植物生理学II 第13回講義

植物ホルモンその3

第13回の講義では、植物ホルモンのエチレンやそのほかのステロイドホルモン、ペプチドホルモンを中心に紹介しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:CLV3というペプチド性ホルモンが、植物の茎頂幹細胞の成長制御を行っているということがわかったが、植物の成長には栄養成長と生殖成長があって、茎頂の成長は栄養成長に属す。そして、栄養成長から生殖成長に対する切り替えのことを花成というが、植物が花成する条件には4つあって、それは光条件、温度条件、自律的条件、ジベレリン条件が相互に独立に働いている。花成によって成長の種類が切り替わるとき、以前の成長とは全く異なるようになることから、スイッチのオンとオフのように切り替わるのではないかと予想される。スイッチの役目が遺伝子による制御系に関わるのではないだろうか。この授業では現在ホルモンについて、その種類やメカニズム、作用を学んでいるが、花成系に関するホルモンは結局のところ遺伝子制御系にいきつくのではないだろうか。

A:ちょうど講義で、シグナルの伝わり方によってオン・オフのスイッチになったり、量を一定に保つ働きをしたりするという話をしましたよね。せっかくだったら、それに関していろいろ考察を膨らませることができるとよかったですね。


Q:植物個体の下の方についている葉の方が上方の葉よりも老化がはやい原因として、下方の葉の方が古いことに加え、上の葉に光を遮られていることが挙げられる、ということに疑問を抱いた。下の方にある葉は弱光下で生育するため、弱光環境に適応していることが考えられるためである。講義で挙げられた、アサガオの蔓を横方向に伸ばした実験では、1枚だけ葉を暗条件におくとその葉の老化速度がはやまる実験結果となったが、これについては、いきなり暗条件におかれたため光合成速度低下によるエネルギー損失が大きく、老化速度にも大きく影響したことが考えられる。しかし、植物の下部についている葉については、低い光合成速度によるエネルギー損失は生じているのか、あるいはそれは、老化速度に影響するほど大きいのだろうか。影響がある場合にも、それは小さいのではないだろうか。

A:なるほど。途中で被陰した場合と、最初から暗い所で育った場合とでは違うはずだということですね。面白い着眼点だと思います。そのあと、もう少し論理を展開して、どのようにしてそれを証明できるか、まで議論できるとさらによいレポートになります。


Q:今回の講義の中で、落葉樹は冬(日長が短い)の時期に葉を落とすことでエネルギー消費を抑えるということを学んだ。反対に常緑樹は葉を新しくつくるときのエネルギーが大きいので葉をつけっぱなしであるということであった。しかしながら常緑樹の葉を新しくするときのエネルギーが大きいということだが、落葉樹のように省エネの葉を毎年毎年つければいいのではないだろうか?なぜ常緑樹は葉をつけっぱなしにしたほうが良いのかを考察する。
 植物は葉を新しくつくるエネルギーと冬の期間中維持し続けるエネルギーを比較して落葉するかしないかを決めていると考えられる。つまり使うエネルギー量が、「葉を新しくつくる>維持する」であるならば維持し続けるし、反対に「葉を新しくつくる<維持する」であれば落葉するといえる。新しく葉をつくるエネルギーを小さくするには葉を簡素化することが最良であると考えられる。維持するエネルギーを小さくするには「光合成量−呼吸量」のマイナスが大きくならない環境下であるということが挙げられる。冬の期間でも気温が下がりすぎず、乾燥しすぎない環境が理想的な環境下であるといえる。また何年も同じ葉を使うわけなので葉を頑丈にしないといけない。そうすると葉を新しくつくるエネルギーが多くかかる。よって冬の期間でも理想的な環境下にある樹木のエネルギー量は「葉を新しくつくる(↑②)>葉を維持する(↓①)」のバランスで成り立ち、葉を維持し続けることになる。順番としては①冬でも光合成量があまり低くならない環境下にある。 → ②頑丈な葉をつくる。 となる。
 厳しい環境下に置かれた樹木であると冬の光合成量が呼吸量を大きく下回り、「葉を新しくつくる(↓②´)<維持する(↑①´)」となり、落葉したほうが効率的であると考えられる。こっちの順番は①´冬に光合成量が大きく低下する環境下にある。 → ②´簡素化した葉をつくる。 となる。  このように落葉樹になるか常緑樹になるかは生育環境によるものが大きいと考えられる。

A:よく考察していると思います。ここで述べられている「順番」は「因果関係」という意味だと思いますが、2つのことが同時に起こる場合に、その間に因果関係があるのか、それとも、ただ偶然一致しているのか、因果関係があった場合としてもどちらからどちらへの因果なのか、といった点は、研究を進める上で常に問題になるところです。そこをきちんと考察している点が素晴らしいと思います。


Q:授業で紹介された、葉を一枚だけ光合成できないようにするとその葉は老化が進み、全部の葉の光合成条件を悪くするとそれらの葉の老化はたいして進まない、という研究は面白いと思った。これは葉の老化に光合成条件が関係あるかという実験であった。そこで、私が思ったことは、花の存在が葉の老化を促進するかどうか、ということだ。1.普通の株、2.花が咲いたらすぐに全て摘んでしまう、3.蕾の時点で全て摘んでしまう、4~.花が咲いてからある期間ごとに全て摘んでしまう、5.2,3,4と違い全てを摘むのではなく一部を摘む、このように考えられる可能性の選択肢を作り、花が葉の老化に関与するかどうかの実験を行う。花をつける、開花させるためにはエネルギーが必要となるわけだが、摘まれてしまいその必要のなくなった株はどうなるのか。また種子で増える植物の場合、果実ができたとすると、その果実が熟れる際に発生するエチレンにより、その周辺の葉は落葉してしまうのではないだろうか。落葉してしまうとするとその葉は果実の存在により寿命が短かくなったことになる。花や蕾を摘んでしまうと、植物は生きる気力をなくして老化が進んでしまう、というようなことはあるのだろうか。動物だとありそうなものだが。人間でも子孫を残すのと残さないのとではどちらが長生きするかという実験が行われている。植物では花や蕾の成長に使うエネルギーを節約でき、老化の防止につながるのではないだろうか。または全く関係ないかもしれない。

A:よい視点です。ただ、予想としては、花を摘むと葉が長生きするようになる、という答えになってしまいそうで、そうするともう一息、意外性には欠けますね。何かもうひとひねりあるとよいと思うのですが、僕にも思いつきません。


Q:エチレンは、果実の生長促進、葉の老化促進、落葉の促進、葉の伸長阻害、開花運動の阻害、水生生物の茎の伸長促進、水中での茎の伸長促進があるという。この中で果実を成熟させる促進するという作用は身近なところで起こる。リンゴやメロンの成熟した果実は特に多量のエチレンを出します。また、植物への接触刺激はさらにエチレン生成を促します。そしてエチレンは気体のホルモンであるから周りにある植物に影響を与えます。では腐敗したリンゴと植物を一緒に置いておくとどうなるのだろうか。例えば、まだ緑がかっている未成熟のバナナを、黄色の食べごろのバナナにすることは可能であると予想づきます。葉を落とすときアミノ酸を回収します。これは貴重な構成要素である窒素を回収するためです。つまり エチレン放出=アミノ酸回収する回路が回ると考えられないだろうか。これを前提に 果実の成熟→実が落ちる の過程から実を落とす前にアミノ酸を回収するのではないか。例にあげると、バナナにはトリプトファンが多くあるので、これを回収しているのではないだろうか。果実を食べる動物が遠くへタネを運ぶことも考えても、トリプトファンはうまみ成分を含まないので、果実にこのアミノ酸が含まれていてもいなくても変わらないであろう。これから成熟する実からアミノ酸を回収しているのではないだろうか。

A:葉を老化させることにより栄養を回収する、というのはよく聞く話ですが、果実から栄養を回収するという考え方は初めてです。まあ、言われてみれば、不可能ではありませんね。ただ、果実の場合、もしトリプトファンが必要ないのであれば、最初からトリプトファンを果実に蓄積しなければ済む話ではないだろうか、という疑問は生じますね。葉の場合は、老化する前に光合成で稼いでもらわなくてはならないので、そのために必要な物質は持っていないといけませんが、その点は果実の場合違う気もします。