植物生理学II 第12回講義
植物ホルモンその2
第12回の講義では、植物ホルモンのサイトカイニンやアブシジン酸を中心に紹介しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。
Q:今回の授業で、サイトカイニンの生理作用である細胞分裂促進と、分子機構である膜貫通型キナーゼによるリン酸化カスケードと聞いたときに、真っ先に思い浮かんだのが動物細胞の上皮成長因子の生理作用・分子機構とその異常による腫瘍形成であった。ところで、植物の癌化というものを聞いたことがなかったので調べてみたところ、バラ科の植物には根頭癌腫病という症状が存在するとあった(参考1)。この病気は細菌によってDNA組換えがおこり、サイトカイニンとオーキシンの異常分泌が起こるために癌化するとあった(参考2)。動物でも生長因子の異常分泌によって癌化が起こることが確認されている。加えて、上皮成長因子の場合はその受容体に異常が発生してリガンド非依存的にシグナルが伝わって癌化する場合がある(参考3)。したがって、植物にもそのような癌化のメカニズム、つまりサイトカイニンの受容体に変異が起きることで癌化するような機構が存在すると考えられる。この機構の存在を証明するには、生長因子増加によらずに癌化している植物細胞を発見して構造解析するのが一番よいと考えられるが、そのような個体の発見は困難だと考えられる。そこで、動物細胞の受容体異常は遺伝子の点突然変異であることから植物でもそれによって異常な受容体ができると考えられるので、遺伝子組み換えを行って異常個体を作って解析すればよいと考えた。しかし、この方法では莫大な時間と費用がかかってしまう。もしこの機構が存在すれば、これを解析することでヒトのがん治療になにかしら生かせるかもしれない。
(参考1) :http://www.sepia.dti.ne.jp/syokubutusaibaiki/Kenkyuukekka/konntougansyubyou.htm
(参考2):http://matanet.ath.cx/sakura/%BA%AC%C6%AC%A4%AC%A4%F3%BC%F0%C9%C2%A1%CA%BA%AC%C6%AC%B4%E2%BC%F0%C9%C2%20%BA%AC%C6%AC%A4%AC%A4%F3%A4%B7%A4%E5%C9%C2%A1%CB/
(参考3):ワインバーグ「がんの生物学」
A:今回の植物生理学の講義の中では触れることができませんが、実は、植物腫瘍におけるDNA組み換えこそが、植物の分子生物学の可能性を切り開いたのです。そのあたりは、それはそれで面白いのですが、分子生物学の範囲に入るので、植物生理学の中では取り扱いませんでした。
Q:光発芽種子をもつ植物は、暗発芽種子と比べると適応できる環境が限られるのではないだろうか。光発芽種子は発芽に光の照射を必要とするため地中深くに潜り込んでの発芽はできない。そのため、暗発芽種子よりも水分がなく乾燥し易い環境下におかれ、乾燥地などでは発芽することは難しいと考えられる。調べてみたところ、種子光発芽性に関しては、1.発芽に光が影響しない種類、2.光があると発芽率が上昇する種類、3.光があると発芽率が低下する種類、の3つに分けられ、一般的に2には、非乾燥地に生育する小型の種子が含まれるという〔1〕。すなわち、光発芽種子は乾燥地には適さないと言える。しかし、もし光発芽種子が発芽後すぐに光合成を必要としない程度の栄養を持っていたならば、乾燥地でも発芽できるはずである。光発芽種子のメリットは一体何であろうか。その一つとして考えられるのは、発芽場所には競争相手がいない、ということである。光発芽種子は発芽に赤色光を必要とする。クロロフィルが吸収する赤色光が照射している状態ということはつまり、その周りに葉を広げている植物は存在していないことになる。光発芽種子は発芽できる環境は限られるが、生育条件の良い場を選択して発芽することができると言えるのではないだろうか。
〔1〕日本植物生理学会:http://www.jspp.org/cgi-bin/17hiroba/question_search.cgi?stage=temp_search_ques_detail&an_id=1139&category=mokuji
(HOME>みんなのひろば>質問コーナー登録番号1912)1月15日閲覧
A:論旨はよいのですが、講義で話した内容と重なっているのが少し・・・。もうちょっと独自の視点がほしいところですね。
Q:今回の講義で光発芽種子であるレタスは光が当たると発芽するということを学んだ。光がある(明るい)ということは、種子の上方に他の植物などがいないことを意味しているとのことだ。しかしながら種子の上方に何もないという状況は日本の気候において晩秋~初春の時期が考えられる。このことより光以外の環境要因もレタスの発芽に関わってくるのではないだろうか?この点について今回考察する。小売店などで売っているレタス(L.S.var.capitata)は生育に適する温度が20℃付近であり、自然状態(ハウス栽培でない)では春発芽してから成熟しトウがたつまでは60日前後かかるということである。また暑すぎても寒すぎてもよく生育しないということだ。よって、約20℃の気温が2カ月前後続く期間がレタスにとって最適な生育期間であるといえる。逆算すると初春か初秋に発芽するのがちょうど良いと思われる。どのような環境要因が関わって生育期間が最適になるその時期に発芽させるのだろうか?まず光の有無は重要な要因である。まわりの植物との競合を避けるために上方に植物などがないときに発芽する。ということは自然状態の初秋ではまだ草や木の葉などが地面を覆っていて光が当たらずに発芽しないと考えられる。しかし光の有無だけでは前述のとおり晩秋~初春までが考えられる。初春にピンポイントで発芽するには他の要因が関わるはずである。ひとつは地温である。地温が発芽の環境要因であるとすれば、晩秋や冬よりも地温が上昇する初春に発芽することが可能であると考えられる。他には土壌の含水率も挙げられる。晩秋や冬は乾燥しているため初春と差別化できるからである。また太陽光の波長によってもレタスは季節が分かるのかもしれない。レタスの発芽にどの環境要因が関わっているかを証明するには、同一の環境下で一つの要因だけを変化させて発芽の有無を調べるやり方が考えられる。しかしながら複数の要因が重なって発芽している場合、その組み合わせは非常に多数になり大変困難なものになるのではないだろうか。
<参考>ウィキペディア(レタス)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%82%BF%E3%82%B9
A:春に発芽して秋に実をつける一年草の場合、春と光環境が似ている秋に発芽してしまうと大変なことになります。そこで重要になってくるのが温度と春化です。確かに春化については話していなかったかもしれませんね。最終回に話すことを検討しましょう。
Q:オーキシンは植物が「成長」する上で大事なホルモンだ。落葉や果実を熟成・脱離させることも成長と取れるが、オーキシンの作用はそれぞれの器官を伸張させたり、脱離を抑制するといったほうにある。ジベレリンはオーキシンの作用を高め、アブシジン酸はオーキシンを抑制する。オーキシンは多くの作用や物質に関連している。果実を熟成させる際に働く物質としてはエチレンがある。熟成したリンゴを入れた袋に未成熟のミカンを入れると、ミカンが熟成する、といった実験は有名だ。オーキシンは葉や果実の脱離を抑制するが、エチレンはそれを促進する作用を持つので、この二つの物質は反対の働きをする。自然界では葉や果実の脱離は基本的に決まった時期に起こる。外的要因がオーキシンやエチレンの分泌量に影響を及ぼすのではないだろうか。水分量や日中の長さなどが考えられる。オーキシンの濃度が高いときにはエチレンの濃度は低く、またその逆も言えるだろう。オーキシンは光を避けるように移動することで濃度に偏りができる。またアブシジン酸は水分不足を避けるために働く。季節によって太陽の南中高度は変わり、日中の長さも変わり、大気中の水分量や地中の水分量も変わる。オーキシンやエチレン、アブシジン酸は、外的要因がそれらの分泌量を変化させる要因の一つと考えられるのではないだろうか。
A:ちょっと講義内容を先取りされてしまいました。エチレンと、植物ホルモン応答のクロストークについては次回の講義で紹介する予定です。
Q:オーキシンの作用として,茎・根の伸長成長,果実の肥大,発根,組織分化などの促進,側芽の成長があり、果実,葉の脱離などを阻害するという。ジベレリンは、茎,根を細長く伸ばすのが主な特徴です。他にも発芽促進,開花促進,勝つ実促進,落葉抑制などがあります。この二つを比較すると、葉の脱理とお落葉抑制の作用が対立している。ホルモンによって優劣がある、もしくはホルモンを抑制するものがあると考えられる。また、ホルモンを使用することでさまざまな農業で応用が可能とも考えられる。成熟の促進、成長の促進を併用することで、果実のなる期間を短くすることができる。果実肥大させることでブランドが向上する、新規ブランドができるであろう。そしてこれが、卸価格にも反映するであろう。実際には皆が知っているように、種なしブドウとして市場に売り出されているものがある。ジベレリンを使用することで種子をつけないように誘導している。またジベレリンは果実を大きくするので農家の方にとっては一石二鳥である。しかしこのようにホルモンを乱用することは、大豆などの遺伝子組み換えさえ受け入れられない日本人にとっては抵抗感があるかもしれない。
A:例えば、挿木の際の発根促進に植物ホルモンを使うことはよくやられていますし、植物ホルモン作用を持つ人工的な薬剤を除草剤として利用する例は、前々回の講義で紹介したとおりです。案外いろいろ使われていますよ。