上に受容体を持ちますが、講義の中で紹介したように、こちらの方が異例です。


Q:今回の講義を受けて、果実成熟や離層形成などに働くエチレンについて気になったことがあった。講義でも言われていたが、エチレンは若い時期にはあまり合成されないが成熟期にはたくさん合成され、積極的に葉を落とすというように植物のライフサイクルの最後の引き金を引いている。このように考えると、エチレンというホルモンはマイナス要素多いように感じられる。では、もしエチレンの合成阻害されている個体をつくったとしたら、その個体はおそらく成熟するのが遅くなり、なかなか落葉もしないだろう。このことは、個体維持や光合成効率を上げるといった面でプラス要素の多い個体である思われる。しかし、もしその個体が病気にかかったり、著しく光合成効率が下がってしまった場合になかなか成熟せず落葉しない個体であったら、個体維持や種族維持には不利に働くのではないだろうか。だから、きちんとした時期がきたら成熟し葉を落とし、次の世代に受け継ぐというきちんとしたライフサイクルが個体維持や種族維持には重要で、それを担っているエチレンというホルモンは植物にとって欠かせないホルモンであるだろう。

A:これも考えていることはわかります。ただ、生物の老化について一般的に考えられていることに落ち着いてしまっているので、今一息の独自性が欲しいところです。


Q:今回の授業は植物ホルモンのエチレンについて学習した。エチレンは気体であるということで、周りの植物にまで影響を与える。エチレンの多くは成長を阻害するものであり、具体的にはジャガイモとリンゴを一緒に保管するとジャガイモの芽の発芽を抑制することができるという話を聞いたことがある。また、エチレンは細菌などの防御反応としても反応することがわかっているが、この防御機能のほかに成長を抑制させる面で、何か生存に有利な点があるのではないかと考えた。まず思いついたのは、自分の周りの植物の成長を抑制することで、日光が妨げられないようにする。また、エチレンは葉や実が落ちるのを促進する作用もある。これは、周りの葉や実を早く土壌に落とし、有機物が豊富な土壌を作る作用のためなのではないかと考えた。

A:単に思いつきで終わってしまうと論理になりません。レポート全体を論理的に展開する努力がもう少し必要ですね。あと、もう少し講義で紹介された点を考慮すると、別の方向へ論理が展開できたのではないかと思います。


Q:今日の授業で植物ホルモンの一種であるエチレンについて学んだ。植物ホルモンの大部分とは異なり気体であることに疑問を抱いた。気体であることから生じるメリットについて考察する。まずエチレンンの特徴的な作用として、果実の成熟や病害への対応、落葉の促進があげられる。気体であるため、エチレンによる効果は近隣の個体にも作用することができる。近隣に作用することで、果実が成熟し同時期に種子が土に含まれるように調整したり、病気は周囲へと広がりやすいので、すぐに対応できる状況を整えたりすることができる。このように自分だけではなく、周囲にも働くことができるのがメリットであると考えられる。デメリットとしては、特定の狭い場所に作用することができないことがあげられる。

A:これは一応論理の筋が通っているように思います。気体の特殊性について単に予想を述べるだけでなく、作用の特徴と絡めて議論しているので、ロジックが生じます。ただ、もう少し独創的な部分は欲しいところです。


Q:今回の講義では特に腐ったリンゴの話が印象に残った。腐ったリンゴはエチレンを発し、エチレンは気体であるため周りに他のリンゴがあればエチレンが作用してしまい成熟を進めてしまうとのことであった。またエチレンの作用には葉の老化作用や落葉の促進といった植物を老化させる作用がある。これらの作用には関係性があるのではないかと考えた。まずリンゴの腐敗が進みそのリンゴがエチレンを発する。そしてそのエチレンがそのリンゴの周りの葉に作用して葉が老化し、落葉する。そうすることによって腐敗が進んだリンゴの周りの葉がなくなるためそのリンゴが目立つことになる。そうすると鳥などに見つかりやすいことになり食べられ、種を運んでもらえる確率も高くなる。鳥などに気づかれることなく腐敗が進み、だめになってしまえばその分無駄になってしまうため、これに対策するためにこの3つの作用がうまく関係して働くのではないかと考えた。

A:実を目立たせるために葉を落とす、という考え方のレポートはあまりなかったように思います。人と違うことを考える、というのはサイエンスにとっては非常に重要です。


Q:今回の授業ではエチレンという植物ホルモンについて学んだ。このエチレンという植物ホルモンは授業でも扱った通り他の植物ホルモンとは違って気体である。その発見は灯油ストーブの近くにあるレモンが早く黄色くなることから見つかりました。灯油ストーブの灯油が不完全燃焼により発したエチレンでも植物ホルモンと同様の作用があるのである。普通植物ホルモンは液体であり、また植物自身が生産しなくとも環境からホルモンを得られるというものではない。ではなぜエチレンは気体であり環境からも作用を得られるのだろうか。気体であることの利点は植物内を循環しなくとも全体に作用できるということである。また何かが燃えるときに発生するエチレンを利用することでまわりで植物が燃えるというような危機にあった時に成熟をはやめ子孫を残しやすくしている。

A:最後の2文が、このレポートの独自の部分ですが、これだけだとややさびしいですね。前半はばっさり削って、最後の部分を少し膨らませて論理展開するとよいレポートになるでしょう。


Q:今回の授業では複数の植物ホルモンについて学んだ。それぞれのホルモンは互いに働きを高め合うこともあるが、拮抗的に作用する場合もある。例えば、ブラシノステロイドは茎の伸長成長を促進する生理作用をもつが、エチレンは茎の伸長阻害・肥大促進といった正反対の作用を示す。同じ植物が互いに拮抗するホルモンを生成するのはなぜろうか。ブラシノステロイドの生理作用は他にも種子の発芽促進や葉の展開促進、エチレン合成の促進などがある。一方、エチレンは果実の成熟促進、葉の老化促進、落葉の促進などが挙げられる。それぞれのホルモンの全体的な特徴に着目すると、ブラシノステロイドは植物の一生のうち、成長の初期段階で働き、エチレンは成長過程の中盤から最終段階で働く傾向にあることが分かる。これらのことから、植物が発芽するとまず周りの植物より光を優先的に光を受けるために、ブラシノステロイドの濃度が高くなり、ある程度縦方向に成長する。次にブラシノステロイドがエチレンの合成を促進し、体の安定性を得るために茎を肥大させ最終的には機能が低下した葉を落とすという植物の一生が伺える。

A:論理展開としては悪くないと思います。ただ、多くの植物ホルモンを学んだあとに、なぜブラシノステロイドとエチレンだけを取り上げるのか、という点について少し補足が必要でしょうね。


Q:今まで様々な植物ホルモンについて学んだ。その中で成長促進や果実形成など重複する作用が多かったように思った。植物ホルモンは濃度が低くても効果が現れるため作用が重複して、成長促進するつもりが逆に成長阻害してしまうという事になりかねない。これはそれぞれのホルモンが協調性を持って働いている、もしくは複合体などになって適切な作用をしているのではないだろうか。単体ではなく複数の植物ホルモンの相互作用などを調べたら面白いだろう。

A:これだと短い感想文で、レポートとは言えません。問題点を明確にして、論理だてて書かなければ科学的レポートになりません。


Q:今回の講義で植物ホルモンのブラシノステロイドについて学んだ。植物ホルモンの種類は多く覚えきれず、似たような作用ばかりだと思ったが、今までもやしはどうしてもやしなのか疑問であったため興味を持った。ブラシノステロイドはもやしがもやしになるために必要な植物ホルモンである。もやしは細長い下胚軸が特徴的で、ブラシノステロイド欠損型変異体では展開した子葉や太く短い下胚軸となっている。授業で学んだブラシノステロイドの生理作用には、茎の伸長促進に加え、種子の発芽形成・葉の展開促進があることに疑問を持った。ブラシノステロイドが作用したもやしは発芽も葉の展開もないからである。自分なりにこの要因を考えると、もやしはブラシノステロイドの作用を選択している、または他の植物ホルモンとの兼ね合いによって発芽などが行われない、遺伝子的に作用しない機構になっているなどが考えられる。

A:これは、問題点ははっきりしていますが、可能性を3つ上げて終わってしまうので、論理展開がありません。ではその可能性の中で実際にはどれが一番もっともらしいかを例を挙げて論じることができればよいレポートになります。


Q:エチレンについて。エチレンの影響を説明する例として最も有名なものと言えばリンゴではないだろうか。エチレンは講義中で取り上げられた通り、果物の成熟促進にはたらく。つまり腐ったリンゴと共に他のリンゴを保管しておくと腐食が連鎖してしまうが、エチレンは腐った(又は成熟した)リンゴ以外からも発生する。したがってリンゴは単独に放置しておいても追熟する。ではエチレンの特性を活用しリンゴを美味しく保つ方法はないだろうか。まずエチレンの発生量だがこれは低温条件下で減少させることが可能である。したがってまだ成熟していないリンゴは低温条件におくことで長期間、エチレンの発生やその効果による追熟を抑えることが可能になると推測する。またエチレンは溶解度が低いことから成熟度の異なるリンゴを混在して保存する際は水中における保存方法が有効的であると考える。上記の二点からリンゴは低温水中下で保存することで自身から発生するエチレンの最小限の影響を受けることだけで、長期間保管できると考える。

A:水中に置くという発想は面白いと思います。ただ、水生植物におけるエチレンの作用を紹介したように、周囲を水に囲まれれば、エチレンの放散が抑えられますから、合成量が同じでも細胞内のエチレン濃度は上昇します。その効果を考える必要があるでしょうね。


Q:今回の講義では植物ホルモンのエチレンについて学んだ。エチレンは植物ホルモンの中で唯一気体である。今回は気体のエチレンを植物ホルモンとして用いている理由、利点について考えていきたい。エチレンの働きには主に果実の成熟や落葉の促進があげられる。ここでは落葉の促進にかかわる働きに注目して考えていく。果実から放出されるエチレンの働きによって自分の周りの葉を落とすことで果実自身に光が当たるようになり、果実が光合成を行えるようになる。果実自身が光合成を行う場合と、落葉が落とされずに光合成を行っていた場合でどちらの方が果実に蓄えられる栄養分が多いかということは調べる必要があるが、もし果実自身が光合成をした方が栄養分を蓄えられるのなら、エチレンが気体であり落葉を促進することの理由として考えられる。もし、気体ではない植物ホルモンがこのような働きを担っていたとしたら、果実の周りの葉だけをピンポイントで落とすことは難しく、樹木のほとんどで落ちてしまうと考えられるので、植物体そのものの維持ができなくなる。したがってエチレンが直接接していなくても周りの個体(葉や果実)に作用できる気体であることは利点であると考えられる。ちなみに、果実自身が光合成を行う場合と、落葉が落とされずに光合成を行っていた場合でどちらの方が果実に蓄えられる栄養分が多いかということを調べるには、果実と葉がついている枝を樹木から切り取ってきて、果実のみを遮光シートなどで光から遮断した場合と、果実の周りの葉を切り取って果実が光合成できるようにした場合で一定期間に果実に蓄えられた糖の濃度を測定するなどの方法が考えられる。

A:果実に光合成をさせるために葉を落としているというアイデアは面白いと思います。ただ、エチレンが出ると、果実の成熟により果実自体の光合成は低下すると考えられますから、その点の整合性が取れないように思います。


Q:今回の講義では、食害および病原体に対しての防御応答についての話題があった。ここでは更に限定的に絞り、食害に着目して述べていく。この働きには主にシステインが作用しており、システインが働いて虫による食害を防いでいる。ここで、いくつかシステインによる防御応答の具体的な例を示してみる。まずイボタの葉の防御機構である。このイボタの葉では、タンパク質を変性させ、葉の栄養価をなくし、虫の成長を阻害するようなシステムがある。従って、虫たちはいくら食べても栄養が体内に摂取出来ないため、やがて餓死してしまう。だが、常に変性させてしまうと葉自身に害を及ぼすため、虫による侵攻がない場合はタンパク質の変性を行っておらず、ある糖がその糖を活性化させる酵素とが混ざり合う時に変性は起こる。もう一つはトマトの食害による防御応答である。トマトは食害を受けるとシステミンを分泌し、タンパク質を分解するプロテアーゼインヒビターを阻害し、虫の栄養消化を阻害する防御システムが成り立っている。この他にも食害をする虫たちを呼びよせるという手段もあるが、それは第3者による不確定な作用であるため、ここでは自身のみで行える防御応答のみを紹介した。ここから考えられるに、以上の具体例からもどちらも被害を受けてからの防御応答と言える。だが、植物は動物とは違い視覚などがないため、予防的防御は困難であるかもしれないため、植物では食害を受けた際にいかに迅速に防御応答をすることが出来るかということが課題になるかもしれない。だが、その課題を自然に行うことは難しい現状であると考えた。

A:システインはアミノ酸で、植物ホルモンはシステミンです。講義の初めに言ったと思いますが、単に調べたことを述べただけのレポートは評価しません。ここで評価されるのは、「以上の具体例から」以降の文章ですが、これだけだとやはり論理が弱いですね。もう少し問題点をはっきりさせて、論理を構築する必要があります。


Q:今回の講義では様々な植物ホルモンについて学んだが、その中でも、エチレンについて疑問に思うことがあった。エチレンには、離層形成作用や果実成熟の促進をする働きがあるが、はたしてどのような輸送経路によって運搬されるのであろうか。リンゴの果実から生産されたエチレンが周りの果実を成熟させるとき、これは空気中を気体として移動し作用することが容易に考えられる。直接的な接触がないものに作用しているという事実からも、これは裏付けられる。では、果実が植物体本体についている時にはどのように輸送されるのか。まず考えられるのは、個体や液体の状態で植物体内の液体によって輸送されるという可能性であるが、これはエチレンが常温で気体であることや、水に難溶であることから考えにくい。では仮に気体で輸送されるとして、植物体内を輸送されるのか、それとも気孔などから空気中に出されてから作用するのかどうかであるが、これは前者の方が有力であると考えられる。なぜならば、仮に空気中に出されてから作用するのだとしたら、標的とする部位に適切に作用できるとは限らなくなってしまう。また、成熟しきっていない果実に対しても離層形成作用などが働いてしまうリスクも伴う。よって、エチレンは気体の状態で植物体内を輸送されるということが予想されるが、その正式な経路は今後調べていく必要がある。

A:これは、もっともな問題点で、それに対して論理的に考える姿勢が感じられます。ただ、標的に関しては、エチレンがそこへ到達するかどうか、ということだけによるわけではなく、受容体の存在によっても調節可能であることを考える必要があるでしょう。


Q:エチレンは落葉のための離層形成や果実の成熟、花のしおれを促進する作用がある。授業内ではそのほかに胚軸と根の伸長阻害、胚軸の肥大、フックの彎曲の促進も引き起こすと説明があった。成熟した果実が地面に落ちるなどして割れた後も動物に食べられることがなければその場で発芽するはずである。成熟した果実から発せられるエチレンの影響を大きく受けて胚軸と根の伸長阻害が起こると考えられるが、植物にとってこれはメリットがあるのだろうか。もしエチレンに発芽の抑制作用があれば、その場での発芽を遅らせて動物に食べられて運ばれることが可能になる。発芽が根と胚軸の伸長によって引き起こされるものだと考えると、上に述べたようなメリットが植物にとって存在すると考えられる。

A:発想はよいと思います。地上に落ちてからの果実における植物ホルモンについて取り上げたレポートはこれまであまりありませんでした。ただ、胚軸の伸長と発芽は、全く異なる現象です。


Q:今回の授業も引き続き植物ホルモンについて学んだ。植物ホルモンの中で唯一気体のエチレンについて考察する。まず、気体がホルモンとして機能することにどのような利点があるのだろうか。これに対しては、他の個体と植物ホルモンを共有できることが考えられる。エチレンの果実の熟成についての機能については、集団的に働くことによって、一度に多くの果実を熟成させることが可能になる。落葉の機能については、水分不足で枯れてしまわないように、一度に多くの葉を落とすことが可能になるといったことが考えられる。ある程度集団で生きていくことが、植物においてはシステム化されているのかもしれない。

A:集団の意味を考えるという発想自体は非常によいと思いますが、そのあとの論理展開はやや弱いですね。もう少しいろいろ考えられると思います。


Q:前回の授業では複数の役割を持つのは植物ホルモンだけでなくその受容体も同様であることを学んだ。ここではなぜ一つの物質が植物において複数の役割を持つことが多いのかについて今一度考察する。まず考えられるのは植物が移動できないからということだ。そもそも植物は移動できないため植物ホルモンやその受容体の原料物質は動物のそれより非常に限られていると考えられる。このことから種類の異なる複数の因子、受容体を作るよりも複数の機能を持つ単一の因子および受容体を合成したほうが効率的であると考えられる。そのような都合の良い物質の植物体内における開発は難しいものと考えられるが、これを可能にしたからこそ植物の固着生活が可能と考えることもできる。次に考えられるのは植物の細胞の分化があまりはっきりしていないことだ。植物の細胞は発生からしばらく経っても根端分裂組織か茎頂分裂組織から細胞が生まれ分化する。つまり動物とは異なり、新生細胞は最初から分化しているのではなく未分化細胞から分化という段階を必ず経るのだ。このことから植物細胞は組織による細胞内の様子が明確に変えることができず同じ因子、受容体を発現していると考えれる。だとするならばそのような状況で組織ごとに機能を様々にするには一つの因子、受容体ごとに複数の機能を持たせて、それぞれの組織の状態で異なる働きを示すようにする必要があると考えられる。

A:前回のレポートに対するコメントを一通り見てもらえたらわかると思うのですが、植物が動物よりも物質の種類が少ない、という前提には根拠がありません。植物の二時代謝産物の多様性は極めて高いものがあります。後半の分化との関わりは面白いテーマだと思います。ただ、「このことから」の部分のロジックが僕には理解できませんでした。


Q:今回の授業では「エチレン」の生理作用について学んだ。果実成熟を促すエチレンは、農薬の一種としても利用されているようである。しかし、エチレンには毒性がある。低濃度(通常存在しうる程度の濃度)条件下ではなんら人体に影響はないとのことである。しかし、生命体に対して少なからず毒性を示すということは、エチレンの生理作用には成熟や茎の伸長以外に「防御機能」も含まれると考えることもできる。現在は他の生物も進化したため、エチレンに代わる別の防御機構としてジャスモン酸などを持ったのではないだろうか。エチレンを多量に含む果実とエチレンを含まない果実とで害虫被害がどう変わるのか観察することで確認する。この際気を付けたいのは、虫の中には毒素を体内にためるものがいるという点にも留意しなければならないことだと思う。

A:考察しようという姿勢は充分に感じられます。太古の昔エチレンは防御物質として働いていた、という概念は独創的でよいと思います。その点に絞って論理を構築した方がよいレポートになったように思います。