植物生理学II 第4回講義
植物の茎
第3回の講義では、最初に前回の補足として、水中植物の気孔について触れた後、主に茎の役割と、導管の位置づけについて解説しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。
Q:それぞれの植物の置かれている状況に最適な構造を、植物は進化の過程で選別している具体的な例を知った。たとえば、水中と陸上では重力の影響や光の届く量に差がある。水中植物では、陸上植物に比べて光の届く量が小さいため、葉の厚さが薄く細胞の層が2,3層しか存在しなく、また、そのために気孔はない。陸上植物では重力の影響が強いため、茎がしっかりした構造になっている。植物の置かれている状況をもっと分類すれば、もっとたくさん環境適応の例を知ることができるだろう。
A:内容的にはもっともですが、僕の講義のレポートとしては、もっと自分なりの視点、独自性が欲しいですね。単に講義の内容をまとめるのではなく、自分の論理で切り込むようなレポートを期待します。
Q:導管を流れる水の移動には、圧ポテンシャル(Pa)・浸透ポテンシャル(Pa)・マトリックポテンシャル(Pa)が関係していると学んだ。参考文献(1)によると、圧ポテンシャルは蒸散によって引き起こされる力である。では、気孔を閉じている状態では水の移動は可能なのであろうか。一般的な草本について考察する。
まず、この植物の導管の半径をR(cm)とする。また、地上0mから1mまで水を持ち上げるときを考えるとし、水の密度を1.0(g/cm^3)とする。このとき、導管の体積はπR^2×100(cm^3)であり、この導管内に存在する水の質量は100πR^2(g)である。また、重力加速度を簡単のため10(m/s^2)としてこの水にかかる重力を考えると、πR^2(kg・m/s^2)=πR^2(N)と表せる。重力による影響を重力マトリックスG(Pa)とする。したがって、G(Pa)=πR^2(N)÷πR^2×10^-4(m^2)=10^4(Pa)と求められる。次に、参考文献(1)よりマトリックポテンシャルM(Pa)は2δ/Rで与えられる(δは水の表面張力)。ウィキペディア(http://ja.wikipedia.org/wiki/表面張力)より、20℃の水の表面張力は73(mN/m)である。したがって、M(Pa)=2×73/Rである。また、20℃のときの浸透圧を考える。植物中の溶液は生理食塩水であると考えると、その質量%濃度は0.9%であるので、NaClのイオンは二つに電離することに気をつけてモル濃度に直すと0.32mol/lである。したがって、浸透圧をP(Pa)とすると、P(Pa)=0.32mol/l×8.3×10^3×293K=7.8×10^3Paと求められる。以上のパラメータを合わせたものを水ポテンシャルW(Pa)とする。気孔が閉じた状態では圧ポテンシャルは0と考えてよいので、W(Pa)=M(Pa)+P(Pa)−G(Pa)と考えられる。したがって、W(Pa)=146/R+7.8×10^3−10^4=(77×10^4R+146)/R≒77×10^4(Pa)と求められる。
この結果より、W(Pa)は定数となったので、植物は気孔が閉じた状態でも水を安定して移動できると考えられる。
参考文献(1)「ベーシックマスター植物生理学」塩井祐三 他著 オーム社 平成21年2月20日第一刷発行
A:うーむ。この計算にはついていけませんでした。水ポテンシャルというのは、ある特定の場所の水について定義できる数であって、「地上0mから1mまで水を持ち上げるとき」には、地上0mの位置の水ポテンシャルと、地上1mの位置の水ポテンシャルを比較することが必要となります。最後の「定数となった」というのは、Rが式からなくなった点を言っているのでしょうか。「安定して移動できる」という意味もわかりませんでした。
Q:花がしぼむとタンポポの花茎は倒れることの意味を考えた。まずひとつ目に、「まだ花の咲いている同個体あるいは他個体の花を目立たせるためではないか」ということを考えた。しかしこれについては、可能性は非常に低いと思われる。たとえ花がしぼんだ後に茎が倒れなかったとしても、開花しているものの方が、しぼんでいるものよりも十分目立つと考えられるためである。次に考えたのは、「茎を倒すことで光合成面積を増やしているのではないか」ということである。ひとつひとつの個体が孤立して存在しているならばそれほど問題はないだろうが、群生している場合、茎のつくる陰の面積が大きくなり、光合成量にも影響が出ると考えられる。すなわち、タンポポの花がしぼんだ後に花茎が倒れるのは、葉の位置が低いが故のことなのではないだろうか。
A:この場合、目立たせる効果とは考えられないので、光合成に対する影響のせいではないか、という論理ですが、他に選択肢があるかもしれないので、論理としてはやや弱いですよね。そのようなときは、その論理をどのようにしたら確かめられるかまで考えると、よいレポートになります。
Q:高等植物ではあるが、水草の葉には気孔がないとないという。このことため光合成を行うために必要な二酸化炭素は水に溶けたCO2を取り込むことになる。二酸化炭素は水に溶けると、H2CO3(炭酸)となる。つまり炭酸を直接取り込んでいると考えられる。もしくは炭酸ガスを取り込んでいるだろう。ただし二酸化炭素は空気中に比べはるかに濃度が少ない。そのため二酸化炭素を取り込むために、陸上植物とは異なる点があるはずである。
まず考えられるのは、クチクラの存在価値である。水中植物は水中で葉が生活しているために水蒸気として水分を失うことはない。これから水草にはクチクラはないのではないかと考えられる。茎には葉の配置、花の配置、として機能している。しかし水中では光の力は弱くなり、散乱すると考えられる、また花を咲かせるような水草は少ない。このことから陸上植物より、茎をのばす必要がないのだろうか。また水中で抵抗が少ないので茎を太くする必要性もないであろう。根に関しては、水を求めてのばしていく必要もないので陸上植物とは異なる性質を持っていると考えられる。根は呼吸をしているから(根呼吸)水中にある酸素をうまく込めるように進化をしているはずである。一つ過程ができるのが呼吸が必要なために、水中から出て呼吸をしているというものである。根を空気中にだすことで効率よく二酸化炭素が取り込めるようにするのである。その場合、根は栄養(リンとか)も必要であるから栄養を吸収する根と酸素を取り込む根と二つに分かれていると考えよう。
A:まず、前回の講義で紹介したように、水の中では二酸化炭素濃度が低いとは言い切れません。それでも「陸上植物とは異なる点があるはず」というのは正しいでしょうね。クチクラのところまでは二酸化炭素の取り込みについての影響の考察になっていますが、後半は、やや話題がそれていっているように思います。もう少し焦点を絞った議論を目指しましょう。