植物生理学II 第2回講義

植物の葉

第2回の講義では植物の器官や組織を概観したあと、植物の葉の構造的な成り立ちとその機能について解説しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。コメントは最初ということもあり、僕が要求するレポートがどのようなものかという観点から書きました。


Q:今回の講義では、葉について勉強しました。講義の中で、シロイヌナズナの野生型の葉の形はan遺伝子とrot3遺伝子で制御されていることを学びました。しかし、両方の遺伝子を破壊したところで、大きさに多少の差が出るものの、葉の基本的な形状は変わりません。ここで、an遺伝子とrot3遺伝子の必要性について考えてみます。遺伝子としているからには植物にとって何らかの得があるはずです。この「何らかの得」は、環境変化に対応するためにこの2つの遺伝子は存在すると考えられます。植物体が密集している環境ではan遺伝子が多く発現し細い葉がつくられ、植物体がさほど密集していない環境ではrot3遺伝子が多く発現し丸い葉がつくられると推測することが出来ます。よって、シロイヌナズナは葉の縦・横の形状を決定する遺伝子をそれぞれ持つことでより環境に対応しやすくしている可能性が考えられます。

A:これは、単に縦と横を担当する二つの遺伝子を持つメリットに関する考察ではなく、面積を大きくする一つの遺伝子を持つ代わりに二つの遺伝子を持つメリットを考察しているのかな。講義の中で説明をしませんでしたが、シロイヌナズナはいわゆるロゼットを作る植物です。その点を考慮すると、条件が少し変わってくるかもしれません。


Q:今回の先生の講義で私が最も関心を持ったのが、植物の葉の形態が機能にて合理的に決定されているというお話でした。たいていの植物は葉が平べったい構造をしている理由が光合成、すなわち光エネルギーが植物の生存に関する限定要因であるから。光エネルギーが限定要因ではなく、著しい水分不足な環境に生存するサボテンなどは葉の構造が球形である理由として水分が生存に関する限定要因であるため。しかし、球形にするまで葉にエネルギーを投資するのは損失なのではと私は考えます。と調べていたところ、一部のサボテンは蒸散を最小限に抑えるために葉を棘に分化させて、球状に分化した茎で光合成を行うことが判明し、茎で光合成を行うことの出来るようなのですが、なぜ現代の植物は葉の構造を維持しているのか。葉と茎が一緒のほうが、有利なのではと疑問に感じました。私なりの考えでは、水分の多い環境では蒸散速度が葉の方が大きく、ある程度光エネルギーを採光出来れば、光合成効率がそちらの方が良いという理屈で環境の選択圧が葉の構造を決定すると考えます。

A:「なぜ現代の植物は葉の構造を維持しているのか」といえば、それは最初に書いている「光エネルギーが植物の生存に関する限定要因であるから」なのですよね?なんだか論理がくるくる回っている感じですが。


Q:植物の葉が多様性に富み,その理由として適者生存が挙げられた.講義中には光合成に有利であるなど,主に成長での有利さについて考えていたが私は生殖に有利であるために生き残っている葉があるのではないかと考えた.例えばサボテンの棘は葉が分化して出来たものであり,捕食されにくくなるというメリットは持っているがこれは成長するということだけ考えれば光合成に使える面積が狭くなるため不利に働き得る.しかし実際にサボテンのような植物が今日でも存在している以上は,葉の多様性を成長に有利であるのみと考えずに他の策も推察できるだろう.花の色を認識して虫などを集め,花粉を媒介してもらっている植物は存在している.同様にたまたま花粉の媒介者が好んで飛来してくるような葉をつけた変異体の植物Aがあったとすれば,この植物は媒介者と接する機会が増える.するとこの植物Aの花粉が同種の植物と受粉することで植物Aの要素を持ち合わせた個体が少しずつ増えるだろう.すると媒介者が積極的に植物Aの形質をもっている植物に集まるためさらに植物Aの形質は強くなり,最終的には植物Aが生存競争に勝ち残ると思われる.このとき植物の葉は光合成による栄養を作り出す能力は,生存競争に直接関与していない.このように植物の葉の多様性を考えるときに生殖に有利であるために生き残った種が必ず存在していると考えた.

A:例えばポインセチアですね。包葉のことは聞いたことがないかな?


Q:今回の授業で葉柄の進化的な存在理由として「葉柄のあることで葉の重なりが抑えられ、効率よく光を吸収できる。」と「太陽の向きの変化に合わせて、葉を傾けることができるのではないか」ということがあがった。このレポートではそれ以外の葉柄の存在意義について考察する。それは葉がもぎ取られた時に、葉の付いている茎や幹への被害を抑える効果もあるのではないかということである。葉がむしり取られるときに大抵は葉柄の根元から取れ、本体への影響は少ない。一方で直接葉が茎や幹から生えていると本体ごと千切られてしまう可能性が高くなる。これらのことから植物の輸送路や支持体として重要な部分への損傷を最小限に抑える効果があるのではないかと考えられる。また葉柄のない植物には葉鞘というものがあると授業で取り上げられたが、それもまた、葉柄のない植物にとって葉柄と同じ役割を果たしているのではないかと考えられる。なぜなら葉から下の茎を取り巻いている部分があることによって、葉が引っ張られた時に、葉鞘であるその周りだけがつられて引きちぎられることで、本体のほうへの被害を食い止める効果があると考えられるからである。

A:面白い考え方ですね。ただ、葉の一部が茎を抱くのは引っ張られたときにかえって本体へのダメージを大きくするような気がしますが・・・。


Q:今回の講義ではそれぞれの種によって葉の形に違いがあることを習った。この理由について述べる。葉は多くの場合、扁平で光を受けやすくなるように水平に広がっている形状である。葉は様々な形をしているが楕円形、またはそれに近い形がもっとも普通である。様々な形や特徴のものがあり、種ごとの特徴になっている。また単子葉類は長細い形のものが多く、特にイネ科の植物はやや硬くて立ちあがった長細い葉を持つものが多い。そのため草原に適応していると言われている。これは光が根本まで入りやすく、植物全体で光合成ができる形である。植物の身体は全てが環境に適応できるように計算尽くされているのだということが分かった。

A:僕の講義のレポートには、なるべく学んだことではなく、学んだことから自分が「考えたこと」を書くようにしてください。評価は、レポートが自分独自の論理を含んでいるかどうかでしていますので。


Q:今回の授業では、サボテンの茎が平たくない理由として以下の内容が扱われた。サボテンの光合成は水H2Oを用いる反応が律側段階になっている。よって、水のロスを最小限にするために、体積当たりの表面積が最小となる球形に近い形状をしている。本レポートの目的は、サボテンの茎が球状である理由を、物質の貯蔵に適しているという観点から考察することである。以下に、CAM植物であるサボテンの茎の細胞が行う一連の炭酸固定、同化反応の概略を示す。サボテンの茎の細胞は、夜間にCO2を取り込んでリンゴ酸に固定する。合成されたリンゴ酸は一度液胞に貯蔵される。そして、日中は外部からCO2を取りいれずに、リンゴ酸から脱炭酸したCO2により同化反応を行っている。サボテンは砂漠のような日中の相対湿度が極めて低い地域に生息している。そのような地域では、日中に気孔を開いてCO2を取り入れようとすると、多量の水(水蒸気)が外部に漏れてしまう。よって、日中に気孔を開く必要が少なければ少ないほど、サボテンの生存には有利であると推測される。サボテンが気孔を出来るだけ開かずに済むには、夜間の内に貯蔵されるリンゴ酸の量(物質量)が出来るだけ大きければよい。合成されたリンゴ酸は液胞内に貯蔵される。よって、貯蔵されるリンゴ酸の量を大きくするには、液胞をもつ個々の細胞の大きさを大きくするか、または単純に細胞数を大きくするかのどちらかが必要である。個々の細胞を巨大にしてしまうと、物質の輸送が不便になり、酵素反応の基質濃度(リンゴ酸濃度も含む)が低くなってしまうので、リンゴ酸の貯蔵量が増えても生存に不利であろう。よって、サボテンは茎の細胞数を大きくした方が生存に有利であると推測される。そして、球形は同じ半径(一辺の長さ)を持つ他の図形(立方体、柱、錐)よりも体積が大きい。体積が大きいということは、それだけ多くの細胞を内部に配置出来るということである。ゆえに、サボテンの茎は球形に近い形状であるほうが、細胞数を多くでき、生存に有利であると推測される。したがって、サボテンの茎が球状である理由は、水分ロスを最小限にするとともに、夜間に固定したリンゴ酸を多量に貯蔵するのに適しており、生存に有利であるからであろう。
参考文献:大山隆監修 ベーシックマスター生化学第1版 オーム社(2008)

A:良く考えられていると思います。しいて言うと、僕の講義へのレポートでは調べたことの記載はそれほど評価しないので、前半のCAM植物の代謝を説明した部分はもっと省略してしまって結構です。


Q:今回の授業では、主に「葉」についての内容を取り扱った。中でも興味深かったのは、サボテンの話で、まず棘が「葉」の変形したものであることを初めて知った。授業では、サボテンが球状でいわゆる「葉」をもたない理由に、日光が充分ある環境下では、不足していると考えられる別の環境条件に左右されて植物の形が変化するので、サボテンは(水が制限されているので)水分を蓄えるために体積の大きい球状に、また、蒸散を防ぐために表面積の小さい球状になった、と言っていた。では、球状のサボテン(柱サボテン)以外のウチワサボテンなどは球状ではないのは何故か、と考えた。柱サボテンよりもウチワサボテンの方が環境的に水分の多い地域に生息しているのではないか、と思ったが、どちらも暖かい地域で、特に大きな違いはないようだ。調べていくうちに、単純に進化の過程でどちらが後にでてきたものなのか、ということによるものだと気づいた。環境に適応するために、だんだんと球に近づいていったため、ウチワサボテンなどは柱サボテンに進化する前の段階であると判断するのが良いようだ。また、初期のサボテンには葉もあることを知って驚いた。
参考URL http://www.shaboten.net/chishiki01.html (サボテンショップ)

A:なんとなく人間中心の感覚があると、下等生物から高等生物へと生き物が進化したように考えがちですが、現在生育している下等生物は、高等生物と同じだけの時間を進化の過程で費やしているわけです。もし、「下等な」生物が環境に十分に適応していないとすれば、それは進化の過程で淘汰されるはずです。「進化する前の段階」というのはちょっと・・・。


Q:今回の授業で葉柄が光合成に有利であることを学んだが、家に植えてあるユキヤナギを観察したところ葉柄が無かった。なぜユキヤナギは葉柄をつくらなかったのか考えてみた。葉柄をつくらなかった理由として以下の二点が考えられる。①葉柄に代わる光合成に有利な特徴をもっていること。②光を集める以外のことを優先させたことである。①はユキヤナギの特徴として、枝が長く根元で放射状に伸びてしなっていることが挙げられる。これにより、葉柄が無くても十分な空間配置ができていることが考えられる。②は、葉柄をつくるエネルギーがいらないこと、茎に直接生えるため水や養分をより早く運搬できることなどが考えられる。これらにより、消費するエネルギーが少なくて済むため、光合成量が少なくとも自身の生育を維持することができると考えられる。以上の点からユキヤナギは葉柄が無いと考える。

A:つまり枝が主に空間配置の役割を果たしているので、葉柄は必要ないという結論ですね。葉柄をもつデメリットについても考慮していてしっかり考えていると思います。


Q:今日の授業で、サボテンは砂漠の植物であるため、太陽の光は十分であり水分が律速段階となるので丸い形をしているとのお話がありました。しかし、サボテンの中に、平たく背の高くなる種類があることを見つけました。それは、スミエボシ(墨烏帽子)サボテン(Opuntia rubescens)というウチワサボテンの一種で、西インド諸島が原産地です。スミエボシ以外でもウチワサボテンはみんな球状ではなく、薄い形や細い形をしています。これについて考えてみましたが、調べたところウチワサボテンの分布はかなり広範囲で、必ずしも砂漠に生息しているわけではないようです。乾燥地帯ではないところに住んでいて乾燥に強いサボテンは、水分よりも光が重要になってくるのではないかと思います。おそらくこのサボテンは、律速段階が光にあり、ほかの光合成をする植物のように、効率よく光を吸収する必要があるのではないかと思いました。

A:独創的とはいえないかもしれませんが、きちんと論理を追って考えていて、合格点のレポートだと思います。


Q:今回の授業では多くの植物の葉は共通して平たいが、平面的な形は植物によって様々である。また、葉が平たいのは太陽の光のエネルギー密度が薄いために、同じ体積でできるだけ広い面積を確保するためであるというお話がありました。それに対してサボテンが丸い形をしているのは、地下茎、根、茎などに多くの水を蓄えておける貯水組織が発達しているだけでなく、葉を棘や毛状にして水分の蒸散を極力しないように進化し、また水を失わないために表面積を小さくし、乾燥地帯に適応したためだとわかりました。このように、このような植物の多様性には必ず何らかの意味があり、過酷な環境下で生きるために植物が獲得した知恵や能力なのだと感じました。また、言い換えると植物は動物と違って自分で移動できないため、長い年月をかけてやっと獲得した現在の形や機能は環境によって左右されやすいのだと改めて実感しました。

A:これだと、講義の内容の一部と、それに対する感想で終わってしまっています。エッセイとしてはまあ良いかもしれませんが僕の講義のレポートとしてはまだ不十分です。