植物生理学II 第9回講義
オーキシンとその作用
第9回の講義では、植物ホルモンの作用について、おもにオーキシンを取り上げて解説しました。
Q:本日はオーキシンの輸送について一つ質問させていただこうと思います。オーキシンは葉に供給が要求される場合、若葉では細胞中輸送が行われ、成葉では師管内輸送が行われるとの説明がございました。しかしここで私はある違和感を覚えました。今までの講義で理解したのは、植物が想像以上に環境に対して適応度が高く、非常に合理的に生理システムが組まれている、ということでした。しかしこの場合、若葉というのは成熟した葉よりも成長のため大量に植物ホルモンを必要とすることは想像に難くありませんが、ここで細胞内輸送により輸送に時間を要してしまうことは、要求に反しているのではないかと感じたのです。さらPIN局在によるに極性についてですが、移動に方向性を持たせることも、一見非合理的なのではないかと考えてしまいました。光屈性を起こすことができる、という点を考慮しても、様々な器官にホルモンを自由に届けることができる方が重要なのではないかと感じたのです。これは、若い植物体が師管を発達させていないために、非合理的ではあるが仕方なく取った輸送形態なのか、もしくは細胞内輸送にも何か特別な利点があるのでしょうか。よろしくお願い致します。
A:おそらく、植物ホルモンというのはシグナル伝達のためのものであって、何か代謝の材料ではない、という点が重要なのではないかと思います。その場合、「大量に植物ホルモンを必要とする」という考え方はあまり適切ではないことになります。シグナルであれば、植物ホルモンの量を増やす代わりに、対象となる細胞の植物ホルモン感受性を上げればすむことになります。そこが、たとえば光合成産物の輸送とは異なる点です。また、時間に関しては、そのシグナルを受けてからどの程度の時間で応答する必要があるのか、という点が重要になります。信号の伝達から転写の調節を経て生理作用の発現に至るまでの時間の中で、一番遅い律速段階がどこであるかにより、それよりも信号の受容にかかる時間が短ければ、その時間の絶対値は長くても短くても変わらないことになります。抽象的に考えずに、もう少し具体的に、この反応にはだいたいどの程度のオーダーの時間がかかるか、という半定量的な考え方をしてみると議論がすっきりできるように思います。
Q:オーキシンが核酸を構成している塩のプリンの構造に似ているということに非常に驚いた。しかしなぜプリンの構造に似ているのだろうか?考えられることとしては、生体内で作りやすい構造であるということ、もしくは構造は似ているがたまたま似ているだけなのかもしれない。しかし何かつながりがあったとしたら、それは非常に興味深いことだと思う。オーキシンはひとつの物質で植物生体内のさまざまな生理作用を引き起こしている。作用する部位によってこんなにもたくさんの作用を導いているということに驚いた。動物ではひとつの酵素が生体内の重要な生理作用をいくつも促したり抑制したりしているということはないので、これも植物と動物の大きな違いなんだと思う。
A:これって、最初に様々な植物ホルモンの構造を紹介したときの話ですよね。プリンに似ているのはサイトカイニンです。ただ、これから紹介していきますが、多様な生理作用を持つのはどの植物ホルモンでも同じですから、書かれていることはそのまま通用します。似ていると言えば、たとえばヘモグロビンのヘムと植物のクロロフィルもそっくりで、合成経路も途中まで同じです。オーキシンでいえば、トリプトファンに似ていて実際にトリプトファンが合成の起点になります。植物に限らず、生き物は、使えるものはいろいろな用途に使いまわすことをしているように思えますね。