植物生理学II 第2回講義
植物の葉
第2回の講義では葉の形と機能のかかわりについて解説しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。
Q:植物の多様性は環境との密接なかかわりによるもので、共通性は本質的な機能による制限だと学んだ。しかし、共通性というものには必ず例外が存在する。実際授業でも「たいてい」の葉が平たいと言っていた。では、「たいてい」に属さないものについて論じたい。すぐに思いつくのは、アロエである。アロエは多肉植物に含まれる。多肉植物は葉などに水を貯めることができる植物だ。おそらく、雨があまり降らない地域に生息しているものと思われる。アロエは、共通性を捨て、多様性を選択しなければ生き残ることができなかったと考えることができる。したがって、植物は共通性も大事だが、種の保存を考えたときには多様性が尊重される。
A:そうですね。多様性の方については、次回の講義で紹介します。
Q:葉の形を決める遺伝子、an遺伝子とrot3遺伝子の話があった。それぞれの遺伝子の発現によってシロイヌナズナの葉の形は決まっているということだったが、葉は植物にとって太陽光を受けてエネルギーを精製する場であるため、面積は広ければ広いほどいいのではないかと思う。そして、これら遺伝子の使い方次第ではより面積の広い葉を作れるのではないかと思った。しかしここで、植物は太陽光をより効率的に受ける構造になっていることを考えると、コストをかけて葉の面積を広げたところで、その葉が上の葉と重なってしまっては太陽光も受けられない無駄な葉を広げただけになってしまうことがわかる。つまり植物は自然と、自身の大きさに見合った葉の広げ方をしているのだという自然の凄さに改めて気づいた。
A:葉の面積は広い方がよいでしょうけれども、葉の大きさを考える場合には、大きな葉を少しつけても、小さな葉をたくさんつけても、同じ面積になるようにすることはできます。ここはやはり、面積2の葉を一枚つけた時のコストと、面積1の葉を二枚つけた時のコストを比較してほしいところです。
Q:今回の講義では葉の形状について学んだ。講義の中ではいわゆる一般に想像されるような平たい葉がどうしてそのような形状になったのかについてを主に取り上げていたが、レポートでは針葉樹の葉の形状について考えたい。針葉樹の葉は名前の通り細く針のような形状をしている。これは講義中にあった「平たい」という多くの葉に共通する特徴を持たない。しかしその特徴を決定づけている「光合成」という機能を持たないわけではない。ならば針葉樹の葉はどのような得があって針のような形になったのだろうか。光合成という面からみれば面積の広く体積の少ない平たい葉が適しているというのは講義中でも学んだことである。しかしそういった広葉樹の形状と違う形状をしているということは何らかの理由があるはずである。広葉樹と針葉樹の違いを考えてみるとまず大きな違いとして生育環境の違いがあげられる。針葉樹は広葉樹に比べ冷帯などの比較的涼しい地域に多く生息している。このことから針葉樹の葉が針のような形態をとっている理由の一つに寒さがあげられる。では何故針状だと寒さに強くなるのだろうか。広葉樹のように平たい葉だと外気により葉の温度が下がりやすく、葉脈も細くなるため凍ってしまう。それに対し針状なら薄い部分が少なく、葉脈も細く張り巡らせる必要がないため凍りにくいと考えられる。他にも、葉を細くすることで雪などの重みに耐えられるようにするということも理由の一つとしてあげられる。また、葉を細くすることで生じる光合成量が減るというデメリットについては、多く葉を集めて総面積を大きくし、利用できる光の量を増やすことで回避していると考えられる。それに加えシダ植物のように多くの葉を集めることで境界層の抵抗を下げ、より多くの二酸化炭素を固定できるということも光合成量をあげる一因となっている。
A:生物の進化を考える際に、そのおかれた環境を考えることは非常に重要です。針葉樹が現在生えている環境を前提に、針葉樹の成り立ちに対する温度の影響をを考えるという議論の流れはよいと思います。
Q:湿度80%の空気中と飽和食塩水ではどちらが細胞にとって過酷なのかという質問があった。真っ先に頭に浮かんだのは、浸透圧の図だった。どちらか分からなかったが、飽和食塩水では細胞に含まれる水分が浸透圧の影響で細胞外へ排出されてしまうため、細胞にとっては過酷なのではないかと考えた。湿度80%の空気中に細胞をおいたところを想像した。湿度80%の空気というのは、人間では生存可能だが、少し不快感のある空気だろう。しかし、細胞にとっては乾燥する場所だろうと思う。私たちの体を構成している最小単位は細胞だが、細胞は表皮細胞以外は空気中にさらされてはいない。細胞外マトリックスによって乾燥から免れているからだ。それを考えると答えは簡単であった。
授業での質問から浮かんだ疑問は次のようなものだ。現在の陸上植物の葉は、クチクラ層を持っていて、それが乾燥から身を守っている。植物が陸上にあがったとき、乾燥が生存にとって大きな課題だったと系統学の授業で少しだけ聞いた。それでは、陸上にあがったとき、果たしてクチクラ層は持っていたのか、どのようにクチクラ層を持つようになったのか。クチクラ層が無ければ乾燥してしまうのか。ざっと調べてみたが、どのようにクチクラ層が発達したのかは分からなかった。よく進化は突然変異が環境に適応し、子孫を残していくことで起こるということを聞くが、その考えに当てはめて考えるとすると、海面近くに葉をのばしていた植物が突然変異で乾燥に強くなり、生き残った、もしくは水深の浅いところに生えていた植物が満潮干潮の影響を受け、空気中に出されたときに乾燥に強くなった。そしてそのときにクチクラ層が発達したというような考え方もできるのではないかと思った。
少なくとも、陸上植物はクチクラ層が無ければ乾燥してしまうようだ。切り取った葉が1時間程度で乾燥してしまうオオムギの変異体が見つかり、その変異体はクチクラ層を正常に形成する為の遺伝子が欠損していたようだ。(1)しかし、乾燥はするが、切り取らなければ水分を維持できるともとらえることができるのではないかと思った。それでは環境の変化に適応できないので、安定的に水分を保つものとしてクチクラ層を作っているのだと考えた。
(1)農業生物資源研究所ニュースNo.44 研究TOPICS 葉の水分保持に必要なオオムギの遺伝子を発見 農業生物先端ゲノムセンター 作物ゲノム研究ユニット 小松田隆夫 http://www.nias.affrc.go.jp/newsletter/news/2012/News44_html/NIASnews44_topics.html 閲覧日時 2013/10/6 21:27
A:面白く読みましたが、文章の構成には工夫の余地がありますね。3つの段落にわかれていますが、その相互の関係がよくわかりません。この講義に対するレポートは長い必要は全くありませんから、なるべく一つの明確な主張を論理的に展開するようにしてください。
Q:光合成のために、葉を薄くたら、クチクラで覆われていても、太陽の強光にさらされ、その分細胞がダメージを受けてしまう。それゆえ葉の寿命は短いから、老朽化したら使い捨てて、またすぐに新しいものをつくらなければならない (薄いから割と簡単に作れるのかもしれないが)。もし光の奪い合いが熾烈な環境下にいるのなら、懸命に葉を付け替えるのをやめてしまい、いっそ光合成する他の植物に寄生して、光合成をやめ、ほどほどに栄養を奪う生き方をしたほうが効率的だと考えた。そうすれば、光から傷害を被ることなくエネルギーを獲得する事ができ、頻繁に葉を付け替えるのにエネルギーを消費する必要もない。しかも自分は栄養を奪う側だから、栄養豊かな普通の葉のように虫に食われるリスクも低い上、宿主は動かない(寄生された箇所を枯らして兵糧攻めにする可能性はあるが)。ただ、これらが他の植物から分け前を貰うには、宿主が十分にエネルギーをまかなえる環境下にある必要があるため、生存可能な地域は限定されるだろう。田中修によると、ネナシカズラは、実際に根も葉も持たずに他の植物に寄生して生息しているらしい(田中修 2012)。
別の話題に移る。授業を聞いて、楓の葉が蛙手型をするメリットは、分岐した葉の隙間を空気が通過することで境界層の抵抗が減ることで二酸化炭素を取り込みやすくなっていることだと考えた。すると、葉のつながった部分の中心に位置する細胞よりも切れ込み付近の細胞のほうが、葉緑体が多く分布していそうな気がした。もし、葉緑体が移動できる場合、虫に食われた葉では、虫食い穴付近の細胞では葉緑体が穴の近くに移動したりするのだろうか。パンチで葉に穴を開けてしばらく顕微鏡観察すれば結果がわかりそうだが。一方で、大きく、かつ鋸歯のない葉を持つ種も生存している。普段からよく強風が来るところでは、わざわざ葉を細かくして二酸化炭素を取り込むよりも、大きな葉をつけて光の奪い合いなど他の事にエネルギーを割いたほうが生存に有利な場合には大きくて丸い葉をもつ植物のほうがカエデより有利になりそうだ。ついでに、少し厚みを持って乾燥の影響を軽減させるとよいと考えた。逆に、風があまり吹かないところでは二酸化炭素を効率よく取り込めるカエデのような葉が有利になるのだろうか。
参考文献 田中修 植物はすごい 2012年 中公新書
A:これも、読んでいて面白いのだけれども、もう少し一つの論点に絞って、自分なりの論理を展開してくださいな。最後など、「有利になるのだろうか。」ではなくて、「そこから考えると、風の弱いところではカエデのような葉が有利になるはずである。」とすれば、結論という感じになるでしょう。エッセーでないレポートを目指してください。
Q:今回の講義の内容から、水生の植物の葉の特徴について考えてみた。水中では葉柄がなく、(大きな葉脈周辺の)発達した厚角組織も持たない小さな葉が多く見られる。水中では浮力が働くため、重力に抵抗して細く丈夫な葉柄を作る必要がない。葉が小さいのと厚角組織が発達していない理由は陸上の風と比べて水の流れの方が強いためで、少数の大きな葉を十分に丈夫にするよりも、茎の周りに小さい葉を多く作って表面積を拡大した方が効率がよいからだろう。また水中では水の流れと共に葉も頻繁に動くため、小さい葉でも常に光が当たらないということはない。反対に葉が大きすぎれば互いに衝突したり絡まったりして損傷しやすくなる。葉の内部はどうだろうか。気体のやり取りの面から考えて、細胞間隙は気体で満たされていた方がよい。光合成で生じた酸素で満たされているかもしれない。もし気体で満たされているのであれば、光合成の効率を高めるために、陸上植物と同様に柵状組織、海綿状組織が発達していると考えられる。ただ、海中のように波の激しく、葉の上下面が頻繁に入れ替わる場所では、表裏を区別する意味がないため、裏表両面に柵状組織がありその間に海綿状組織が挟まれているか、もしくはそもそも海綿状組織があまり発達していない可能性も考えられる。
A:水生植物については、次回の講義で紹介する予定です。
Q:今回の講義では葉がどのような理由・仕組みでその形作るのかということがトピックであった。私の家では古代蓮を育てている。古代蓮の葉はお椀のような形をしている。本レポートでは,古代蓮の葉がそのような形をとる理由について考える。まず,お椀のような形が光を集めることに有利に働くのか考えた。古代蓮が一株のみだけであった場合,そのメリットはあまりないように思われる。水平の葉を張ったほうが効率よく光を得られるはずである。しかし,群生している場合,それぞれの株が水平な葉を広く葉っている光をめぐる競争が起こることになる。そこで,少しでも他の株の葉の陰になる部分を減らそうと,お椀型の葉となったのだと考えられる。また,早朝など,しばしば蓮の葉の表面に水滴が転がっている様子を観察することができる。風が強くない限り,この水滴がすべてこぼれるということはない。水滴を保持することで,日中葉が乾燥するのを防いでいると考えることができる。
A:お椀型の葉の有利な点を考えているわけですが、それがいつもそうならば、世の中の植物は全てお椀形の葉になるはずです。逆にいえば、ハスがお椀形の葉をもつメリットは、ハスが生育する環境と一緒に考えて初めて理解できるはずです。もう少しそのような観点で考えてみてください。