植物生理学II 第14回講義

植物の光検知機構

第14回の講義では、植物と動物にとっての光について概観したのち、主に植物が光を検知する機構、光受容体の種類とシグナル伝達を中心に解説しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今日の講義では光発芽種子、暗発芽種子、タコクラゲ、植物ホルモンなどさまざまなテーマを勉強しました。その中で、暗発芽種子について気になったので考察します。暗発芽種子は「光を犠牲にして水分を重要視した」ということでした。しかしそうであれば、別にわざわざ暗条件化に反応しなくても良いような気がします。植物にとって「明るくて水分が豊富な環境」と「暗くて水分が豊富な環境」であれば恐らく前者の方が快適な環境です。なので水分を重要視するのであれば、光ではなく直接水分を感知する構造が有利であると考えられます。では何故、わざわざ暗状況下を感知する構造となったのか。講義の中でもチラッと出たような気はしますが、水分というよりは「乾燥を嫌う」というのが一番の理由であると考えられます。よって光発芽種子と比べると、光発芽種子は光に反応して発芽し、すぐに光合成を始めるので含有養分量も少なく、乾燥に強い一方で暗発芽種子は乾燥に弱いため周りが暗状況(土壌中)になると発芽し、地上に出るまでに時間がかかるため含有養分量は多いものと考えられます。光を嫌う特徴は、植物にとってマイナス面しかないように思いましたが、恐らくその特徴は発芽するまでの間だけであると考えられるので、植物の発芽後には影響がなく、むしろ生存に有利に働いているのかもしれません。

A:後半のところ、せっかくなので、種子の大きさについても考えてみると面白いと思います。といっても、ダイコンやレタスの種子の大きさが直感的にわからないと難しいかな。


Q:本日の講義にて口頭で触れた光回復について、以下に考察する。「光回復:ピリミジン2量体のようなDNA損傷に働く酵素には、長波長紫外線のエネルギーを利用して修復を行うものがある。」(参考文献引用)この光回復は植物に特異的にみられる現象であり、動物では光回復は行われないが、なぜ植物に特異的にこのような現象があるのか推測する。「ヒトやマウスにはこのような光回復酵素はないが、構造的に似た酵素は存在し、光受容や日周リズムの形成などに働いている。」(参考文献引用)という知見をもとに、おそらく植物や動物に分岐する前の生物段階から、降り注ぐ紫外線によって破壊されるDNAに光回復酵素を用いた修復系を用いていたと考えられる。その後、進化の過程で植物では光合成など光を多様に用いる生存戦略を取ったため、現在においても光回復のような現象が見られるのに対し、動物においては光を用いたエネルギー産生より、移動できる形質の獲得による捕食などのエネルギー産生を重視した生存戦略を取ったことや、わざわざ光エネルギーという紫外線などの危険な因子を含むエネルギーを用いないDNA修復経路を獲得した結果、光回復酵素の遺伝子発現量が衰退し、たまたま変異が生じて光受容や日周リズムの形成など別の形質を獲得し、現在に至ったと考えられる。
<参考文献>ベーシックマスター 分子生物学 東中川 徹 その他共編 p.239~240

A:参考文献にある、「構造的に似た酵素」がまさに講義で触れたクリプトクロームだと思います。講義でも触れましたが、光合成に必要な光はエネルギーとして必要なわけですが、光検知システムに必要な光は情報として必要なので、ごく弱くてすみます。その場合、なぜ動物ではそれを使わないか、という点がやや弱いように思いました。


Q:[光合成するウミウシ]動物とは、基本的に葉緑体を持たず移動するものとされているが、授業で触れられたように光合成によってエネルギーを得るウミウシが存在する。興味を持って調べてみた。光合成によりエネルギーを得ると思われるだろうウミウシは、サンゴのように藻類と共生するのではなく、藻類から葉緑体を吸収して細胞内に保持している。それにより得られた葉緑体を盗葉緑体と言う。また盗葉緑体を得る種は限定されたものではなく、それなりに多くの種が得ているそうだ。(うみうし通信 60, 10-11, 2008. )ここで、どうして体内に葉緑体を保持しているのか考察する。よく盗葉緑体に使用される管状緑藻の葉緑体は、陸上植物のものと比べるとゲノム退化がそれほど進行しておらず、充実した遺伝子構成を持っているため自立性が高く、核ゲノムから引き離された状態での葉緑体の維持に有利である。さらに物理的・科学的な強度が強い。また、盗葉緑体を受け入れるウミウシ側には、ゲノム解析によって核情報は移行していないことが分かっている(光合成研究 18, 42-45, 2008.)。ここで、私はもう一つ提供する藻類自体の要因があると考える。ウミウシは捕食する際にその細胞質を吸収する。その時にもし細胞質内に、葉緑体を維持するのに必要であり、得にくい物質が多く含まれていれば、藻類の細胞質内での環境を再現するまではいかずとも、一般の生物の体内環境より葉緑体の生育しやすい環境にすることができるのではないだろうか。ウミウシの葉緑体の保持が遺伝的でないことからも、必要なのは遺伝情報だけでなくその環境ではないか。細胞質内の特異な物質と、盗葉緑体を得るウミウシの体内、得ないウミウシの体内環境を比較して、生育の場としての成分を比較したい。
総参考資料:岐阜大学 応用生物科学部 生産環境科学課程 応用植物科学コース(http://www1.gifu-u.ac.jp/~yyy/yyy/Top.html)

A:自分の体の成分を変えることによって葉緑体を維持できるようになるのではないか、という考察でしょうか。面白いと思います。それであれば、自分の体を変えないで自分自身の目的に最適化するという方針と一長一短であって、進化的に両方の戦略があることが説明できます。


Q:ダイコンの種子は暗発芽種子であり,これは地下部分では水分環境が安定していて生育に有利だからではないかという話が授業中にあった.しかしダイコン自身は陽性植物であり地下部分で芽を出しても,すぐに光合成を行うことは出来ない.また仮に地表部に近いところに植えたとして,暗発芽種子である以上強い光がある所では発芽しにくいと考えられ,光環境が良い状況では発芽しないということになると暗発芽種子である利点が見いだせない.私はダイコンが暗発芽種子である理由として発芽時期の調節があるのではないかと考えた.まずダイコンは多湿を嫌う植物であり,地下深くよりは地表に近いほうが湿度という点において生育しやすいと思われる.一方適切な温度としては15~20度であり寒さに強く低い温度を好む植物である.つまり夏場に発芽してしまうと,ダイコンにとって生育するのに都合が悪く秋にかけて発芽する方が効率が良いだろう.夏は日が長く,光も豊富に存在すると推定される.ヒトの手を介さない環境であればダイコンの種子が地下深くに埋められる状態は頻繁に起こらないだろう.このとき地表付近は光が豊富であり暗発芽種子は発芽できない.そして日が短くなるにつれて暗環境に置かれる時間が長くなったときに発芽すると思われる.そうすると気温はあまり高くない時期であり,空気中の湿度なども低下していることからダイコンの生育しやすい時期に発芽できるため,ダイコンの種子は暗発芽種子であると考えられる.
http://www.asahi-net.or.jp/~ya5h-nksm/yasai_seisitu.html 「野菜の性質」 閲覧日 2012年1月29日

A:季節を光で知ろうということですね。ただ、種子が比較的地表にあるとすると、日が短くなることによる効果を暗発芽の性質で本当い検知できるのだろうか、という疑問は残るように思います。


Q:ダイコンの種子は暗発芽種子であり、光の存在している条件では発芽しない。その理由は発芽前のダイコンの種子が地中深くに存在し、充分に水のある環境でないと発芽しても生存に不利であるからということであった。一方でレタスは光発芽種子であり、光の存在している条件で発芽する。しかしながらレタスの葉にも豊潤な水分が含まれており、やはり発芽してから充分に水のある環境でないとうまく生存できないのではないかという疑問を持った。そこで今回のレポートではダイコンと同じく水が多く必要だと考えられるレタスの種子はなぜ光発芽種子なのかについて考察する。考えられる理由としては、食品として流通しているレタスが常に水分過多の状態であるということである。我々の良く知っているレタスはとてもみずみずしく、そしておいしく感じられるように人工的に生育環境を調節されたり、品種改良されたりして、あのようなレタスになっているのであって、実際の自然界を生き延びるレタスはそこまで水分を必要としなくても生存が可能なのではないかという理由である。そのため地中深くに発芽し水分を多く必要とすることに重点を置いたのではなく、光の存在下で光合成が充分に可能であるという環境になった時に発芽する光発芽種子の形態をとったのではないかと考えられる。

A:レタスについての考察は、育種を視点として取り入れていて評価できます。ただ、論理としては、やはり暗発芽と光発芽を比較する形で進めないと結論は出しづらいのではないかと思います。


Q:今回の授業では「動物の光合成」としてタコクラゲの生態が紹介された。タコクラゲには褐鞭毛藻が共生していて、その褐鞭毛藻が合成した光合成産物をタコクラゲは利用している。光合成産物を直接利用できることは動物の生存にとって一見有利に見える。しかし、褐鞭毛藻を共生させているクラゲは全体のほんの一部に過ぎない。本レポートでは、なぜ全てのクラゲが褐鞭毛藻を共生させていないのかを考察する。褐鞭毛藻から光合成産物を得られるのであれば、クラゲは独立栄養生物として生活することができる。この共生によってクラゲは餌を求めて移動する必要はなくなり、エネルギーを節約できるようになる。また、褐鞭毛藻はクラゲに共生することで、外敵(魚など)に捕食されるリスクをなくし、光合成産物さえ宿主に提供し続ければ安全に生活することができるようになる。以上が共生関係からクラゲと褐鞭毛藻が得られる利益である。では、共生することでどのような不利益が生じるのであろうか。褐鞭毛藻を共生させたクラゲは個体の体積をあまり大きくできないという不利益があると推測される。以下その推測ができる理由を述べる。 個体の体積が大きくなると、個体を構成する細胞数は大きくなり、呼吸により消費される光合成産物の量は大きくなる。一方で、光合成を行う細胞は個体表面にだけ位置していると推測される。また、単位面積あたりに降り注ぐ光エネルギーの量は一定である。よって、クラゲ個体の体積が増加した分だけ、必要な光合成産物量と個体表面で生産できる光合成産物量の差は大きくなっていく。つまり、個体の体積が大きくなるにつれて、クラゲの生存に必要な有機物の量は光合成では賄えなくなっていくのである。ゆえに、褐鞭毛藻と共生したクラゲは個体体積をあまり大きくすることはできない。個体の体積を大きくできない場合、その個体は他の動物に捕食されるリスクが大きくなる。よって、褐鞭毛藻と共生したクラゲには高い捕食リスクが存在する。以上が理由である。捕食されるリスクが高い以上、褐鞭毛藻と共生したクラゲは外敵の少ない環境でしか生存することができない。つまり生存圏が狭いのである。このように、生存圏が狭くなってしまうために、全てのクラゲが褐鞭毛藻を共生させてはいないのであると推測される。

A:すばらしい。以前、細胞の大きさの大小によって、相対的な表面積に比率が変化し、結果として大きい細胞では能動輸送の存在が必須になるという話をしましたが、それをうまく応用していると思います。


Q:今回の授業では、主に植物に対する光の働きについて(光受容体・光応答など)学びました。光発芽種子と暗発芽種子の話で、光発芽種子は光がないと発芽できないが、太陽光は電球などと比べると数百倍もの明るさがあるので、弱くても発芽できる、とおっしゃっていました。光の中でも赤色光が発芽に必要で、逆に遠赤色光は発芽を抑制する、ということのようですが、おそらく発芽後も生長しやすくなるので、理にかなっているのだと思います。では、逆に、暗発芽種子はなぜ光のない所でしか発芽できないのでしょうか。発芽後の環境を考えると、利点があまりないような気がします。もし種子の落ちた場所が周りに他の植物の生えているような暗所でも発芽できるため種の繁栄に有利になる、ということだとしても、その後生長できなければその種子は発芽した意味がなくなってしまうのではないでしょうか。周囲の植物を押しのけて大きく生長できればまた違うのかもしれないですが、背の低い植物には不利になってしまうような気がします。

A:論理としてはよいのですが、困ったな、で終わるのはやはりさみしいですね。ということは、こんな別の要因が働いているのではないか、という展開にできると非常によいレポートになります。


Q:前回の授業で扱った気孔の開閉について調べてみた。授業では気孔の開鎖にはフォトトロピンとの相関関係があることが触れられていた。では実際にフォトトロピンは気孔の開鎖にどのように関わっているのだろうか。参考文献によると、「青色光による気孔開口では、フォトトロピンが青色光受容体として機能しており、光シグナルは細胞内シグナル伝達を経て、細胞膜のプロトンポンプ、細胞膜H+-ATPaseC末端のスレオニン残基のリン酸化とリン酸化C末端への14-3-3蛋白質の結合により活性化し、気孔開口の駆動力を形成している。」しかしながらフォトトロピンからいかにして細胞膜のH+-ATPaseが活性化されるのかについてはいまだに明らかにされていない。そのほかに、サイトカイニンも気孔の開鎖に関係していることが明らかになっている。ではサイトカイニンの役割はというと、孔辺細胞内のサイトカイニン量が増加し、カリウムイオンが流入、その結果孔辺細胞の浸透圧が高まり、水分が流入してきて膨圧が高まり、結果として気孔が開くのである。ではフォトトロピンの作用とサイトカイニンの作用には関係があるのだろうか。私が考えるに、プロトンポンプがH+を細胞外に放出し、カリウムイオンを取り込む作用をするのではないか、そのプロトンポンプの働きを促進しているのがサイトカイニンなのではないか。この考えを立証するためには、サイトカイニンの存在の有無によるプロトンポンプの働きの違いについて証明しなければならない。行う実験としてはサイトカイニンの量的変化と細胞内外のH?、K?の量の変化を比較するというものが考えられる。さらにはサイトカイニンがプロトンポンプに働くシグナル伝達についても明らかにできるとなおよいのではないかと思う。
参考文献:気孔開閉と細胞膜H?-ATPaseの活性調節機構の解明、実験者:木下 俊則

A:前半、自分の論理と関係ない部分がちょっと余計ですね。あと、自分の「考え」が何に基づいて考えられたのか、という点がほしいところです。


Q:今回の授業での森林の葉が光を求めて枝を伸ばし、空を覆っている写真がとても印象的だった。これは植物の「避陰反応」によるもので光受容体が大きく関わっている。植物の光受容体にはフィトクロム、クリプトクロム、フォトトロピンが存在する。中でもフィトクロムが日向と日陰の判断を行いこの避陰反応を引き起こしている。植物は光を得るために次のような様々な対策をしている。①光発芽:光が十分に当たる場所で生育するため、種子が光を感じてから芽を出す。②芽生えの緑化:芽生え(モヤシ)が光を感じてから芽を出す。③花芽形成:日の長さをはかり、花の時季を合わせる。④避陰反応:発芽したい時すでに周りの他の植物が繁茂していれば、十分な光を求めて背の高さを競いながら日向に出ようとする。⑤光屈性:発芽したところが運悪く日陰であればより光強度の高い方向に茎を曲げ、光を吸収しやすい方向に葉を展開する。また、フィトクロムは光合成系とは無関係に働くことができる。これは、もし光合成によって全てを行おうとすると、種子の生長より先にあらかじめ光合成をするための葉緑体や光合成器官を用意する必要があり、余分なエネルギーを必要としてしまう。そのため、フィトクロムが光合成系とは別に光環境をモニターすることによって、効率化をはかっていると考えられる。また、フィトクロムは、菌類を除く全ての植物が持つ光受容体である。このことからも、動物のように直接移動手段を持たない植物がその地域に適応、生存していく上で光受容体はとても重要な大きな役割を担っているということが分かる。
参考文献:・http://www.tsukuba.ac.jp/public/booklets/forum/forum80/01.pdf、・瀧澤美奈子「植物まるかじり叢書② 植物は感じて生きている」2008年3月20日/日本植物生理学会

A:フィトクロームと光合成が独立であるという点が、このレポートで考察された点です。前半は単に調べたことなので、光合成と独立であるという自分の考えを中心にしてレポートを構成するようにするともっとよいレポートになります。