植物生理学II 第2回講義

葉の中の水と二酸化炭素の移動

第2回の講義では気孔の開閉を中心に取り上げ、植物が二酸化炭素を葉に取り入れる一方で、いかに無用な蒸散を避けるかについて解説しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業では、気孔の開閉には光や二酸化炭素濃度、ショ糖濃度、H2Oストレスなどの要因が関わっておりその中でも二酸化炭素濃度が深く関わっていることがわかった。二酸化炭素濃度が高い状況下で気孔が閉じ低い二酸化炭素条件下で気孔が開くが、気孔が開けば蒸散が盛んになり水分が多く失われる。また、植物は温度が上昇しても水を失わないことを選ぶことから、今後地球温暖化が進みCO2濃度も上がっていくとすると、気孔が閉じていたほうが植物にとって有利になっていく。よってこれから地球温暖化が進んでいくとすると、植物は多くの気孔が閉じたままになってしまうので、気孔の数を減らしていく方向に進化していくのではないかと考えられる。

A:後半の二文が、最低限のロジックにはなっていますが、やはり少しさびしいですね。例えば、「閉じたままになってしまうので、・・・進化していく」という点も、目的論としては当然になりますが、具体的な淘汰のメカニズムを考えると、いろいろな考察ができると思います。そのあたりをもう少し論じるとレポートらしくなります。


Q:サボテンの光合成をする部分が平たくない理由は、光エネルギー以外が植物の光合成を律速していたら、葉は平たくならないと学んだ。サボテンは光よりも、乾燥に耐えることを優先したために、あのような形になった。私は、夏の間 ゴーヤを庭で育てていたのだが、もう枯れてしまったので、冬の間も緑のカーテンになる植物を園芸店に探しに行った。トケイソウというつる性の植物があり、調べてみると様々な種類があり、耐寒性に強いものも弱いものもあるらしい。店員に聞いてみると、トケイソウで寒さに強いものは葉が厚いという。これより考えると、トケイソウの場合、光エネルギー以外の限定要因は温度である。トケイソウの種類の中で比べると、寒い気候で生育しなければならなかったものは、光よりも寒さから守るために 他の種類よりも葉を厚くしたと考えられる。

A:最後の結論は、「寒さに強いものは葉が厚い」という観察に基づいているわけですが、その理由は何だろう、と考えてほしいところです。第1回の講義で葉の形態が、機能を反映しているという話をしたわけですから、ぜひ、葉が厚いことが耐寒性にどのように関わっているのか、という議論を展開してほしかったところです。


Q:オオカナダモの細胞層が2~3層と薄く細胞の種類が少ないにもかかわらず、一般的植物と同様に生命として生活を営むことが出来ることを学び、オオカナダモを活かした効率的な酸素の産生ができないかどうか考えました。まず、オオカナダモの細胞は、一般的植物の細胞と異なる可能性が高いと仮定します。これは、クチクラ-表皮-柵状組織-維管束-海綿状組織-孔辺細胞という構造と同じような役割を2~3層の細胞で賄う必要があるためです。結果、最低限の細胞のみが残ったと考えられます。よって気孔やクチクラは存在しないことが分かります。また、オオカナダモのような水中植物は、細胞層が薄くなる傾向があります。つまり、地上よりも場所を取ることなく光合成を行うような仕組みが出来ているのです。ところが水中の酸素濃度は、地上と比べると著しく低く、呼吸を行う点では劣っています。そこで、酸素水のように酸素含有量の多い水を用意することで、鮮度を保ったまま大量のオオカナダモによる光合成で酸素の生成を行うことが出来ると考えます。水中植物の弱点である酸素の不足を酸素水により補うことで、地上植物よりも場所を取らずに、より長い間、効率的酸素の産生が行われるようになると思いました。

A:講義の中では、オオカナダモの形態をここで述べられているのとは全く反対のロジックで説明したつもりです。水中では気孔から気体を取り入れることができないので、細胞表面から二酸化炭素を取り入れざるを得ず、そのためには細胞層の積み重なりを厚くすることはできない、というロジックです。もちろん講義での話と合わせる必要は皆目ないのですが、違う論理を展開するのであれば、「講義ではこれこれの説明がされたが、自分はこのように考えた方がこれこれの理由で合理的だと思う」といった形で説明するのがよいと思います。なお、後半の論理はよくわかりませんでした。光合成には呼吸が必要だ、と言いたいのかな?


Q:今回の講義で水生植物の気孔は機能しないことを知り、ではどのように呼吸しているのか疑問に思ったので、調べてみた。すると、『水生植物は気孔の数を減らし、空気が行き渡るように細胞間隙を発達させ、通気組織と呼ばれるものを持つ』ことが分かった。(飯島功著、1972年11月25日、生態学講座3巻 水界植物群落の物質生産−水生植物−、共立出版p 5より引用まとめ)また、水生植物は陸上植物の一部が『二次的に水中生活に戻ったもの』(加藤雅編、2003年9月10日、植物の多様性と系統 バイオディバーシティ・シリーズ 2、真興社、p3より引用)であることも分かった。では、なぜ水生植物は陸上ではなく、水中を選んだのか。その理由を考察してみた。第一に考えられる水分の問題である。陸では水分が蒸発し、常に失われる恐れがある。だが、水中ならば水分はいつでも供給される。一方で、水中では酸素が少ない。そのため、池や川の周囲に生えていた植物が水中でのガス交換に適応する形質を獲得してゆき、水生植物に進化したのではないか。第二に考えられる理由は、ニッチの問題である。『約4億5千年前に陸上植物が出現し、陸上に植物が繁茂した。』(池内昌彦、2007年6月20日、光合成の科学、東京大学出版会、p251より引用、まとめ)繁茂したということはすなわち、植物が過密に生育していたことであり、生育環境に関するニッチの問題が生じたと推測できる。競争を避けるため、もしくは競争に敗れたために陸に比べて生育環境が残されている水中に、ニッチを移した植物がいると考えられる。その植物がやがて水生植物に進化したのではないか。以上、第一、第二の理由を挙げたが、この二つの理由が合わさって、水生植物に進化した場合も考えられる。

A:陸上植物は、そもそも水中の藻類から進化したはずですから、二つの理由のどちらの場合でも、藻類との関係を明らかにする必要があります。陸上植物が水中に再参入するにあたっては、藻類との競争に勝たなくてはなりません。そのあたりの考察がもう少し欲しいところですね。


Q:前回の授業から葉の形状について学びました。ここで私は授業で紹介されなかった、多肉植物に興味を持ちました。画像を調べてみると、そのなかでも万象錦という種類の多肉植物があることを知りました。万象錦の中には斑入りのものがありました。多肉植物でさらに斑入りという条件は他の葉に比べて不利だと考えました。なぜなら、多肉植物は水分などを葉に貯蔵することができますが、光合成をすることは生きていく上での絶対条件です。よって、ここぞというタイミングで斑入りの場合十分に光合成が行えないと考えられるからである。では、なぜ斑入りなのだろうか。画像などで見る限り斑の入り方が模様のように見える。ゆえに、多肉植物の斑には大きな意味はないと考えられる。しかし、私はこの斑によって、水の貯蔵の効率を上げていると考えた。なぜなら、斑の入っている部分に水を貯蔵しておけば光合成によって水を使われることがなく、より長く水を体内貯蔵できると考えられるからである。

A:最後の部分、水の貯蔵に斑が有利な理由を説明しないと論理が通りませんね。緑でも水を貯蔵しておけるのであれば、何も光合成をあきらめる必要がなくなりますから。


Q:水生植物とは発芽が水底で行われ、植物体が完全に水中にあるか、または抽水状態で長期にわたって生育するものを指す。さらに、水深1m以内の浅水域に生息し、根は水底にあり茎や葉が水上に出る特徴著をもつ抽水植物。水深2m以内の水域に生息し、根は水底にあり、葉は水面に浮かぶ特徴をもつ浮葉植物。水深1m以内の水域に生息し根を持たず、水面や水中を浮遊する浮遊植物。水深3m以内の水域に生息し、根も葉も全体が水中にあり、葉に気孔が存在しない特徴を持つ沈水植物。この4つに分類される。水生植物は水中環境にあるため、陸上生物に比べ乾燥することに対しての対応や、体を支える必要性の無さなど楽なことが多い。しかし水は光を吸収するため光合成によるエネルギーが圧倒的に少ないというデメリットもある。そこで葉を水上に出すことでこのデメリットを改善し、さらに呼吸根といって、根の一部を水上に出すことで体内に酸素や二酸化炭素を供給している。

A:「葉を水上に出すことでこのデメリットを改善」するのは、沈水植物には当てはまりませんよね。わざわざレポートの前半で水生植物の分類を紹介していますが、それが後半の議論に役立っていません。複数の生育戦略の背景には、環境と植物のかかわりがあるはずです。せっかく生活形を紹介したのですから、それと結び付けて議論するとよいレポートになるでしょう。


Q:水中葉の話から水中植物には呼吸根を生やすものもいる事を思いだし、呼吸根からマングローブを連想した。基礎情報を調べてみると、マングローブは汽水域ではない真水のもとで生育させると徒長気味に生育するらしい。今回はマングローブの徒長原因について考察してみる。マングローブにおいて、塩は植物の伸長に関連しているのではないかと考えた。マングローブは主に次のような方法で塩耐性を獲得している。・浸透圧調節 -細胞内においてテルペノイドと呼ばれる五炭化合物を生成することで細胞内外の浸透圧差を少なくしている。 -ナトリウムポンプの発達による根での水ポテンシャル問題の解決。・落葉 葉に塩分を多量に蓄え、その葉を落葉によって落とす。・ろ過 根でろ過することで塩の吸収を防ぐ。・塩類腺 塩類腺を持つことで塩を外界へ分泌する。
 これらのことから塩が存在しない環境では次のことが起こると推測した。・細胞内テルペノイド濃度は相変わらず高いため浸透圧によって外から水分が流入する(塩濃度に反応し、順次テルペノイド合成が活性化されているとすると、あまり現実的な考えではない)。・根の水ポテンシャル問題の解決により水分を通常より多量に吸い上げることによる水分過多または栄養過多(特に汽水域は栄養が豊富なため窒素などが過剰になる)。・塩濃度に比例してテルペノイドが合成されるとした場合に、細胞内テルペノイド濃度の低下。または細胞内水素イオン濃度の低下(根は水素イオンを取り込みナトリウムイオンを排出するポンプを用いている)による微小管への影響→結果、細胞伸長が何らかの方法で異常促進される。
 最も現実的なのは水分過多もしくは栄養過多によって起こる細胞壁の薄化による徒長と考えた。微小管による影響をもう少し詰められたらと思いました。

A:考察する姿勢は感じられてよいと思います。ただ、やや放散気味なので、一番ありそうな点に絞って考察を深めることができるともっと印象に残るレポートになると思います。


Q:今回の授業で扱った水生植物について考えてみる。水生植物は、陸生植物よりも葉が薄くてよく、気孔も必要なくて大丈夫である。というのはわかり、オオカナダモが小中学校でよく使われる理由も、このことからわかった。ここで、疑問がうまれたのだが、もし、半分だけ水中、半分だけ気中といった状況に陥ったら、水中の葉っぱは水生用、気中の葉っぱは気中用の体系をとるのか、またはそれぞれが適応するのは難しいためどちらかの効率のいいほうに合わせるのか、また、それ以外の方法があるのか、気になるところである。自分は、それぞれが適応していくのは難しいと思うので、どちらかの形態にあわせるのではないかと考える。そこで、水生か陸生かといったら水生に近づけた陸生になるのではと考える。植物も形態変化をするので中間の様な形態をとることは可能なのではないかと考えるからである。

A:水中、気中への馴化については、時間的な要因を考える必要があります。「それぞれが適応していくのは難しい」というのがあいまいですが、植物種として2つの形態の葉を持つことが難しいのか、それとも1枚の葉が形態を変化させるのが難しいのかによって、議論は全く異なります。水面が一定の場合、植物として二種類の葉を持つことができれば、1枚の葉の形態を変化させずに、水中では水中用、気中では気中葉のつけることは可能でしょう。一方、水面が変動して1枚の葉が水中になったり気中になったりする場合は、それに適応するのはさらに難しくなるでしょう。そのあたり、よいレポートのためには論理をきちんと詰めることが必要です。


Q:植物の中には水陸で形態がかわるものが存在する.水中ではふわふわしていて,陸(水中外)では硬く保っている.このことは授業で扱ったことの他に,水中では植物の体が硬いことは生存が不利なことがあるからであると考える.それは空気抵抗に対して水中の抵抗の方が大きいと考えられるため,植物の体が硬い場合,体が折れてしまい生き残ることが出来ずに不利であると考えられるからである.そのために植物の体は柔らかくふわふわしていると考えられる.

A:これは、前提があって、論理があって、結論がありますから、レポートとしては合格点でしょう。ただ、これもちょっとさびしい気はしますが。


Q:葉の柵状組織では、二酸化炭素を吸収しやすいように葉緑体が細胞内の端に存在しているというのが興味深かった。細胞成分は細胞内をランダムに浮遊している印象があったが、葉緑体が局在しているというのは驚きだった。同様に考えてみると、エネルギー産生器官であるミトコンドリアにも局在はあるのだろうか? [1]によると精子ではミトコンドリアが鞭毛の軸糸に巻きついており、[2]によると筋細胞では収縮に必要な線維に沿ってミトコンドリアが列をなしているという。これはATP消費量の高い部位の近くにミトコンドリアが位置し、ATPを供給するためであるという。葉緑体と同様に考えると、ミトコンドリアも血管に近い細胞辺縁に存在したほうが酸素を受け取りやすいようにも見えるが、そうすると酸素より高分子であるATPの移動距離が長くなってしまうため、ATPの需要の高い部位に近いほうが効率的にエネルギーを供給できると考えられた。
参考文献
[1]Bruce Albertsら 『細胞の分子生物学 第4版』 p.769, 770 株式会社ニュートンプレス 2004年
[2]Wayne M.Beckerら 『細胞の世界』 p.376 西村書店 2005年

A:これは非常にきちんと考えられていて、論理の展開もぴしっとしています。よいレポートだと思います。


Q:陸上での生活は、光強度も強く、二酸化炭素の拡散速度も大きいが、乾燥に耐える必要がある。対して、水中では水は豊富にあるが、二酸化炭素の拡散速度が遅い。よって沈水植物は、各細胞に二酸化炭素を効率よく供給するために、細胞層を薄くして表面から直接取り入れるしかない。浮標植物や浮葉植物は根が水中にあり、水を十分に確保できる。また、葉は水上にあり、光と二酸化炭素の吸収にも有利なので、植物として理想の環境を実現していると言えるのだろうか(ただ、生息可能域は限られるが)?浮葉植物の気孔は、葉の表側にあるのか(裏側は水面に接しているから)確かめてみたい。もう一つ気になったのが、水中では二酸化炭素の拡散速度が遅いので、細胞層が薄い方がよいという点であるが、逆に呼吸により排出した二酸化炭素も拡散しにくいということにならないだろうか?つまり、沈水植物は、実は自身の出した二酸化炭素の膜のようなものに覆われた状態になり、光合成にとって都合のよい面もあるのではないだろうか?暗呼吸時と光合成時の植物の周囲の二酸化炭素濃度と光合成速度の時間変化を調べてみたい。

A:「言えるのだろうか?」と疑問形にする必要はありません。エッセイではないので、修辞的疑問文を使う必要はありません。レポートでは自分の考え方をきちんと提示することが大切です。「都合のよい面もあるのではないだろうか?」も同じです。「都合のよい面もあるはずである」と言い切って、「それを確かめるためには、・・・時間変化を調べればよい」と続ければよいでしょう。なお、浮葉植物の気孔は表側にあります。