植物生理学II 第12回講義

エチレン、ブラシノステロイド、ペプチドホルモン

第12回の講義では比較的新しく発見されたいくつかの植物ホルモンを中心にその生理作用などについて解説しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:リンゴが腐るとエチレンを放出し、他のリンゴも腐らせる、という話で、リンゴとジャガイモを一緒に置いておくとジャガイモの芽が出ない、という話を思い出した。果実の成熟促進にはエチレンが作用するが、発芽抑制はアブシジン酸が作用すると考えられる。エチレンは気体のため近くにあれば作用するが、他の植物ホルモンは物質のため細胞膜を透過できないため、植物体外に拡散することができるのか疑問をもった。調べてみても、ホルモンを体内に貯蔵する、という文献はあるが、エチレン以外のホルモンを放出する、といった記述が見つからなかった。おそらく、リンゴとジャガイモを密接させることで作用するのだろうが、どのようにホルモンを放出しているのかはわからなかった。一緒に置くことで、ジャガイモとリンゴの双方に傷がつき、そこからホルモンが作用するのだろうか。もしくは、エチレンの他に気体の植物ホルモンがあり、発芽抑制として作用しているのだろうか。

A:出発点としては面白い問題だと思います。ただ、シグナル伝達のクロストークについても話しましたから、観察された現象を素直に解釈すると、エチレンによってアブシシン酸の合成が活発になるか、あるいはアブシシン酸の分解が抑制されるか、という推定が成り立つように思います。別の気体のホルモンの存在を仮定する必要はないのでは?


Q:今回の講義で植物ホルモンであるエチレンの話が出たが、以前フィリピンなどで青い状態で収穫されたバナナは輸送中にエチレンにさらされることで日本の店頭に並ぶ頃には黄色く熟したバナナになるという話を聞いたことがある。エチレンは果実などが発する気体の植物ホルモンだが、果実がこのような作用を持って何のメリットがあるのか考えてみた。まず思いついたのは、エチレンには葉を老化させる作用があることである。果実のまわりの葉を枯らし落とすことで果実が膨らみ成長するためのまわりの空間を確保していると考えられる。また余分な葉や茎、自分の近くで成長している果実を腐らせることで養分を自分の成長のために使える為と考えた。

A:この場合、一つだけ置かれた果実の成熟過程におけるエチレンの役割と、ある果実の放出したエチレンが別の果実に作用する際のメリットを分けて考える必要があるでしょう。前者におけるエチレンの役割が本質的であるのなら、後者におけるエチレンの役割は、実際には副作用である、という考え方も成り立つと思います。


Q:腐ったリンゴ現象について考える。腐ったリンゴはエチレンを放出し、その放出されたエチレンの影響で同じ空間のリンゴも腐ってしまう現象だが、これはその空間にエチレン吸収剤を置くことで解決される。腐ったリンゴからのエチレンが吸収され他のリンゴに届かないためである。抽水植物の水中の茎の伸長の例から、エチレンは溶解度が低く、水中では植物の細胞内にとどまりやすいことが示された。このようにエチレンには気体独自の特性が存在するが、これを腐ったリンゴにも活用することができるのではないだろうか。腐ったリンゴを水中に入れておけば、エチレンは腐ったリンゴ内にとどまり、抽水植物の水中の茎のみに作用したように、腐ったリンゴのみに作用し続けると考えられる。通常リンゴは水中保存しないため一般的ではないが、吸収材は一定の量しか吸収できないのに対し溶解度は非常に低い値で一定であるため、水中保存の方が高い効果が得られるのではないだろうか。

A:これは、講義の中の二つのポイントを組み合わせて考察していて面白いですね。着眼点としてよいと思います。ただ、腐っていないリンゴもエチレンを放出していることはいますから、水に入れてそのエチレンが逃げなくなったら、腐ったリンゴからのエチレンは遮断されても、結局果実内のエチレン濃度が上がってしまう可能性はあると思います。


Q:今回の授業ではエチレンについて学んだ。熟したリンゴを冷蔵庫の中に入れておくと、一緒に入っていたほかの野菜まで成熟してしまう。この現象は前から知っていたが、リンゴが熟すほどエチレンを放出することは初めて知った。生理作用は果実の熟成促進だけでなく、葉の老化や落葉促進にも作用する。また、エチレンは気体であるため、直接放出源と接していなくても作用を受けやすい。これらのことを考えると、リンゴの木では、熟したリンゴの周りで展開している葉は枯れやすく落ちやすい可能性がある。しかし実際そんなことはない。逆に落葉してしまえば、光合成量は減少し果実は甘く育たなくなる。では、どうしてエチレンが放出されていながらも、周りの葉は青々としていられるのか。私はオーキシンの作用に注目した。オーキシンは、果実の肥大に加えて葉の脱離の阻害にも作用する。つまり、果実にとっても葉にとっても好都合にはたらいてくれる。また、オーキシンの作用を高めるジベレリンも落葉を抑制する。オーキシン・ジベレリンとエチレンのバランスをうまく保つことで、果実を肥大・成長させると同時に落葉せずに保って光合成を行い、こちらも果実の熟成に貢献していると考えた。

A:これも面白い点に着目していると思います。可能性としては、これとは全く別に、1)冷蔵庫の中は密閉されているが、外気の中ではエチレンが速やかに拡散するため葉には作用しない、2)エチレンの濃度が上がるのは、果実が十分甘くなってからであるので、葉が落ちても問題なく、むしろ葉が落ちたほうが光があたって果実の色づきがよくなる、などといった可能性が考えられるでしょう。できたらいくつか可能性を考えて、その中から一番もっともらしい説を採用するという形にすると、さらに説得力が増します。


Q:エチレンには果実の成熟促進の効果があるため同じ箱に1つ腐ったリンゴがあれば周りのリンゴも腐ってしまうという話から、エチレン吸収剤という商品があると知った。少し調べてみると、リンゴ農家はそれぞれエチレン吸収剤のみならず、鮮度保持剤として炭酸ガスや二酸化炭素、水分も吸収するようなものを用いて輸送していることを知った。成熟した実からエチレンが多く出るため1つ腐ると余計にエチレンが放出されて周りの腐敗が進むポジティブフィードバックである。‘腐る’ということは人間にとってはマイナスであるため、むしろエチレンがネガティブフィードバックとなって周りがこれ以上腐らなくならなければいいのにと思った。しかし、植物にとっては腐って木から実を落とすのはその木の中で同じ時期であるほうがよいのではないかと考えた。そもそも果実は鳥などに食べられて種を運んでもらう種であるが、食べられずに木に残った実については木から落ちて種子を地面に届けることが必要であり、その種子が発芽する時期を考えたら同じときに腐って木から落ちることが必要なのではないかと考えた。
大江化学工場;http://www.ohe-chem.co.jp/crispersl.html、ミスター完熟リンゴ;http://www.kcsnet.ne.jp/mr.kanjuku/sendo/sendo.html

A:これも、ポジティブフィードバックのメリットについて考察している点が面白いと思います。ただ、最初の鮮度保持剤の話は、結論とはあまり関係がありませんね。


Q:今回の講義では各種植物ホルモンについて学んだ。エチレンは他のものとは違い気体の植物ホルモンであるとのことだが、気体であることの有用性について考察したい。講義の中でエチレンの水中での茎の伸長促進について、気体であるために水中と大気中での濃度が変わり水中でのみ作用が発揮されることは学んだ。他にこのような利点はあるのだろうか。私は講義スライドにもあった「腐ったリンゴ現象」が利点の一つと関係しているのではないかと考えた。「腐ったリンゴ現象」は一つのリンゴが腐っていると周囲のリンゴも腐るというものである。これはエチレンが果実の成熟を促し、成熟した果実が更にエチレンを放出することで他の果実に影響を及ぼすというポジティブフィードバックが原因であり、エチレンが気体で大気中に放出されやすいために起こる現象ともいえる。ポジティブフィードバックが起きる条件下でエチレンの放出を始めると相乗的に効果が上がり、結果的より多くのエチレンが短期間で放出される。また「腐ったリンゴ現象」からも分かるようにこの現象は1個体の中で完結するポジティブフィードバックではなく他個体にも影響を与える現象であることが分かる。これこそが気体であるエチレンを植物ホルモンとして利用する際の利点の一つではないだろうか。例えば「腐ったリンゴ現象」の例である果実の成熟効果はポジティブフィードバックが起こることで一斉に果実を成熟させることができる。これにより、別々に成熟するよりも種の運搬者を集めやすくなるのではないだろうか。また、他のエチレンの効果である離層の形成すなわち落葉についても同様のことが考えられる。エチレンのポジティブフィードバックにより寒くなるタイミングで一気に葉を落とすことができる。これにより、短期間に一斉に葉を落とし長く葉を維持するためのコストを減らすことができる。これもエチレンが気体である故の利点であるといえるだろう。

A:これも、上のレポートと同じ観点ですね。最後、葉については、同時に落とすメリットがよくわかりませんでした。葉を維持するコストを減らしたければ、単に早くはを落とせばよいのでは?


Q:講義の中でエチレンは植物ホルモンのなかで唯一の気体であると触れられた。エチレンが疎水性物質であるために他の物質と比べて受容体が必要ないことや気体である故に水中部の細胞内の濃度が高いなどと紹介された。エチレンの植物に対する作用は多様で、ジャガイモの発芽の抑制や休眠している一部植物の種を起こすなど、農業、商業に利用できそうなものが多く目に留まった。しかしエチレンガスはなかなか一般で利用できないだろうと考えた。エチレンの問題点として重大なのが引火性である。商用のジャガイモなどの保管に吹き付けるなどで保存を効かせたいが、引火を考えると充満させることはリスクが多い。観葉植物の生長抑制に使用することはできないか。これについてはエチレン濃度と観葉植物の応答を計測することで結果を得ることができるかも知れない。しかし、エチレンガスを吹き付け続けるよりは成長を促すオーキシンなどの植物ホルモンの阻害剤を添加する方が経済的にも管理的にも効率がよさそうである。

A:「受容体が必要ない」のではなく、「受容体が細胞膜上にある必要がない」のです。小胞体膜上にエチレンの受容体がある話はしたと思いますよ。あと、エチレンが効く濃度範囲も示したと思います。生理的な濃度では引火性はないでしょう。


Q:今回の講義を通じて、エチレンの働きとして果実の成熟や落葉の促進、茎の伸長抑制や発芽成長抑制を行うことを学んだ。なぜりんごはエチレンを発するのかについて疑問を抱いた。実であるりんごは呼吸をすることで生じる二酸化炭素と同時にエチレンも発していると考えられる。ここで疑問を解決する上で、エチレンのもつ働きのうち果実の成熟と発芽成長抑制を同時に行っていることに着目した。エチレンにより果実が成熟することで、りんごの種を食べて運ぶ鳥をおびき寄せることができるのではないかと考えた。またエチレンが発芽成長抑制の働きをもつのは、鳥の体内から糞などと一緒に体外に排出されてから発芽するまで待つ必要があるからだと考えられる。これだけでは、なぜ他の果物ではなくてりんごだけがエチレンを発するかについて特定することはできていないが、エチレンをもつ果物があるのは、種の運搬に有利となるように進化した結果なのだと考えた。

A:これはエチレンの作用に関する考察というよりは、なぜ果物が熟れる必要があるのか、という考察になっていますね。リンゴは確かにエチレン発生量が多いのですが、別に他の果物がエチレンを作らないわけではありません。


Q:植物ホルモンの生理作用について学んできた。植物ホルモンの生理作用は個々のホルモンごとに複数の作用があり、同じ作用を持つホルモンが複数存在する。なぜ1つのホルモンに1つの作用を持たすのではなく、1つのホルモンに複数の作用を持たせ、同じ作用を持つホルモンが複数存在するようになったのだろうか。1つのホルモンに複数の作用を持たせることのメリットは、複数のホルモンによってではなく、1つのホルモンだけによって様々な指令を出すことができるという点であると考えられる。今回の授業で、作用する植物ホルモンによって植物の成長後の姿が違ってくると習ったことから、植物種によって持っている植物ホルモンが違うと考えることができる。もし植物種ごとに持っている植物ホルモンが違うならば、植物1種の持っている植物ホルモンの生理作用は同じ作用を持たないもので構成されていると考えられる。

A:「1つのホルモンに複数の作用を持たせることのメリットは、複数のホルモンによってではなく、1つのホルモンだけによって様々な指令を出すことができるという点であると考えられる。」というのは、ほとんどトートロジーだと思いますが・・・。


Q:今回の授業では、前回に引き続き植物ホルモンについて作用と分子機構などを学んだ。その中でもよく植物ホルモンとして紹介されるエチレンについて興味を持った。エチレンの例でよく、リンゴを箱の中に入れておいたら周りまで熟したという話を聞く。気体で存在しているのなら、どのように植物の中で運ばれるのだろうか?植物の体は篩管と道管が物質を全身に送り届けている。また植物細胞同士でも物質のやり取りを行っている。そこには空気の入っている所は無いように思う。エチレン作用の分子機構のところで、他の植物ホルモンでは細胞膜上に受容体があるが、エチレンは気体なので膜を通過できることから小胞体膜上に受容体があるということを聞いた。その部分はなるほどと思ったのだが、果実から発する様になるのだろうかと疑問に思った。果実から発せられるのは水分を保持できなくなった果実がエチレンを発して熟すことで成熟した種子を散布してもらえるようにしているのではないかと考えた。細胞内は純粋な水では無いことを考えると、エチレンがとけ込んでいてもおかしくない。おそらく篩管を使って有機物とともに運ばれているか、細胞同士のやり取りで運ばれているかだろうと考えた。もうひとつ疑問に思ったのは、エチレンの生理作用のところで、茎の伸長阻害・肥大促進と水生植物の茎の伸長促進・水中での茎の伸長促進というところだ。エチレンは水に溶けにくい特徴を生かして抽水植物の茎を伸ばしているということを考えると、植物からエチレンがでないから水生植物の茎を伸ばし、空気中にでている部分はエチレンが気体として外部に放出するのであまり伸びないのだろうかと思った。よってエチレンが植物体内に多くあると伸長を促進させると考えられる。しかし、エチレンを多くすると地上では茎が太くなり、短くなる。地上と水中では水と空気以外に違いはあるのだろうか。それに植物がエチレンをそんなに放出していたら、ヒトの活動によって火が使われることが多くなったので、引火してしまう。それでは温度の違いが考えられる。エチレンを熟させるのに温度が低いほうが時間がかかっているようなので、水温が関係しているのではないかと考えた。しかし、場所によっては高い海水温のところもあるので、一概に温度だけが関係しているわけではなさそうだが、要因のひとつとして考えられるのではないかと思った。
参考:気象庁日本近海 日別海水温 http://www.data.kishou.go.jp/kaiyou/db/kaikyo/daily/sst_jp.html、「みかん出荷予措と貯蔵」平成3年 和歌山県果樹園農業振興戦略よりhttp://www.mikan.gr.jp/gijyutu/shishin/chozo.html、2013/12/22  23:12

A:上にも書きましたが、「エチレンをそんなに放出」というほど放出しているわけではありませんよ。全体としていろいろ考えていることはわかりますが、もう少し特定の問題に焦点を絞って、それを証明するような形にする方が、論理的なレポートになると思います。


Q:今回の授業でエチレンに関して学んだ。植物ホルモンのうち、エチレンのみが常温常圧で気体である。どうして植物はエチレンの働きをするホルモンとして、気体の物質(エチレン)を選んだのか。その意義に関して考察する。エチレンの植物に及ぼす作用として、果実の成熟促進や葉の老化促進、離層の形成がある。このようにエチレンには老化の作用がある。それではエチレンが師管を通す輸送のみならば、果実を成熟させようとしても、老化の作用によって果実に作用できなくなる可能性がある。エチレンが気体であるならば、植物の老化は関係ないといえる可能性がある。よって、エチレンが気体であることは、エチレン自身の作用による阻害を防ぐことができると考えられる。また別の視点から、エチレンが気体であることは、その個体だけでなく、他の個体ともホルモンを共有できるという可能性についてだ。具体的には、一つの個体に果実ができることにより、他の個体にも果実の成熟が促進される。一度に大量の果実ができることにより、さらに果実を餌とする動物、つまり種を運ぶ動物を引き寄せる効果があると考えられる。

A:前半の意味は、老化を促すホルモンを篩管を通して運ぼうとすると、篩管が老化してしまって目的の部分に届かなくなる、という意味でしょうか。そうだったら、もう少し日本語の表現を工夫すると分かりやすくなると思います。後半は明確でよいと思います。


Q:傷害や環境ストレスへの応答, 病原抵抗を担当する植物ホルモンが互いに作用を抑制しあっている事について考察する. 互いの作用を抑制している場合, 全てのホルモンが正常に作用していれば, どれか一つのホルモンの作用が強く出ることはない. しかし, ウィルスなり乾燥なり, 何かしらの環境の変化が起こると, サリチル酸なりアブシシン酸なり, 起こった現象への応答にいちばん適切な作用を示すホルモンの合成量だけが増加すれば, 相対的に, 他のストレス応答ホルモンによる抑制作用を克服できる. 一方で, それぞれのホルモンは非常に多様な作用を示すため, 環境に特に異常もなく外敵による損傷もない中で特定のホルモンが強く作用してしまったら, 気孔が閉じてCO2吸収を制限したり, 根の伸長が阻害されたり等, 成長や他の植物体との競争などに不利益に働きうる. つまり, 植物体に何かあった際に仕方なしに傷害応答ホルモンの合成量が増えて作用が促進されるものの, 必要に駆られないときには気孔閉鎖や成長抑制などの生育に不利益にもなり得るような作用を生み出す物質を無闇に作用させないためにも, もし応答対象が異なるのであれば, 複数のストレス応答ホルモンが互いに抑制しあっている事にも意義があるといえる.

A:この部分に注目した人はほかにいないようですから、独自性があってよいと思います。要は、相互抑制は安全装置として働いているという主張でしょうかね。


Q:植物体内で合成された気体のエチレンは空気中に拡散してしまう。エチレンのような気体の物質をホルモンとして使用すれば、目的の作用を誘発するためにはより多くのホルモンを合成しなければならない。しかし、それでも多くの陸上植物はこの気体の植物ホルモンを使用している。また、リンゴの果実が他の種の果実を成熟させるようことから分かるように、多くの植物種が共通のホルモンにより生理機能脳調節機構を共有している。これらのことから、植物はあえて気体の植物ホルモンにエチレンを使用して、これを周囲に拡散させているのではないかという仮説を立てて考えてみた。まずエチレンの果実の成熟促進作用について考えると、動物に果実を食べさせる植物種では、隣接する他の個体と一斉になって果実を実らせたほうが、動物に見つけられやすくなるというメリットが有る。同様に、虫媒花にとってのエチレンの花芽成長促進作用、開花運動阻害作用も、開花時期をそろえる役割があるといえる。また、果実の形成は多くが秋だが、この時期は落葉開始の時期に重なる。落葉の一因として、果実から分泌されるエチレンの影響が考えられる。果実周辺の葉を落葉させることで、その部分が日に当たるようになる。このような場所は動物の目にとまりやすく、またおそらくオーキシンの存在量も多くなるだろう。オーキシンには果実の肥大効果があり、更に果実の成長が促進される。落葉の促進は、立体な空間の中で果実と近い葉で起こる必要があり、これは必ずしも植物体内で果実と距離が近いはとは限らない。また、この落葉促進作用は周囲の他個体の葉にも作用した方がメリットとなる。また、エチレンには葉の老化促進作用もあるが、エチレンは空気に拡散するために、葉が密集したところでは葉の老化が早く起こる。このような場所では光環境が悪く、葉による光合成の効率も悪いため、優先的に老化することでメリットが生じる。このように植物種を超えて、他個体との相互作用が重要となるため、多くの植物が気体のエチレンを、共通の生理作用をする植物ホルモンとして保持しているのではないかと考えられる。ただし、例えば動物を種子の担い手として利用しない植物では果実の成熟促進に気体であるエチレンを使用する必要がなくなるだろう。また、風媒花は他の花と開花時期をそろえる必要がない。このような植物種ではそれぞれの生理作用調節に代替の物質を利用する可能性は十分考えられる。開けた土地に生え、立体的に葉を密集させることがないタンポポのような植物は気体のホルモンによって葉を老化させる必要はないし、そもそも落葉させる必要が無いため葉の老化・落葉作用も必要がない。また、丈の高い木本類も、草原の草本類や植え込みの低木に比べれば自身の枝と枝または自身の枝と他個体の枝が密集することは少なく、周囲に気体の植物ホルモンを放出する必要がない。このような植物も、エチレンを使用しない可能性が十分考えられる。

A:アイデア自体は、他にも同じ問題についてのレポートがたくさんありますから、それほど独自性があるわけではありませんが、いろいろな可能性を考慮しているという点で評価できます。むしろ、もう少し議論を刈り込んで短くした方が主張がはっきりするかもしれません。


Q:本レポートでは,エチレンの水中での茎の伸長促進と,気中での茎の伸長阻害が両立するような仕組みを考える。おそらく,エチレンの茎の伸長に関しては少なくとも2種類の受容体A,B(A:茎の伸長促進のシグナルカスケードの起点となるもの,B:茎の伸長阻害のシグナルカスケードの起点となるもの)が存在し,水中部でも気中部でもこれらは同様に発現していると考えられる。相反する2つシグナルのパワーバランスで以て茎の伸長が促進されるか,阻害されるかが決まる。A,Bには以下のような差があると思われる。1.エチレンに対する親和性(B>A)。2.量(A>B)。低濃度条件,つまり気中部の細胞では,親和性の違いの影響が大きく, Bを起点とする茎の伸長を阻害するシグナルが優勢となり,高濃度条件,つまり水中部では受容体の数(あるいはシグナルカスケードの下流を担う分子の数)の違いの影響が大きく,Aを起点とする茎の伸長を促進するシグナルが優勢となる。

A:このようなレポートでは、まず「もう少し単純なモデルでは実際の減少を説明できない」という部分から始めたほうがよいと思います。複雑なモデルで現象を説明することは、多くの場合それほど難しくはありませんが、もしより単純なモデルでも説明できるのであれば、複雑なモデルを考える必要がなくなってしまいます。何度も出てくるオッカムの剃刀ですね。