植物生理学II 第5回講義

セルロース、篩管

第5回の講義では植物の茎の話の続きとして、セルロースと細胞壁の話を中心に植物細胞の構造に触れた後、篩管と転流の仕組みについて解説しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:エクスパンシンは細胞壁多糖間の水素結合を弱めるため、細胞壁をゆるめる。それは細胞の伸長するのに必要な条件であるというお話があった。水素結合は非共有結合としてはかなり強い結合だった記憶がある。その結合を弱めるというのはどういう原理なのか。エクスパンシン中に、細胞壁多糖にある水素を引きつける原子よりも、電気陰性度の高い原子があるために、元あった水素結合を切断してしまうのではないか。なんにせよエクスパンシンの作用により、普段は狭くてある種のタンパク質を除いて大きな分子が通ることが不可能である原形質連絡を分子が通ることが出来るようになり、植物が伸長できるというのはすごいことだなぁと思った。

A:細胞の伸長にエクスパンシンがはたらく話はしましたし、ウイルスン感染拡大などに原形質連絡が広げられる話もしましたが、この2つは全く別の話です。原形質連絡の拡大にエクスパンシンが効いているという話は聞きません。


Q:今回の授業の後半で、篩管の構造や機能、とくに転流について学んだ。先日の授業で学んだように、植物は自分が生きるためのより良い環境に向かっていわば無限に成長していくため、単なる拡散による物質供給ではなく、篩管を用いた局所的な転流を用いてエネルギーの無駄を防いでいるわけである。しかし、このように植物体の様々な部位のほとんどに篩管が存在しているのは、その部位に必要な物質の濃度調整を行うためであるとも考えられる。授業で扱った篩板が部位によって異なる発達の仕方をしていれば取捨選択が可能であるだろうし、フィードバック調節についても、物質に対するセンサーの局在性によって部位に特異的な調節ができるできるからである。

A:あまり論理がつながっていないように思います。「単なる拡散・・・ではなく・・・エネルギーの無駄を防いでいる」とありますが、篩管を通しての輸送には糖の能動輸送が必要で、拡散による受動的な輸送よりはエネルギーを使います。また、濃度調整に「取捨選択」と「センサーの局在性」がどのように役に立つのかの具体的な筋道が不明です。もう少し自分の主張を論理的に相手に伝える工夫が必要でしょう。


Q:木の幹では、なぜ死んだ細胞である木部が内側で、生きた細胞である篩部が外側なのか。生きた細胞のほうが重要なため、保護するために内側にしたほうが合理的なように感じる。では生きた細胞を外側にさらすリスクよりも、生きた細胞が外側にあるメリットのほうが大きいのだろう。そこで、講義でもあった木のうろが例としてあげられるように、生きた細胞が外側にあることによって、ウイルス等に対抗するために生きた細胞が外側にあるのではないだろうか。うろができる原因は、ウイルス等に感染し、免疫機能をもたない死んだ細胞が失われることである。生きた細胞が外側にあれば、被害が抑えられるのだろう。

A:着目点はよいと思います。ただ、論理の組み立てが今一つですね。「うろ」は、死細胞が失われた例ですから、生細胞が外側にあるメリットの根拠にはなりません。まず、死細胞は損傷すると修復できないので、むしろ守らなくてはならない、という点を主張して、そのような戦略が破綻した例として「うろ」を持ち出せば、論理的につながります。


Q:ショ糖は転流して他のところにいく。そのショ糖を作りすぎたときにデンプンが作られると学んだ。その転流の速度を制御する因子がどこかにあると先生はおっしゃっていたが、その因子の具体的な働きについて考えてみる。転流の速度を制御することはデンプンの合成を開始したり、終了したりする必要がある。また、どれだけのショ糖が合成されたのか確認するためにショ糖を認識する必要がある。ショ糖の単糖と単糖の結合方法はほかにも似たような物質があるため、おそらくショ糖の大きさ(長さ)を認識していると思われる。小さい(短い)大きさの糖を大量に(因子が)認識した場合にのみデンプンの合成を開始するための何かを作り出す働きだと考えられる。調べると、カルビンサイクルにおいてショ糖の合成ではTPが用いられるが、デンプンの合成ではTPではなくフルクトース6-リン酸が利用されることがわかった。つまり、フルクトース6-リン酸が作られる過程に転流の速度を制御する因子の1つがあると考えられる。
参考文献:「Mechanism」http://hostgk3.biology.tohoku.ac.jp/hikosaka/Mechanism.html

A:注目点はよいと思います。ただ、フルクトース6−リン酸も実はトリオースリン酸から合成されます。むしろ、同じトリオースリン酸からショ糖もデンプンも合成されるからこそ、ショ糖への転流経路が詰まると、デンプンの合成が始まると考えることができます。この場合、単なる競争反応ですから、特別な調節メカニズムを想定しなくてもよくなります。


Q:セルロース合成酵素複合体は5、6個固まっていることが示されたが、その個数について考える。なぜ単独で点在するのではなく複数個固まって存在するのだろうか。 植物にとってセルロースは細胞壁を構成する主成分であり、細胞壁は細胞内を細胞外から守る働きを持つ。この細胞壁を構成する際に、セルロース微線維が1本では十分な強度が得られず5、6本存在することが最適かつ効率的であり、選択的に5、6個のセルロース合成酵素が集合したと考えられる。細胞の強固さを最優先にするならばより多くの複合体が集合していた方が効率が良いが、植物は伸長するため、その際にあまりに強固なセルロース微線維の構造があるとその妨害になってしまう。つまり、最初は伸長を考慮しつつ外部から細胞内を守ることのできる量のセルロースを合成し、その後伸長がストップしてからより強固にするため追加でセルロース合成を行うと考えられる。

A:シンプルですが、必要最低限の論理が展開されていてよいと思います。このあと論理を展開するとしたら、生物種または細胞の種類によって合成酵素の数が異なる複合体があるのか、という方向性があると思いますが、この講義のレポートとしてはそこまで踏み込む必要はないでしょう。


Q:今回原形質連絡という話が印象に残った。原形質連絡は細胞壁の間で小胞体が行う。私は、その図を見たとき、いままで小胞体がこのような形をしているのをはじめてみたと思った。この図も模式図ではあると思うが、私がいままで見た小胞体は細胞の中で平べったくなっているものであった。また、細胞の模式図の中で最も大きく書かれているのは核であるが、たいてい一番大きいのは液胞であるようだ。わたしが実験のときに顕微鏡で観察した際も、染色液で染めて観察した核は教科書で書かれているほど大きくなかった。生物学の学習を高校の教科書で終えてしまった人たちが教科書で書かれているままに事実と違うことを覚えてそのままになってしまうのはおかしいと考える。教科書には強調などせずにありのままを伝えてほしいと考えた。

A:これは感想文であってこの講義が要求するレポートではありません。講義にまつわる話題について問題設定をし、その問題に対して自分なりの根拠から論理的に答えるようにしてください。この講義のレポートではオリジナリティーのある論理を評価します。なお、問題設定としては、植物生理学関連のものである必要はなく、このレポートで触れられているような教育学的な視点のものであっても構いません。


Q:今回の講義では、①細胞外に存在する細胞壁は、セルロース合成酵素複合体によって作られていること、②植物の葉の中では、光合成をして転流するのに必要な量以上のショ糖を合成した場合、光合成は抑制され葉緑体内に余ってしまったPGAをデンプンに変える、ということを教わった。私は①と②がもっと関連しているのではないかと思った。まだ多くの謎に包まれているセルロース合成酵素複合体は、グルコースを原料としてセルロースを合成しているところまでは分かったが、どのような過程で細胞壁は生成するのかを②の要素を含めて考えた。PGAは転流させるショ糖だけを合成するのではなく、転流を最優先して、PGAに余裕ができたら他の用途に用いる可能性は充分にあり得る。まず、葉緑体で合成したデンプンをまたPGAに分解して葉緑体外に排出する。PGAをさらにグルコースに変換して、α-グルコースとβ-グルコースの平衡状態を保ちながら、細胞膜に存在するセルロース合成酵素複合体に取り込まれてセルロースになるのではないかと考えた。PGAをデンプンに変換せず、そのままセルロースに変換しないのは、②の役割を持たないと養分が得られなくなったときに困るからである。

A:面白いテーマだと思います。ただ、一読した段階では論理展開がわかりませんでした。特に、最初は「②の役割を持たないと養分が得られなくなったときに困る」という部分がどこから来るのかがわかりませんでした。要は、セルロースの合成よりもショ糖としての転流の方が優先されるべきだ、ということですね。ただ、論理としてつながらないのは、結局で分からもう一度PGAに戻してしまうのであれば、植物の細胞にとっては、そのPGAが転流に回すべきPGAなのか、デンプンを分解してできたセルロース合成酵素に回してよいPGAなのかを区別できないという点でしょう。もし、用途によって行き先を分けるのであれば、デンプンの分解によって生じた糖は、PGAとは別の糖の形にするべきであるように思います。


Q:篩細胞が繋がった篩管には伴細胞がついており、それぞれは原形質連絡によって物質のやりとりをしているということを初めて知った。伴細胞の役割について調べると、核を持たない篩細胞はタンパク質を作れないために伴細胞から送られてくるタンパク質が必要である、また、葉の葉肉細胞で合成された同化産物は直接篩管に入れないため、伴細胞を経由しているということだった。篩細胞が物質輸送に特化した細胞であるため、余計な仕事を代わりに伴細胞がしているということなのかと納得した。しかし、裸子植物は伴細胞を持たないかわりに、タンパク細胞が伴細胞と似たような働きをする。伴細胞とタンパク細胞の違いは、隣り合う篩細胞と姉妹細胞であるかどうかである。なぜ被子植物と裸子植物でこのような差がうまれたのか。原始植物が進化する際に別の道をたどったが、篩細胞が物質輸送に特化するには結局同じ役割を持った細胞が必要になったと考えられる。別の進化の道をたどっても結局同じような働きをもつようになるということは、植物にとってどんな種でも必要度の高い機能であるということであり、進化の結果によって機能の重要度について考えることができると思った。
日本植物生理学会、http://www.jspp.org/cgi-bin/17hiroba/question_search.cgi?stage=temp_search_ques_detail&an_id=475&category=mokuji

A:このレポートの場合、前半は調べたことなので、「自分なりの論理」は後半にあるはずですが、結論は「別の進化の道をたどっても同じはたらきをもつ」から「植物にとって重要だ」ということなので、最後の一文に集約されてしまいます。もう少し、何らかの論拠から論理を展開するレポートを目指してください。ただし、自分の調べたこととそれに対する意見をきちんと述べており、一般論としては悪いレポートではありません。単に、この講義の求めるレポートとは少しずれがある、ということです。


Q:師管の中を師管液が通っている。これが樹液なのだろうか。僕の知識では木の表面を傷つけると樹液が出てくる。そして虫がそれらを食べる事から栄養もあると考えていた。しかし、それらの周りを死んでいる状態の木の部分が囲っているのだから樹液は中々出てこないのではないだろうか。それとも樹液は師管液ではなく、細胞が外に放出する物質などの一部が樹液となって染み出ているのだろうか。今回、「うろ」という木の死んでいる部分が腐っていく状態が授業に出てきた。この状態の木ならば表面のすぐ下が師管になるかもしれない。ネットで調べた結果、樹液ウロという単語もあるようでそこではカブト・クワガタなどが取れるスポットとされていました。ウロの多い木=樹液が出る木であるようなので、おそらく樹液は師管液であろうと考えられる。ウロの無いある程度太い木に浅い傷をつけても予想が正しければ樹液のようなものは出てこないだろう。

A:樹木の幹の中で、どの部分が生きていてどの部分が死んでいるのか、という話は講義でかなり細かくしましたし、前回と今回のレポートでもいくつか触れられていると思います。よいレポートを書くためには、講義をきちんと聞いて、他の人のものも含めて前の回までのレポートとそれに対するコメントを読むとよいと思います。


Q:今回、講義の中で細胞壁の一次構造について学んだ。細胞壁は細胞膜外に押し出されたセルロース微繊維にカルシウム架橋したペクチンや架橋性多糖が絡みつくような構造になっており、細胞が伸長する際は酵素によりペクチンや多糖の架橋が切られてセルロース繊維同士の隙間が延びることで大きくなる。成熟した細胞では多方向にセルロースの繊維が張り巡らされることでそれ以上の成長をしないようになっているとのことだった。そこで今回は細胞が分裂する時、細胞壁がどのようになるかについて考えてみたいと思う。高校では植物細胞の細胞分裂は最終段階で細胞を分けるように細胞版が出来ることで分裂すると習った。細胞板は将来細胞壁になるものである。つまり細胞内にセルロースによる壁を作り、その後細胞膜を切っていると考えられる。多細胞植物の細胞同士は細胞壁を共有しているため細胞板が膜外に出て細胞同士を区切れば細胞分裂が完了する。では単細胞の植物プランクトンではどうだろうか。もし普通の植物と同じように分裂するのであれば、その時細胞壁はどうなるだろう。もちろん分裂した細胞同士が細胞壁を共有したまま生きるわけにはいかない。つまり細胞分裂の時に細胞壁も二つに分かれるはずである。どのようにして細胞壁を分けているのだろうか。大きく2つの仮説があげられる。1つは細胞同士が繊維に水平方向に分かれ、繊維間の隙間で切れるというものである。こちらの場合はセルロース繊維を切ることなく分裂するためセルラーゼなどの酵素は必要ない。しかし、分裂の邪魔にならないよう多方向に繊維を張り巡らせにくいため引っ張り強度が低い可能性がある。もう1つの仮説は分裂時にセルラーゼを使い細胞壁を壊しているというものである。しかしセルロースの結晶構造は強固であるためそれを分解できるようなセルラーゼを作ることはコストが高くなってしまう。どちらも一長一短であり、環境によりこのどちらに近い分裂方式をとっているかが左右されると考えられる。

A:面白い問題設定だと思います。最後の部分、「環境により」というのであれば、どのような環境ではどちらの方式が有利になるのか、という議論が欲しいところです。問題設定にたどりつくまでに全体の2/3のスペースを使っていますから、むしろ、その部分はもっと省略してもよいでしょう。


Q:光合成産物の貯蔵量の大きい、つまりシンクの大きな芋はCO2の濃度上昇による光合成抑制が働きづらい。一般的に私たちの言う芋とはジャガイモのような地下茎もしくはサツマイモのような根を指す。これらの可食部分に光合成産物をデンプンに変換して貯蓄している。芋のシンクの大きさを利用して大気CO2濃度の上昇を防ごうとする研究が行われているとのことだが、私は地球温暖化を解消できるとは思わないし、CO2濃度も変えられないと思う。シンクはあくまでシンクであり、変換したこところで芋を消費してしまえば結局はCO2として排出されることは明らかである。ただ、芋の利用については汎用性がある。バイオマスエネルギーとして例えばガソリンに利用したり食糧問題にも一役買ってでることができる。芋の研究が地球温暖化を抑制できるとは思わないが、手軽に育成できる植物から得るエネルギーについては将来性があると思った。

A:「思わないし」「思わないが」「思った」とある部分、やや感想文的ですね。科学的なレポートとしては、なぜそのように思うのか、何らかの論拠を示すようにしてください。例えば、イモの生産量と石油の消費量を比較して、もし石油の消費量の方が圧倒的に大きければ、イモの生産量を多少増やしても意味がない、という結論を引き出すことができます。


Q:今回の講義で最後に先生が話されていたシンク・リミットについて多少難しい題材だと感じたが、興味を抱いた。今回のレポートでは「温暖化による急速な二酸化炭素濃度増加に対して植物の世界はどのように変化していくのか」について言及する。まず、植物の取り巻く環境に変化があれば、その環境に適した植物は生き残り、適していない植物は死に絶える。あるいは長年を経てその環境に有利な遺伝子を持ち、進化する等の対応がなされると考えられる。このことを踏まえて、私の意見を言及すると、二酸化炭素が増加し続けると、まずイモなどのシンクの大きい植物(以後植物Aと名付ける)は生産性が上がり、同時に他の植物(植物B)も二酸化炭素濃度増加がプラス要因として働き、植物は全体的に増加する。しかし、ある一定の濃度あるいは温度を超えると、植物Bの中でも環境についていけない個体は滅んでいき、結果的にシンクを持つ植物Aのような植物が世界的に増加していくと考えられる。しかし、ここで1つ問題が考えられる。植物Aを主食とする動物は所謂CO2濃度の高い植物を食べることとなるので、結果的にその動物も生きづらい環境になるのではと思った。つまり、話が多少飛躍してしまったが、環境における変化は植物のみならず動物にも間接的に強い影響を伴うのではと感じた。

A:「CO2濃度の高い植物」というのが意味不明です。「有機物をたくさん貯めた」と言いたかったのかな?ただ、そうであれば、それを食べる動物は、むしろ繁栄するように思いますが。


Q:細胞にジベレリン(GA)を与えると縦方向に規則正しく伸長し、やがて成熟するにつれてセルロース繊維は様々な方向に張り巡らされる形となり、伸長を停止する。一方ジベレリンが欠乏しているとセルロース繊維が未発達な細胞となるため、縦に伸長するのではなく横に肥大化していく。これらの現象はジベレリンが伸長方向と垂直の方向に微小管を配置しセルロース繊維の伸長方向を規定しているために生じている。ここで「成熟するとなぜ伸長が停止されるのか」についてそのメカニズムについて考えた。細胞一つ一つの伸長の限界も考えられるが、成熟することでセルロース繊維が構造的に伸長を抑制するのではないかと考えた。成熟すると伸長に携わっていたセルロース繊維が様々な方向に張り巡らされる状態となる。これは例えるとタコ糸で縛り上げられるような状態である。比較的強固な繊維であるセルロースが様々な方向に張り巡らされることで細胞のさらなる伸長成長が抑制されていると考えた。

A:何だか、前提と結論がほとんど同じような気がします。セルロースは引っ張り強度が強いので、その繊維の方向に細胞が伸長するのは難しいという話は、講義の中でしたと思います。


Q:今回の授業ではマツの葉の気孔は葉の裏表関係なく存在していると習った。マツは、寒冷地帯や乾燥地帯に多く生息している。よって乾燥、寒さに耐えられるような構造となっていると考えることができる。つまり、気孔が葉の全方向に存在しているということは、一番蒸散によって温度を失わないと考えられる場所で気孔を開くことができ、さらに朝露などの水分を吸収しやすいという利点があると考えられる。この性質を最大限利用するには、葉の形が水を受け止める皿のような構造をしていたほうがいいと考えられる。しかし、マツの葉は針のような形をしている。なぜ針のような形をしているのだろうか。針のような形をしているのは、光合成を行うために光にあたる部分をなるべく大きくし、なおかつ熱を外に逃がさないため外皮を硬くするのに適した形であるため、または、寒冷地帯となると雪が降ることが考えられるため、葉に雪が乗ってしまい枝が折れてしまうのを防ぐためと考えられる。よって、マツの葉の気孔が全方向に存在している理由は、寒冷、乾燥対策の一つであり、他の上記で述べた要因などと組み合わさることで今のマツのような葉ができたのではないかと考えられる。

A:松と言ってもいろいろあり、種類によっては温暖な地域にも生えますから、ひとまとめにして議論するのは難しいでしょう。先日沖縄に行ったら、リュウキュウマツがたくさん生えていました。ただ、考えようという姿勢は評価できます。なお、気孔の話と、葉の形の話はかなり独立だと思いますから、どちらかだけについて議論するので十分です。


Q:植物細胞の伸長のところで、細胞が成長して伸長するとセルロース繊維が細胞の周りに張り巡らされて伸長停止するということを学んだ。セルロース繊維は伸びない性質なので、これで細胞を支え、細胞の横幅が広がらないようになっている。そのため太さは変わらないとのことだった。セルロース繊維の張り巡らされる方向と細胞の伸長方向が垂直の方向を向いているなら真っ直ぐに伸びることができる。しかし、蔓性植物のように真っ直ぐに伸びている植物ばかりではないと気付いた。セルロース繊維と細胞の伸長方向が垂直からずれると、どちらかの方向に曲がってしまったり、ゆがみが重なって弧を描くように伸びるのではないかと考えられる(デンプンとセルロースの構造のように)。蔓性植物は、樹木などの比較的真っ直ぐ成長する植物と違って、植物や他の物体に巻き付きやすいように伸長の方向を制御していると考えられる。また、細胞の伸長には物理的な力ではなく、細胞壁を緩める酵素が働いているということだったが、それでは伸長の時に、細胞(細胞壁)の強度が弱くなるのではないかと考えた。細胞壁の強度が弱くなると、植物を支える力や植物を外界から守るという機能が低下すると思われる。そこで、根の構造を思い出したところ、植物の根の頂端分裂組織の先には、根冠があった。根冠は根の分裂部を守るという機能を持っているとのことだったので、単に分裂組織を守る為に根冠があるという覚え方だったので、分裂部の細胞壁の結合の緩さを考えると根冠の意味を理解することができた。

A:考えようという姿勢は評価できます。ただ、これも2つの論点を議論していますので、1つに絞った方が明確なレポートになると思います。この講義のレポートは長い必要はありません。前半の部分、組織の伸長方向が細胞の伸長方向によって決まるように考えているようですが、実際には、違います。高校の生物を履修していれば、屈性のところなどで習っていると思います。この講義でも、後半に取り上げる予定です。


Q:今回の授業では「細胞の伸長とセルロール繊維の方向」「篩管要素」で細胞伸長の条件、栄養の輸送機能などを学んだ。セルロースは植物の細胞の細胞壁の主な成分であり、植物質の1/3を占め、地球で最大量の炭水化物であるといわれている。それで思い出したのが、植物のセルロースからバイオエタノールを作り出す「バイオマスエネルギー」の研究である。だがこのエネルギーは実際、安定的に利用・生産可能なものなのだろうか? 4,5年前にこのバイオマスエネルギーの話を聞いたときには「今はさとうきびなどの食物から作っているため、砂糖の値段が高騰したり食糧不足などの問題がある」と聞いた。それにこの「バイオマスエネルギー」全般の問題として、バイオ燃料の価格、出来高に左右されたり、燃料を植物のセルロースからエタノールにするときにコストがかかる、といった問題もあるだろう。なので、このバイオエタノールが世界的に流通するのはまだ難しいだろう。そもそもこのエネルギーは石油の代わりとしてのものなので、石油、あるいは他の燃料をなるべく使わない社会作りをしていったほうが良いのかな、とも思った。

A:これは、感想文の域は脱して、評論とまでは言わないにせよ、文系科目のレポートとして最低限の要素を持っています。ただ、この講義に関しては、あれこれ考えたことをまとめてレポートにすることを求めているのではなく、独自の論理によって特定の結論を得るようなレポートを求めています。巷にあふれている評論の焼き直しでは意味がありません。もっと自分なりの論理を示してください。


Q:今回の授業で、セルロースとジベレリンが細胞の伸長をコントロールし、細長い形態をとることを学んだ。ここで、どうしてこのような形態をとり、さらにセルロースで形態を固定する必要があるのか、その利点を考察する。第一に一般的に植物は光合成のための光を得るために背丈を高くする。植物は細胞を分裂するだけでなく、細長く伸長することにより高い背丈を得ることができる。この論は一般的だろう。次に、細長い形態は体積あたりの表面積を増やすことができる。3次元でなく2次元で考えると、例えば面積16の長方形において、縦4横4と縦8横2とすると、明らかに細長い形態の方が表面積は大きくなる。この体積あたりの表面積を増やすことの利点として、植物ならでは特徴の細胞壁と原形質連絡から説明できると考えた。表面積を増やすことにより、細胞膜と細胞壁の接着面が大きくなるため、細胞の固定が安定する。さらに原形質連絡も効率よく行うことができる。細胞の中心にある物質を細胞膜まで運ぶのに、明らかに細長い形態のほうが細胞膜までの直線距離が短いため効率がよいといえる。動物細胞では原形質連絡がないため、動物細胞が細長い形態をしている必要性がないともいえるのではないか。とにかく、2つの利点があり、植物細胞は細長い形態をとっていると考えられる。

A:これは、問題点を明確に示しており、論拠を示して議論しているので評価できます。ただ、最後の部分、動物細胞との比較がやや不消化ですね。原形質連絡がなくても、細胞が外から物質を取り入れなければならない点は同じのように思います。


Q:授業にて、ある植物に光を当てはじめ、二酸化炭素とデンプンとショ糖の葉内における量が変化してゆく経過を表したグラフがありました。二酸化炭素量、すなわち光合成活性は急激に上昇した後すぐに低下してゆき、またショ糖の量はsinカーブのように途中まで上昇した後下降してゆきました。そしてデンプン量は経過時間に対してある程度1 次関数として近似できそうな上昇をしていました。授業内では活性が落ちているにも関わらず、特にデンプンの量が上昇している理由、そしてショ糖の量が途中で低下している理由においては、葉緑体内にて光合成が行われた際、PGAが産出され、これからショ糖とデンプンが作られる、そして最初はショ糖となり転流されていたPGAが、ショ糖が一定の濃度を超えるとデンプンの合成のほうに利用されるのではないかという結論になりました。しかし私はデンプンの量を表した線が、ショ糖の線が負の傾きを持ちはじめた際も、ほとんど傾きに大きな変化をもたらしているようには思えなかったため、納得がいきませんでした。確かに光合成活性が減ってきているので、丁度帳尻があったという可能性がありますが、それにしては綺麗すぎる曲線なのではないかと思ったのです。ショ糖とデンプンが独立して合成されているならば、ショ糖ほどでなくとも、光合成活性が大きい光の当て始めのところでデンプンの量もある程度急激な上昇を見せても良いはずなのに、緩やかな点も疑問に思えます。なので私の考えとしては、この植物は逆に葉におけるデンプンの貯蓄量は一定で増えるようにするメカニズムを持っているのではないかと考えました。つまり光合成活性とショ糖は相互作用により、デンプンの貯蓄速度をなるべく一定にするためにバランスを保つ要員となっているのではないかということです。しかし利点を考えた結果、どう考えてもショ糖はともかく、光合成活性を落としてまで調節する利点を見出すことは出来ませんでした。なので欠点を考えた結果、デンプンはショ糖と異なり、葉緑体内部にて貯蓄されるようであるので、葉緑体の内部に蓄積させる際、体内に貯蓄させるためのスペースを確保することが必要であり、この速度が反映した結果から生まれてしまったものなのではないかということが考えられました。そもそも光合成活性が落ちたのは日中の気温上昇が原因となっていることが考えられたり、維管束との関係があるのではないかと考えたりと、植物の体内における相互関係は極めて複雑なのではないかということを感じました。

A:これは、独自の視点で問題点を発掘しているという点で評価できます。ただ、メカニズムとしての議論と、メリット・デメリットの議論はわけて考えた方がよいでしょうね。メカニズムとしての議論の部分が少ないので、前半の講義のデータの紹介部分をもっと短くして、その分、メカニズムの議論が入るとしっかりしたレポートになります。


Q:植物の死細胞と生細胞における防御機構の働きの差について考察する。死細胞は物質を合成できないため, 一旦壊れると修復できない. また, 侵入を他の細胞に伝達する事もできない. 従って, できるだけ細菌が侵入や繁殖が困難で見返りの少ない環境を用意して死ぬことが唯一の防御方法になる. そのために, できるだけ硬くて侵入, 分解しづらい物質(リグニン等)や, 細胞の毒素として働く物質(自分は死んでよいので)を生細胞よりも多く含有すること, 隣接した組織との連絡経路を絶ってしまうこと, 水分やその他の栄養分をなるべく含まないことなどが防御方法として挙げられる. 但し, 無機塩類は希少なので, 複雑な化合物を含有するよりも葉に集めて土壌から再吸収しやすいほうが生存に都合がよければ, 毒物の合成はほとんど行われないと考えた.一方で生細胞は, 物質合成も自殺も可能だが, 水分を含有しており組織も比較的柔らかい. しかも細胞が生きるに足る栄養がある上, 外縁部に位置しており, 細菌に狙われやすい. 従って, 生細胞の防衛方法として, 病原体に感染してから, 伝達物質や毒物などを新たに合成すること, 養分供給や物質伝達の経路などを絶つために死ぬこと, これにより損なわれた組織を再形成する事などが挙げられる. ところで, 末端の成長組織は各器官に散在するため, 全体を統括する中枢が存在しない. 従って植物体全体で情報共有する必要はない上, 逆に駆除しきれずに病原体そのものを共有したほうが不都合なので細菌への防衛の反応における物質伝達は一箇所の中枢を介さず局所的に行われると考えた. すると, 根や幹の一部では, 生細胞の外側に薄く, 死んだ細胞からなる硬い層を物理的障壁として配置し, その内側に生きた細胞を各生理現象のために配置し, 更にその内側に心材として死んだ細胞を配置する構造が, 植物体の防衛においても合理的である. また, 一箇所が侵されてもそこを放棄できるよう通導組織を網目状に分散させることにも意義がある.

A:これは素晴らしいと思います。レポートとしては、前半の死細胞の部分だけでも十分に高く評価できます。文句なし。


Q:シンプラスティック輸送とアポプラスト輸送のそれぞれの利点について考えた。シンプラスティック輸送の利点は講義でも述べられたように、葉肉細胞から伴細胞に同化産物を輸送する際に細胞膜を介した能動輸送を行う必要が無いため、エネルギーの節約になる点である。一方でシンク側での同化産物取り込みの際は、同化産物濃度を師管・伴細胞内よりも同化産物を取り込む細胞で高くしなければいけないため、原形質連絡は不利になると考えられる。つまり、どちらの輸送方法が適しているかは、ソースとシンクの存在比によって変化すると考えられる。シンクの割合が多いほど同化産物の取り込みは広い範囲で行われ、シンプラスティック輸送における濃度勾配の問題は小さくなる。反対にシンクの割合が少ないほど同化産物の取り込みは狭い範囲で行われ、シンプラスティック輸送において濃度勾配が問題となる。そこで、アポプラスト輸送は、シンクの大きい植物、例えば痩せた土地に生息する、越冬する植物に多いのではないかという仮説を立てられる。一方でシンプラスティック輸送はその逆の条件にあるような植物や、短期間で光合成を行わなければいけない、例えば一日に光合成できる時間が限られている土地に棲息する植物、に多いのではないかと考えられる。

A:きちんと考えていてよいと思います。「同化産物濃度」については、デンプンの特殊性も考慮する必要があるかもしれません。デンプンは水溶性が低いので、一度デンプンにしてしまえば、水に溶けている物質の「濃度」という意味では非常に低くなります。つまり、デンプンで貯蔵すれば、継続的に同化産物を(受動輸送によっても)取り込むことができるわけです。ただし、デンプンを作るにはエネルギーが必要ですが。


Q:本レポートでは,ポリマートラップセオリーにおける伴細胞の役割について考える。伴細胞の存在理由がラフィノース(やスタキオース)を合成して,スクロースの逆流を防ぐことであるなら,篩要素にそのような機能を持たせ維管束鞘細胞と直接連絡してしまえば,その存在理由はなくなる。伴細胞の有無による大きな違いは何か考えると,それはおそらくラフィノース合成酵素が篩要素を流れるか否かである。伴細胞がある場合,ラフィノース合成酵素は原形質連絡を超えることなく,伴細胞に留まるはずである。逆に,伴細胞がないとラフィノース合成酵素が篩管中を拡散する。すると,スクロース濃度勾配は小さくなり,維管束鞘細胞からの拡散速度も遅くなるので,結果的に転流の勢いも小さくなると推測される。転流の勢いを大きくするためには,篩管内で局所的にラフィノース合成酵素を発現しつづける必要が生じると考えられる。以上から,伴細胞はラフィノース合成酵素を保持しつづけることで,より大きなスクロースの濃度勾配を形成し,勢いのある転流を生み出すことに資していると考えられる。また,ラフィノース合成酵素を流さないという点について拡大解釈すると,ラフィノース合成酵素のような「篩管に流すと不都合が生じるもの」をせき止める役割もあるのではないかと想像される。

A:なるほど。これも面白い点に注目しました。よい考察だと思います。ただし、篩要素の内部が全て流れているわけではないようです。実際にどのようになっているのかは、今でもよくわかっていないようですが。