植物生理学II 第1回講義

植物の葉

第1回の講義では植物の葉が、どのような機能によって制約を受けて特定の形態をとっているのか、という視点から機能と形態の関係を解説しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の講義では植物葉の形の意味について講義を受けそのなかで、an遺伝子とrot3遺伝子で葉の形が決められている事が分かったが、多くの葉はなぜ端がギザギザ(鋸歯)であるかということに疑問を感じた。なぜ多くの葉が鋸歯の遺伝子を獲得するに至ったのだろうか。これは、少しでも表面積を広げ光合成の効率を上げようとした結果だと考える。ギザギザの部分だけ表面積を広げることが出来る上に鋸歯を作らずにそのまま葉を大きくするよりも細胞が少なくて済むし重くなることもない。これが鋸歯を作るに至った理由だと私は考える。

A:ロジックが今一つわかりませんでした。鋸歯を作ると細胞が少なくて済むとしても、ちょうどその分、面積も小さくなるのでは?


Q:授業では葉には基本的に向軸側(表)と背軸側(裏)があると習ったが、以前他の授業で葉の顕微鏡観察を行った際にネギの葉は表裏を定める事ができなかった。調べてみるとネギの葉は単面葉という両面が裏面の性質を持つ葉であることがわかった。一般的に葉は日光を効率よく吸収するために平たく大きく成長していくが、ネギの場合はあまり広がらずに長く成長していく。これは白ネギを栽培する時に盛り土をするように生育にあまり日光を必要としていない可能性が考えられ、また丸まった形状のため熱がこもりやすいので温度調節に特化した葉をつけた方が生存しやすかったからではないかという可能性が考えられる。

A:温度調節というのは面白い考え方ですね。そうだとすると、当然季節との兼ね合いが重要になります。ネギの最盛期はいつなのか、といった事実と組み合わせて論理を展開すると説得力がますでしょう。盛り土して白ネギを作るから、日光を必要としない、というのはちょっと論理に飛躍があるように思います。人間の都合と、植物の生き方は、別問題ですから。


Q:葉柄について考える。授業で、葉柄が平たくないのは遠くに物体を支持するには細長い方が安定するからと習った。私はアビス(シダ植物)とゴーヤを育てている。アビスには葉柄がない。根から直接 葉が生えている。上から見ると、どの葉もあまり重ならないように、且つ 隙間が空かないように生えている。しかし、ゴーヤの葉は茎や他の葉を避けながら、葉柄が光を求めて伸びている。この2つの植物から考えると、葉柄の有無は、葉が生えたい場所(光の当たるところ)に生えるために、葉が自力ではどうしようもなく、動かしてもらう手段として葉柄を作ったのではないか。また、葉柄のある葉の形としては、丸や手のひらのような形がおおいのではないか。なぜなら、細長い葉であれば横並びや放射状に並べたときに、光の余りが少ないために、わざわざ光が漏れている場所まで葉柄を伸ばして葉を生やす必要がないからだ。

A:葉柄を持つ葉は、細長くないはずであるという推測は説得力がありますね。


Q:葉には向軸側と背軸側の概念があり、一部では葉が茎に回り込むことで表が背軸側・裏が向軸側になっている植物があることを学んだ。なぜ、これらの植物(例としてイネ科のウラハグサを挙げる)が一般植物の葉と逆の向きをしているのかを考察する。一般として植物は気孔が背軸側に多く存在するといわれているが、実際にはその限りではない。背軸側が表にくる現象がウラハグサにおいて適応されてきたということは、ウラハグサの葉では向軸側(裏)に気孔が多く配置されるようになったと考えられる。わざわざ向軸側に気孔を多く配置して、得られるメリットは何であろうか。形態的側面と環境面から見ると、2つのメリットがある。1つ目は、葉が茎に巻きつくような形になるため、葉が千切れにくくなるという点である。ウラハグサはイネ科の一種で、細長い葉をもつ。葉の長さがアダとなり、一般植物よりも葉が千切れやすくなるということを避けるために、葉を折るような形態に適応していったのではないか。2つ目は、生えている場所が平らではなく斜面が多く、上向きになっているはずの葉が下向きになっているために、葉を回り込ませることで上向きになるよう適応してきたのではないだろうか。これにより、表裏を逆転させれば、葉が上を向くことができる。これらを考慮して、ウラハグサは、気孔はもとより内部の海綿状組織や柵状組織も、逆(背軸側に柵状組織・向軸側に海綿状組織)になっているのではないかと考えられる。一般植物の葉と組織を正反対の配置にしてまで葉が茎に回り込むことは、ウラハグサのような植物にとっては重要なのだと推測される。

A:世の中に葉の細い植物はたくさんありますが、葉の裏表が逆転している植物はそれほど多くないことを考えると、1つ目の考え方よりは2つ目の考え方の方が説得力があるかもしれません。柵状組織と海綿状組織の位置関係についての議論もよいと思います。


Q:講義で植物の体の中、細胞に囲まれた部位をシンプラスト、細胞の外にある部位をアポプラストと習った。アポプラストは海綿状組織の細胞間隙のことを表す。調べたところ、『この空間は気孔に直接通じており、効率のよいガス交換に役立っている。』(東京大学光合成教育研究会編,2007/6/20,『光合成の科学』,東京大学出版会,p45より引用)と書いてあった。本当にそれだけの役割なのだろうか。例えば、人間の体では消化器官がアポプラストに当たるが、消化器官はエネルギーを吸収するだけでなく、食物と同時に入ってくる菌を体内に侵入させない役割もある。植物のアポプラストも効率の良いガス交換だけではなく、細胞内に菌を侵入させない場としても機能しているのではないか。もし、アポプラストがなく、気孔から直接細胞内につながっていると仮定する。すると、気孔から侵入した菌は直接細胞を侵すことになり、すぐさま感染してしまうだろう。だが、アポプラストがあることで、防壁になっているのではないか。『菌は細胞間隙に入っても、罹患初期には細胞内部に侵入することはない。』(冨山宏平著,1979/6/30,『植物の感染生理』,東京大学出版会,p5より引用)つまり、アポプラスト内に菌が留まっている間に、菌を排除できることができるのではないのか。よって、菌にかかりにくくするためにアポプラストが存在すると考えられる。

A:これは面白い発想です。もっとも、胃の場合は、胃酸が一種の殺菌剤として働く可能性がありますが、植物の細胞間隙の方はどうやって「菌を排除」するのか案外難しいかもしれません。


Q:10/4の講義では、葉の形などについて学習した。その中で私が疑問に思ったことは、なぜ葉は左右対称なのか、ということです。そこでまず、左右対称であることのメリットを考えた。ひとつ考えられるのは、真中の軸を基準に対称な形をとるとバランスを取り易いということ。また、左右対称であれば、昆虫に食べられても軸に到達するまでに時間が掛かる。よって、植物にとって大事な道管と師管を傷つけられ難いと考えられる。もし、左右対称でなければ、軸に近い方から攻めれば、すぐに葉自体が枯死してしまうからである。

A:面白い考え方ですが、昆虫は別に植物を枯らそうという意図を持っているわけではありません。昆虫にとって通常一番栄養があるのは葉肉細胞ですから、僕が昆虫で、左右対称でない葉っぱを見つけたら、間違いなく軸から遠いほうから食べ始めますね。


Q:先生もご存じのとおり、来年から中学の理科の先生になるのでそれに関連するようなことで書きたいと思います。今、全国の中学校では「理科離れ」が問題となっています。なので定義や仕組みを覚えて、と言っても、興味がないので覚えないというのが現状です。ちゃんとした理由づけや、ごろ合わせで覚えると生徒たちは覚えやすいというのは当たり前だと思います。今まで自分は葉の部分の木部と師部の分布が、なぜこのようになっているのかが説明できませんでしたが今回の授業でやっと自分の中での謎が解明されました。これからもこの授業で教職で活かせることを見つけていきたいと思います。

A:理科の基本は論理であるべきで、中高の一部の生物の授業がつまらないのは、事実だけ教わって、その間の論理が欠如していることでしょう。さて、このレポートも感想文としてはよいのですが、レポートとしてはもう少し論理がほしいと思います。


Q:今回授業ではどうし葉はそのような形をしているのかという問題設定がなされた.そこでどうして葉の形は円というよりは楕円の形をしているものが多いかを考察する.たとえば桜の葉も円に近いが楕円である.楕円よりも円の方が面積は広いはずである.そこで3つの理由が考えられる.まず楕円の形である一つ目の理由として,円の形だと中心に葉が密集してしまい,自分の葉が自分の他の葉の陰になってしまうために,円であるとかえって不都合になってしまうからであると考えられる.二つ目の理由として,円になるように横に広がるより縦に伸びた方がより光を得ることができるからではないかと考えられる.最後に,円と楕円(楕円は長いほうに)に葉身があり,そこから横に広がっていく葉を支えている.そのときに,円の形だと楕円よりも葉身から端までの距離が長いために楕円よりも支えられずやや下側に垂れてしまう可能性がある.垂れてしまうとそこに光がややあたらなくなってしまうため効率がわるくなってしまうと考えられる.以上より葉が主に円形より楕円形である理由だと考える.

A:「円の形だと楕円よりも葉身から端までの距離が長い」というのがイメージできませんでした。面積が一定で、楕円の長い方に葉柄がついていれば、端までの距離は楕円の方が長くなりませんか。ただ、考え方は面白くてよいと思います。


Q:植物の葉の形に関して、平面的な形は環境の違いによって異なり、立体的な形(平たいこと)は本質的な機能(光合成)によって共通しているということだった。平たい葉を持つ広葉樹がある一方で、光合成には適さないような細い葉を持つ針葉樹が存在する。本質的な機能によって決定されるはずの立体的な形が針葉であることの生物学的な意味は何か、調べてみた。参考文献[1]によると、針葉は冬季の凍結を伴う乾燥や強風に適応したもので、葉は厚く、表面積も小さく、気孔も葉の表面から深いところでワックスに覆われており、水分の蒸発を防いでいるという。このワックスは蒸散を1/3に抑える代わりに、光合成を2/3のレベルまで落とすという(Jeffree et al. 1971)。以上のことをまとめると、葉の形は有機物を合成する光合成だけで決まるのでなく、得るものと失うものの兼ね合いで決定されていると考えられる。
参考文献[1] 酒井昭 『植物の分布と環境適応—熱帯から極地・砂漠へ—』 p.83, 84 朝倉書店 1995年

A:第2回の講義の内容を少し先取りされてしまいました。第2回の講義では、サボテンを題材に、葉の形が光合成以外で規定される場合を紹介しました。


Q:植物の葉は共通して平たく、広い形状をしている。薄い光のエネルギーを効率よく集めるには、同じ体積ならば薄く平たい形の方が広い面積をカバーできる。しかし、葉の平面的な形は植物によってかなり異なっている。例えば、サクラの葉は薄く卵型をしているが、ススキの葉は細長い。カエデの葉などは、手のひらのようなギザギザの形をしている。広い面積を得るのに円形や楕円形に近い形をしているのは理解できる。また、ススキのようなイネ科の植物は、葉1枚1枚が多くの光を得る代わりに、群落の奥まで光を行き渡らせ、群落全体では多くの光を受け止められるようになっている。しかし、カエデのような掌状の葉は、なぜそのような形になったのだろうか?葉同士が重なり合わないためだけなら、サクラの様に丸い葉を交互につければ良さそうなものである。一つの葉の切れ込みが深くなったとも考えられるが、そこでクローバーの葉の様子が思い浮かんだ。クローバーには、時折四葉が出現する。そして中には、四葉になり損ねて不完全に小葉が分離した状態のものもある。もしかすると、カエデの葉も元はクローバーの様に小葉が分離していたものが、何かのきっかけで分離が不完全となる個体が現れ、その方が小葉を分離させるよりも低コストで拾い面積をカバーできることから、今のような形になった可能性は考えられないだろうか?植物の形は、光合成以外にも、成育環境によっても規定される。わたしたちが知り得るのは進化の結果だけであるから、何故そのような形をしているのか、本当の理由を知ることは難しいことなのかもしれない。

A:論理の展開はよいと思います。ただし、単純にクローバーよりもカエデの葉の方が効率がよいのだとしたら、世の中のクローバーは今頃みんなカエデのような形の葉をつけるようになっているはずです。葉の薄さは多くの植物に共通である一方、二次元的な形態は植物によってさまざまですから、二次元的な形を考えるにあたっては、その植物の置かれた環境ごとに考えなくてはいけないことになります。本当の理由を知ることは確かに難しいのですが、それ以前に、環境の多様性を考えない限り生物の多様性は議論できないことに注意を払う必要があります。。