植物生理学II 第8回講義

植物の花

第8回の講義では、花の色がきわめて多様な原因を色素の観点から解説したのち、花が一定の時期に咲く仕組み(光周性)と花成ホルモンについて解説しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:花の色素について、フラボノイドと非フラボノイドがあり、フラボノイドは赤黄青、非フラボノイドにはクロロフィルなどが含まれる。ここで、緑色の花をつける植物について考えてみる。花の色が緑になるためには、①緑色の色素であるクロロフィルを持つ②黄と青のフラボノイドを持つ③クロロフィルと黄と青のフラボノイドを併せ持つ、などが考えられる。最近緑色のランを購入し活けていたのだが、花弁は緑色、花の中央に濃い紫の斑点があり、数日で花全体が紫がかった色に変色した。そのため、このランに関しては、仮定②もしくは③だと考えられる。ここで、色素を作るコストについて考えてみると、植物は葉の葉緑体にクロロフィルをもつため、花が緑ならば新しくフラボノイドを作るのはエネルギーの無駄になるだろう。そのため仮説①が最も合理的であるが、なぜわざわざフラボノイドを作るのか。可能性として、花の色がもともと決まっていなかったもしくは緑ではなかったことが考えられる。花の色はpHや金属イオンとの反応によって変わる。今回私が購入したランは、花屋に同じ形で様々な色があった。つまり同じ種でも様々な色に変化する。この種のランはおそらく黄と青のフラボノイドを持っており、条件によって様々な色に変化するのだろう。他の色の花と色素の種類が違うわけではなく、比率が違うのだろう。たまたま緑になっただけで、わざわざフラボノイドを作ったわけではないと考えられる。では②なのか③なのか。コストとしては、クロロフィルはもともと持っているので、それほど差はないと考えられる。しかしわざわざ花に持ってくる必要もなく、また、同じ種の他の色の花と色素の種類は同じだと考えられるため、②だと推測される。

A:よく考えていると思います。あと、蘭であれば大丈夫だと思いますが、カーネーションなどの場合、白い花に茎から色素を吸わせて色を付けている場合がありますから、花屋で買う場合には油断禁物です。


Q:今回の講義でスギやマツなどの風媒花以外の花が目立つ色をしていたり、蜜をもっていたりするということは、虫などの動物に花粉を運ばせ受粉させるための手段ということを学んだ。また遺伝子を組み換えることで花の色素を変えることができることも学んだ。これらの話から花弁に葉緑体を持つように遺伝子を組み換え、花を緑色の色が目立たない物にして、研究したい動物(例えばハチなど)に見せ反応を見ることで、その動物が色を見分けて花に飛んでいくのか、もしくは蜜の匂いなどのそれ以外の要因で飛んでいくのかを調べることが出来ると考えた。

A:前半はいわば導入で、最後の一文がレポート本体ですが、やはり文一つだと瞬間芸のような感じですアイデアはまあよいと思うので、ここからきちんと論理展開するように工夫してください。


Q:今回の授業では、花成の制御系経路として、日長情報、自律信号、春化処理、ジベレリンに依存するそれぞれの4つの経路が存在することを教わった。それぞれの経路が合わさって、シグナルが統合されると花成が起こるが、では、このうち1つでもシグナルが欠ければ花成は起こらないのか。調べてみると、『これら4つの経路は冗長であり、どれかひとつの経路の機能が失われても、花成が完全に阻害されることはない(文献1)』と書かれていた。この遺伝学的に独立している4つの経路では、突然変異などによりすべての経路が機能を失うことはほとんどあり得ないだろうが、4つのうち2つの経路が機能を失った場合は花成するのだろうか。また、一番重要とされる経路はどれだろうか。4つの経路に関わる遺伝子はすでに見つかっているため、これらの遺伝子をノックダウンして得られる様々な変異体植物を使って実験することができるだろう。実験結果の予測だが、2つの経路のみの機能でも花を形成するが、生殖器として機能しない花らしきものが形成されるのではないかと思う。2つの経路だけで立派な花を形成しては、4つ経路が存在する意味がなくなってしまうからだ。また、一番重要な経路は、自律信号経路ではないかと思う。光や気温差などの外的要因に左右されず、また、ジベレリンが形成されなかったなどの内的要因にも左右されないため、一番発達しているのではないかと思う。
【参考文献】“成長相転換(花成)の制御?その1? 植物の生活環と花成”, 京都大学大学院, 2013/11/23 19:51閲覧, http://www.lif.kyoto-u.ac.jp/labs/plantdevbio/res_flower2.html

A:面白い視点ですし、よく考えていると思います。ただ、そもそもなぜ4つの経路が冗長的に存在する必要があるのか、という点から議論した方が、論理展開がすっきりすると思います。2つの経路が機能を失ったら、花の形成は阻害されると予想していますが、1つ失っても大丈夫で、2つ失ったらだめだとしたら、最初から3つの経路にしておいた方がよい、という議論になりかねないと思いますから。


Q:花の色素の話から、青い花(バラやカーネーション)の開発の話があった。「青い花」と調べてみると、人間の目で見て「(紫ではなく)青だ」と言い切れる種は代表的なものはツユクサとアサガオくらいしか存在しなかった。そもそも花の色は、虫や鳥にアピールして花粉を運んでもらうためであるということを考えれば、「青」という色は虫や鳥にアピールしにくい色なのではないかと考えた。デルフィニジンを合成するのが難しいために青い花が存在しないのではなく、青は花にとって重視すべき色ではなかったから合成できないのではないか。また、「青」と聞いて思い浮かべるのは「空」「海」などである。自然界ではこの「青」と葉や茎による「緑」が大部分を占めるため、その中で目立つためには暖色系の色であるほうがよかったのではないかと考えた。

A:着眼点が良いですね。さらに植物の中でも、草本は比較的青い花が多いが、木本ではその割合が少ない、という議論もあるようです。ただし、昨今の人間の目に触れる花は園芸品種が多いので、その印象で議論してしまうと自然条件を反映していないかもしれません。


Q:マツやスギなどの風媒花は森林と呼ばれる所に多く存在するように思う。そういった所には鳥や虫なども多く生息しているのにも関わらずなぜそれらを使わずに風媒花のまま進化していないのか。まず、花を目立つようにしたりする分のエネルギーの節約になっている。また自家受粉が行われにくいので後の世代が多様化しやすい。種子も風に飛ばすのでどちらも風によるものなので作りをあまり変えないで良い。などのメリットがある。デメリットとしては風まかせなので運によってしまう。またそのために大量に花粉を作るのにエネルギーが必要であると思われる。こう考えると、風媒花の方が良いように思えてくる。なぜならこちらのデメリットは後の世代を今の所は作らないという選択肢があるからである。まく花粉を抑えたりすればエネルギーは少なくてすむ。一固体が何年も生存するマツやスギなどの生存戦略ではないだろうか。

A:これもよく考えていると思います。最後の結論で、一個体の寿命が長い植物の戦略ではないか、とされていますが、ここまで来ると、一年草の風媒花であるイネをどのように解釈するかが気になりますね。


Q:今回の講義の中で花弁らしい花弁を持たない地味な花は風媒花に多く、色鮮やかな花弁は虫など花粉を媒介する生物を呼び寄せるためのものであると学んだ。そこで今回は花粉を媒介するもの違いが何に対して適応した結果であるのかについて考察したい。そもそも花粉の媒介者にはどのようなものがあるだろうか。メジャーなものでは講義でも出てきた風媒花、虫媒花や水媒花などがある。他にも鳥や哺乳類、ナメクジなど様々なものが媒介者となっている。これらを風媒花、水媒花、生物媒介の3つに分けて考えていきたい。風媒花は大量の花粉を風に乗せて運ぶ花であり、イネやスギ、マツ等の植物がこれに当たる。この受粉方法の利点としては風の強い時期に花を咲かせれば他の生物に頼らずに花粉を遠くまで飛ばすことができること、群生する際に一気に受粉することができることなどがあげられる。しかし欠点として風向きや風の強さにより受粉できるかが決まるため、確実に受粉するためには大量に花粉が必要であることがあげられる。水媒花は水草など水中または水面で開花し、花粉を水により運ぶ花である。これは水中での生育に適応した結果であることは明らかだろう。生物媒介は他のものとは違い周りの環境ではなく他の生物を媒介者としているものを指す。これには媒介者となる生物の存在が必ず必要であり、その生物に合わせた進化が必要である。また、一方的な利用は難しい為、蜜を作るなどして生物を呼び込む必要がある。しかしその代わりに花粉を遠くまで運べる、比較的高い確率で受粉することができる等の利点を持つ。生物媒介の媒介者にはヤシとツパイのように哺乳類が媒介者のものもあるが、虫媒花の割合がとても高い。なぜ媒介者に他の生物ではなく虫が多いのかについても考えたい。虫媒花が多い理由は大きく3つ考えられる。1つは花粉の運ばれる範囲についてである。講義でナメクジを媒介者とする植物についての話があったが、ナメクジと飛行性の昆虫では昆虫の方が遠くまで花粉を運べるだろう。また、同じ距離を移動する際も昆虫の方がより早く移動できる。これが2つ目の理由である。しかしこの2つだけならナメクジのような生物よりは確かに優れているが鳥類や哺乳類に比べると劣るように感じる。そこで出てくるのが3つ目の理由である大きさである。植物には蜜などを分泌し媒介者を集めるものが多いが、鳥類や哺乳類ほど大きな動物には花全体を食べられる可能性がある。実際に虫媒花を好物とする哺乳類は多い。これらの生物に食べられないような大きな花にするためにはコストがかかる。その点、虫は基本的に小さい為花の大きさも小さくて済む。その上に全体を食べられることも少ない。これらの理由から生物を媒介者とする花には虫媒花が多いのだと考えられる。また、逆に食べられることで運ばれる種子の担体は鳥類や哺乳類が多いことからもこの仮説が間違いではないことが分かるだろう。

A:よく考えています。特に後半の虫媒花の部分は、個体の大きさに関して論理的に考察していてよいと思います。全体の長さを考えると、前半部分は、後半の考察に必須ではありませんし、やや羅列的なので、レポートとしては後半だけを取り出した方が完成度は高くなるように思います。


Q:今回の講義では、植物の花について学び、花の色素や遺伝子の働きについて理解を深めることができた。講義の中で先生が仰っていた媒花についてのお話がとても興味深かったため、今回のレポートでは「ナメクジ媒花」について論じる。ナメクジ媒花の植物はどういった植物なのか疑問に思ったため、調べてみたところ、ユリ科の多年草であるオモトという植物がナメクジ媒花を行っていることがわかった。では、なぜ植物にとって悪いイメージがあるナメクジを媒体にしているかについてだが、以下の3点の理由が考えられる。①オモトの花は大きい葉が花の周りを取り巻いているため、風媒花を行うことができないため。②オモトが自然で育つ場所は、ナメクジがほかの虫と比べ発生しやすい環境であるため。③オモトの葉には毒性が非常に強いため、ナメクジに食べられることによるデメリットは小さく、花粉を運んでもらうメリットのほうが大きい。という3点がオモトの特徴上考えられる理由なのではないかと考えた。

A:選択肢を考えるところまでは良いと思います。そのあと、何らかの論理に基づいて結論を一つに絞ると、ぐっとレポートらしくなります。


Q:万年青はナメクジを媒体として受精を行うと習った。なぜ万年青はナメクジを媒体として選んだのだろうか考えてみる。ナメクジはネバネバした粘液で体の表面が覆われている。つまり、他の虫媒花とは違いわざわざ虫に花粉を付着させるためにこすり付けるような構造をとるや、花粉自体をネバネバさせくっつきやすくするなどといった工夫をしなくても良いということである。逆に万年青にはそのような工夫ができなかったため、ナメクジを媒体として使っているとも考えることができる。デメリットとして、空を飛べる昆虫や鳥などと比べて花粉を運ぶことができる距離が短いということから、万年青はもともとそこまで広い分布を持っていなかったと考えられる。よって万年青は、湿気の多くナメクジが多く存在している場所でほそぼそと存在していたのではないかと考えられる。明治時代日本では万年青ブームが訪れ、1鉢1億円で売られていたらしい。ナメクジを呼び寄せる物質を出している植物が1億円と考えるとなんとも言えない気持ちになった。だが、このようなブームがあったおかげで今ではよく万年青を見かけるようになったのではないかと考えられる。

A:考察の方向性は悪くないと思いますが、もう少し論理の道筋を明確にできるといいですね。一つ一つの考えには理屈が付いているので、あとは全体に論理の流れを作ると科学的なレポートになります。


Q:花についての講義で、花は葉から分化したものと言う内容があった。花はなぜ葉から分化したのだろうか?葉の役割を考えるとわかるのではないかと考え、役割について思い出してみた。葉は光合成器官なので、光合成によって有機物を作り出すことや、葉の気孔で気体の出し入れをすることで、植物体の水分量や光合成に必要な二酸化炭素を取り入れ、呼吸をしている。また、蒸散によって根から水を吸い上げる力を生み出すという役割があげられる。植物の体は大きく分けて葉・茎・根に分けることができる。それぞれ役割は異なっている。花に形を変化させやすいのは葉ではないかと考えられる。茎は体を支え、体全体に有機物・無機物、水を運ぶので、細長い形をしている。根は体を支え、土壌の無機物や水分を取り入れるため土壌中に存在していることがほとんどだ。そして表面積を増やすために細長く、スポンジのような構造をとっている。形の面で葉は、平べったく、形を変えやすいから花に分化したのではないかと考える。そして葉は根や茎より外から見て目立つ位置にある。花は生殖器官ともいえるので、動けない植物は動物や風の力を借りる必要があることを考えると、それらと多く接する場所に器官を持ってくる方が繁殖の範囲を広げることができる。形と位置を考えるとなぜ葉なのかわかるのではないかと考えた。

A:これも考察の方向性は良いと思います。ただ、一つ秘湯の論理が細切れになっているので、見通しが良くありません。たとえば、理系の文章の場合、文章の論理構造をブロックダイアグラムやデータフローダイアグラムで示す場合がありますが、このレポートの場合、図にするのがかなり難しそうです。図にしやすい文章を目指してみてください。


Q:生物時計はほぼ全ての生物の細胞にあり、二十四時間周期のリズムを持つ。また、周期は生物により若干違う。その仕組みは、細胞内で増えた物質が、また別の物質を増やし、その別の物質が元の物質を減らしていく。そして元の物質が減るので別の物質が減り、そのせいで元の物質が増えていく。そのサイクルが約二十四時間周期で動いている。この2つの物質を作っている遺伝子を「時計遺伝子」、この周期サイクルを「分子時計」と言ったりもする。細胞時計の動きはそれぞれ違っており、そのままだと少しずつずれていってしまうので、それを整える仕組みも存在する。視交叉上核という部分がホ乳類にはあり、光によって、細胞の時計を整える働きを持っている。少しずつずれていいってしまうサイクルを光で整えるので、無光で生活すると生活のリズムがずれる。また、食事・温度の変化もそのズレを整える仕組みを持っている。よって、体内時計の恒常下でおきるサイクルはある温度範囲では変わらず、阻害剤など、化学物質にも安定だと思われる。植物の花はアントシアン、フラボノイドのもともとの色素だけではなく、もちろん今は品種改良によっても変えることが出来る。近年発展の著しいバイオテクノロジーを利用すると、狙い通りの品種改良が効率よくできるばかりか、交配では不可能とされてきたことも可能になり、不可能とされてきた「青いバラ」も開発出来たという。それで、放射線による花の品種改良も行われているということも耳にした。多くの種類で行われており、花の色を変えるものが中心であるという。放射線を当てることで花を突然変異させているようだが、どのような放射線を当てているのだろう? 遺伝子組換え技法では花に転写抑制因子をつけているようだが、花の遺伝子を変えられるような放射線の原料は・・・おそらく植物の栄養の根源となるO、N、C、Pなどの有機物が考えられる。
・独自技術[植物]花の色を自由に変えられます サントリー http://www.suntory.co.jp/company/research/hightech/flower.html、・放射線育種の利用例 (08-03-01-09) - ATOMICA - http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=08-03-01-09

A:何度も言いますが、この講義のレポートは、単に調べたことを記述しても評価の対象になりません。独自の論理の展開が求められますが、ここに書かれたことについては、あまり論理が感じられません。あと、「分子時計」はもう少し違う意味でつかわれる場合が多いように思います。


Q:今回の授業では葉で日長情報を読みとり、花成ホルモンが葉から茎頂へ移動することにより花が形成されると習った。ここで、どうして花芽でなく葉で日長情報を読み取るのか、そのことに関して何かメリットがあるのではないかと考えた。植物1個体には花芽が一つの場合もあるが、多くの場合、複数の花芽を有している。虫媒花の場合、目立つような花の構造のほうが受粉の確率が高くなることが予想できる。そのため、複数の花芽が一斉に開花した方が花は目立つため、適応的と考えられる。ある器官から師管を通じて花芽にホルモンを伝えることには複数の開花を同時に起こさせるという点で意味があると考えられる。ではどうして葉がよいのであろうか。花芽で日長情報を読み取り、他の花芽には情報を持った花芽から師管を通して伝えられれば、同時開花を引き起こせる可能性はある。師管は双方性のため、可能だろう。しかし、葉から糖類の転流の方向と同じに方向に流れることに意味がある。花芽が形成されるということは花芽がシンクになり、葉がソースとなる。そのため葉から転流と同じ方向で運搬することで確実に花芽に花成ホルモンが届くと考えられる。このような観点から葉で日長情報を読み取ることに意味があると考えられる。

A:日朝感受部位がなぜ葉なのか、という点に絞って論理が展開されていてよいと思います。ただ、途中で篩管の双方向性について触れた部分は、あとから花芽がシンクであるとされることを考えると、むしろない方が論理構成はすっきりするように思います。


Q:授業が終わり、家に帰ってから家にある植物を観察したところ、シクラメンが赤い花を付けていた。今授業では、花はなぜ目立つのかという問いに対して、それは鳥や虫を引き寄せるということであったが、現在は多くの植物は花をつけていない晩秋、ほぼ冬である、この冬に咲くメリットというものを考えてみた。園芸用に改良されてこの時期に咲くという可能性も考えられるが、他にも椿、梅も早春と比較的寒い時期に咲くので、この可能性以外について考えてみた。やはり冬近くは他の植物は花を付けていないどころか、枯れているものも多いため、非常に花が目立つという利点が考えられた。ここでシクラメンの花の匂いを嗅いでみたところ、全くしていなかった。このことから越冬する蛾のような昆虫というよりも、より視力に頼る鳥類をターゲットしていることが考えられる。またシクラメンの花を観察してみると、いわゆる通常の花と異なり、花弁が反って上側に伸びており、雌しべや雄しべは完全に下向きになり、いわゆる花の裏側が上を向いている状態となっていた。一般的にはシクラメンの花が下を向いている理由は雨によって花粉が濡れないようにするためであるとされており、この花の形状では特に鳥に花粉が付着しやすい形とは考えにくかった。しかし鳥が上にある花弁を突くことで、花が揺れる。これにより雄しべから花粉が落下し、同じ花にある雌しべに、より付着しやすくなるのではないかということが考えられた。これでは自家受粉のみの効率が上がるわけであるが、シクラメンは球根を持つため、他の種子により増える植物よりも、交配の必要性が少ないため、この戦略が生まれたということが考えられる。また逆に球根だからこそ、冬に花を咲かせるというエネルギーを確保することができるとも考えることができた。

A:なるほど。面白い考え方だと思います。ただ、シクラメンにやや依存しすぎているのが気になりますね。他に梅と椿が挙げられていますが、梅は昔から「梅が香」というぐらいですから、芳香をもっているものとされています。その辺りとの整合性が気になりました。


Q:サクラが秋や春に開花する場合に, 共通している点は, 冬の開花を避けている点である.冬に活動する動物が少ない上, 日照時間も短く気温も光合成活性も低い. 従って, 多くの虫媒花が冬に開花を避ける事は合理的だ. ところが, 日本本州の温暖な地域のロウバイやヤツデ, サザンカ(花についてはWikipedia参照)や, 西欧に分布 するPetasites pyrenaicus (花期11-2月Neil fletcher著 ポケット版 野生の草花図鑑 p.228, 2004年Larousseより) のように, 敢えて冬に花を咲かせる植物も存在する(ツンドラ気候で冬に花をつける種は見つからなかったが). ここで, 一部の虫媒花が冬に開花する意味(1,2)や原因(3)を以下に列挙した.1. 受粉や成長をめぐる競争が少ない冬のうちに花を作り, 果実の形成を春先直ぐに始め, 種子が成熟する時間を十分稼ぐ事. 2. 競争相手と天敵の活動が盛んになる前に休眠する事. 3. 元々氷河期などに適応していた名残で高温多湿な環境や多様な生物との競争に弱い事. 現在の気候条件では多様な生物が共存しているが, 再び地球上に氷河期が訪れたときに生き残るのは, 低温耐性があり, 厳しい冬でも開花結実できる植物なのかもしれない.

A:これも、きちんと考えてはいますが、全体として論理の通った形になっていないのがやや残念です。ここまで来ると、好みの問題かもしれませんが、やはり、科学的なレポートしては、短くても問題点の設定ー根拠ー結論という論理の流れにまとめてほしいところです。「列挙」だけだとやはり論理になりません。これだけきちんと考えているのであれば、やろうと思えばできるでしょう。


Q:光環境によって開花時期が左右される植物において、花成反応は茎頭のみで起こるものではなく、葉で合成された花成ホルモンも必要とする不可欠とするものであった。なぜ花成に必要な誘導物質を葉でも生成し、それを茎頭に輸送する必要があるのか、その理由について考えてみた。植物の花成反応にとってより重要な要因となるのは、植物体の一組織である茎頭に直接照射する光の強さではなく、年周期で変化する外環境であるといえる。このため、植物体全体を取り囲む環境を光条件を通して感知する必要がある。しかし、当然であるが植物体が持つ茎頭の数も面積も葉と比べると圧倒的に少ない。木陰など部分的に特殊な環境が生じれば、年周期での外環境の変化を正確に判断できなくなりやすい。これに対して葉の細胞は植物体の最も外側にあり、一般的な植物の地上部では生きた細胞が占める面積も最も広い。このため、周囲の障害物の存在の影響を受けずに年周期での光環境の変化を感知する器官として葉は適しているといえる。また、茎頭以外の組織で花成ホルモンを生成した場合、それを師管を通して輸送する必要があるが、茎頭はソースではないためショ糖勾配による流れを利用できない。そのため拡散を利用して輸送することになると考えられるが、それには多量のホルモンを合成する必要がある。光環境を感知する器官とホルモンの合成器官が同じ場所にある方がその間のシグナル伝達が不要となり、効率がいいといえる。そのため、葉での花成ホルモンの合成が行われるのではないだろうか。植物は茎頭以外で外環境の変化を察知する器官を持っているが、このことにより系統では別の環境条件を感知する事もできるようになり、それによるメリットも生まれるかもしれない。

A:最初に問題点がきちんと明示されており、複数の根拠を挙げて論理的に問題に対する回答を考察していてよいと思います。なお、言葉としては、「茎頭」ではなく、ふつうは「茎頂」を使います。


Q:連続する暗期が花芽の形成を決定する植物がある。連続する長い暗期は夏から秋頃をイメージすることが多いだろう。だが、その長さの連続する長い暗期は春の頃にもありうる。つまり暗期の長さだけを取ってみれば長い暗期は春にも存在するはずである。そこで秋頃だけ花を咲かせる理由を考えた。ここでは一年草であることを考慮しない。春と秋の違いは夏を越すこと、一年草であれば春は発芽から短い時間から未成熟という理由が考えられる。夏を越すことから温度条件、日照条件の二つが考えられる。温度条件である一定以上の温度があれば合成されるホルモン、活性物質が生成されると考えると気温というばらつきのある不明確な条件は植物体においては適するもとは言い難い。逆に安定的にもっとも夏の条件を満たすのは日照条件であり、発芽からある程度の連続する明期を感知して植物体にホルモン、活性物質を分泌する働きがあるとすると、連続する明期をもとに植物体内に存在する物質の量を測定すればよいはずである。実験系を考えると、同条件で生育した複数の個体に日照条件を変えて日を浴びさせる。それを数日繰り返し、日照条件をすべてその植物体が花を咲かせる時期の暗期の長さに合わせる。花芽が形成されるものとされないものがあればこれは日照条件で花芽形成していると言える。また、どれも花芽形成しない、すべて花芽形成すると日照条件とは異なる要因がある。

A:よく考えていると思います。一年草であれば成熟しているかどうかを判断基準にできる、ということでそれ以外を考察しているのですが、講義でも触れましたが、宿根草や樹木では、花芽分化の時期と開花の時期が必ずしもリンクしていない点を考慮する必要があります。桜の花芽分化は夏ですが、開花は翌年の春ですから、花芽分化のシグナルと開花のシグナルは全く別のものになります。


Q:本レポートでは,花成ホルモンの移動開始について考える。葉からの日長情報を受けて花成ホルモンが茎頂へ移動し,花芽分裂組織が花成を開始するわけだが,それには茎頂が花成ホルモンを受容する準備ができている必要がある。受け入れ可能であるというシグナルは茎頂から葉へと伝わるはずであるので,これは花成ホルモンの移動とは逆方向である。花成ホルモンのような物質の移動による伝達であるならば,仮にFTの転写を抑制する因子が存在するとして,その働きを抑えるような物質が茎頂から葉へと送られなければならない。しかし,そのような物質によってシグナルが送られる場合,準備完了のシグナルが葉へと到達したら,転流の向きを逆転させなければならないと考えられる。転流の向きを逆転させるのはとてもダイナミックな変化であるし,エネルギーを必要とすることであると考えられる。もし,転流の向きを変えずにシグナルを伝える方法があればと模索したが,着想を得ることができなかった。

A:面白い点に注目していると思います。ただ、「準備ができている」ということを知らせる必要が本当にあるのでしょうか。シグナル物質は通常かなり低濃度で効きますから、篩管の流れに乗って運ばれるのであれば、それほどコストがかからないと思います。日長の条件が合致したら、準備ができているかどうかにかかわらずシグナルを送り続けたほうが、やり方としては簡単ではないでしょうか。