植物生理学II 第3回講義
表皮と気孔
第3回の講義では、主に気孔の役割と、その開閉のメカニズムについて解説しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。
Q:フォトトロピンは青色光を吸収して気孔を開かせる。なぜフォトトロピンは赤色光ではなく青色光によって気孔を調節するのかを考える。まず、青色光は波長が約450nmなのに対して赤色光が約700nmである。これよりそれぞれの光の持つエネルギーEはE=hν (hはプランク定数、νは振動数)より青色光の方が大きい。また、孔辺細胞は葉の裏側にあるために光が届きにくいと考えられる。これらのことから、限られた量の光でより大きなエネルギーを吸収できる青色光の方が効率がよいと考えられる。次に、レイリー散乱により、朝や夕方は赤色光が地表に届きやすい。(参照:ウィキペディアhttp://ja.wikipedia.org/wiki/レイリー散乱)また、気孔は葉緑体が赤色光と青色光を吸収することによっても開くが、赤色光だけでは最大までは開かない。これらのことから、光が弱い朝には赤色光のみを利用することで気孔の開きを抑えて水分を蒸散で失わないようにし、光が強くなる日中には気孔を最大限まで開けて二酸化炭素の入れ替えを積極的に行うためだと考えられる。これら二つの点より、フォトトロピンは青色光を吸収するのだと推測できる。
A:これは面白い考察だと思います。後半の、朝夕と昼間の気孔の開き方を、色の違う2種類の光受容体で実現しているという考え方は独創的です。あとは、できれば、その他のシグナルとの関係も考慮に入れられるといいですね。その意味で、次のレポートは、このレポートと相補的な部分を考察していると言えるでしょう。
Q:気孔の開口にフォトトロピンが関与している、ということに疑問を感じた。
光の受容という点ではフォトトロピンの他にも、クロロフィルが青色光と赤色光を時吸収して光合成を行うことで細胞内の二酸化炭素濃度が低下する、ということが関わっている。光が当たって気孔が開くのは、光合成に必要な二酸化炭素の取り込みのためであるから、フォトトロピンは気孔の開口に関与する必要がないように思われる。何故、気孔の開口にフォトトロピンが関与しているのだろうか。
その理由のひとつには、クロロフィルだけでは、光の受容は気孔の開口に直接関与し得ないから、ということが考えられる。もし気孔の開口にフォトトロピンは関与しないとすると、光が当たった時、光合成が行われて細胞内の二酸化炭素濃度が(光合成を行うには不十分なまでに)低下して初めて、気孔が開くことになる。そうなれば、一次的にではあるが、同じ光条件下でも、光合成速度が下がるのではないだろうか。しかし、フォトトロピンが青色光を受容したことにより気孔が開くのであれば、二酸化炭素濃度が低下する前に気孔が開いて二酸化炭素が供給されるため、光合成速度は低下することはない。すなわち、二酸化炭素濃度の低下により光合成速度の低下を防ぎ、効率的に光合成が行えるよう、フォトトロピンは気孔の開口にも関与しているのではないだろうか。
A:これもよく考えたレポートだと思います。二酸化炭素をモニターした時と、光をモニターしたときで、いわば応答速度が違うだろう、という点に目を向けたのは素晴らしいと思います。
Q:今回の講義で水中の酸素濃度は空気中と比べて極めて低く、水中の生物は呼吸が大変であるということを習った。しかしながら二酸化炭素の濃度は水中・空気中であまり変わらずさらにイオンの形でも存在できるので、むしろ植物の光合成には有利であるということも学んだ。それらも考慮しながら水中と陸上のどちらが植物にとって良い環境なのかを考察する。まず水中と陸上の利点・欠点を考えてみる。
[水中]
(利点)・水が豊富→乾燥の心配がない、道管や根がいらない
・二酸化炭素を多少得やすい→イオンで取り入れるので気孔がいらない
・温度変化が少ない→ストレスが少ない
・水の浮力を用いて生活できる→自立しなくて良い
(欠点)・光が得にくい→光合成をしにくい、水深が深くなるとさらに光が届きにくい
・水中では酸素が得にくい→呼吸をしにくい
[陸上]
(利点)・光が得やすい→立体的に葉を配置できるため
・酸素を得やすい
(欠点)・乾燥や紫外線の危険にさらされる→クチクラ、気孔、維管束、根の発達
・温度変化が水中と比較して大きい
・重力に耐えなくてはならない→強靭な体をもつ
このようにみてみると、水中の植物のほうが単純な仕組みで生きていくことができるということがわかる。水中では酸素を得にくいという欠点をもつが光合成によって生じる酸素をどこかに集めておくことができればこれは克服できるはずである。しかしながら植物が体を複雑な構造に進化させてまで陸上に進出してきた理由には、光の存在が挙げられるであろう。水中では光を得やすい立体的な構造をとりにくく、水深の深いところにはクロロフィルと異なった波長の光を吸収するフィコビリン(紅藻類)なども存在するが光の得やすさは陸上には敵わなかったと考えられる。このような理由で高等植物は陸上で進化を重ねて現在の形になっているのであろう。今後陸上で生育していた高等植物が水深の浅い水中に進出すれば、光を得やすい立体構造をとった上で気孔や道管を必要としなくなり光合成色素をより多く配置できる(=光合成がしやすくなる)のではないだろうか?
A:これもきちんと考察がされています。「海藻」ではなく「海草」というのはまさに高等植物がもう一度水中に戻ったものと考えることができますよね。ただ、それほど普通の海藻に比べて反映しているように見えませんが、そのあたりも考察できるとよいように思いました。
Q:今回の授業ではプロトプラストについて興味を持った。昔から母が植物をよく育てていて、切って水に挿しただけでなぜ根が出るのだろうかと疑問だった。異種の植物同士のプロトプラストを混ぜ合わせ細胞融合させることができるのは、動物の筋芽細胞が異種間でも融合するというものに、異種間融合という点で似ている。プロトプラストと筋芽細胞は全く別物ではあるが。植物の場合プロトプラストの融合で雑種を作ことができる。動物において異なる種の筋芽細胞を掛け合わせ、強い力を発揮できる優れた筋肉を作ことができないだろうかという疑問を以前持った事がある。プロトプラストを高収率で得るためには諸条件を整えなければならないことは明白である。クエン酸、グルコースの組み合わせが促進させることなどが分かっているが、まだ研究の余地はあると思う。また、植物を切断した時にプロトプラストはその足りなくなった(必要な)組織を作るが、細胞間シグナルはどのような機構なのだろうか。
A:「どのような機構なのだろうか」と疑問で終わらずに、自分で考えることが重要です。別に考えた結果「正解」が求まるかどうかは重要ではありません。可能性をいくつか考え、その中でいろいろな条件を満たすものは何かを考え、結果として、どれがもっともらしい、という考察のステップを踏むことが、科学では大事です。
Q:気孔の役割として二酸化炭素を取り込む、つまり光合成基質の確保がある。 また気孔から水を蒸発させることで茎の中を水が上昇することで蒸散流をつくり、物質を輸送するのと、葉の温度の上昇を気化熱により下げる働きがあるという。このような働きをしているが一番気孔にとって気を使わなければならないのは水であるという。二酸化炭素濃度が高い環境にいるとき、水を失わないように気孔を閉じるという。しかし植物としては水と二酸化炭素からなるべく多くの炭水化物を合成するべきであるので、常に気孔を開いて二酸化炭素を取り込んでいたいはずである。より二酸化炭素を吸収することで成長を早めることができるであろう。より気孔を開くリスキーな植物を品種改良で開発することで、地球全体の二酸化炭素を減らすことはできないであろうか。つまり二酸化炭素吸収に特化させるのである。成長が早い分、すぐに枯れてしまうであろうからなるべく人間が活用できるようなものがいいであろう。バイオエタノールになるような植物であれば一石二鳥である。植物は二酸化炭素を固定し酸素を精製する唯一の存在であるのだから、可能性はまだまだあるはずである。
A:これも、悪くはないのですが、せっかく機構の開閉のメカニズムを勉強したのですから、「より気孔を開くリスキーな植物」は、何をどのように変えたら実現が可能か、また、その植物は具体的にはどのような点でリスキーなのか、という点まで考察できるはずです。もう一息。