植物生理学II 第9回講義
植物の花
第9回の講義では、花の色の色素についてアントシアンを中心に解説し、次いで、花の咲く時期が光環境によって決まる光周性と、花成ホルモンの研究、そして花を形作る遺伝子の働きを説明するABCモデルについて解説しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。
Q:花は色素や液胞のpH、作成する金属錯体の形成の種類によって色を決定する。また、昆虫・鳥などを媒介にして花粉を運んで受粉する植物の花は比較的目立つものが多く、風媒によって花粉を飛ばして受粉する植物の花は目立つ必要がなく花は比較的に目立たない。では、花の色はなぜ種類によって違い、それは花の決定因子の条件を変えた時に変えることが出来るのだろうか。まず、昆虫・鳥を媒介にしている花のほうが色がはっきりしており目立つことから特定の生物の眼が認識しやすい波長の色の花にすることでその生物だけを特に多く惹きつける目的があり、昆虫は短波長の光のほうが認識しやすく300nmから650nmの波長であるので花には赤い花や黄色い花が多いのだと考えられる。これは、遺伝子を変えて花の色を変えた個体とそのままの個体とで昆虫がどれだけ集まるかを測定すれば短波長の色の花の方が多くの昆虫が集まると考えられ、花の色と集まる昆虫の種類を特定できるのではないかと思う。では、なぜ遺伝子を変えることで花の色を変えることが出来るのだろうか。これは、花が進化の過程で花の色を少しずつ変えてきたか、これから環境の変化に応じて色を変えられるように準備しているのではないかと考えられる。この場合、進化をあまり遂げていない植物の花と、多様な環境条件で咲く植物の花をくらべた時に後者の花の色のほうが多くの種類の色に変化できるのではないかと思う。
A:
Q:植物の花には虫媒花、風媒花、水媒花などの種類がある。この中でも代表的な虫媒花と風媒花について進化の点から考察してみる。地球史では植物が陸上に進出したのは約4億3000万年前だが、この時点ではまだコケ植物やシダ植物しか出現していない。そしてその直後の約4億年前に昆虫類も誕生している。裸子植物が出現したのは約3億6000万年前であるが、現時点で発見されている最古の飛翔昆虫の化石が3億年前のものなので、おそらく虫媒花は存在しなかったと考えられる。風媒花が繁栄するにあたって重要な事はいかに大量に花粉を生産し、それをいかに風でなるべく広域に飛ばすか、いかに花粉を受け取りやすくするかということだ。もちろん生物にとって資源は無限ではないので花粉を大量に作るのにも限界がある。そこでこれは松のように湿度などに反応し花粉を無駄にしないよう進化してきた。広域に飛ばすために花粉の形状を変えて風にのりやすくし、受粉しやすいように雌花の柱頭も大きく進化してきた。だが、これらには全て限界というものが存在する。このため虫媒花などの他の方法を使う花が生まれたのではないだろうか。
A:
Q:花が咲くには、葉が温度ではなく光の長さを感知して茎頂に送っていることを学んだ。呼吸と光合成を同時に行える植物について考察する。葉にとって光合成をするためには、光は常にあって欲しいものである。しかし、花を咲かすためには光のあたる時間の長さのサイクルが適応しなければならない。また、花を咲かすためにはエネルギーが必要なので光合成でエネルギーを作らなければならない。つまり、花を咲かすためには、葉が光を当てない時間が必要であれば、光合成のために光は必要。矛盾している。では、なぜこの矛盾を起こしてでも花を咲かせるために、温度ではなく光の長さを選んだのかを考える。そもそも、季節と関連させて考えて、光と温度の違いは何であろうか。光の長さは、太陽の周りを地球が一定の周期で公転している限り同じ季節で年によって変わらない。しかし、温度は風の影響で左右されるからだ。
A:
Q:同一種であるものの、生存戦略の差により少しずつ変化していったエコタイプの存在を学んだ。そこで、モデル植物として実験に用いられることが多いシロイヌナズナのエコタイプの種類を調べたところ、700種類以上のエコタイプが存在することが分かった。シロイヌナズナというひとつの種が気温や光条件、二酸化酸素濃度といった環境に応じて非常に柔軟な対応を見せていると知ると同時に700種類以上もエコタイプを生み出した理由に関心を抱いた。参考文献によると、シロイヌナズナの特徴は染色体数を5対しか持たない上に、植物体のサイズが小さく一世代のサイクルが1か月半と非常に早いことである。よって植物体全体としてのスケールが小さいために、わずかな遺伝子変異がそのまま外見に表れやすいためエコタイプが多数出現したのだと考えられる。また、一個体にあたり5万もの種子を得ることが出来ることから、突然変異体の出現数も多くなる。つまりは、シロイヌナズナがエコタイプを沢山生み出した理由は少ない染色体数による変異発現の明瞭さと大量の種子による突然変異体誕生とその変異体の遺伝的定着が考えられるのではないだろうか。
マイ・ボタニカル・ノート シロイヌナズナ(http://www7a.biglobe.ne.jp/~fusao-m/arabidopsis.html)2012年12月5日閲覧
A:
Q:今回の講義では、花の成り立ちについて学んだ。その中でも、花の色素の代表的な例として、近年に新しく作られた青いバラに興味を抱いた。青いバラはなぜ自然界に存在しなかったのか、その理由を考察したい。考えられることとしては、バラの花粉を運ぶ生物にとって青色が分かりにくい色だということが挙げられる。バラの花粉は、ハチなどの虫によって運ばれる。虫の色覚は青、緑、そして紫外線からなる。虫にとって、草の生えている風景は、昆虫の視界からすると、青は空の色、緑は葉の色として認識され、そこに紫外線の太陽光の色が加わる。このとき、花の色が青や緑では、植物の葉の色と同化してしまい、認識できなくなるのではないか。そのため、花には青や緑の物が少なく、葉の中でも目立つような黄色や白色になると考えられる。それだけでなく黄色や白色に含まれる色素であるフラボノイドは紫外線を吸収するため、虫にとって認識しやすい色であると推測される。また、バラのなかでも代表的な色である赤色の場合、青や緑色を吸収するため、昆虫の目には黒い色として移っていると考えられる。つまり、緑色をした葉の中で目立つ色だと言える。そのため、バラには赤い色の花弁を持つものがあると推測される。 以上より、青い色は昆虫にとって、葉と同化してしまい、目立たない色であると考えられた。それではなぜ、青い色の花弁を持つ花が存在するのだろうか。それは、昆虫に頼らない方法で受粉しているからではないだろうか。例えば、青い花のツユクサは、自家受粉を行っている。従って昆虫以外の受粉、自家受粉や風媒介の受粉を行っている花は、虫に目立つ色ではなくても交配できることにより、赤や白以外の、青などの色の花弁を持つことができたと考えられる。
A:
Q:今回の講義では花について学んだ。私は青いバラの話にとても興味を持った。青いバラを未だに作ることが出来ないのは、デルフィニジンなどの青色の色素が生産されないためであるということが分かった。しかし、近年の研究でロザシアニンという青色の色素がバラに存在することが分かっている。私は、デルフィニジンなどの青色の色素をバラの細胞に組み込むのではなく、色素をつくる色素生産細胞を移植すればデフィニジンが作られるようになると考えられる。もうひとつ挙げられるのは、近年見つかったロザシアニンを花弁に多量に発現させることである。そうすれば、アサガオの様に鮮やかな、薄紫色ではない青色のバラが作れると考えられる。
A:
Q:今回の講義の中で花成について興味を持った。植物が多くの子孫を残そうとするなら、長期にわたって花成をする方が理想的であるが、実際はエネルギー運用効率や環境により季節ごとに花成する植物が多い。しかしそのなかでも、例えばアオノリュウゼツランのように数十年に一度しか花成しない植物もいる。特にこの植物の面白いところは数十年に一度の花成をするため自らが持つ葉を全て枯らし、蓄えていたデンプンを糖化させ転流によって花に送るという。アオノリュウゼツランがこのような、子孫繁栄には不効率に思える戦略をとっている理由を考察してみた。「環境の諸条件がそろった時にのみ花成する」という説では何十年というスパンを説明できない。つまり花成条件がある程度厳しくても十数年に一度くらいはそのような条件になることが十分に考えられる。そこでこれに生物の周期性という考えを足す事でこの長期的な非花成期間を説明できないだろうか。十三年ゼミというセミがいる。このセミは13年に一度の周期で姿を現すが、その理由は競争が予想される他の生物との周期をずらすため(例えば三、四年に一度の周期で現れる敵がいるとすると、自らの周期を素数倍の年にすることで発生年数の衝突を避けている)だと考えられている。アオノリュウゼツランが昔、ある環境下で天敵(この場合花や果実を食べてしまうような敵)と遭遇し、実らせた果実の生存を確保するために周期性を持ったと仮定すれば、この周期性と環境条件がそろった年にのみ花成をするという考えで非花成期間の長さを説明できないだろうか。
A:
Q:今回の講義で花の色はアントシアニンのような色素や液胞のpH、金属錯体の形成などが関与していることを習った。昆虫や鳥などに花粉を運搬してもらうために目立つ色の花をつけるというが、なぜ花はあれほどまでに多彩な色を持っているのだろうか。1つの可能性として花粉を運搬してもらう対象の昆虫や鳥によって可視光線領域が異なるからということが考えられる。ヒトの可視光線はおよそ380nm~750nmほどなのは周知の事実だが、他の生物にとってはこれは常識とはならないだろう。よって花はそれぞれ近辺に生息する昆虫や鳥の可視光線領域を考慮して最も目立つ色の花をつけるので様々な色を持つと考えた。
この考えを裏付けるためにいくつかの花の色と昆虫や鳥の可視光線領域を調べてみた。その結果予想とは少し違う結果が得られた。まず、自然界に存在する花はキクやユリをはじめとして白が多いことを知った。(しかし、授業でも習ったことだがフラボノイドを含み可視光は吸収しないが紫外線は吸収するものが多い。)これは昆虫の可視光は360nmがピークであることと関係しているだろう。つまり、最も戦略的な花の色はフラボノイドを含む白、次点で紫ということになるだろう。そしてヒトが美しいと感じる赤や橙色の花は自然界では非戦略的な色であると考えられる。では、なぜ花と言えば様々な色が存在するイメージがあるのだろうか。ここで青いカーネーションやバラの作製の話を思い出した。このことから青いバラやカーネーションだけに限らず、花屋の店先に並んでいるようなヒトにとって色鮮やかに見える花はヒトの手で作られたものも多いのではないかと自分は考えた。
参考:東海大 バイオフォトニクス 千葉大学院融合 椎名http://berno.tp.chiba-u.jp/lectures.files/Biophotonics/08/4Insect.pdf
A:
Q:今回花について扱いましたが花成ホルモンに興味を持ちました.花成ホルモンが花をつくるのに影響するのに,花でホルモンが作られるのではなく,葉で作られて花にホルモンが運ばれるというのが不思議に思いました.授業の始めのほうでも,花は葉が進化したものというように,葉と同じ機能をもっていてもよかったのではないかと思ったからです.しかしながら,葉から花ができるのに花成ホルモンを花ができる前から産生していたとするとやや矛盾のようになってしまうとは思うのですが.花成ホルモンが花ではなく葉でできる理由で考えられるものとしては,花を作るのにもそのあと実をつけるにもエネルギーがいります.そこで葉は光合成により大量のエネルギーをつくると思いますので,葉が存在していないと,花をつくってしまってはエネルギーが足りなくなってしまいます.そこで葉が花成ホルモンを産生すれば,葉がないときには花はできず,葉があるときには花ができるのでこれが葉で花成ホルモンをつくるひとつの理由なのではないかと考えます.
A:
Q:花の色を決定する因子について興味を持った。アジサイの花色は色素以上に、土壌のpHに関連したアルミニウム吸収量に影響を受け、酸性土壌なら青、アルカリ性土壌ならピンクになるという。以前、生態学の授業を受けたとき、植物の状態に基づいて環境条件を評価する「植物指標」という考え方を習った。昨今は酸性雨による自然への影響が懸念されている。アジサイの色が土壌のpHを反映するのなら、ある一定地域内において年単位で継続的にアジサイの色を調査し、青いアジサイが全体に占める割合を求めることで、その地域における土壌の酸性化を評価できるのではないだろうか。
参考文献 アジサイの育て方 http://www.sc-engei.co.jp/plant/flower/cultivate/?kid=11
A:
Q:花の形成に関するABCモデルに大変興味を持った。単独で雌蕊をつくり、Bと共同することで雄蕊をつくる遺伝子Cは、異常が起きると単独でがくをつくる遺伝子Aに浸食される。AはBと共同することで花弁をつくるので、Cの壊れた植物は八重咲きになる可能性が高くなる。バラなども、野生種であるノバラは一重でローズヒップとなる赤い実をたくさんつけるのに対し、八重咲きになった園芸種の多くは実を結ばないのが不思議だったが、これらの品種ではおそらく遺伝子Cが機能していないので(そのような変異をもった株を選択してきた結果と考えられる)、雌蕊と雄蕊が正常に機能していない、もしくは存在していないと考えられる。確かに、一重咲きに比べて八重咲きの品種の雄蕊・雌蕊は小さく、ほとんど目立たない場合が多い。これが、八重咲き品種で種ができにくい理由と考えられる。花を構成する要素を全て花弁にするには、遺伝子Cを壊し、遺伝子Bの領域を広げてAと共同して発現する領域を増やせばよいことになる。しかし、中にはがくが花弁に取って代わって花弁のような形状をしているものもある。雪割草がその一つだが、この植物には千重咲きと呼ばれる、もはや花弁状のものしかない花が存在する。これは、雌蕊、雄蕊形成に関わるB、C遺伝子の両方が欠損し、がくをつくるA遺伝子のみが花で発現しているために起きていると説明できる。この千重咲きは実をつくることはないが、雪割草は花芽をつける株元が増えていくので、株分けすることによって個体を増やすことができる。動物は精子・卵をつくる遺伝子に異常が起こった場合、その個体は確実に子孫を残すことはできないが、植物は栄養生殖、挿し穂、取り木といった他の方法で増えることができるので、動物よりも簡単に品種改良ができ、世界中に広まっているものと推測される。
A:
Q:今回の講義では花が目立つのは虫媒の効果を高める目的があり、花の色は色素、pH、金属錯体の形成によって制御されると習った。授業では青いバラがなぜ完全にならないかも習ったが、私はそもそもなぜ青いバラはこの世に存在しなかったのか疑問に思った。本レポートではなぜ青いバラはこの世に存在しなかったのかを考察する。
考察:なぜ青いバラは存在しないのか 理由1:進化の過程でそもそも存在しなかった:花の色はもっている酵素によって異なる。バラが他の植物から分化していく際、分化の初期段階で青色色素を合成する遺伝子をそもそも持っていなかったとすれば、現在でも青いバラは存在しない。 理由2:触媒となる虫に対して効果的でなかった:花に色がついている理由は昆虫に対してのアピールである。バラが触媒とする昆虫に対して青色が効果的にアピールを出来なかった場合、青色のバラは自然淘汰を受け、子孫を残せなかったと考えられる。しかし、大部分の昆虫は同じ波長領域に対して光走性を示し(360nmを中心として300~500nm)し、自然界には青色の花も存在するため、理由2が正しい理由とは考えにくい。
以上より、理由1は理由2に比べ可能性の高い理由であると考えられるので、青色のバラが自然界に存在しない理由は他の種からバラの祖先が分化した段階ですでに青色の色素を合成する遺伝子を持っていなかったためだと考えられる。
A: