植物生理学II 第10回講義

窒素同化、植物の花

第10回の講義では「植物の根」の続きとして窒素同化について軽く触れたのち、植物の花の色の決定(色素合成)、咲く時期の決定(光周性)および構造の決定(ABCモデル)について解説しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の講義では花について勉強しました。その中で「ABCモデル」に興味を持ったので考察します。講義の中で、遺伝子が働く組み合わせによってできる器官も異なるということでした。(A→がく、A+B→はなびら、B+C→おしべ、C→めしべ)ここで、遺伝子Bだけが発現したらどうなるのか、考えてみます。BはAをより派手に、大きくし、虫に発見されるよう変化を促します。一方、BはCを雌から雄に性転換させてしまいます。この変化は全く異なるものです。このことから、遺伝子Bは2つの要素、即ち「がくを花びらにする」「めしべをおしべにする」という働きをする要素をもつ遺伝子であるといえます。よって、遺伝子B自身はどの器官を形成する能力も持たず、その代わり他の遺伝子の発現を調節する役割を担っているのだと考えられます。実際、BはPl、AP3という2つの要素を持っているようなので、一方が花びら形成、もう一方がおしべ形成を担っている可能性があります。このことを確認するには、Pl、AP3のどちらかを失活させ、AやCに作用させて発現させ、花びらやおしべの異常を調べる実験系が有効だと考えられます。(参考:『日本植物生理学会』野生型の花とABCモデル http://www.jspp.org/17hiroba/photo_gallery/11_goto/goto-2.html)

A:悪くはないと思うのですが、できたら問題点の設定に必然性を与えることができるとよいと思います。単に「遺伝子Bだけが発現したらどうなるのか」というだけだと、なぜそのように考えたのかの必然性が感じられません。レポートでも学術論文でもそうなのですが、うまくイントロを工夫して目的の問題点が自然と(つまり必然性を持って)引き出されるようにすると、読者を納得させるものになります。


Q:今回の講義にて学んだ花の色と色素について以下に述べる。花の色には様々な多様性が見られ、一般にヒト(女性)は赤いバラは美しいと感じることがあるが、昆虫にとって花があると認識するのはどのような色なのか?「昆虫の可視光は、360nmの波長をピークとして、300~500nm 前後の光に対して走光性を示す。一方、人間の目には 400~750nm 前後の可視光線領域を光として感じる。つまり、昆虫が見える光は、人間の可視光線領域より短波長側に中心があることになる」(参考文献1)「日本に自生している野生植物で最も多い花色は白色と黄色で、それぞれ約3割を占め、次いで青、青紫、赤紫が約2割を占めます。赤色や橙色の花色を持つ植物はほんのわずかである。一方、花屋で売られている花を眺めると様々な色の花が売られています。その多くは育種によって野生種にはないものが作られた結果です。」(参考文献2)虫媒花である花の色の生物学的な意義はヒトに美しいと感じてもらうためではなく、虫に花の所在を知らせるためであり、虫とヒトでは花の見え方も異なる。ここでなぜ、白色の花が多いかについて考察すると、花の色素のフラボノイドは可視光を吸収しないが、紫外光は吸収する性質を持つ。ヒトにはすべての光を反射しているように見える白色の花にもフラボノイドが含まれている。太陽光のうち光合成に不必要で、花弁の中に含まれるDNAが損傷する紫外光を防ぐ役割が、昆虫の誘引以外にもあるのだと私は考える。逆に野生種では稀に赤色や橙色の花を持つ種が存在する理由として考えられるのは、その環境下の媒介する昆虫にその植物の特異性を利用するため、あえてその色素の花にし、蜜やにおいなど異なる要素で昆虫を誘引し、他の植物との競争に勝ってきたのだと考える。
<参考文献>1.昆虫と光   東海大 バイオフォトニクス 千葉大院融合 椎名平成 20年 10 月 22 日 http://berno.tp.chiba-u.jp/lectures.files/Biophotonics/08/4Insect.pdf(参照日時2011/12/10)
2. 独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 花き研究所 花の色のしくみ  http://www.flower.affrc.go.jp/topics/color/mechanism.html(参照日時2011/12/10)

A:この点に関しては、昔から有名なのは、人には一色に見える花が、紫外部の吸収のあるなしでみると模様を持って見えることです。その写真も紹介した方がよかったですね。


Q:【日長と温度による調整】植物は環境条件の変化を受け、花成の制御を行っている。日長により花成促進因子(CO)の転写が抑制される。温度により、花成抑制因子(FLC)の転写が抑制される。また、自律信号回路により、花成抑制因子の転写が抑制され、温度は自立信号に影響を与える。日長と温度・自立信号によって調節される因子が異なることを不思議に思った。日長・温度・自立信号・ジベレリン反応の4つの経路は冗長であり、どれかひとつの経路の機能が失われても、花成が完全に阻害されることはない。(京都大学大学院 生命科学研究科 分子代謝制御学(http://www.lif.kyoto-u.ac.jp/labs/plantdevbio/index.html)予期せぬ時期に開花しダメージを受けないように保険をかけたと考えられる。例えば季節の変わり目では、温度が一定の割合で変化する信頼は低い。そのため温度は自立信号を経由して影響を与えるほど、光に対して重要度は小さい。しかし常に薄暗いような光環境の下では、光の変化を受容することができない場合があると考えられる。その場合開花出来ないリスクを負うよりは別の要因を信用して開花することを選んでいる。

A:前の半分は議論の前提知識なので、実質的な議論の展開は後ろ半分だけになります。この部分をもう少し一つ一つの論理のステップを明確にして議論するようにするとよいレポートになります。


Q:花色の決定因子として色素,液胞のpH,金属錯体の形成が関与しアサガオは液胞のpHを変えて花色を変えていると学んだ.そこで私はアジサイの花が赤や青の色を取ることに注目し,この花色を調節する方法を考察する.まずアジサイは土のpHによって色が変わり酸性で青,アルカリ性で赤になるようである.さらにアジサイの色素はアントシアニンのデルフィニジンのみであり,これとアルミニウムの結合によって青色となることが分かった.ここで土の酸性度によって色が変わる仕組みとして,デルフィニジンがpHで色が変わる場合とそれ以外の可能性の2つを考える.アントシアニン系の色素は酸性で赤,アルカリ性で青の色を示しデルフィニジンもpHが低いと深紅色を呈することから,デルフィニジンが土のpH変化を受けて色素単独で色を変える可能性は低い.するとデルフィニジンとアルミニウムの結合度による変化が推定され,これは土壌中の水に可溶なアンモニウムイオンの量と密接に関係しているだろう.土壌中のアルミニウムは酸性条件下でアルミニウムイオンとして溶け出す.そしてアルミニウムイオンは塩基性条件下では水酸化アルミニウムとなりこれは水に不溶である.このことから土壌が酸性であれば,水の中にアルミニウムイオンが含まれこれがデルフィニジンと結合し青色を呈し,塩基性下ではアルミニウムが水に不溶な形となり,アジサイに取り込まれずにデルフィニジン本来の赤色を呈する.これを確かめるためには,青色のアジサイと赤色のアジサイそれぞれについて植物体の中に存在するアルミニウムイオンを定量し青色のアジサイでアルミニウムイオン濃度が有意に高いと示されれば良いだろう.そしてアジサイの色を調整する方法であるが,まず1つは土壌の酸性度を変化させることそして与える肥料として,リンの量を変化させる方法があるだろう.アルミニウムイオンはリン酸とも水に不要なリン酸アンモニウムを形成することから,リンが多ければ塩基性土壌と同じように赤い花にすることができると思われる.

A:レポートの問題の設定と論理はよいと思います。ただし、自分の観察・論理と一般的に言われている知識があまりきちんと区別されていないようなので、そのあたりをはっきりさせた方がよいでしょうね。特に、「になるようである」というような伝聞(?)については、著作権法上は問題がない場合でも出典をつけた方がよいでしょう。


Q:動物に花粉を運搬してもらうために花は目立つように作られており、花粉を大量に生産する種では数打てば当たる作戦で目立つ花をつける必要がないということを学んだ。一見すると花粉を大量に生産することは減数分裂をしきりに繰り返すため体内資源を浪費して不利に働いて淘汰されるのではないかとも考えられるが、きちんと地球上に生存をしている。この理由について考える。まず1つ目として簡単そうに見える着色も、実はそれなりの労力を用いることが考えられる。着色には色素が必要である。それらの物質を生合成するためには一連の遺伝子群が必要であり、またそういった遺伝子の発現調節機構も備わっていなければならない。そのためどちらの戦略を取るにしても、一定の負荷がかかるということが考えられる。2つ目に、動物に花粉を運搬してもらうためには当たり前であるが周囲に動物のいる環境でなければならない。一方で風や水に花粉を運搬してもらう種ではその必要がない。動物と、風や水などの自然を比較するとやはり自然のほうが安定して花粉を媒介してもらえることが考えられる。この考えは花粉を大量生産する種の利点である。これらの理由から、一見不利に見える花粉を大量に生産する種も地球上に存在していることが考えられる。

A:これは問題点の設定と議論の筋道、そして結論がきちんとしていているレポートだと思います。欲を言えば、もう少し実際の植物種名を出して具体例を挙げて議論できるとさらによいと思います。


Q:今回の講義でカルビン回路での炭素回路は光合成というのに窒素回路は窒素同化といい、光合成とは言わないということを学んだ。ここで考察する。二酸化炭素を固定するとデンプンになるというが、これは違う。二酸化炭素の大半はセルロースになる。C3植物よりもC4植物のほうが効率良く光合成ができる。これはC4特有の受容体が二酸化炭素と反応しやすく、低濃度の二酸化炭素でも光合成反応を行うことができるからである。受容体の違いでこの差が生まれる。

A:はじめにいくつか訂正。「カルビン回路での炭素回路」というのは「カルビン回路での炭素同化」でしょうね。「窒素回路」となっていますが、全体として回路になっているのではないので、「窒素代謝」でしょうか。GS-GOGATサイクルは紹介しましたが。あと、「光合成とは言わない」というのはあくまで「一般的に言わない」のであって、光合成の一部として考えることはできます。考察に関しては、どのような論理なのかが理解できませんでした。


Q:今回の授業では、花の構成器官(がく、花弁、雄しべ、雌しべ)はA、B、Cの3つの遺伝子の発現の仕方の違いによって形成されるという「ABCモデル」について扱われた。本レポートでは、このABCモデルをもとにして「地球で最初に誕生した花はどのような形態であったか(どのような器官を持っていたか)」を考察する。花の最も重要な機能は「生殖」であるので、どんなに原始的な花であっても生殖器官は備えていたと仮定できる。ABCモデルにおいて、雌しべはC遺伝子が単独で発現した場合に、雄しべはB遺伝子とC遺伝子が共に発現した場合に形成される。雌しべと雄しべだけが存在する場合でも生殖器官としては機能できるので、原始的な花では雌しべと雄しべ(に類する器官)のみが存在していたと推測される。言い換えると、原始的な花にはB、C遺伝子のみが存在し、A遺伝子はもっと後になってから誕生したと予想されるのだ。では、雄しべと雌しべはどちらが先に誕生したのであろうか。B遺伝子とC遺伝子の特徴から雌しべの方が雄しべよりも先に誕生したと推測される。以下その推測ができる理由を示す。ABCモデルによると、B遺伝子単独では花のどの器官も形成することができない。よって、雄しべと雌しべだけが存在する花を持つ植物においてC遺伝子欠損株を作ると、その個体では花は形成されない。したがって、B、Cのどちらか一方のみを持つより原始的な植物が存在したとすると、花を持つのはC遺伝子のみを持つ植物である。以上より、最も原始的な花はC遺伝子のみから形成されるから、雌しべは雄しべよりも先に誕生したと推測される。以上が理由である。ゆえに、地球で最初に誕生した花は雌しべのみで構成されていたのであろう。
桜井英博他著 植物生理学概論初版 培風館(2008)

A:面白いのですが、最後の部分、めしべだけでは生殖できませんよね。その場合の生殖について若干説明を補足する必要があるように思いました。


Q:今回の授業では、根についての続きと、花について、主に花成を学習しました。 暗期についての話で、長日植物や短日植物は夜の長さで花が咲くか否かが変わる、ということでしたが、そもそも暗い時間の長さの違いが必要なのは何故なのかと考えたところ、春夏秋冬で昼夜の長さが変わるため、その時間の差によって植物が四季を判別しているからだ、ということに気づきました。では、赤道付近では昼と夜の長さが1年を通してあまり違いがないはずです。植物を長日植物、短日植物、中日植物の3種で分類すると、赤道付近には長日植物が生息できないのではないでしょうか。温度の問題や、土地の環境にも寄るとは思いますが、おおまかに見れば、地球上での、場所により植物(限界暗期で分類)の生息状況が違い、赤道に近づくほど長日植物が減るのではないかな、と思いました。

A:まあ合格のレポートだと思います。ちょっと瞬間芸的な感じで、もう少しふくらみがほしい気はしますが。


Q:今回の講義では、花成反応が暗期の長さによることを学んだ。そこで、短日植物と長日植物の受粉について考えてみた。短日植物は種ごとに決まった時間よりも暗期が長い場合、逆に長日植物は短い場合に花が咲く。つまり、短日植物は秋・冬に、長日植物は春・夏に花が咲くと考えられる。春・夏は主な花粉の媒介者である虫が多く存在することから、長日植物の方が多く存在し、虫媒介の受粉をしていると推測される。では、短日植物はどうやって花粉を運んでいるのだろうか。虫媒介以外に風媒や水媒体の受粉も考えられるが、冬にもキク・ツバキなど色鮮やかな花が存在するため、何かを引きつける目的を持っていると推測される。虫以外に花粉を媒介する生物としては鳥が挙げられる。よって、短日植物は競争の激しい春・夏を避けて、冬・秋に花を咲かせて鳥媒介で受粉すると考えられる。

A:よい議論だと思います。もう一つ考えてほしいのは、昆虫がどのぐらいいるかは、明期の長さよりも温度の方に相関があるのではないか、ということです。一年で一番日が長い夏至は6月にありますが、一番暑いのは8月でしょう。昼と夜の長さが同じになる秋分は9月23日ですが、最近では残暑が厳しい時さえあります。というわけで、「短日条件=寒い」というわけではありませんから、虫媒花の比率を短日植物と長日植物で調べたときに、期待するほど大きな差は出ないかもしれません。


Q:今回の授業の花についてのお話の中で、花粉を運ぶのにナメクジ媒体の植物があるということを初めて知りました。ナメクジは動くのも遅いし、行動範囲もあまり広くなさそうなので、なぜナメクジを媒体としたのか疑問に思いました。ナメクジで花粉を媒体する植物はオモト(万年青)以外にもカンアオイ属の植物などがありました。これらの植物の共通点を考えてみたところ、花が葉に隠れてしまうようについていました。これらの植物は、葉を大きくして光合成の効率を上げることにエネルギーを使い、花を付ける茎は短くなってしまったのではないかと考えます。しかし、花が地表近くにあっては風で飛ばしてもあまり飛ばないし、蜂などの昆虫もあまり気づいてくれないのではないかと思います。そこで、普通葉を食べてしまって害虫となるナメクジを利用して、食べられることで体に花粉を付けて、近い距離での種の繁栄を図ったのではないかと考えました。
参考:イー薬草ドットコム http://www.e-yakusou.com/

A:考え方はよいと思います。ただ、できたら環境とのかかわりまで考察できるともっとよいですね。「花が葉に隠れてしまう」というのは植物の側の共通点ですが、そのような共通点をもつにいたった何らかの原因があるのではないかと思います。ほかの植物でも「葉を大きくして光合成の効率を上げる」方がよいと思いますが、オモトなどだけがそのようにしている環境要因を考えてみると面白そうです。


Q:今回の授業では「花」についてのお話があり、その中で植物の送粉方法として、虫媒花や鳥媒花等の動物媒花と風媒花が挙げられた。風媒花は風任せであり、花粉を一方向に飛ばすことしかできないため花粉をたくさん飛ばす必要があるとのことですが、これは一見非効率な送粉方法なのではないかと感じた。なぜなら風媒花の欠点として①風媒花は、同一の植物が密生して生育する場合や高木などの風を受ける場合には有効であるが、点々と生育している場合や林内などの風のあまり強くない場所では効率が悪い。②花粉を一面に散布してしまうため、大量の花粉が無駄になってしまう。ということが考えられるためである。しかし、実際には風媒花は数多く存在する。その理由として風媒花には次のような利点があると考えられる。
①動物媒花は花粉や種子などへ資源を投資する以外に 送粉者を誘引するための花びらなどの器官にも投資する必要がある。風媒花の方が資源の投資という面からみるとコストが少なくてすむ。②風はどこででも利用でき、普遍的に活用できる方法である。③動物媒花は花粉を運ぶ送粉者が必要不可欠であるため、花粉媒介を行う動物と花との共進化が起きると、一方がいなくなればもう一方の生存が危うくなる可能性があるが、風媒花ではその心配はない④動物媒花は花を目立たせることによって動物を誘引するが、花粉は動物にとって栄養価の高い食物であるため、花が目立ってしまうと食べられてしまう確率が高くなる。一方、風媒花では花を目立たせる必要がないため、花は小さく、香りもない。そのため動物に食べられる心配がない。
 このようなことから、風媒花は決して送粉方法として劣っていない。むしろ風媒花は、他の動物に依存せず、広範囲の条件下で受粉を成立させることのできる方法であるといえる。また、南の地方では虫媒花をもつ植物が多いのに対し、北の地方では風媒花をもつ植物が多いということからも、送粉を行う動物や昆虫の少ない寒冷な地域では効果的な送粉方法であり、的確な生存戦略であると考えられる。
参考文献・http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~algae/BotanyWEB/pollination.html#anemophily、・http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~algae/BotanyWEB/zoophily.html

A:これも上の方のレポートと似ていますが、できたらもう少し具体的な植物について考察できるとよいですね。一般論だけだと、どうしても常識的な結論しか出てきません。ここでは、南と北の植物の例が出てきており、そこが腕の見せどころだったように思いますが、利害損得の両面からの考察になっていないのがちょっと残念です。