植物生理学II 第11回講義

ジベレリン、サイトカイニン、アブシジン酸

第11回の講義では、植物ホルモンの第2弾として、ジベレリン、サイトカイニン、アブシジン酸について解説しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業ではジベレリンは発芽のタイミングに関わり、光発芽種子、及び暗発芽種子の発芽のタイミングを決定していることを学んだ。光発芽種子では発芽の際に光合成に必要な光があるかどうかを確認してから発芽することで、発芽後に十分な成長が出来るようにする機構であるが、植物が成長するためには光の環境だけではなく、水分量や土壌の栄養量も関係してくる。また、光の環境では強い光が当たる部分では十分な水分が確保できない環境であることも大いに考えられ、このような土壌での発芽は不利になるのではないかと思う。これらの事から、光発芽種子は光だけに応答して発芽するというわけではなくて、水分量を豊富で光が当たるときに発芽する、または周囲の土壌からの栄養量が十分な時で光が当たるときに発芽するといった条件も持ち合わせる必要があるのではないかと考える。これは、光発芽種子を水分のない状態で光を照射したり温度を変化させて光を照射、また土壌の栄養が乏しい環境下で光を照射するなど様々な条件で実験を行えば結果が分かり、その結果は条件により異なってくるのではないかと思う。

A:別におかしいというわけではありませんが、ありきたりな気がします。単に植物には光も水も必要だろう、というだけでなく、自分独自の考え方を目指してください。


Q:ジベレリンはバカ苗病菌から発見された植物ホルモンで植物の伸長生長作用や発芽促進などの働きがあるが、種なしぶどうを作るために使用されることでも有名である。調べてみると処理は二回行い、一回目は花粉の発芽抑制で二回目は肥大化作用が主に働くようである。また、全てのぶどうがジベレリン処理で種なしに出来るわけではないようだ。アバウトな言い方だがジベレリンの効能の多くが生長促進のようなポジティブな方へ働く中で花粉の発芽は抑制するというのが少し奇妙である。ジベレリンには未だ解明されていない働きがまだあるのかもしれない。

A:調べてみると、ということですが、この部分は講義で話しましたよね。後半もこれだけでは単なる感想です。


Q:私が育てているアビス(シダ植物)は、若葉の7枚に1枚くらいは通常の大きさには育たず、葉の長さは通常の4分の1程度で止まってしまう。サイトカイニンなどの植物ホルモンが葉の成長を抑制しているのだろうか。インターネットで調べると、水を必要量あげないと、アビスは葉のの形がくずれたり、葉が育たなくなるという。しかし、育たない葉と同時に生えた葉は通常の大きさ・形になっている。水のせいなのだろうか。水が植物ホルモンと関係しているのかもしれない。このことを調べるためには、水を必要量与える植物と、枯れないぎりぎりの量の水をあげる植物を用意し、細胞分裂や生長促進などと関わる植物ホルモンを与えて、差がでるのかを観察すればよい。また、細菌の感染は、7枚に1枚しか感染しないなどはありえないと考える。

A:これは悪いとまでは言いませんが、「水が植物ホルモンと関係しているのかもしれない」というあたり、あいまいですね。実験系を考える姿勢は認められますが、「関係」といったあいまいな仮定に基づく実験は、小学校の夏休みの自由研究レベルにとどまってしまいます。もう少し具体的なメカニズムを考えて、それを裏付けるような実験系を考える必要があります。


Q:ジベレリンが100種類以上存在することを学び、種無しぶどうの育成など、農業的に使用されているジベレリンを調べたところ、GA3が主に使われていることが分かった。GA3は、カビが主に持つジベレリンの一種である。しかし、高等植物が持つ主要ジベレリンはGA1、GA2と呼ばれるジベレリンである。なぜGA3が主に使われているのだろうか。高等植物は十分量のGA1、GA2を所持しており比較的存在量の少ないGA3を加えることで、『ジベレリン』として植物体に与える影響が高くなると考えられる。だが、存在量のみでは、GA4やGA5などでも構わない。そこでジベレリンが一番最初に発見されたカビは、GA3を主に持つことから、GA3が100種類以上存在するジベレリンにおいて単離しやすい物質なのではと考えられる。この場合、容易に単離しやすい可能性を持つGA3を補うことが農業の面からすると効果的である。したがって、GA3が主に使われているのではないかと推測される。
参考文献 wikipedia『ジベレリン』http://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%99%E3%83%AC%E3%83%AA%E3%83%B3

A:せっかく講義で受容体の話までしたのですから、そもそも、それぞれのジベレリンにそれぞれの受容体があるのか、それともジベレリンの種類は多くても単一の受容体があって、そこにどれもが結合してジベレリンとしての作用が引き起こされるのか、そのあたりをまず考えてほしかったところです。受容体が一つなのか複数なのかによって、想定される状況は大きく違いますからね。


Q:今回の講義で、サイトカイニンの生理作用はリン酸化されたキナーゼの自己リン酸化とそのリン酸基の転移が起き、リン酸化された物質が転写因子として標的遺伝子の発現を誘導する、二成分制御系によって起こることが分かった。この二成分制御系は植物と原核生物に共通してみられるが、動物では見られない。自己リン酸化はヒトでもMAPKKKといった因子によって起こるが、この因子は酵母や植物など多種に渡って保存されており、二成分制御系とは異なる反応であると考えられる。二成分制御系の保存性が違うことから、動物と植物は、それぞれ異なる原核生物を祖先としているのではないかと考えられる。言い換えれば、二成分制御系を持つ原核生物と持たない原核生物が、真核生物へと進化し、前者が植物に、後者が動物に進化したということだ。二成分制御系を持たない原核生物が発見され、その系統が植物よりも動物に近いと判明すれば、動物と植物が異なる原核生物から進化したと言えるのではないか。
参考文献:桜井英博・柴岡弘朗・芦原坦・高橋陽介、2008年12月10日、植物生理学概論、倍風館、pp176-178

A:植物生理学Iの講義で紹介したように、陸上植物の起源は共生です。また、藻類も含めて植物と考えるのであれば、植物はどこか1つの系統にまとまるものではありません。いずれにしても、アリストテレスが考えたような動物と植物が生物の根っこの部分で別れたという系統樹は、現在の分類の考え方とは相いれません。そのあたりと組み合わせて議論してほしいところです。


Q:今回の講義ではサイトカイニン、ジベレリンなどの植物ホルモンについて学んだ。そこで疑問におもったことがある。それは、前回扱ったオーキシンは側芽の成長を抑制する働き(頂芽優勢)を持つことに対して、サイトカイニンは側芽の成長を促進する働きを持つということである。この2つがどのように1つの植物体の中で働いているのか考察した。頂芽の成長のために側芽の成長をオーキシンが抑制するのなら、サイトカイニンは頂芽の関係ない部分で働くということになる。頂芽の成長に関係のない部分、つまり植物体の下の部分である。よって、オーキシンは植物体上部で働き側芽の成長を抑制し、サイトカイニンは下部で働き側芽の成長を促進していると考えられる。下部での側芽の成長促進は、日光の当たり難い部分の葉を増やし、下部により多くの光を取り入れられるといおうメリットがあると考えられる。

A:目の付けどころはよいと思います。ただ、まずオーキシンとサイトカイニンが独立に働くのかという点を考える必要があるでしょうね。例えば、解釈としては、頂芽から出たオーキシンが側芽のサイトカイニン濃度を抑えている、というモデルもあり得るでしょう。


Q:ジベレリンやサイトカイニンのような植物ホルモンは、オーキシン存在下でしか効果を示さなかったり、またはオーキシンと役割が重なる部分があったり、オーキシンの作用を強めたりするなど、それぞれが相互に作用するよう創られている。それぞれが全く関わらず別の機能を有していても問題はないはずだが、植物は組み合わせによって作用を多様化させている。これは前回に学んだABCモデルと体系が似ている。ここから考えられることは、植物は移動ができないこと等により限定的な環境で生育していくため、わずかな資源で多くの機能を代替しようとする戦略をとっていると考えらえれる。内部をできるだけ簡素化し、組合せによって外部(結果)を複雑にするという、生理学的エコノミーをできるだけ高めようとしている狙いが表れた結果に思える。

A:これも目の付けどころはよいのですが、話にもう一息具体性がありませんね。例えば、植物ホルモンが全て別々に働いたらどうなるか、何らかの形で予測できると説得力が増すと思います。抽象論としては面白いと思います。


Q:今回の授業も植物ホルモンについての授業を受けた。その時にジベレリンについて習ったときに種無しブドウを作る際にジベレリン処理をすることで種を作らず果実の大きいブドウができるとのことである。そこでジベレリンについて調べてみた,ジベレリンは植物ホルモンでそのままを人が口にするのはよくない、なのでジベレリンをブドウにつけて害はないのかと思ったのだがブドウに付着させて熟したあとには検出されないので害はないらしい。なので、育つときに消えてしまう、もしくは使われてしまうのだと考える。そこで、どのように消えていくのかも考えたいのだが調べても出てこないので省略します。ジベレリンを調べていて気づいたのだが、デラウェア(種無しブドウ)の語源はジベレリンに関係するDELLAタンパク質のDELLA→デラ+wearでデラウェアになったのかと思ったが、アメリカのデラウェア州で発表されたからであった。なので自分の思い付きが少し残念であった。
参考資料:http://my.sanin.jp/site/page/toa/seika/hee/grapes/

A:「考えたいのだが調べても出てこない」って、そもそも調べてわかることなら考える必要がないでしょう。この講義のレポートで要求するのは、自分の頭で考えた論理です。調べて出てこない点こそが、レポートの種になるはずですよ。


Q:今回の講義ではジベレリン、サイトカイニン、アブシジン酸について扱われた。ジベレリンは発芽を促進や伸長の促進や老化の抑制、サイトカイニンは細胞分裂の促進や気孔の開放や老化の抑制、アブシジン酸は気孔の閉鎖や種子の休眠などそれぞれ様々な作用を持つ。またジベレリンは種なしブドウの生産にも使われていることを教わった。しかし生長を促進させれば逆に種子は大きく生長してしまうのではないかと疑問に思った。この疑問への答えとして思い当たったのは植物ホルモンが作用する部位がそれぞれ決まっているということだ。もしジベレリンが果実のみに作用して種子には作用しなかったとしたら、果実の生長を促進し種子が作られる前に収穫できるほどの大きさまで育てることが可能かもしれない。今まで種なしブドウは種子をつくる遺伝子を消すように改良して生産していると思っていたから、種なしブドウといっているのにたまに種があるものが混ざっているのを不思議に思っていた。しかし単純に果実のみ生長を促進し種子がつくられる前に収穫していただけだとしたら、少し収穫時期がズレただけで種ありブドウになってしまうものが多少混ざっていても不思議ではないと納得できた。

A:講義での説明で、ジベレリン処理をわざわざ2回している話をしたと思うのですが。講義を聞いてレポートを書いてくださいな。


Q:今回の授業では,光発芽種子と暗発芽種子の話がでてきました.光発芽する種子は小さく暗発芽の種子は大きい傾向があることがわかりました.それは光があるところで発芽するのですぐに光合成ができるために養分を蓄えなくてよいので小さく,暗発芽種子は地上に芽を出すまで暗く光合成をすることができないので養分を蓄えておかなくてはならないので種子が大きいこと傾向にあることがわかりました.ここで,暗発芽種子のほうは暗期がずっと続くと発芽するのでしょうが,そのとき周りの水分を感知して発芽するのだと考えます.なぜならば,もし暗いだけならば土のなかではなく単に日陰にあるだけかもしれなため,水分を感知したほうがより一層土のなかであることがたしかだと考えられるからです.

A:前半は講義の話なので、レポートには必要ありません。後半の自分の論理の部分が重要です。そこだけ見ると物足りないですね。


Q:ホルモンが作用する分子機構に興味を持った。サイトカイニンはシグナルをリレー式に伝達していくカスケードなのに対し、オーキシンやジベレリンは抑制する分子を抑制することで遺伝子発現を促すという、やや手の込んだ分子機構をしている。サイトカイニンのような機構で事足りるはずなのに、オーキシンのような機構は必要なのだろうか?オーキシンに関していえば、すでにあるARFを抑制するのではなく、そもそもARFを作らなければよい。機能を抑制することがわかっているタンパク質を合成するのは、エネルギー的に非効率であると考えられる。それでもARFなどを作っているということは、それらのタンパク質がシグナル伝達だけでなく、他の機能も持ち合わせているのではないだろうか。あるいは、AUX/IAAタンパク質もARFに結合していることで、オーキシンと逆の生理作用を促すような別の分子機構に貢献しているといったことがあるのだろうか。

A:目の付けどころはよいと思います。「他の機能も持ち合わせている」というのが仮説なのですから、この点についてもう少し具体的にどのような可能性があるのか、2つの機能をどうやって使い分けるのか、といった考察をするともっとよいレポートになります。また、分解によって制御する系のメリットを考える上では、合成に必要な速度と分解に必要な速度を比較することが必要でしょう。


Q:ジベレリンの利用について調べているうちに、種無しブドウを作るためジジベレリン溶液が用いられていることを知った。農作物についてジベレリン欠損種が弾かれたのと同様に、種無しブドウについても品種改良の賜物であると思っていたためこれには驚いた。バナナの種がほぼ名残もないようにブドウも同様だと思っていた。よく考えてみれば他の果実においても元々の野生種よりも種は少ないのかもしれないが、全くない果物は稀であった。遺伝子的ではなく生理学的な操作を行っている実例を知ることができたが、限られた時間で手作業で行わなければならずやはり効率的とは言えないものであった。安定して種無し種が作られるのであればやはりそちらの方が良いだろう。他にジベレリンの利用として園芸に用いることも知った。草丈の調整や花の大きさ、開花のタイミングの調節などである。これらの用法は用途に合わせての調整や、見目麗しくなるような整頓を旨としており個別に手を加える必要があるため手法として理にかなっている。こうした比較を見るとどうにも生理学的手法は贅沢品のように思えてきてしまった。

A:これも「調べているうちに」となっていますが、講義できちんと説明しています。講義を聞いてレポートを書いてくださいな。


Q:ジベレリン処理による種なしブドウは、本来種のない果実には栄養を送らないところに、ホルモン処理で無理やり果実を肥大させたもの、ということになる。1種類のホルモンで種のない果実をつくることができるというのは、大変画期的だと思う。しかし、元々果実は甘い果実を好む動物や鳥に食べてもらい、中の種子を遠くまで運んでもらうために存在する。同じ大きさの果実になっても、やはり種なしより種ありの方がおいしいという人も多いし、実際自分もそう思う。植物には、本当に果実の中に種子が入っているか知る方法があって、人の手によるジベレリン処理だけでは、植物を完全に騙すことはできないのではないだろうか。そもそも、ジベレリン処理を直接花房に施すのは、その部分のジベレリン濃度が果実の生長にとって重要だからだと考えられる。ジベレリンには果実の生長促進以外にも多くの役割があるが、果実形成時のジベレリン合成とその応答のスイッチは種子側の働きかけにより行われているのではないかと考えられる。種子の成熟に従ってジベレリン濃度やその応答性が変化し、果実も成熟していくと考えるのが自然である。実験系として一つ試してみたいのが、一つのブドウの木にジベレリン処理をした房と通常の受粉により種子をつけた房の両方をならせてみて、どちらがより甘くておいしいブドウができるかという実験である。野外で行う実験なら、どちらがより鳥に好まれるか、などを調べてみても面白いかもしれない。

A:まあまあしっかりしていますが、前半の「種なしより種ありの方がおいしい」という一種の実験と、後半の「どちらがより甘くておいしいブドウができるかという実験」の差がはっきりしません。より定量的に、というだけだとやや面白みに欠けますね。


Q:今回の講義で光発芽種子について扱った。私はこの話を聞いた時に、大学受験時に、光発芽種子は光の波長によって発芽が促進されたり抑制されるという事を考察させる問題があったことを思い出した。詳しく調べると、光発芽種子は650~680nmの光によって発芽が促進されるが、710~740nmの赤外線では発芽が抑制されるという事だった。では、なぜ光発芽種子は光の波長によって発芽の促進と抑制が切り替わるのだろうか。これは、植物の吸収波長に関係していると思う。植物の吸収波長のピークは435nm付近と680nm付近にあり、710nm以上の波長では植物は吸収出来ないため、光合成も行えない。よって、710nm~740nmの波長を感知して発芽しても光合成ができずに枯れてしまうため、光発芽種子の発芽は抑制されると考えられる。

A:これだけだと、何も710~740nmの光を検知する必要はなく、単に650~680nmだけを見ていればよいことになりませんか?光応答については、来年に入ってからの講義で扱う予定です。