植物生理学II 第3回講義
植物の中の水の動き
第3回の講義では主に植物の導管とその中を水が動いていく原動力について解説しました。
Q:今回の授業内容で最も興味深かったのは、やはり「植物内における水移動の原動力」についてのお話でした。私は今の今まで、植物が水を吸い上げる原動力となるのは毛細管現象であるとばかり思っていました。毛細管現象に関する実験も行っておりその力を間近で見ていましたし、これまで受けた他の授業でも、水移動は毛細管現象に依ると説明がなされていたため、それを当然のことと思っていたのです。ただ、毛細管現象の力で本当に植物体の頂上の高さまで水が到達するのか?という漠然とした疑問は持っていましたが…。そして今回、そうではないのだとのお話を聞いて、驚きました。直径10~200μmの毛細管のマトリックポテンシャルが0.015~-0.00075メガパスカルしかないというのです。私はこのデータを聞いたとき「確かめてみたい!」と思いました。実験方法は単純に、左記の径の毛細管を用意し、水に触れさせて毛細管現象を起こさせ、どの高さまで水が到達するのか調べれば良いと考えられます。今まで信じていたことが“間違っている”となったときに、本当はどうなのかな?という疑問がわきましたので、ここに記させていただきました。
今回の質問は、「植物の水移動の主要な原動力が蒸散であるならば、植物細胞の構造はそれを促す形をしているのか?」というものです。この間授業の最後に、“植物が蒸散によって水を引き上げているのなら、動物にも同じことが起こるのではないか?”という質問をさせていただきましたが、動物体では圧の差が生じないため圧ポテンシャルによる水の移動はおこらない、というお答えでした。動物と植物では水利用のシステムが全く異なる(植物が水を“吸い上げる”ことを重要とするならば、動物は“循環させる”ことが重要)のだな、と感じました。そこでふと、細胞壁は水分子を良く通す、という事実を思い出しました。蒸散は気孔で行われるのだからこのことは蒸散とは関係ないのか?とも考えましたが、細胞壁が防御を目的としているならば、分子は緻密であるに越したことはないのではないか、と感じていたため、何か目的があるのではと思っていたのです。この問いに答えるための実験系ですが、細胞壁をなんらかの形でコーティングし、水分子が通らないようにしてその蒸散力を比較するということしか思いつきませんでした。
A:細胞壁は細胞の最外縁にあるわけですが、多細胞生物の場合、体の最外縁にあるとは限りませんよね。植物においては、体の最外縁にあるのが前回の講義で話したクチクラです。クチクラの場合は、ただの細胞壁ではなく、ロウでコーティングされたような状態になっていますから、水を通しづらくなっています。防御を目的としているのは細胞壁というよりもクチクラであると考えればよいのではないでしょうか。ただし、力学的な強度という面からすると、細胞壁も大きな意味を持ちます。
Q:今回は導管が水を流すことについてだったので調べた。マングローブの導管内水ポテンシャルが高い理由を調べたが、詳しい文献が見つけられなかったので考察した。おそらく特殊な生息能力が関係していると考えられる。マングローブは海水のような塩分濃度が高い地域でも生息できる樹木である。海水域では、自身より外部の浸透圧が高いため水分を吸収するどころか奪われてしまう(塩をかけたナメクジと同じ)。そのために他の樹木より高い水ポテンシャルを維持しなければ、水を維持し、移動させることが出来ないのだろう。
質問というか興味なんですがバオバブの木の師部、木部も普通の樹木と同じなんですか?あれだけ深い幹だと中がどうなってるか想像できないのですが。。。導管も幹に見合った太さだったりするんでしょうか?変な質問ですができればお願いします。
A:導管は、細胞としては死んでいるという話をしたと思うのですが、太い木の幹の中心部も死んでいるのが普通です。木の「うろ」というのがありますよね。あれは、中心部の死んだ部分が腐ってなくなるので、幹のまわりの部分は生きていても中が空洞になるわけです。では、死んでいる部分は何の役にも立っていないか、というと、機械的な強度の保持という意味ではあった方がプラスになると思います。なお、導管は、その機能を果たすための適切な太さというのがあるので、幹が太いから導管も太い、ということはありません。
Q:今回の講義でタンポポの茎の役割についてのお話があった。タンポポの葉はロゼット状で、花はとても高い位置につく。花が枯れると一度茎がしおれるが、綿毛をつけるときにまたぴんとなり、花のときよりも茎は高くまで伸びる。こうすることで花は受粉しやすくなり、また綿毛は風によって遠くまで飛ばされるのだ。しかしよく考えてみると、タンポポという植物は形態的に他の植物とはかなり異なっている。ロゼット状の葉のつき方は確かに太陽の光を広面積で受けることができるかもしれないが、タンポポはよく雑草に混じって生育していることを考えると葉のつく位置に高さがない分不利なように感じられる。調べてみると、ロゼット状の植物が生育している場所というのは、まめに刈り入れが行なわれる場所、家畜によって背の高い草が齧られる場所である(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%82%BC%E3%83%83%E3%83%88参照)。つまり、雑草が生えるような場所というのは動物によって食べられたり、人間の手によって刈られたりしてしまう。そのような場所で生き残っていくためにはたとえ光環境が悪くとも葉を大きくして何とか光合成をし、葉を地面から近いところにつけたほうが生態的に有利だったと考えられる。普段身近な植物だが、考えてみると形態的にこんなに優れていたのかと大きな発見をすることができた。
A:きちんと考察されているので、レポートとしてはよいのですが、非常に「まっとう」なので、コメントは書きづらいですね・・・。「その通りです」という感じです。さらに望むべくは、何か意外性があるとよいかなと。
Q:水分の根からの輸送の原理はわかったが、では水よりも抵抗を持つはずの養分などはどのようにして葉に送られるのか考えてみた。おそらく師管中では養分は水に溶けて、水と一緒に運ばれているのだろう。ならば水に溶けない養分はどのように運ばれるのだが、おそらく濃度勾配を利用した輸送であるか、蒸散の水が出て行く力を利用して養分を運んでいるのではないだろうか。調べてみたところ、光合成をしている成熟葉で合成された糖のいくらかは、師管中を上下に行き来しているらしく、そのほかの養分などは化学物質の形で吸収された部分や生産された部分から輸送されているとのことだ。また多くの場合、過剰であったとき再循環され再分配されるらしい。しかし、どのように師管を通って各器官に輸送されるかは、いまだに論争中であるとのことである。道菅と違って、さまざまな物質を通しているためいまだに特定はできないのであろう。もし特定されたときには、輸送経路がわかっているために直接その器官に栄養を与えることができたりして、より効果的に飼育できるようになるのではないだろうか。そうすればさらによりよい作物が作られるのであろう。
参考文献:植物の物質輸送 Richard Michael 朝倉書店
A:おそらく、水にとけないものを運ぶのは非常に大変だと思います。たとえば、細胞壁の成分であるセルロースは、もちろん水に溶けたら困るわけですが、それらは実際に使われる場所で直接合成されます。一方、脂質は、ある意味で水にとけませんが、小胞として水に分散させられていれば輸送することができます。水に溶けにくいたんぱく質なども、小胞の中に載せて運ぶ例がよく知られています。